筋肉蚊の楽しい幻想郷観光   作:すくぇ

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残り二章でこの作品は完結する予定です。

【前回のあらすじ】
・輝夜と妹紅の喧嘩が始まった
・二人ともぶっ潰された
・ので助ける



四十七、 いのちだいじに

 

 

 ……何だ?

 

 私は、どうなっている。確か大岩が降ってきて、輝夜を巻き込んで、一緒に潰されたはずだ。

 

 こういう時は自分を振り返れば良い。私は藤原妹紅。平安の世に生まれ、貴族として育ち、父が受けた辱めの復讐を今でも続けている。

 

 そう思ってみると笑えてくる。私は何としぶといのだろうか。ただ、今は怒りなどは消え失せ、気に食わない奴との暇潰しとして殺し合いをやっているだけだった。

 

 殺し合いと言っても、死ぬ訳では無い。私もアイツも不老不死なのだから。

 

 (……何でだったかな。)

 

 私が不老不死になった理由。いつの間にか忘れてしまっている自分がいる。思い返せば、すぐに蘇る。

 

 

 

 

 気付けば私は宙に浮いていて、山道を下山している二人を眺めていた。剥き出しの岩肌と自然と砂利道。

 

 そこにいた二人のうち一人は、黒い髪をした過去の私。それから、蓬莱の薬を持っていたとある男。

 

 (あぁ、そうだ。懐かしいな……。何百年前だ?)

 

 乾いた笑みが自然に浮かぶ。そうだった。私はここで人を殺し、不老不死の薬を奪い、真っ直ぐな道から外れたのだ。

 

 いつしか夢に現れなくなったと思っていたが、またこの悪夢を見れるとは思わなんだ。ぷかぷかと浮かんでいる白髪の私は、かつて私の命を助けてくれた男──岩笠を見つめた。

 

 (永遠は重すぎたよ。何度死にたいと思ったことか。私がアンタを殺してまで手にしたものは、アンタを殺したことに対する罪だったんだ。)

 

 そして、静かに目を閉じた。

 

 

 

 

 (罪な訳あるかよ。)

 

 再び目を開けた私は、度し難い感情を抱いていた。怒りでは無いが、似たようなもの。不快感を伴うものだ。

 

 (生きられることを罪だなんて思うな。私のせいで死んだ奴らは、私よりずっと生きたかっただろうが……)

 

 時々私の激情は二者へと向いた。一方は蓬莱の薬の存在を知らせた神、木花咲耶姫。アレが知らせてくれなければ、魔が差すことは無かっただろう。

 

 もう一方は私。私だ。復讐だけが理由では無かった。不老不死という特別な存在に刹那の憧れを抱き、一人の命を殺めるに至った人間を強く軽蔑する。

 

 するだけ、何も変わらない。もし今この過ちを取り消せるのなら、間違い無く──

 

 (!!!)

 

 私が意識を戻すと、丁度過去の私が下り坂で岩笠を蹴り飛ばしている瞬間を見た。ごろんごろんと転がる恩人。やがて山から落ちるであろう。

 

 きっと最後の好機。

 

 (間に合えっ!!)

 

 私は背中から炎の翼を生やし、紅蓮の軌跡を描きながら崖の下の森に素早く飛んだ。そして落っこちようとしている岩笠を受け止めるべく、見上げながら待ち構えていた。

 

 (アンタら追っかけて、勝手に死にかけて……!命拾ってもらった私は、こんな化け物になったよ!アンタのおかげなんだ!死んじゃ駄目だ!アンタを救う為に使って、アンタが私に殺されたことは、無かったことになるんだ!)

 

 心臓が波打っていた。空は真っ青だった。身体は燃えるように熱く、興奮は治らず、まるで私は若々しい生命のようだった。

 

 今だけは不老不死なんかじゃない。生身の私のようだった。

 

「大丈夫かっ!」

 

 まだ受け止めても無いのに私は叫んだ。彼の命を救った瞬間を思い、先走った声だった。

 

 彼の身体が落ち続ける。私の両腕の中に落ちようとする。

 

 

 

 

 すり抜けた。

 

 

 

 

 ぐしゃっ、と下から音が聞こえた。熱は冷め、悪夢は悪夢として君臨し、汗が滝のように流れた。

 

 呆然としていた私は上を見上げた。

 

 崖の上から覗く私が、物怪のように気味の悪い眼をしていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

……だ………う…か

 

………いじょ…ぶか

 

……だいじょ…ぶか

 

 

 

 

「大丈夫か?妹紅。」

「………」

 

 気が付けば私は空を見上げていた。空は真っ青だった。視界の半分を覆うのは、異世界から来た真っ赤で大きな奴、マッシブーン。

 

 身体を起こして辺りを見渡すと、岩は大きな粒となって散らばっていた。

 

「助けてくれたのか……。」

「おう。お前、さっきまで死んでたぜ。不老不死のくせにな。」

「ははは。」

 

 私は笑いながらため息を吐いた。

 

「……最悪の気分。」

「何だ?まだ慧音をジャイアントスイングしたことを恨んでるんだな?ごめんなサイドステップ……」

「違うって。昔を思い出したんだよ。」

 

 急に左右に繰り返し移動を始めたマッシブーンを諌め、私は一つの質問をぶつけた。

 

「なぁ、罪を犯したとする。物欲しさに人を一人殺してしまったとする。償おうにも、そいつもそいつの親族も死んだだろうから償えない。お前ならどうすれば良いと思う。」

 

 聞いていて、しまったと思った。数百年間答えを出せなかった私の難題。これでは父を愚弄した輝夜と同じだ。

 

 案の定マッシブーンは黙り込み、私はやはり考えなくて良いだとか、こいつに答えは無いのさだとか、そんなことを言って彼の思考を止めるべきか迷っていた。

 

 しかし、迷っているうちにマッシブーンが言葉を発した。

 

「分からん」

「だよな」

「だが、十分お前は苦しんだんじゃないか?永遠のように長く生きることの苦しさを俺は知ってるぜ。」

 

 何故私の話に、という言葉が出かけたが飲み込んだ。マッシブーンは話し続ける。

 

「罪を犯したなら一生苦しむべきだ、なんて俺には言えねぇ。加えてお前はその本人や近しい奴にもう何もしてやれないときた。なら、後はお前が反省して、二度とそんなことしなきゃ多少は許されるだろ。」

「………」

 

 多少、という言葉に少しだけ救いを感じた。過去は変わらない。完全に許される訳では無い。が、少しは許されても良い。

 

 自分で言うのは気味が悪いが、他の奴にそう言われたならちょっとだけ受け入れられる。マッシブーンの言葉は私を少しだけ楽にした。

 

 

 突然、アイツの声が聞こえた。

 

「なーに?まだそんなことで悩んでたのね、貴女。とっくに吹っ切れたと思ってたわ。」

 

 蓬莱山輝夜の声だった。奴は私の所まで呑気にとことこ歩いてきて、それから手を伸ばした。

 

 短い困惑の後、奴が私に手を伸ばしているのだと気付いた。

 

「どのみち生きるしか無いわよ。それが私たち、不老不死ってものよ。」

「……おう。」

 

 何だか変な気持ちになった。奴がにこりと笑い、私もほんの少し口に笑みを浮かべる。

 

 やぶさかではないが、差し出された手を私は握ってやろうとした。

 

 が、すぐに手を離した。奴が万力のような力で私の手を握り潰そうとしたのが分かったからだ。

 

「あら、バレちゃった。」

「ふっ。」

 

 私は自力で立ち上がり、両手から出した炎を揺らめかせた。

 

「お前はそういう女だよな!輝夜!」

「よく分かってるじゃない!」

 

 私は踏み込み、奴を殴りにかかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 藤原妹紅が目覚める少し前のこと。

 

「輝夜!大丈夫かしら輝夜!」

「……フェローチェちゃん、元気ね。」

「ちゃんは止めなさい!」

 

 輝夜はむくりと起き上がり、焦った様子のフェローチェに笑いかけた。

 

「あー痛かった。まさか巻き込まれるとは思わなかったわ。」

「あの萃香とかいう奴のせいね?体調が回復したら私が蹴り殺してあげるから!」

「いや?妹紅よ、妹紅。私は離れた場所からアイツを嘲笑おうと思って、そしたらアイツが私を巻き込んだのよ。」

「じゃあ妹紅を蹴り殺せばいいのね!」

 

 輝夜は困ったような顔をして言った。

 

「貴女はね、もう少し他の命を大切にしなさい。いつか退治されても文句言えないわよ?」

 

 

 

 

「って怒られちゃったわ」

「そりゃそうだろ」

 

 夕方、永遠亭の外で体操座りをしている二匹の怪物がいた。夕暮れの空はオレンジ色に染まり、二匹に哀愁を漂わさせている。

 

「お前に勝ってる部分を言ってやろうか?」

「分かりきってるわよ。何も無いんでしょ。」

「あるぜ!俺には『愛』があるんだ。」

 

 マッシブーンは自身の胸をビシッと親指で指しながら言った。

 

「誰だって死にたくは無いだろ?お前もそう、俺もそう。根っこの部分は同じなんだよ。だから気安く命を奪うなって話だ。分かったか馬鹿野郎。」

 

 例外はいるけどな、と心の中でマッシブーンは呟く。フェローチェは黙ったままでいた。

 

「お前が蹴り殺したネズミもそうだっただろうな。もっと愛を持て愛を。」

「美しくない奴にどう価値を見出せば良いの。ましてや私に害を為すんだから。」

 

 マッシブーンはふぅ、とため息を吐いた。

 

「ちょっとは我慢しろよ。踏み止まれねぇなら俺で練習すれば良い。俺ならお前なんかには殺されねぇからな!」

「いちいちうざったいわね……」

 

 ため息を吐いたフェローチェがゆっくりと立ち上がった。そして小さく呟く。

 

「……アンタって似てる気がするわ。」

「誰にだ?」

「知らない」

 

 すたすたすたと歩き、がらがらがらと引き戸を開け、フェローチェが永遠亭に入ろうとする。マッシブーンはその背中に声をかけた。

 

「しばらくそこに住むのか?」

「えぇ。ウルトラホールも閉じちゃったし、当分ここにいるわ。アンタは。」

「俺は博麗神社ってとこに住んでる。お前も神様に祈りたくなったら来いよ。」

「多分そんなの無いわね。代わりにアンタを殺したくなったら行く。」

 (俺の言葉全然響いてねぇや)

 

 少しがっかりしながらマッシブーンは立ち上がった。少し離れた場所で待っている妹紅の元へと向かおうとし、その前にフェローチェに別れを告げようとする。

 

 引き戸はまだ閉まっていなかった。

 

「あばよ。フェローチェ。」

「じゃあね。不細工。」

「は?」

 

 今度こそ扉はぴしゃんと音を立てて閉まった。納得のいかないマッシブーンだったが、とりあえず長い因縁は少し和らいだように思えた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 (………)

 

 肌寒く長い廊下を歩いていた。歩く姿から私は美しい。そうして足をゆっくりと進めながら考え事をしていた。

 

 (アイツの説教臭い所、お兄ちゃんに似てる気がする……)

 

 見た目は全く似てないけれど、そんな気がした。でもやっぱり気のせいだったと考え直す。

 

 (……そんな訳無いわね。)

 

 まだじんじんと痛む背中を摩りながら、私は引き戸をがらがらと開いた。

 

 

「あら。もうご飯出来てるわよ。貴女の口に合うと良いのだけれど。」

 

 八意永林。私が蹴り飛ばそうとして軽く受け止めてきた女。

 

「遅いよフェローチェ。鍋のお野菜がいやしんぼうの兎に食べられちゃうよ?」

 

 稲葉てゐ。大量の兎たちを従えているちびっ子。

 

「それって私のこと?でも人参も白菜も凄く美味しいわよ、フェローチェ!」

 

 鈴仙・ナンタラカンタラ。最初に聞いた名前が長すぎてよく覚えていない。

 

「横を空けておいたわ。ほら、早く来なさいよ?ぼーっとしてないの。」

 

 そして蓬莱山輝夜。初めに見た時はあまりの美貌に腰を抜かした。初めて対等な存在に出会えた気がして、ビックリ仰天だったのだ。

 

 永林、てゐ、鈴仙、輝夜が四人で鍋を囲んでいる。少しだけ懐かしい気分になって、私は輝夜の隣へと向かった。

 

 (愛ってことなのかしら。)

 

 私は思う。ウルトラデザートにいた頃の私にとって、他者は飾り以下のものだった。けれど目を凝らせば、優しさみたいなものがきっとそこら中にぽつぽつとあった。

 

 (最初は、侵略しようと思ってたんだけどね……。)

 

 輝夜の美しさに見惚れ、マッシブーンに再び出会い、二度目の敗北を許した。普段はあんなに感情的になることは無いのに、と自分に言い訳をしてみる。

 

 少しずつ私は変わっているような気がする。悪い気分はしない。何かをちょっとずつ思い出している。ゆっくり、ゆっくりと。

 

 

 (あんたのお陰かもね。)

 

 私は数千年ぶりの鍋料理に手を付けた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 よう。俺、マッシブーン。真っ赤な身体、鍛え抜かれた筋肉美につぶらな瞳。尖った口先でフェローチェの血をごくごくと飲んじゃう自他ともに認める化け物だ。

 

 石階段をひたすら登り、真っ赤な鳥居を潜り、やっと俺は博麗神社に到着した。

 

 何故か今日はやけに疲れた。命を大事にしない破天荒な奴らがこの幻想郷には多過ぎるからだ。博麗神社の巫女もその一人。

 

「ただいマッスル」

「遅かったじゃない。そんなに選ぶのに時間がかかったのね。」

「一回だけ『おかえ梨状筋』って言ってくれないか?」

「今忙しいのよ」

 

 博麗霊夢は台所にいた。気まぐれか、初めから決まっていたのか、俺のリクエストである味噌汁を作っているらしい。何にせよ嬉しい限りだ。

 

「萃香はまだ帰ってきて無いのか?」

「いるよー。」

「うわっ」

「今日は楽しそうだったねぇ血鬼。明日は私と戦おう。なっ?」

「今日一日酒を飲まなかったら良いぜ」

「あーあ。じゃあ戦えない。」

 

 神出鬼没の酒狂いはどかっと豪快に畳に寝転んだ。対照的に、目の前の机にはことりとお椀が置かれた。

 

「良い匂いだな!今日の具材は何だ?」

「あんたのは豆腐だけよ。玉ねぎは吸えないでしょ。」

「その通りだ。マッシブーンポイント10点をくれてやろう。100点貯まると何かが起こる……?」

「それよりお土産を頂戴!あまり焦らさないでくれる?」

 (ん?お土産?)

 

 にこにこ笑っている霊夢に俺は疑問を隠せなかった。オミヤゲとは何だろうか。

 

「昼間に藍がやってきて教えてくれたわ。あんたがへそくりで特別なお土産を買ってくれるってね。予想しても良い?」

「私は酒だと思うね。そして宴会を開くのさ!」

「私は餡子の和菓子だと思うわ。食後にぴったりじゃない?お茶の用意もしてるわよ。で、何かしら?」

 

 霊夢がかつてない期待の眼差しを向けている。萃香は酔いで顔を赤らめながらニヤニヤ笑っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ」

 

 ふと俺は思い出した。お土産代として、藍から金貨を貰っていたことを。それから俺の身に起こったことは言うまでも無いだろう。

 

 命大事に。ラブアンドピース。

 

 





太陽と月の大喧嘩 完

今年の目標は一つの章を完結させることでしたが、既に二章も終わらせられました。ひとえに皆様が応援してくださるおかげです。反動みたいなもので、ひょっとするとしばらく更新ペースが落ちるかも知れません。また再開した際にはよろしくお願いします。
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