筋肉蚊の楽しい幻想郷観光   作:すくぇ

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四、 飛んで火に入ぬ冬の蚊は

 [ PP 25 / 30 ]

 

 

 

 

 

「…!」

 

 勘とは、すなわち危険信号。

 

 今まで霊夢は己の勘に身を任せ、様々な窮地を乗り越え、踏み台にし、強者どもを葬ってきた。本来、世間一般的に言う「勘」とはそんな便利な防犯グッズでは無いと思うのだが、博麗の巫女には代々そのような不可思議な力があった。…らしい。実際にはここまで鋭すぎるものでは無いというので、単に博麗霊夢が特別なだけだろう。

 

 そして現在、彼女に舞い降りた勘とは、

     

 「飛べ」「地面にいると致命傷を負う」

 

 という内容のものであった。しかし、何故そんな「勘」が彼女に舞い降りたのか、彼女には全くもって理解出来ていない。

 目の前の敵は無防備だった。陰陽玉を抱き抱えているせいでその屈強な腕による攻撃を行うことも出来なさそうだった。何か遠距離攻撃を持ち合わせていそうな訳でも無かった。ならば少しは余裕がありそうだと。

 

 そして、甘かった考えは今起こっていることによって一気に祓われることになったのだった。大地が揺れ、地盤が割れ、辺りから煙が湧き立つ。目の前にいた敵は、確かに「地震」を故意に発生させたのだった。

 

 クソだ。訳の分からない事だらけだ。さっきから情報をまとめ、まとめにまとめ、考えても、それでも何もかも塗りつぶされるかのように不可解な事を奴は起こす。

 

 何だ、あの「地震」は。どうやって起こしたというんだ。能力は「移動」じゃなかったのか?…そして、何故それを敵である私に、わざわざ「忠告」したんだ?

 

 赤い妖怪は地震によって再び巻き起こった煙に包まれ、その姿を目眩している。私は奴の忠告通り、また、私自身の勘に身を任せ、もくもくと漂う濃い煙をただ空の上から見下ろしていた。

 

 すると、次の瞬間

 

「ぶち込んでやるぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

 

 と、迫力満点の大きな声と共に、

陰陽玉が猛スピードで突っ込んできた。

 

 陰陽玉とは、博麗の巫女が扱うことで真価を発揮する代物である。

 なので霊力を持たない人間や妖怪が使用しても、その威力は極端に低くなる。極端に低くなる、と言っても侮ることなかれ。両手に抱えるほどの大きさ。どんな攻撃を受けても壊れない強度。そんな凶器が凄まじい速さで向かってくるというのは、人間という脆弱な生き物にとっては死を意味する。

 ただし、例外もある。

 

 (避けるか、受け止めるか…)

 

 生死を懸ける境目の中、弱者は蹂躙され、強者は多様に対応する。彼女は自分に迫る危機を避けることも出来れば、真正面から受け止めることも出来る。どれを選ぶかは全て彼女次第なのだ。

 

 だが、あれこれ考えていた予想とは裏腹に、凄まじい勢いで此方に迫っていたはずの陰陽玉は、宙に浮いている霊夢の更に上空を通り過ぎていった。激しい風が吹き荒れた。

 

 (…狙いが外れたのか。…いや、まて。)

 

 陰陽玉の向かう先には、何がある?

 

 「げっ…」

 

 成る程、始めから狙いはソッチか。

 

 奴は私を狙っていたのでは無い。私の、その背後にある博麗神社の方を狙っていたのだ。そして、それに気づいた私が止めに行ってしまう事も狙い通りというわけか。現に私は、神社にぶち当たることによって絶望的な修理費を突きつけられることを防ぐために急いで陰陽玉の向かう先を先回りしようとしていた。冷や汗かくわ。本当。

 

 全速力で神社の方に飛んでいく。その姿は一般人からしたらまるで瞬間移動したかのように見えるだろう。起こした風で木々が揺れるざわめきが聞こえる。

 

 「ふぅ…」

 

 息を吐き、突っ込んでくる陰陽玉の方へ手を差し伸べる。

 

 「はぁっ!」

 

 ゼロ距離で霊力を陰陽玉にぶつける。

 霊力には様々な応用があり、こうやってぶつけることで衝撃を吸収、殺すことも出来る。しゅるしゅると音を立てて回転していた陰陽玉はやがて静止した。そうして止まったのを確認し、そっと触れる。陰陽玉は霊夢の中に戻っていった。

 

 「ふぅ…」

 

 回収完了、と。いやまて、ひと息ついている場合ではない。まずい、急いで追わなければ。最悪、人里に被害が及んでしまう。そうなる前にあの妖怪を駆除しなければならない。

 

 騒ぎになるのもダメだ。朝日が昇る前には奴を殺す。今頃、奴がいた場所はきっともぬけの殻だろう。…はぁ、それにしても厄介。とっとと終わらせたいわ。

 

 (冬は、よく冷えるもの。)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「あー怖かった…何なんあの人間。」

 

  一方、マッシブーン。人里を襲う気などさらさら無く、ただ己の身を守るために夜の森を駆けていた。

 

 もう一度言うがマッシブーンには人を襲うつもりなどさらさら無い。しかし、どうにもこの風貌のせいで、どう足掻いてもマッシブーンは極悪非道な妖怪として博麗霊夢に退治される運命にあるのだった。

 

 「…これからどうしよっかな。」

 

 四本足をしゃかしゃかと忙しなく動かし、ただ必死に逃げる。ゴールなど無い。マッシブーンはこの世界に来たばかりである。どんな奴がいるのかも分からなければ、あったかいご飯があるのかも分からない。止まれば殺戮、ゴールは雲隠れ、そんなクソみたいなレースをマッシブーンは延々と走らされていた。

 

 「…取り敢えず村かなんかに行きてぇな。急に殺そうとしてくる人間がいない場所。そこで匿ってもらおう。」

 

 しかし奇しくもマッシブーン、目的は違えど自然に人里がゴールとなってしまう。

 

 それをあの少女が見たらどう思うだろうか?「やっぱりあの妖怪は人里を襲おうとしている!」と勘違いされるに全票。投票は全て彼女が行った。なんて極悪非道なのだろう。人畜無害なマッシブーンは怯えることしか出来ない。

 

 

 「…ぐっ!」

 

 

 

 

 「そこまでよ…詰みね、あんた。」

 

 

 マッシブーンは動けない。気付けば目の前には、薄橙色の結界が張られていたから。

 

 




おまたせしました

ちゃんと完結させます
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