筋肉蚊の楽しい幻想郷観光   作:すくぇ

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3話に分けるので短めです。

【前回のあらすじ】
・マガレが人質になる作戦が失敗した。
・火山復活宣言が出された。
・決闘の日がやってきた。



☆三十四、 解釈違いの大決闘 ─前編

 

 

 その村は壁の代わりに巨大な大樹がぐるりと囲んでおり、中に入ると大きな筋肉蚊の像が目立っている。

 

「すっごーい!」

「凄いだろう凄いだろう!分かってるじゃないか人間!我々の筋肉蚊教にようこそ!一緒に踊り狂うぞ!」

「入らないよ」

 

 リーダーと金髪少女一号は何故か盛り上がっていた。彼の国の中心に置かれている一際大きな筋肉蚊の像は、圧巻の完成度だった。少女は羨望の眼差しを向け、製作者であるリーダーはうきうきと喜んだ。

 

「あっちにもこっちにもある……一つだけ貰ってもいい?」

「良いとも!一つと言わず大量に持っていけ!どうせここは廃墟となるのだからな。それにしてもお前は見所がある!今日の決闘に我々側で参加してはどうだ?」

「私は観戦が良いかな。か弱いから。」

「そうか。それに、筋肉蚊はお前が死ぬことを望んでいないだろうからな。」

 

 リーダーは呟く。一号はじろじろと触覚から足の先まで満遍なく、いつもと全く違う姿の大きな像を見た。

 

 (血鬼、昔はこんなにムキムキだったんだ……。)

 

 彼女は驚きを隠せない。胸筋はあらゆる衝撃を受け止めるように大きく、腕はどんな敵だって打ち砕きそうな程たくましかった。下半身は今とあまり変わらないけれど。リーダーたちが復活を望んでいることが、少女には少しだけ分かるような気がした。

 

 ふと、思い出したことがあったので彼女は聞いた。

 

「ねぇ、マガレってここにいる?」

「知らん。お前たちの所にいないのか?」

 

 途端にリーダーは不機嫌そうな顔をした。ぶつくさと言う。

 

「……フン。強い癖に腰抜けな奴など帰って来なくていい。二度と会いたくないな。」

「そっか。やっぱり私、貴方のこと好きじゃないな。」

「そうか。俺は以前より好意を抱いているぞ。」

 

 対立。少女は横に立つ戦闘狂を軽蔑し、彼はどこ吹く風だった。しかし、微笑み合うリーダーと金髪少女一号は、『筋肉蚊』という共通した一点においては分かり合えていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 コロシアムから少し離れた場所だった。あちこちにある自分の像と、キラキラとした目を向ける火山生命体たちに、血鬼は困惑していた。どうやら遠くから様子を伺っているらしいのだが、その数が多すぎる。ざっと1000匹の野次馬が珍しそうに血鬼を見ていた。

 

「……悪くないな。」

 

 悪くないらしかった。有名人のような扱いを受けた血鬼はサービスをしてやろうと思い、その場でマッスルポーズをとった。びしっ。

 

「きゃきゃきゃきゃ!」

「おん!おん!」

「ぐるるるるる!」

「こーーー!」

「おお……!何てことだ、もっと早く来れば良かった!」

 

 けたたましい歓声を浴び、血鬼が有頂天になったのも束の間、観衆のうちの一匹が飛びかかってきた。

 

「ぐるるるるおん!」

「おうおうおう!まだ始まってねえぞ!」

「ぎゃおおおおん!」

「わおおおおおお!」

「びょーーーーー!」

「ちょっと待っ」

 

 血鬼は火山生命体たちの下に埋もれた。血鬼を舐め回したり、血鬼を見れないせいで殴り合いを始めたり、てんやわんやである。わちゃわちゃと群がって騒ぐ信者たちに、血鬼は複雑な気持ちを覚えた。

 

 (今からコイツらと殺し合うんだよな……。)

 

 血まみれになった大量の死体を想像する。コイツら、分かってるんだろうか。血鬼は心の中で独りごつ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 そして。

 コロシアムのど真ん中に、血鬼は真っ直ぐ立っていた。

 

 ワァァァァァァァァァァァァ!!

 

 この世で最も大きな歓声は、闘技場の中心に向けて発された。総勢1095匹の信者たちが、四本脚で突っ立っているウルトラジャングルの王を目の当たりにして飽きもせずに叫ぶ。全ての信者は王と戦い、敗れる役目を背負っている。この日、1096匹の死体で闘技場は真っ赤に染まる。

 

 無論、1096匹目の信者とは筋肉蚊教のリーダーであった。リーダーが入場すると割れんばかりの拍手が起こる。拍手が出来ない者は喉が潰れるぐらいに大声を上げる。うるさすぎて血鬼はうんざりした。

 

「諸君、コロッセオ*1を知っているか!コロッセオとは遥か昔に存在していた古代帝国の円形闘技場のことだ!では最も人気のあった見世物は何か!それは、奴隷同士の戦いだっ!」

 

 大きな歓声が起きる。血鬼はリーダーに言った。

 

「お前、俺を奴隷って言いたいのか?」

「勿論。我々は皆、戦いの奴隷だ。」

「お前だけだろうが」

「お前にもあったはずだ!戦いの奴隷であったことが!」

 

 ねぇよ、と血鬼は呟く。誰の耳にも届かない。

 

「しかし、今日我々が行うのはただのそれではない!自由に行こうじゃないか!無法の乱入決闘である!」

 

 再び大きな歓声……もはや絶叫に近い声が響く。改めて血鬼はこの場に渦巻く熱と狂気を実感した。そしてこのコロシアムはあまりにも平坦で広く、戦いに適しすぎていると感じた。

 

「最初の生贄となること!復活した筋肉蚊の姿に見惚れること!何に価値を見出すかは自由だ!一つ決まっているのは!この地に立てばひとたび、我々は全力で筋肉蚊を殺しにかかるということ!」

 

 飽きもせずに歓声が沸いた。まもなく決闘は始まる。

 

「御託はいい!我々は待ちきれない子供のように今か今かとゴングを待っている!始まりの合図は、やはり筋肉蚊以外には務まらないだろう!」

 

 リーダーが両手を空に挙げながら言う。今までで一番大きな歓声がワァァァと轟いた。

 

 真っ昼間、青空の下で決闘は開かれる。いつもなら血鬼は昼寝をしていたか、木の実を狩りに行っていた時間だった。あの日ウルトラホールから降る少女を拾ってから、安息も平和も壊され、血の臭いがする非日常に変わってしまった。火山を復活させない為に、王は全ての敵を殴り殺す必要がある。

 

 いや、いずれはこうなっていた。血鬼は空を見上げながら考える。彼はむしろ少女に──。

 

 (君に救われて始まったんだ。一号。)

 

 血鬼が少女に会った瞬間、彼の世界が彩りを取り戻したのだった。例えば、真っ暗な空間に取り残されていた。そこに少女がやってきて、手を差し伸べられた。彼女の小さな手のひらに触れると、緑に溢れたジャングルや湯気を漂わせる温泉が再び意味を成した。

 

 嘘をつくことが出来るのは、嘘をつく相手がいるからだった。

 真を話すことが出来るのは、真を話す相手がいるからだった。

 

 (俺の孤独を吹き飛ばしてくれたのは、君と、それから……)

 

 血鬼は空を見るのをやめ、目の前のリーダーを見た。彼はじっと筋肉蚊の合図を遠くから待っている。ふうっ、と血鬼は息を吐いた。

 

「改めて、俺は筋肉蚊。決闘を始めさせてもらう!」

 

 しん、と辺りは急に静まり返った。

 

「……おい。戸惑ってるぞ。今のが合図か?」

「違ぇよ!勘違いするなお前ら!い、ま、か、ら、数を数えるぞっ!」

 

 ワァァァァァァァァァァァァ!!

 

 再び円形闘技場が活気を取り戻す。リーダーはニヤリと笑った。

 

「行くぞー!10!9!」

 

 声に合わせて破裂するような手拍子の音が鳴る。

 

「8!7!6!」

 

 密かに、血鬼の羽がぶぶぶぶと鳴り出す。

 

「5!4!」

 

 熱気はピークに達した。

 

「3!」

 

「2!」

 

「1!」

 

 

 

 

「始めえええええええええええええ!!」

 

 血鬼はありったけの力で叫びながら、空へと飛び去った。

 

 

 

 

「は?」

 

 リーダーは呆気に取られた。

 

 

 

 

 コロシアムの観客の中に金髪少女一号はいない。

 

 彼女は初めから空で待っていた。まるで透明な足場に立っているかのように浮いている。

 

「すごく盛り上がってるね。ここまで届いた。」

「あぁ。悪いが盛り下がってもらう。」

 

 血鬼がそう言ったのを機に、一号はスキマを開いた。

 

「頑張ってね!」

 

 彼女は激励すると、血鬼は無言でサムズアップをした。彼女は微笑んでスキマの中に入る。

 

 全ての物事には境界がある。彼女の能力、『境界を操る程度の能力』は万物の創造と破壊を行い、あらゆる事象を具現する、神に匹敵する能力である。しかしそのことを彼女は知らない。何となくいろんなことが出来ると分かってはいるが、基本的に移動にしか使わない。

 

 空間の境界線と境界線を繋げ、移動……いわゆるワープができる能力。金髪少女一号はぽかんとしていたリーダーを石で造られた地面の下から捕まえ、紫色のスキマに引き摺り込み、空にいる血鬼の元へと運んだ。

 

「なっ!?」

「ようリーダー!」

 

 血鬼はリーダーの首根っこを片手で掴み、一目散に遠くへと飛んだ。

 

「俺と一緒にデートしようぜぇぇぇ!!」

「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!?」

 

 凄まじいスピードで二匹は空を飛ぶ。ぶぶぶぶと羽音が鳴り続けた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「うみいいいいいいいいいいいいい!!」

「うおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 流星群のように空から飛んできた二匹は海に向かった。血鬼はリーダーを浜辺に投げつける。

 

「ぐぁっ!」

「とうっ」

 

 リーダーはどっしゃあんと全身を砂浜に叩きつけられ、血鬼は両手から砂浜についた勢いのまま一回転し、四本足ですとんと華麗に着地した。

 

 透き通った青色の海が二匹を歓迎した。これから殺し合いが起きようが青春ごっこを行おうが、大海原は何の抵抗もしない。血鬼は海を見つめながらリーダーに言った。

 

「俺はな、考えたんだよ……やっぱり無駄な殺生はごめんだ。」

 

 血鬼は言う。

 

「ならどうするって、お前さえ殺しちまえばいいんだよ。」

 

 血鬼は痛々しく立ち上がろうとしているリーダーの方を向き、言った。

 

「だから遊ぼうぜ。二人っきりでな。」

 

 リーダーは立ち上がり、長く茶色い髪の毛を後ろに束ねた。

 

 

 

 

「……少々、解釈と違うが……」

 

 彼はニヤリと笑い、拳を握った。

 

「良いな。良いぞ。良いっ!興奮してきたぁ!!」

 

 彼は叫ぶ。血鬼は黙って手のひらを広げた。

 

 

*1
コロシアムと同義。

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