この章は残り3話で終わります
※注意
・グロ要素
・死亡表現
「一号。」
俺は彼女の両耳を塞ぐのをやめ、金色の髪にそっと手を置いて言った。
「必ず帰ってくる。今はただ必死に、戻ることなんて考えずに、ひたすら逃げて欲しいんだ。」
諭すように告げる。彼女は以前、最後の噴火者に見つかった時、何を思ってか逃げた後に戻って来たことがあった。そして捕まるに至ったのだ。それを、今回は何としても防ぎたい。
安心させるために俺は言った。
「約束を破らない男だぞ?俺は。もう一号は大丈夫だ。逃げることだけを考えて欲しいんだ。」
「……違うの。」
一号は真顔に近く、それでいて一抹の不安を抱えているような表情をしていた。そして俺にこう言った。
「私、逃げたの、あの時。けれど──」
彼女が言い終わる前にどおんと大きな音が鳴った。噴火するような音。奴の攻撃する音だ。
(……噴火!奴は火山だ!溶岩を生成し、噴出させることの出来る能力!一号が溶かされちまう!)
俺は焦りながら彼女に言葉を放った。
「君は熱に耐性が無いだろ!早く!早く逃げてくれ!頼む!」
「……分かった。ずっとずっと遠くまで逃げるよ。」
彼女はスキマを開き、神妙な顔つきで言った。
「私、待ってる。血鬼のこと待ってる。絶対、私に会いに来てね。」
「もちろんだ。一号!」
俺は両手でサムズアップをした。それが彼女との別れの挨拶代わりだった。何てことはない。すぐにまた会える。俺は小さく微笑んだ金髪の少女を見送った。
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雨が降り始めた。雨粒はひたすら溶岩をしゅうしゅうと煙らせ、燃え盛るジャングルの炎を必死に消すなど、忙しない。
赤い怪物の姿になったマガレもまた雨に打たれていた。彼女の変身能力は、カメレオンが身体の色を変えて風景に溶け込めるように、元々備わっている固有の能力だった。
『サッキカラ逃ゲテバカリ』
最後の噴火者がテレパシーを行う。彼は言語を知らない。が、言語の意味を理解し、意思を直接相手に送りつける万能の力、『
彼はニヤニヤと笑いながら言った。
『愛ヲブツケ合ウトハ何ダ?』
「失礼。訂正しましょう。私はただ、貴方がこれから愛をぶつけ合う者の姿をしているだけなのです。」
『ハ?』
「貴方を最初に殴る役目は、私には相応しく無いでしょう?」
そう言いつつマガレは自身の変身を解いた。姿を現した彼女は浅黒く、誇張をしすぎたようなウルフカットの灰色の髪で目が隠れている。
「これから貴方を倒す本物がやって来ますよ。」
彼女はにこりと笑いかけ、その場から猛ダッシュして逃げた。
『何ダッタンダ』
疑問に思った最後の噴火者の目の先に、赤い怪物がいた。
怪物は拳を硬く握っていた。今や手のひら理論など姿も形も無い。怒りに煮えたぎる一匹と、既に怒りが冷めてしまった一匹がご対面する。
真っ赤に煮えたぎる一匹が叫んだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
最後の噴火者は片手を血鬼に向ける。
『ウルセエヨ!雑魚!』
そしてニヤニヤと笑い、噴火は起こった。
ばごおおおおん。辺りに轟く、彼の二つ目の能力。約0.1%〜3%以下の生命エネルギーを溶岩に変換し、熱と質量を持った一撃を放つ。大波など比較にはならない。熱は骨さえ溶かし、巨大な拳で殴るような溶岩の質量が勢い強く、敵を粉砕し尽くす。
ただし、それも当たればの話。
「オ?」
血鬼は『中噴火』を避けつつ、最後の噴火者の横腹に渾身の一撃を喰らわせた。
「おらぁ!」
挨拶代わりにしては重すぎる拳に、大きな噴火者の身体が吹っ飛ぶ。
『痛クモ痒クモ』
体勢を整えた後、既に目の前で放たれている血鬼の拳を、最後の噴火者は思いっきり殴った。
『無ェンダヨ!』
拳と拳がぶつかった時、当然力の弱い方は弾かれる。
「くっ」
血鬼は声を漏らしながら少しだけ後退りをし、最後の噴火者はガラ空きの腹筋を蹴り飛ばした。
『──ン?』
背後へと吹っ飛んだ血鬼。違和感を感じた噴火者が、ニヤッと笑った。
『……ドウシタ?ソノ肉体ノ強度。以前トマルデ違ウ。随分ト硬クナリヤガッタナァ』
「……お前の為に、色々準備したからな」
『ソレハ愛ッテヤツカ?』
「は?」
『オォ、怖イ怖イ』
最後の噴火者はツルのドレッドヘアを掻き上げながら、深く息を吸った。
『コワイッ』
そして能力を使用する。
「ナアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
ただのそれでは無い叫びに、ビリビリビリビリと血鬼の身体が反応する。彼は途端に気付いた。指一本たりとも、身体を動かせない。
(……何……!?)
三つ目の能力、『
『雑魚ガ、多少マシニナッタダケダ。チットモ怖クネエヨォ』
そして両手を赤い怪物に向ける。
「ナァ!!」
ばごおおおおおおおおん。動けない血鬼を、『大噴火』が襲った。
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「クソッ……」
「あら、こんにちは。」
「アイツ、どうしても森を更地にしたいらしい。目の前にはもう草一本生えてないぜ」
「環境のこととか考えないんでしょうね」
埋もれるほどの溶岩の中から起き上がった血鬼と、巻き込まれたマガレが会話をしていた。
「やっぱり手伝ってくれ、マガレ。危ないと思ったらすぐ下がっていい。」
「えぇ。私もそう言おうと思ってましたよ。」
「……助かる。」
再び二匹の赤い怪物が立ち上がった。
「動かないで下さーい!」
血鬼になったマガレが走りながら大声を出す。最後の噴火者は当然言うことを聞かずに、前方に向かって『中噴火』を放った。
しかしマガレは空高く飛んでいた。血鬼を模倣した今、彼女はぶぶぶぶと空を飛び、技を放つことが出来る。
「行きますよ!」
そう言い、彼女はその名を叫んだ。
「"アームハンマー"!」
マガレの上に現れた、巨大な腕と拳が振り下ろされ、大きな音と共に大地がひび割れた。
それを、最後の噴火者は軽々と避けていた。喰らっても致命傷にはならない。だが、痛みを伴うのは間違いない。ニヤッと笑った彼が、降り立ったマガレに迫る。
鋭く速い拳が、彼女の赤い腹筋に突き刺さるぐらいに放たれた。
彼女は動じない。
「"カウンター"。」
「オオ!?」
気付けば最後の噴火者は殴られていた。それも、自身の攻撃をまるで二倍にして返されたような痛み。そして遥か遠くへと吹っ飛ばされた。
吹っ飛ばされた先には、
血鬼がいた。
(終わりにしようぜ)
血鬼は仁王立ちしながら、熱を失った拳を握った。
(火山に還れ、クソ野郎──)
「"れいとうパンチ"!」
[ PP 29 / 30 ]
技は当たった。
しかし。
(畜生……!)
『れいとうパンチ』で凍る確率は10%である。引けないのも無理はない、と自分を慰められる程の余裕は、彼には無い。
対して最後の噴火者からも、余裕は無くなった。今の攻撃は、何か、自身を
(……危ナカッタ?コノ俺ガ?)
理解は追いついていない。それでも見下しに見下していた、敵にもならない弱者が一瞬自分の命を奪いかけたと言う事実に。
彼は憤怒した。
(アァ、イライラスル)
(警戒されてるのか?)
未だ近寄ることもテレパシーを送ることもしない最後の噴火者に、血鬼は困惑していた。
噴火者はようやくユラリと動き出した。血鬼は拳を握り、そして気付く。
奴の顔が笑っていない。目と目が合った時、思わず彼の背筋がぞくっとした。
いる。既に目の前に。
(──動け!)
ほとんど反射的に血鬼は虚空を殴っていた。一瞬で血鬼の背後に回った最後の噴火者が、全力で血鬼の背中をぶん殴る。
「っがぁっ!!!!!!!!」
喰らったことのないダメージが全身を走り、血鬼は一直線上に吹っ飛ばされる。何度木を巻き込んだのか分からない。薄暗い洞穴に彼は突っ込んだ。
追いかけようとした最後の噴火者の背中に、追いついたマガレが『れいとうパンチ』を打つ。
しかし外れた。物理的に。
(避けられた……!)
振り返った噴火者が足蹴りを放とうとする。
(ならばっ!)
技の一つである、『カウンター』。敵の攻撃をそのまま二倍にして返す技は、その性質ゆえに攻撃を喰らわなければ不発に終わる。
ぴたっ、と最後の噴火者の足は当たる寸前で止まっていた。
(なっ)
看破されたマガレの『カウンター』の効果が切れた。その瞬間、噴火者は止めていた足を地面に踏み込ませ、軽く彼女を殴った。
「クッ」
ずさーっと倒れた血鬼の姿のマガレに、最後の噴火者が飛びかかって馬乗りになる。
ずがががががががががががががが、と最後の噴火者は高速でマガレを殴った。
やがてマガレの変身が解けた。血の臭いが漂う。気分が晴れたのか、噴火者はニヤニヤと笑った。
そこに血鬼が飛びかかる。
二匹が激しい闘争を始めた。攻防戦というよりかは、一方的な蹂躙だった。血鬼が繰り出した全力の拳が薄ら笑いの拳に軽々しく相殺され、パンチやらキックやら『小噴火』やらを喰らい続ける。
(こっちは最大まで強化してるんだぞ!)
能力最大強化。それは本来勝利の象徴であった。
ポケモンバトルでは──此方はただの殺し合いだが──攻撃・防御・特攻・特防・素早さ・命中率・回避率といった能力値の強化が容易く勝敗を決める。攻撃。一段階の強化が微小で確実なダメージ量の変化を起こす。素早さ。二段階の強化がほぼ絶対的な行動順番の変化を引き起こす。
それが、ましてや六段階。血鬼なら、攻撃・防御・素早さの三つ。これらが最大強化ともなれば、相当のレベル差や実力差が無い限り、一騎当千・金城鉄壁・電光石火の実力を発揮する。
しかし血鬼は現実離れした本物の怪物を相手にしていた。次元が違う。その言葉が過言では無い、圧倒的な差。
(まだ!お前に勝てねぇのかよ!)
バキッと血鬼の胸筋が蹴られた。吹っ飛んだ彼は即座に体勢を持ち直し、自身を鼓舞するように力を込めた。
(能力強化が消えた訳じゃない……マガレはまだ意識がある……!だがいつ途切れても可笑しくない!早く目の前のコイツをどうにかしなければ、俺たちに明日は無い!)
血鬼は目の前を見た。まるで初めから無かったかのように森が消滅している。最後の噴火者が焼き尽くしたのだった。そして当事者は寂れた大地の遠くの方で血鬼を射抜くように見つめている。
(……どうにかできるのか……?)
彼の中を恐れと不信が埋め尽くした。
『アーイライラスル』
ニヤニヤしながら、最後の噴火者は血鬼に語りかけた。
『アノ女、ドウシテモオマエノコトガ好キラシイ。何度殴ッテモ、何度蹴ッテモ、変ワラナイ。』
ぴくっ、と血鬼の拳が反応した。構わず噴火者は胸に手を当てて言う。
『デモ、ソレデモ俺ハアノ女ヲ愛シテイル。』
何度目だろうか。血鬼の中で怒りがふつふつと湧き出した。
『ダカラヨ、オマエヲ殺セバ、ゼンブ解決!アノ女ヲ俺ノモノニデキル!』
最後の噴火者が、真っ暗な空を仰ぎながら叫んだ。血鬼は考える。
(やるべきことは、恐れることでも弱気になることでも無い。どんな手段を使ってでも、どんな結果になろうとも、コイツが二度と一号に近付けないようにするんだよ……)
そんなことを思いながら、血鬼はふっと力を抜いた。
血鬼は、しゃがんだ。四つ脚を曲げ、両手を膝の上に置き、じっと最後の噴火者を見つめた。そのまま何もしない。噴火者はニヤニヤ笑いながら言った。
『諦メタノカ?』
当然、彼に大きな油断が生まれたのだった。
[ PP 28 / 30 ]
「ン?」
非現実的、不可解な現象が発生する。しゃがんでいた血鬼が、瞬時に噴火者の目の前で拳を振るっていた。
「"インファイト"ォォォォォォォォ!!」
殴る。殴る。ひたすらに殴る。最後の噴火者の全身を、ひたすら血鬼は殴って彼方へとぶっ飛ばした。
技。完成された完璧な
「うおおおおおおおおおおおおお!!!」
[ PP 27 / 30 ]
血鬼がさらに『インファイト』を発動した。距離を無視して相手の懐に潜り込み、無数の打撃を放つ技である。ただし、使えば使うほど自身の防御力が下がる。ならば、相手に反撃の余地を一切与えなえければいい。
(防御も特防も関係無ぇ!コイツが死ぬまでぶっ殺す!!)
[ PP 26 / 30 ]
「インファイトォォォォォォォォォォォ!!!!」
平らな焦土を殴り飛ばされた衝撃で吹っ飛ぶ噴火者を、血鬼の拳が逃がさない。
[ PP 25 / 30 ]
「うらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
鬱蒼とした森を巻き込んで吹っ飛ぶ噴火者の前に、何度も血鬼が瞬時にやって来る。
[ PP 24 / 30 ]
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
変わらず最後の噴火者はニヤニヤと笑っている。既に、血鬼の体力は限界に達しつつある。自動で身体が動くといえど、動いた分だけ体力の消耗は起こる。今技を止めれば、確実に倒れる。血鬼は確信していた。
(関係無い!死ぬまで打ち続けろ!)
その意識は、技を打つことのみに集中していた。その拳は、最強の敵を粉砕することのみに振るわれていた。前は殆ど見えない。故に、考えうる限り最悪の結末を迎えることに気が付けない。
しかし。例え冷静だったとしても、盲目的に技を使用する手段を取っていた時点でこの結末を避けることは叶わなかっただろう。運命は決定していたと言える。
技は、一度放つとキャンセルすることはできない──
[ PP 23 / 30 ]
「イン!ファイトォォォォォォォォォォ!!!!」
最後の噴火者、四つ目の能力。
『
目の前に金髪少女一号が召喚された。
ががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががごがががががごがががががががががががががががががががごがぎがががががががが。
血鬼は目を大きく開いた少女にインファイトを浴びせた。美しい金髪を靡かせた彼女の顔、胸、腕、足、胴体、あらゆる場所を一発一発殺意を込めて殴り続けた。
技は急にキャンセルすることはできない。インファイトの持続時間は5秒。
長い長い一瞬の出来事だった。持続時間が終了した瞬間、血鬼は一寸たりとも動かなくなった。
身体が止まると同時に極度の疲労が現れた。彼の精神がぶっきらぼうに抉り削られた。目の前には未だぴんぴんとしている敵が立っている。何が起こったか分からず、血鬼は茫然自失とした。
現実は変わらない。
足元には血溜まりになった金髪少女一号の死体が、虚ろな表情を浮かべながらはっきりと存在していた。