筋肉蚊の楽しい幻想郷観光   作:すくぇ

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※グロ注意

【前回のあらすじ】
血鬼はリーダーに勝った。
リーダーが物理的に爆発した。
何とか血鬼たちは避難した。



三十七、 最後の噴火者

 

 

 一号が開いてくれたワープホールのようなもの──スキマの中にはびっしりと目玉が並んでいる。最初はその一つ一つと目が合う度にぎょっとしたものだが、今はもうすっかり慣れた。

 

 そうして俺たちは、ドーム状の緑色の光に包まれていない、遠くの地まで移動した。

 

「ぐるるるる……」

「わおんわおんわおん」

「がぁー!」

 

 移動した先では、避難してきた火山生命体たちが各々の鳴き声を鳴いた。辺りは彼らでわちゃわちゃしている。ざっと100匹ぐらいがあの爆心地から逃げれていた。

 

 そして件の爆発が起こる。

 

 どかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!

 

「わぁ!」

 

 一号が耳を塞ぎながら声を上げる。相当離れていたはずだが、こちらにまで強い風が吹いてきた。火山生命体たちも固まったり笑ったりしている。

 

「凄い音だね……。」

 

 一号がぼんやりと呟いて、同意を求めるように俺を見た。

 

「血鬼?」

 

 彼女が不思議そうにする。俺は一号を見ずに頭をぐるぐる回転させた。そして確信する。

 

 確信した瞬間に、俺は先程の爆発騒ぎ以上に、非常に焦っていた。

 

 

 見間違いでなければ。

 記憶の限りでは。

 ここは、『深層』だった。

 

 

「一号。前に言ったことを覚えているか?」

「うん。貴方の言ったこと、全部覚えてる。何かは知らないけれど。」

 

 少女は笑顔で答えた。そうか、と俺は続けて述べる。

 

「……『危険なこと』を教えたよな。一つ目は筋肉蚊教、二つ目は深層。だがここは比べものにならない。下手したら全員」

 

 死ぬ。俺がそう言おうとした時だった。

 

 

 

 

 遠くに『奴』を見つけてしまった。

 

「一号。スキマ開けるか。」

「ちょっと待って。爆発に巻き込まれてなくて、遠い場所……。」

 

 少女はスキマを開けられる場所を探り始めた。俺はもう一度、『最後の噴火者』を見ようとした。

 

 いない。

 

 と思ったら、奴は空から降ってきた。

 

 遥か遠くだったはずのそれは、たった一度のジャンプですぐ目の前までやって来た。

 

 どおおおおん、という轟音が鳴り響き、最後の噴火者はニヤニヤと笑った。

 

「がう!がう!」

「ぐるるるるる……」

 

 今気付いたことだが、奴の下には誰か火山生命体がいたようで、それが跡形もなく血溜まりになっている。仲間を呆気なく潰されてしまった火山生命体たちが奴を威嚇している。

 

 まずい。

 

「やめろ!動くな!」

 

 思わず俺は焦って声をかけた。

 

 しかしもう間に合わない。一匹が最後の噴火者に飛びかかり、噛みつこうとした。

 

 それが開戦の合図だった。

 

 最後の噴火者は、飛びかかった獣を素早い動きで蹴り上げていた。

 

 見えなかった。

 

 いつの間にか奴は空へと足の先を伸ばしていて、血飛沫がぐしゃりと飛び散った。

 

 岩盤の鎧に覆われているとは思えないスピード。圧倒的と呼ぶ他ない生命エネルギー量。

 

 思わず俺は立ちすくんだ。よっぽど勇敢なのは残された火山生命体たちだった。

 

「がぁぁぁぁぁぁ!!」

「ごぁぁぁぁぁぁ!!」

「ぎぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 獣たちが吠える。すると吠えたものたちから順々に、最後の噴火者は殴り殺していった。

 

「がっ」

「ごっ」

「ぎっ」

 

 三匹が一瞬にして動かなくなった。

 

 その死体を奴は貪る。口元を血塗れにした化け物は、顔の笑みを絶やさず、がりがりと骨を咀嚼しながらこちらを見つめ続けた。

 

 その後ろから、何十匹も火山生命体たちが覆い被さるように飛びかかった。奴は埋もれ、やっと俺は我に返る。

 

「逃げろ一号!」

「でも!」

「駄目だ!悪いがあいつらもう助からねぇ!俺も後から逃げる!早く逃げろ!」

「……分かった。」

 

 彼女が言った瞬間、まるで火山が噴火したような音が轟いた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 彼らは火山から生まれる。

 

 最後の噴火者は、通常約50000匹の火山生命体に分けられるエネルギーを一身に宿してこの世に生まれた。

 

 総エネルギー量はウルトラジャングル全域にまで及ぶ。最強の火山生命体。

 

 筋肉蚊教の信者たちに覆い被さられた時、まず最後の噴火者は全身を岩盤のように硬くした。あらゆる攻撃を無効化する、『革儘』。その後自ら表皮を破って擬似的な噴火をするまでが一連の技である。

 

 脱出ついでに噴火に巻き込んだ獣の一匹を、楽しそうに最後の噴火者は殴り殺した。牙を折り、骨を砕き、血を撒き散らせる。やがてぐちゃぐちゃになると満足したようにニヤニヤ笑った。

 

 そして音速のようなスピードで走る。刹那のうちに火山生命体たちの元へ近付くと、子供がもぐら叩きで遊ぶように殴り始めた。

 

 一匹また一匹と動かなくなる。彼らは吠えることも怯えることも出来ずに死体と成り果て、やがて全114匹が全滅した。

 

 火山から生まれた者たちは、溶岩や火に耐性を持っている。だから最後の噴火者は殴殺した。身体を動かした彼は満足した。

 

 そしてもう一度、あの麗しい少女を見ようとした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「一号!」

「分かった!」

 

 彼女がスキマの中に入ってその場を去る。俺はようやく一安心して、目の前の惨状を見つめた。

 

 最後の噴火者はニヤニヤと拳を赤く濡らしてそこに立っていた。側には殴殺された新鮮な死体が沢山ある。何故か溶岩や燃え盛る火が目に映って、勢い強く雨が降ってきた。

 

 百匹はいたであろう。決して弱くはなかっただろう。そんな筋肉蚊教の火山生命体たちが一分とかからず全滅した。

 

 空から降る雨を浴びながら、最後の噴火者はニヤニヤと笑っている。

 

「おい……」

 

 俺は慎重に話しかけていた。奴がいつ殺しに来てもおかしくはない。

 

 鼓動が速くなる。臆病者の心臓がドクンドクンと波打っている。静かに拳を握る。それでも恐れは消えない。

 

 動いた瞬間ぶん殴る。より一層拳を握る。

 

 すると奴は、

 

 俺を殴っていた。

 

 ずがががが、と木々を巻き込んで俺の身体が殴り飛ばされる。腹が貫通しているんじゃないかって程、熱を持って痛みの信号を必死に鳴らしている。

 

 殴られる前、一瞬だけ奴の姿が見えた。それだけだった。俺はこれ以上血を吐き出さぬよう、口の先を両手の人差し指で抑えたが、吹き出る赤い液が変な音を出して指から垂れた。

 

 その時、テレパシーのようなものが聞こえ出した。

 

『聞コエルカ?女。』

 

 誰のことだ。身体を動かそうとしたが、筋肉が言うことを聞かない。そのままテレパシーが俺の頭の中に響く。

 

『何ト綺麗ナンダ。一目惚レトイウノハ、コウイウコトナノダナ』

 

 (……?)

 

『コレカラ俺ト共ニイヨウ。一緒ニ食ベヨウ。一緒ニ寝ヨウ。一緒ニマグワオウ。』

 

 (………)

 

 理解した。俺は、奴を殺す為に身体を動かそうとした。しかし力が入らない。腕も拳も上半身も下半身も、どれだけ意思を込めようが動いてくれない。

 

 (……一……号……!)

 

 一号を助けなければいけない。何故戻ってきたのかはともかく、最後の噴火者に捕まっているらしい彼女を、救わなければならない。

 

 無情にも身体は動かない。奴のテレパシーだけが聞こえる。

 

『アァ、生キテイルトモ。本当ハ殺シタイガ、オマエガ来テクレルナラ、アノ雑魚ヲ生カシテヤロウ。』

 

 (……やめろ……逃げろ……!)

 

 叫ぼうと努力するのも虚しく、声すら出ない。意識が飛ばないようにするのがやっとだった。

 

『──ヨシ!ジャアアノ雑魚ニ、オワカレノ言葉ヲ言ッテコイ。』

 

 テレパシーが聞こえる。また聞こえる。

 

 

『サァ、()()()ヲ伝エテコイ。ソシテ。オワカレダ。』

 

 

 瞬間、脳が焼き切れそうになった。燃えるような憤怒が沸いて沸いて、奴を焼き殺すべく一心に向かう。

 

 実際は何てことはない、ただの怒り。頭がどうにかなりそうだった。

 

 (……幼稚で……悪趣味で……馬鹿げた命令を……)

 

 怒るも虚しく、俺の意識は途切れかけている。雨に打たれている感覚が意識を繋ぎ止める。

 

 (……一……号……)

 

 届くことの無い声を、頭の中で囁く。雨が降っている。ぴちゃぴちゃと、誰かが近付いている音がする。意識はもう保てそうにない、と思った。

 

 最後の一滴がまだ地面に落ちていないだけ。まもなく途切れることは分かっている。

 

 誰かが、倒れている俺の目の前に屈んでいる気がした。

 

 

 

 

 そして呟く。

 

 "大好き。"

 

 やがて、目の前が真っ暗になった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 なぁ、マッシブーン……

 何だよ。

 アローラに行ったらさ……

 

 

 

 

 ア

    ロ

ー         ラ

   に   行

 っ

    た  ら  さ……

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぁっ!!」

 

 俺は目を覚ました。頭ががんがんと痛む。辺りは夜、先程の真っ暗闇と大して変わらない。不可思議なのは、俺が生きているということ。

 

「……死んでない……」

「起きましたか。」

 

 懐かしい声が聞こえてきた。それはマガレの声だった。

 

「ッ……」

「あぁ、動かない方が良いですよ。まだ完全に傷が塞がった訳ではありません。どうぞ、ゆっくりしていて下さい。」

 

 火花のような痛みが走ったので、俺は動くのをやめた。

 

 ぎこぎこぎこ、と何かを擦り合わせる音が聞こえる。やがてオレンジ色の光の粒が見える。マガレは何かをてきぱきとこなし、燃え盛る焚き火を作って辺りを暖かく照らした。

 

「何があったか聞いてもよろしいでしょうか?」

「……俺からもいいか。」

 

 ゆっくりと起き上がりながら、未だずきずきと痛む頭を摩って俺は言った。

 

「お前、俺に血を吸わせたか……?」

「はい。そうしないと亡くなるかと思いましたので。申し訳ございません。」

「……いや、助かった。」

 

 俺は焚き火の前に座り、黙って火を眺めた。

 

 血を吸うと、身体が再生する。吸血鬼のようなものだ。便利な体質だとは自分でも思うが、戦いに使わない理由がある。

 

 脳まで再生するから、忘れていた記憶が蘇る。頭がずきずき痛むし、その時に感じた悲しみや苦しみも、その時のまま蘇る。何と不都合な機能だろう。ならばいっそ使わないと俺は決めていたのだ。

 

 俺は助けてくれた彼女に話しかけた。

 

「マガレが生きていて良かった。一号が心配していた。」

「あら、嬉しいですね。その少女は何処に?」

「何があったか……だったか。」

 

 俺は深呼吸をした。そして口を動かそうとする。

 

 いざ伝えようとしてみると、つっかえのような物が喉にあった。しばらく俺は黙り続ける。マガレは微笑みながら俺を待った。

 

 やっと俺は言葉を綴った。

 

「リーダーが死んだ。」

「はい。」

「信者たちも皆死んだ。」

「はい。」

「一号が攫われてしまった。」

「はい。」

 

 淡白に返答する彼女に、俺は言う。

 

「俺のせいだ」

 

 俺は俯いた。口の先が地面に突き刺さりそうな程。今はこの姿勢が一番楽だった。よく似合ってやがる、と自嘲しようとも思った。自信がぽっきり折れたのかも知れない。絶対的な強者を目の前にして。

 

 マガレは両手の指を組みながら、俺と同じく黙っていた。彼女にとって衝撃の大きなことを何個も話した自覚はあった。

 

 されど、彼女は顔色一つ変えずに俺を気遣った。

 

「落ち込んでいられるようですね。お疲れでしょう?まずはゆっくり休んで下さい。休んで休んで……」

 

 マガレが問いかける。

 

「貴方はその後、どうしたいですか?」

 

 

 

 

 やり残した大きなことが俺にはある。

 例え死ぬことになろうとも。

 

「一号を助けたい。」

「良いですね。手伝いますよ。」

 

 焚き火はめらめらと燃えていた。

 

 

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