俺は死を受け入れるぜ
キスしたらなんか生き返ったぜ
ただいまだぜ
一体何が起こったのか。マガレが言うにはこういうことだった。
どうも俺には魂を保有する力があるらしく、死にかけている者の血を吸うことで魂を得られるらしい。それで、最後の噴火者を殺す前に一号と話せたのだった。あれは妄想ではなかったらしい。
保有した魂を元の身体に戻す条件は、接吻をすることだとマガレは言った。そんな白雪姫のような馬鹿げた話があるかと思ったが、実際に一号は起きたのだから何も言えない。彼女が目を覚ましたことに勝る喜びは無いのだから、何も言わない。
そして……
やっと平穏な日々が訪れた俺たちは、ぼんやりとノーマル温泉に入っていた。湯気も温度も懐かしいように感じる。まったりと癒された。
「──何度も言いますが、貴方には魂を保有する力があったということです。吸血によって魂を回収し、接吻によって魂を戻す……決して奇跡で片付けられるものではありません。貴方はこの世界で初めて、死者の完全蘇生に成功したんですよ!」
ばしゃっ、と興奮しながらお湯を飛ばしたマガレを俺は煙たがった。
「聞いてますか!」
「うるせぇな。いいじゃねえか奇跡で。」
「駄目です!あまりにも稚拙過ぎる!是非貴方を研究させて下さい!」
「ダメ!血鬼は私と暮らすの!」
「なら仕方ないですね。」
マガレが急に落ち着いてにこりと笑った。俺は一息吐きながら湯に浸かる。
「ふぅ〜……」
「それでね!血鬼がアイツをぶっ殺しちゃってね!あんなに強かったのに!血鬼の方がすっごく強くて!あとね、"お前に出逢えて良かった"とか"俺の中にお前を置いても良いか"、とか喋ってた!」
「あーーー」
俺は温泉の底へと沈んだ。マガレと金髪少女一号がにこにこと笑いながらその様子を観察している。俺は懇願した。
「恥ずかしいからやめてくれないか?」
「嫌よ!」
「良いじゃないですか。愛ですよ。キスで目を覚まさせるだなんて王子様ですね。」
「ぶっ殺すぞ」
俺が立ち上がって膨張した大きな身体を見せつけた瞬間、マガレが即座にノーマル温泉から逃げた。当然、二人だけの空間が生まれる。
「あー、その。一号。何で色々知ってるんだ?」
「貴方の中からずっと見たり聞いたりしてたんだ。凄い迫力だった。ちょっと怖いくらい。」
「マジか……」
「伝わったよ。嬉しかったって!」
「……なら良かったぜ。」
俺が気恥ずかしさを背負いながら言って、彼女が眩しく微笑む。
「おんなじ気持ちだよ。血鬼。」
「そうか。」
俺たちはぐっとサムズアップをした。
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明くる日、俺と一号は海へと歩いた。新しく貰ったワンピースに身を包んだ一号はうきうきと歩いている。
道中スキマを使おうと思ったが、何故かもう俺には使えなくなっていた。一号に頼もうとすると、歩いて行きたいと彼女は返事した。
成程、どうせ時間は腐るほどある。緩やかに密林を二人で歩いたのだった。
「よいしょー!」
海に辿り着いた後、持って来た水着に着替えた一号が水平線に向かってどぼんと飛び込んだ。
やれやれ、と波のさざめきを聴きながら俺は傍観していたが、そのうち彼女が上がってこないことに気付いて滅茶苦茶に焦った。
「おい!マジか!?」
急いで俺が溺れているであろう少女の方へと向かうと、背後で奇妙な音が鳴り、俺は持ち上げられた。
「んん?」
「よいしょー!」
そして俺は大海原に放り投げられた。全く、やんちゃで怪力なお子様には困ったものだ。彼女は俺がカナヅチだということを知らない。上腕二頭筋から腹直筋下部にかけて鍛え上げられた筋肉による体重は浮力を圧倒するのだ。
「沈んでるけど大丈夫ー?」
「助けてくれ!助けてくれ!」
「楽しそうね!」
「馬鹿野郎!違う!早く!」
救助された後はしばらく口を聞かなかった。
「ごめんね。泳げないだなんて意外!」
「……幻滅したか?」
「全然?なんか嬉しいかも。」
「弱みを見つけたからか。」
「いいえ。貴方のことをもっと知れたから。」
なんと恥ずかしくなる言葉だろう。俺は甘んじて受け入れた。彼女はマッサージのつもりだろうか、浜辺に寝転んでいる俺の腹筋や胸筋をぺたぺた触りながら話した。
「ねぇ、ここら辺に新しい家を建てない?」
「俺は元の村の場所がいいぜ。お前は?」
「なら私も!おっきい家が欲しい!」
「化け物と女の子が一緒に住めるぐらいでいいか」
うん、と一号が頷いて大きなスキマを開いた。奇妙な音を出して開かれた裂け目に、少女が上半身を突っ込む。
そのままの体勢でしばらく彼女は固まっていた。
「どうした?頭から喰われたか?」
彼女はすぽっと裂け目から抜け出して、俺に驚きの表情を見せた。
「……残ってた!」
「え?」
「家!残ってた!」
「マジか!」
彼女が笑顔で再びスキマに入ったので、後に俺は続いた。しゃかしゃか腕を動かし、しゃかしゃか足を動かし、紫色の裂け目へダイブする。大量の目玉が俺を出迎える。金色の髪の彼女に手を引かれて、俺たちは村へと辿り着いた。
「うおおおおおおおおおおおお!!」
「やったああああああああああ!!」
爆風で他の家や冷凍庫こそ潰れてはいたが、一つだけぽかんと呑気に建っているあばら屋があった。それも、元々俺が暮らしていたログハウスだけが。あまりの嬉しさに俺たちは叫び、そして呟く。
「ただいまって今言うべきだったな」
「そうだね」
俺たちは顔を見合わせた。
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それから俺と金髪少女一号はだらだらとログハウスで暮らし始めた。
朝は一緒のベッドで寝ている。どっちかが起きても二度寝をするから、どっちも目が覚めない。ようやく昼ぐらいにオボンの実やモモンの実を一号に吸わせる。ただ、俺はすっかり血が好きになってしまって、飲み飽きた木の実エキスを受け付けなくなった。
「ちょっと繋いでくれ」
「はーい」
そこで俺は一号に深層の研究所へとスキマを開いてもらい、マガレに会う。そこでは水を素材に血っぽい味の真っ赤な液体を作れるから、毎日マガレに頼むのだ。
「うめぇ!」
「えぇ、作った甲斐があったというものです。満足してくれて助かりましたよ。」
「機械が故障したらお前から吸うぜ。かっさかさになる程度で良いよな。」
「そうなったら逃げましょうかね」
九割冗談である。俺が機械に直接口を突っ込んでギュオオオオと吸っていると、彼女が呟いた。
「それにしても、随分変わりましたね。以前は全く血を吸わなかったのに。」
「野菜主義が肉に目覚めたって感じだ。毛嫌いしてたが中々悪くない。他の奴をぶっ殺して吸いたくなるくらいだ。」
「今の発言をリーダーに聞かせたいですよ」
マガレがにこりと笑いながらそう言って、何か決意したように口を開いた。
「……血鬼。私はしばらく旅に出ようと思います。」
「お?マジか。どこ行くんだよ。」
「彼の遺体探しと、海の向こうに行くんです。」
マガレは語った。
「我々は目の前のジャングルに夢中で、外の世界に行くだなんて考えもしませんでした。海路を切り開くのです。」
「んなことしなくても一号が切り開いてくれるぞ」
「ワープではロマンがありません!新しいことに挑戦し、新しい場所に足を運び、新鮮な気持ちを抱いて眠るのです。様々な体験を経て、この世界を精一杯楽しむこと。それを私の生きる意味とすることにしました。」
「ふーん」
他人事のように返事をし、他人事では無いように俺は感じた。コイツもまた退屈に抗う者。ならば応援せねばならない。
「お土産は子供が喜びそうなやつでいいぜ」
「貴方、彼女を子供扱いしてはいけませんよ。見た目はともかく、20歳を超えているらしいじゃないですか。」
「20って大人だっけか?」
「大人のレディですよ。時折忘れそうになりますがね。」
「俺たちからしたら赤子みたいなもんだな」
ふと、俺は彼女に聞いた。
「なぁ、俺たちってジジイとババアなのか、マガレ。」
「さぁ?身体は絶好調ですから、違うんじゃないですか?何であろうと楽しめるうちに楽しんでおきますよ。貴方もどうです、血鬼。」
「おう。実はもう考えてんだ。何やろうかって。」
「あら、何ですか?」
俺はびしっと自分を親指で指差して言った。
「アローラ観光だ!古い約束でな。」
「あろーは?」
「同じようなもんだぜ」
俺はそう言い、南の島の冒険を待ち遠しく思った。
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翌日、マガレが俺たちの村へやって来たので、小さなパーティを開いた。彼女は様々な『人造品』を持ってきて、食べ物や飲み物を生成する機械を使った。ステーキ、ワイン、ピザ、ジュース、ケーキ……。次の日にマガレは旅立ち、一号は胃を壊した。
「また会いましょう。」
「おう。」
「バイバイ!」
マガレは一号とハイタッチをした。彼女はまずリーダーの遺体を探すらしい。あの爆発で残っているのか?と疑問を抱いたが黙っていた。
人造品は、特に一号が気に入ったのが、古代から蓄積されてきた文学や音楽を全て鑑賞できる機械。後に影響を受けたのか大人らしい喋り方になった。まぁ、本質は変わらない。彼女は相変わらず活発で元気だった。
また、だらだらと過ごす日々がやってきた。俺と一号は片っ端から本を読み、音楽を聴き、日が暮れたら温泉に入った。戦いとはかけ離れた平和な日々。飽きることの無い日々。
そんな生活が一年続いた。
ある夜のこと、俺と少女はあばら屋のベッドの上でいつも通りに話していた。
「嘘は嫌いか?一号。」
「どちらかというと嫌いね。信頼を裏切ることになるから。真の嘘吐きは嘘を吐かず、のらりくらりと言葉を綴るべきよ。」
「実はな。俺、嘘を吐いてたんだ。」
「あら!貴方の嘘なら好きよ。貴方の真実はもっと好き。」
彼女は寝転びながらにこりと笑いかけた。俺は言う。
「一番最初に言ったよな。自分の名前を忘れたってよ。」
「えぇ。」
「本当の名前があるんだ。」
「何かしら?」
俺は少し間を置いて告げた。
「マッシブーンだ。」
「それって、日記に書いていた……」
「覚えてたか。」
俺が机の上の日記を持ってきて、ベッドに置いてから二人で眺め出した。
『xxxx年、一度目のウルトラホールの発生を確認。
ウルトラホールから日本人の少女が一名落下。これを回収する。
ヒト用ログハウス十号へ案内。だが困ったことに彼女は
「貴方の名前だったのね。」
「おう。」
俺は日記を閉じて言った。
「昔、お前の血を飲んだ時、脳が再生されて頭ん中の記憶が全部蘇った。忘れてたって訳じゃねぇんだ。けれど、自分を振り返って、ようやくこの名前を名乗っても良いって思えた。」
「ふぅん。ねぇ、どちらが良いかしら?」
「え?」
「血鬼とマッシブーン。貴方はどっちで呼ばれたいの?」
俺は少しだけ考えた。血鬼は、彼女がくれた名前。マッシブーンは、本当の名前。考える素振りを見せて、やがて俺は答えを出した。
それを聞くと、彼女は微笑んだ。
「血鬼だな。」
結局、呼び名が変わることは無かった。
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それから3年の月日が流れた。
長年過ごせばお互いのマイナスな部分が見えてくるものだ。しかし、俺からすれば彼女の嫌な所は全然無いし、時には喧嘩をすること無し。不思議なぐらいに俺たちは仲良く暮らしていた。
が、突然にそれはやってきた。
「……血鬼!血鬼!起きて!」
「ん?早いな、どうした。」
「ウルトラホールが開いたの!」
「マジか!」
その日は朝早くから特大ニュースが舞い降りた。外に出ると、まだひんやりとしていて薄暗い。彼女に手を引かれながらぶぶぶぶと空を飛んでいると、確かにそれはあった。
(この位置は……)
間違い無かった。少女が降ってきたものと同じウルトラホールだ。
「……やったじゃねぇか!元の世界に帰れるぞ、おい!」
「うん!血鬼も来てくれるって、約束したわよね!」
「あ」
しまった。言うのを忘れていた。俺は遅れて彼女に伝える。
「すまん!」
「え?」
「俺は別の世界に行かなきゃならないんだ。その後で会いに行ってもいいか?」
「……どうして?嫌なの?そんな、急に……」
「嫌じゃないぜ。もちろん行きたいんだが……」
俺が言う前に一号はぱっとスキマを開いた。奇妙な音が聞こえて、彼女が俺の方も見ずにどこかへと消えてしまった。
「おいおい!待て!」
彼女はいなくなってしまった。大捜索が始まる。
「──ここにいたのか。」
どこを探しても見つからなかった一号が、真夜中にノーマル温泉に入っていた。伸びた金髪を後ろにまとめ、少女は星空を見上げている。
「悪かったよ。言うのを忘れていた。古い約束でな、アローラ地方に行きてぇんだ!アローラ地方はな、人間とポケモンが沢山いて、それぞれ仲良く共存してるんだぜ。観光地としても有名でよ……。」
「約束してたのね。」
「おう。」
返事を返すと、しばらく沈黙の時が流れた。彼女から少し離れた横に俺も入り、夜空を見上げる。いつもと変わらない満天の星空だった。
やがて彼女が言った。
「……いいわよ。貴方が来るまでに創り上げるわ。人と妖怪が共に存在を支え合う……」
「幻想のような世界、だよな?」
「えぇ」
「楽しみにしてるぜ。お前ならきっと出来る。賢くて強くて、大人だもんな。」
「ねぇ。」
はっきりと彼女は述べた。
「私、帰りたくない」
「………」
「貴方と離れたくない。怖い。駄目かしら。」
「まだウルトラホールが閉じるまで三日ある。ゆっくり考えろよな。」
俺と彼女はそれっきり喋らなかった。その日は寝るまで。明日の朝には、ぽつりぽつりと他愛無いことを話し始めた。
いよいよ旅立ちの日がやって来た。
結局、彼女は元の世界に帰ることを決心した。ともなれば豪勢なパーティを開かない訳にはいかない。と思ったら、そういう気分じゃないということで拒否された。喧嘩のような、喧嘩じゃないような。何だか気まずいように思うのは確かだった。
「じゃあ、行くわね。血鬼。」
「おう。いつか必ず会いに行くからな。」
俺は一号と握手を交わした。彼女の小さな手も、もう握ることは無いだろう。きっと次に会う時は今より大きな手をしている。記録していた彼女の身長は、最終的に初めより2cm程伸びていた。
「……行くね。」
少しだけ微笑んだ彼女が、奇妙な音を出してスキマを開いた。
スキマはウルトラホールのすぐ近くへと繋がる。彼女がウルトラホールの中を眺めている。
(寂しくなるな)
長く過ごしてきたのだから、当然別れは辛い。これで俺はまた孤独になる。けれど、彼女との記憶を糧にして生きていこうと考えていた。
彼女はというと、別れがちっとも惜しくないというように平静でいた。心が決まったのだろう。少し嫌われてしまったかも知れないが、俺に依存するよりずっとマシだと思った。
不意に彼女が振り返った。
(………)
彼女は涙を流していた。悲しそうに顔を歪めていた。
感情を表せるというのは、やはり羨ましいものだった。こんなにも心を揺さぶるのだから。俺は無表情の自分を恨んだ。
「絶対!」
彼女が叫んだ。
「絶対絶対!会いに来ないと許さないから!貴方が来るまで!ずっと恨んでるから!」
「おう!愛してるぜ、一号!」
彼女はぽろぽろと涙を流して言った。
「……私もよ!血鬼!」
やがてウルトラホールが閉じる。俺は、少なくとも彼女が行ってしまうまで、いつまでも手を振っていた。
地獄の密林でまた独り、俺は過ごし始めた。
王国や自然を消し飛ばした大爆発も、深層の近くに開けられた溶岩の大穴も、時が経つにつれて段々と蘇り始めた。更地だった爆発の跡地は森へと戻り、大穴の溶岩は雨で完全に固まり、周囲に花や草が生え始めた。
火山の火口からはやっぱり氷像がサムズアップをしているし、温泉はいつでも温かい。変わり映えのしない日々は、いつか到来する観光の日まで。
彼女との愛憎混在の別れを、胸に抱きながら。
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「──紫様?」
八雲藍が言った。
「大丈夫ですか。もう眠たいのですか?」
「そうね。冬が近付いて来たのね。」
「では、そろそろお開きにしましょう。楽しかったです。」
「私もよ、藍。」
八雲紫は微笑み、盃に残った酒を静かに飲み干した。
床に着いた彼女はぼんやりと考える。
(血鬼……)
千年の時を待ち続ける少女は、これからも待ち続ける。愛を膨らませ続ける。いつか到来する、再会の日まで。
(その時を待ち侘びているわ)
彼女は微笑んだ。
(だって、約束したもの。)
ウルトラネクロファンタジア 完
(一話に戻る)
今回の過去編
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面白かった!
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うーん、東方と関係無くて面白く無かった
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うーん、ストーリー自体が面白く無かった
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うーん、長すぎて面白く無かった
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うーん、その他の理由で面白く無かった