筋肉蚊の楽しい幻想郷観光   作:すくぇ

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【前回のあらすじ】
マガレが戦闘不能になった
血鬼がインファイトを放ちまくった
血鬼が一号を殺した



四十、 大雨の最終決戦

 

 

 グッ!

 

 最後の噴火者は力強くサムズアップをした。

 

 そしてそのまま握り拳を作る。ニタニタ笑いながら、今から殴るぞ、と強調するように肩をぐるぐる回し、一度後ろに下がって一気に振りかぶる。

 

 血鬼は動かない。

 

『キヒャア!!』

 

 最後の噴火者が、血鬼の腹を全力で殴り飛ばした。

 

 

 

 

『オマエノ女ナンカイラネエヨ。仲良ク死ンドケ』

 

 最後の噴火者は血鬼にテレパシーを送りつけた。血鬼は腹部から真紅の血を流したままぐったりとしている。荒れた真っ黒な空がざーざーと彼を雨粒で打った。

 

『デモ、動カナイオマエハ愛オシイナァ。』

 

 無表情のまま倒れている少女の死体を、最後の噴火者は綺麗なモノのように思った。

 

『痛カッタナア』

 

 彼女の顎に片手を添える。

 

『苦シカッタナア』

 

 最後の噴火者が顔を近付ける。ツルのドレッドヘアが彼女の頬に垂れた。

 

『俺ガ絶対ニ、守ッテヤルカラナア』

 

 ニヤニヤと笑いながら、最後の噴火者は少女に口付けをしようとした。

 

 

 

 

 [ PP 22 / 30 ]

 

 その時、屍のように倒れていた身体が意思一つで飛び跳ねた。加速する赤い肉体が一瞬にして最後の噴火者の前に現れる。

 

 ががっががががががっがっががががががががっががっがががが。

 

 不意を突かれた噴火者が、連続する拳で吹っ飛んだ。一本の木に激突し、へし折れる。もう一本の木に衝突し、へし折れる。またもう一本の木にぶつかり、やっと止まる。

 

 木にもたれ掛かりながら、最後の噴火者はニヤッと笑った。

 

 (マジカヨ)

 

 

 

 

 限界を超えた『インファイト』。打ち終わったなら、後はふらりと倒れるのみだった。肉体も精神もとっくに瀕死と成り果てている。何が自分を動かしたのか。目の前が真っ暗になりかけている彼には分かっているような、分からないような。

 

 一号。

 

 前のめりに倒れた彼のクチバシが、死体の少女に突き刺さった。残酷な音が小さく響く。血の臭いが充満している。落ちゆく意識に映ったのは、赤黒い液体。

 

 刹那、彼にはそれが宝石のようにきらきらと輝いて見えた。ふと気付くと、もう煌めきは鈍くなっていた。

 

 彼の本能が囁く。誰にも聞こえることはない。今は静かな静かな夜で、雨の音だけが鳴り続ける。

 

 血と雨が混じって薄くなる。

 

 勿体無い。

 

 

 

 

 本能のままに彼は血を吸っていた。自身が殺めたいたいけな少女の命を、彼は無我夢中で啜った。

 

 やがて血溜まりはそこから無くなった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 真っ暗な空間にいた。

 

 自分が浮いているのか、それとも沈んでいるのか分からなかった。俺は項垂れ、惨めに蹲り、暗闇の底を見つめることしか出来なかった。

 

 顔を上げられない。目の前には一号がいる。俺が殺した一号が立っている。長い金髪を靡かせ、寂しそうに微笑んでいる少女がいる。

 

 彼女を見ることが出来ない。俺は彼女を……

 

 

 

 

「新鮮だね」

 

 気付けば、一号は俺の側にいた。柔らかに頭を抱きしめた彼女は、きっと笑っているのだろう。彼女は無邪気に言った。

 

「血鬼のそんな姿、初めて見た。じゃあきっと必要だったんだよね……私が死んでしまったことも。"無駄な殺生"じゃないんだよね?」

「……ごめん」

「血鬼。私もう痛くないよ。怪我なんて一つもない。それじゃあ駄目?私、心配だよ。」

「ごめん」

 

 ひたすらに俺は謝った。罪悪感に押し潰され、最早消えてしまいたかった。

 

 取り返しのつかないことをした。俺は彼女を殴り殺した。例えこれが、拾い上げることの出来なかった命だったとしても。立ち直るには時間も暇も、命すらも必要に思えた。彼女が何を言おうと、俺は俺を許せなかった。

 

 けれど。

 

「血鬼。謝るより、抱きしめ返してよ。最後かも知れないでしょ?」

 

 けれど確かに一号はいた。夢現か、死体と成り果てたはずの彼女は真っ黒な空間にいる。彼女は少しだけ俺から離れた。

 

 辛くて、やっと俺は顔を上げた。嬉しそうにさえ見える一号。死体と成り果てていない彼女が確かにそこにいる。思わず俺は罪も何もかも振り払って、彼女の願いと俺の願いを一つに重ね合わせた。

 

 俺は強く抱きしめた。彼女が抱きしめ返す。

 

「不思議ね。ここが何処かだなんてどうでもいい……何かに感謝しなきゃいけないなら、感謝してもしきれないけどね」

「一号」

「ずっと暗闇にいた。ここよりずっと暗い場所……。貴方が照らしてくれたの。知ってた?私、貴方に出会うまでずっとよ。」

「一号」

「お日様がぽかぽかして、川が気持ち良くて、木の実のジュースが美味しかった。疲れた時も疲れてない時も温泉が大好き!貴方のことが好き。貴方が照らしたから好き。優しかったから好き。守ってくれたから好き。何にもしてくれなくてもきっと好きだった。何でもしてくれた貴方に私の全てをあげたい。」

 

 何を喋ろうにも喉が詰まって苦しかった。彼女が話す度に、彼女の身体の一部が砂になってさらさらと消えていくような気がして、もう喋らなくていいと思った。そんなのは嘘だった。ずっと話していたい。あの世があるならば、一緒に行きたいとさえ……

 

「駄目だよ、血鬼。」

 

 少女は言った。

 

「貴方は生きて。それが私の願い。何よりの願いだよ。」

 

 とうとう彼女はぱっと抱きしめるのをやめた。急に冷たく突き放されたようにも思えた。馬鹿らしい刹那の思考。微笑む彼女がそこにいる。

 

「私、ずっと貴方を見てるね……。私の分まで生きて。ちゃんと楽しく暮らしてね。」

「……一号」

「あっ、でもね、私のことは絶対に忘れないこと!分かった?」

「一号……!」

「ねえ、血鬼」

 

 彼女は微笑みながら、何かを言おうとした。しかし彼女はすぐに口を小さく動かすのを止めて、にっこりと笑った。

 

「頑張ってね。血鬼……」

「一号!!」

 

 少女は遠ざかってゆく。これから彼女は、真っ暗な空間にひとりぼっちで百年も千年も永久に取り残される。そう思えて、届かない手を必死に伸ばした。

 

 少女は遠ざかってゆく。少女は空へ浮かび、俺は地に堕ち続ける。はたまた逆か。どしん、と暗い地面に落ちた感覚と共に、全身を痛みが駆け巡った。彼女は最後に何かをしようとしていた。

 

 スキマの開く、奇妙な音だけが頭に残っていた。遠い彼女の声は、すぐ近くで囁かれた。

 

 

 

 

「使って。私の能力。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ねぇ血鬼 私が貴方に言えなかったのはね

 

 

 ……苦しくて辛くて 死ぬほど痛かったってことなの

 

 

 ……死ぬほど 死ぬほど

 

 

 

 

 …………… …………… ……………

 

 

 …きろ…… …きろ…… 起きろ……

 

 

 

 

 

 

 ……死ぬほど愛しているからよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイツを殺す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後の噴火者が元の場所に戻ると、血鬼は異様な程に変化していた。

 

 上半身の筋肉は破裂しそうなぐらいに膨張し、身長は2.4メートルと最後の噴火者を優に超えている。血を吸ったことで傷は完全に塞がり、四本脚で仁王立ちをし、拳は固く握られ、真っ黒でつぶらな瞳は無機質に最後の噴火者を見つめている。

 

 ここに今、筋肉蚊教が望んだウルトラジャングルの王が復活を遂げた。

 

『──薄情ナ奴ダ。自ラ女ヲ殺シテ、シカモ血ヲ吸イ尽クストハナァ』

 

 テレパシーを送りつつ、最後の噴火者は悠長にニヤニヤ笑いながら歩き出す。

 

 すると、背後から奇妙な音が鳴った。

 

 (ン?)

 

 振り返ると、そこには謎の裂け目が開かれていた。

 

 裂け目の端と端には赤いリボンが付いており、裂け目の中の幾つもの目玉がじろりと最後の噴火者を見ている。

 

 (アノ女ノ……)

 

 まさか、まだ生きているのか?最後の噴火者は真実を確かめるべくもう一度前を見た。

 

 大きな手が、噴火者の頭を掴んでいた。

 

 

 

 

 (何ダ?)

 

 次の瞬間には、最後の噴火者の視界は逆さまになっていた。

 

 スキマが繋がれた場所は上空500メートル程度の空。もし今が昼だったなら、氷像を掲げる巨大な火山もマッスルポーズを取る大木も良く見えていただろう。

 

 大雨と共に、最後の噴火者は空高くから落とされた。

 

「ガアアアアアアアアアア!?」

 

 彼に飛ぶ手段は無い。流星のように降る自身の勢いを止める手段も無い。成す術なく最後の噴火者は地面へと落下し続けた。

 

「グオアアアアアアアアアアアアアア」

 

 彼が地面に激突したのと同時に、少し上にスキマが開いた。現れた血鬼が『インファイト』を放つ。

 

 [ PP 21 / 30 ]

 

 どががががががががががががががががががが。

 

 泥が飛び散り、大地が凹凸に抉られる。全力の拳が次々に最後の噴火者へと放たれる。5秒経過後、血鬼が違和感に気付いた。

 

 余りにも硬過ぎる。と思えば、硬化した岩盤の表皮がぴしっと割れ、中から溶岩が勢い強く噴出された。

 

 (ドレダケ強クナロウガ、結局オマエハ勝テネエヨ!)

 

 最後の噴火者、五つ目の能力である『革儘(がわまま)』。全身を岩盤のように硬くし、あらゆる攻撃を無効化する技である。

 

 噴火によって血鬼は空へと吹っ飛んだ。しかしスキマが開かれる。スキマは血鬼の意思により開かれ、衝撃を吸収し、最後の噴火者の背後へと空間を繋げる。

 

 奇妙な音に振り返った噴火者の顔面が、強く血鬼に殴打された。

 

「ゴガッッッッ」

 

 後頭部を地面に打ち付け、バネのように全身を跳ねさせながら最後の噴火者は吹っ飛んだ。

 

 (クソッ!)

 

 折れた鼻から血を流しながら、最後の噴火者はしゃがんだ体勢になった。見違えるように強く変わり果てた血鬼が、凄まじい速度で噴火者を殴り殺しに迫る。

 

 ニヤッと笑った彼が、『業人遊ビ』で死体の少女を召喚した。

 

 (オマエハ、モウ一度絶望シロ!)

 

 またもや壁代わりにされた金髪の少女。

 

 迫り切った血鬼がそっと触れる。すると彼女は、その場から跡形も無く消えてしまった。

 

 ポケモンは通常アイテムを一つだけ所持することが可能である。血鬼は死体の少女を『アイテム』扱いしたことにより、この世で最も安全な場所に彼女を避難させた。

 

 (消エ……)

 

 そっと触れた後は、ぎゅっと憤怒を込めて、最後の噴火者の腹をぶん殴る。

 

「ガア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!」

 

 技を使わずに放たれた拳が、一瞬にして沸騰した激怒を彼に刻んだ。遥か遠くへと吹っ飛んだ噴火者を、何発もの『いわなだれ』が襲う。

 

 [ pp 20 / 30 ]

 

 [ pp 19 / 30 ]

 

 [ pp 18 / 30 ]

 

 何処からともなく出てきた大岩が次々と最後の噴火者へと降った。岩石に埋もれた彼から真上に『中噴火』が放たれる。

 

 一度に砕け散った岩も、噴き出た紅蓮の溶岩も、全てが振り下ろされた巨大な腕と拳に潰される。

 

 [ PP 17 / 30 ]

 

 『アームハンマー』。大地を揺らす強力な一撃を、攻撃と素早さを犠牲にして放つ。しかし簡単に潰されない者が下にはいた。『革儘』によりノーダメージで防ぎ切った最後の噴火者は、中噴火により血鬼を吹っ飛ばした。

 

 (『革儘』……何回モ出来ルワケジャナイ、エネルギーヲ使イスギル……)

 

 多少のダメージはあるものの、まだまだ身体は動く。生命エネルギーの残量は77%程度。しかし、最後の噴火者から少しずつ余裕が消えていた。

 

 (モット楽シクヤラセロヨ!血鬼!)

 

 攫われた少女が必死に叫んだその名前を、やっと最後の噴火者は脳に刻んだ。ここにいた有象無象の雑魚では無いあの敵を、今まで考える必要も無かった戦術で、完膚なきまでに潰す。

 

 [ PP 11 / 30 ]

 

 その頃、血鬼は『かたくなる』により、再び防御力のみを最大まで上昇させていた。

 

 最後の噴火者が『業人遊ビ』の対象を変更。最後の噴火者は半径1メートル以内に、血鬼を好きな方向・位置で召喚することが可能になった。

 

 後ろ向きの血鬼を前方に召喚。振り向く前に背中をぶん殴る。吹っ飛んだ血鬼を今度は後ろに召喚。肘打ちをした後に蹴り飛ばす。

 

「キヒッ!キヒッ!」

 

 またもや後ろに召喚。それを繰り返す。召喚が繰り返されることで、血鬼は一定の方向・位置のまま動けなくなる。

 

 最後の噴火者は自由を奪われた血鬼と背中を合わせ、高笑いをした。

 

「キヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」

 

 彼の愉快が止まらない。後は好きなタイミングで殴るのみ。さぁ殴るぞ、と彼が前方へ後ろ向きに血鬼を召喚した時、

 

 技が炸裂した。

 

 [ PP 10 / 30 ]

 

「ヒャッ……」

 

 『じならし』である。血鬼を中心に広範囲へと大地の揺れが発生した。ズガァァ、と泥濘の地面に亀裂が走り、最後の噴火者は不意の痛みによって動きが止まる。

 

 さらに血鬼は同じ技を発動した。

 

 [ PP 9 / 30 ]

 

 地面がより深く割れ、足元を崩した最後の噴火者が倒れる前に、血鬼は彼をぶん殴った。

 

 

 

 

 ピキッ

 

「ヴォガァァァァァァァァダァダダァォォ!!!!」

 

 頭に血が上り切った最後の噴火者が、全身に緑色のオーラを荒々しく纏いながら血鬼に迫る。

 

 がががががががががががががががが。激しい殴り合いが始まった。全身全霊の二匹が、魂を擦り減らす勢いで目の前の敵を殴打し続ける。拳と拳がぶつかり、時折お互いの身体に鋭く突き刺さり、速度と威力が物を言う。

 

 圧倒的な強さを見せつけたのは血鬼だった。速度も威力も最後の噴火者を凌駕している。

 

 (クソッ!クソッ!クソッ!全身ガ上手ク動カナイ!アノ揺レノセイダ!スピード(S)感ガヤタラト下ガッテヤガル!)

 

 『じならし』には相手のスピードを一段階下げる効果がある。二段階分下がった最後の噴火者の速度は、五段階分上がっているかつ血を吸って覚醒した血鬼の速度に大敗していた。

 

 血鬼が頬を殴った。そして胸を殴り、腹を殴り、即座に近付いて技を放つ。

 

 [ PP 8 / 30 ]

 

 『ばかぢから』。攻撃と防御を一段階下げる代わりに、絶大な威力の一撃を放つ技である。最後の噴火者は対抗して自身の拳を振るった。すると、最後の噴火者の腕がぶちっともげて吹っ飛んでしまった。

 

「ガッ……」

 

 失った片腕がごろんと転がる。肩からぶしゃあっと血が噴き出た。それを片手で抑えながら、最後の噴火者は地面を見つめた。

 

 生誕してから数千年、ようやく彼は死を理解した。汗なのか雨粒なのか分からないものが、大量に彼の皮膚を流れてゆく。最早彼に笑みは無かった。

 

 血鬼が追撃を加えようとする。

 

 

 

 

「ラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

 

 最後の噴火者が二度目の『癪神』を使用した。びりびりびり、と血鬼は動けなくなる。

 

「ゴ……」

 

 同時に、最後の噴火者の喉から大量の血が吐き出された。本来、『癪神』は一日に一度しか使わない能力である。二度目には喉が壊れ、声帯が機能しなくなる。

 

 テレパシーが血鬼の中に響いた。

 

『……聞コエルカ……?オマエヲ殺スタメニ……素晴ラシイコトヲ思イツイタ……。』

 

 最後の噴火者が血鬼を軽く蹴った。倒れた赤い巨体の上に乗った彼が、残った片手にエネルギーを溜め始める。

 

『俺ノ持ツアリッタケヲ!全部ブツケンダヨ!血鬼!』

 

 彼の片腕が緑色に爛々と光り出す。生命エネルギーが凝縮され、今にも破裂しかねないのを噴火者は抑え込む。

 

 『大噴火』に必要な生命エネルギーは全体の約3%である。これから彼は、自身に残るほとんど全ての生命エネルギー、約72%を噴火に使用すると決めた。威力はざっと『大噴火』の24倍。

 

『喰ラエヨ!』

 

 勝利の笑みを浮かべた最後の噴火者が、生命エネルギーを放出しようとする。

 

『コノウルトラジャングルヲブッ壊ス、『超大噴火』ヲヨオ!!!!』

 

 緑色の光が充満した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのけたたましい爆発音がウルトラジャングル中に響いたのは、一体いつぶりだっただろうか。

 

 密林に散らばる火山生命体たちが、懐かしむように同じ方角を見た。相変わらず大きな火山は大きな氷像に塞がれていて、緑色にきらきらと輝く生命エネルギーが辺りを彷徨っている。

 

 大雨が滝のように降っている。マグマで満ちた直径400km以上の大穴から、最後の噴火者が這い上がってきた。

 

 (……勝ッタ……勝ッタゾ……)

 

 彼はどさりと地面に倒れた。生まれて初めての限界、降り注ぐ雨粒、どこか満たされた心、最後の噴火者は素晴らしい心地良さを感じた。

 

 (……疲レタ……)

 

 彼はぐっすり眠ろうとした。かつて退屈のあまり目を閉ざしてしまった日々との別れ。自分と対等に渡り合った、血鬼という男の存在に、最後の噴火者は敬意を示した。

 

 

 

 

 彼が眠りにつく寸前。

 

 どぼん、と溶岩の海から音が聞こえた。

 

 

 

 

 (……ソンナ)

 

 生きている筈が無い。最後の噴火者は確信していた。確信していながら、その表情は深く凍りついている。

 

 (ソンナハズガ無イ……)

 

 彼の中を恐れと不信が埋め尽くした。

 

 

 

 

 どしん、と──────が目の前に降り立つ。

 

 倒れたままの噴火者は、彼を見上げることが出来なかった。ハァ、ハァ、と地面を見つめながら息を漏らすことしか出来ない。目の前の現実を受け入れることが出来ない。

 

 実際のところ、まともに喰らっていれば確実に死んでいた一撃。故に彼は『こらえる』という技を使った。それは、どんな攻撃を喰らっても必ずHPが1だけ残る技。

 

「〜〜〜〜!」

 

 最後の噴火者はパニックになった。『癪神』を放とうとしたが、喉は潰れたままでいる。

 

「〜〜〜〜!〜〜〜〜!」

 

 彼は命乞いのやり方を知らない。また、知っていても助かる確率はゼロに等しい。必死に声を出そうとするが、声は出ない。

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

 

 ドレッドヘアを鷲掴みにされて持ち上げられた最後の噴火者が、口をぱくぱくと動かした。死への恐怖が彼を支配する。抵抗しろ、逃げろ、叫べ、と自分に命令している。笑みも余裕もそこには無い。無様に生へと手を伸ばし、生き延びようと足掻き苦しむ姿しか無い。

 

 

 一切の慈悲を与えずに、怪物は技を放った。

 

 [ PP 6 / 30 ]

 

 

 ぐしゃあっ、と火山生命体だったものが飛び散った。あまりにも強すぎる風圧が前方の木々を跡形も無く消し飛ばした。岩が粉々に砕け、山が一つ消し飛んだ。

 

 『きしかいせい』。体力が減っているほどダメージが増す技。最も威力が上がるのは言わずもがな、HPが1の時。その威力はタイプが一致していることも含めてギガインパクトさえも超える。正真正銘、最強の一撃。

 

 

 やがて夜が明ける。

 

 いつしか雨は止み、戦いは終わる。

 

 朝日がきらきらと彼を照らしている。怪物は無表情のまま、その場に立ち尽くしていた。

 

 

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