筋肉蚊の楽しい幻想郷観光   作:すくぇ

59 / 82

【前回のあらすじ】
・童話の世界にマッシブーンは閉じ込められた
・マッシブーンの中にいるフランが助けてくれた
・今から博麗霊夢が本気を出す



五十三、 決着 ─前編

 

 

 博麗霊夢は陰陽玉を召喚した。

 その数、八つ。

 

 (ようやくお出ましか……)

 

 霧雨魔理沙は胸の高鳴りを感じていた。顔には、期待に満ちた笑みを浮かべている。宙に浮かぶ博麗の巫女の、赤くなった瞳孔に吸い込まれるように、彼女は魅入られていた。

 

 (待ち焦がれたぜ!)

 

 魔理沙は目を大きく見開き、一つの魔法を使った。

 

 戦闘中に何度も使用していた、時間を増やす魔法。霧雨魔理沙の周囲の時間は増やされた。時は通常の速度を保とうとする。よってそこには彼女のみが自由に動ける空間が生まれ、周りの景色は停止する。

 

 彼女は魔力を溜めた。側から見れば、まるでチャージ時間なんて無かったかのように見えるだろう。

 

 (喰らっちまえ)

 

 静かに思いながら、魔理沙はミニ八卦炉を構えた。

 

「恋符!『マスタースパーク』ッ!」

 

 ギュオオオオオオオオオオオオオオオ!!

 

 七色の特大光線が博麗霊夢を飲み込んだかに思えた。

 

 だが、博麗霊夢は避けていた。マスタースパークが放たれた途端、一瞬にして勘を働かせた彼女は即座に瞬間移動をしていた。霊夢を中心にぐるぐる回っていた陰陽玉が散り、一目散に霧雨魔理沙へと迫る。

 

 ゴオオオオオオと突撃してくる八つの陰陽玉。一つでも当たれば骨が砕けてしまうだろう。

 

「イージーだぜ」

 

 霧雨魔理沙は笑いながら呟いた。マスタースパークを避けられることは想定内。彼女はホウキに跨り、次なるスペルカードを使用した。

 

「魔符……『スターダストレヴァリエ』!」

 

 金髪の魔法使いが、青白い光を噴射させながら凄まじいスピードで逃げた。ホーミングしてくる八つの陰陽玉よりもっと速く、流れ星のように彼女はひとっ飛びし、博麗霊夢の方へと突っ込む。

 

「!」

 

 霧雨魔理沙の目が捉えた。既に博麗霊夢は、スペルカードを発動している。

 

 

 

 

 霊符『夢想封印』

 

 

 

 

 迫り来る陰陽玉と、眩い数々の光の玉が、霧雨魔理沙を挟み撃ちにしようとした。

 

 ぴたっ。

 

「……あっぶねー!」

 

 当たる直前、魔理沙は時間を増やす魔法を使用した。ぴたりと攻撃は止まり、彼女から直径数メートルの範囲のみが通常の時の流れを保っている。

 

 (アイツ、本当に本気みたいだな?)

 

 冷や汗を流しながら彼女は笑う。命の危機が恐ろしくもあり、昂らせもした。

 

 彼女はホウキに魔力を込め、下に急降下する準備をした。時間が増えている空間の範囲ギリギリまで移動し、魔法を解除すると同時に魔力を爆発させる見込みを立てる。

 

 解除。一気に急降下し、魔理沙は陰陽玉と夢想封印を避けてみせた。上空で大きな音が轟くのを聞きながら、彼女は一息ついた。

 

 (ふぅ──)

 

 

 

 

 そこに、お祓い棒を振りかぶった博麗霊夢が瞬間移動してきた。

 

 (なっ)

 

 間一髪で魔理沙はバリアを張った。

 

 魔力を固めて作った結界もどきは、剣も魔法も一切通用しない程度の硬度を誇る。

 

 だが、目の前にいるのは、本気を出した博麗霊夢。

 

 正真正銘、歴代最強の巫女である。

 

「ぐぁッ!!」

 

 バリアを粉々に打ち砕き、勢いが弱まることなく、霊力で強化されたお祓い棒が魔理沙の腹に思いっきりぶち当たった。

 

 霧雨魔理沙は遥か彼方に吹っ飛んだ。腹にできた大きな切り傷から血が滲む。見えなくなるほど小さくなった彼女を追いかけて、博麗霊夢が空を飛ぶ。

 

「!」

 

 ある程度近付いた後、彼女は止まった。

 

 凄まじく濃密な魔力を感じる。霧雨魔理沙が、全力の一撃を放とうとしている。それも、まもなく撃たれる。霊夢の勘がざわざわと騒ぎに騒ぎまくった。

 

 至って冷静に、博麗霊夢は即座に張れるという条件の元、最高硬度の結界を張った。

 

 霧雨魔理沙の奥義、マスタースパークを凌駕する最強の矛。

 

 博麗霊夢の機転、八つの陰陽玉を素材に創られた最強の盾。

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔砲『ファイナルスパーク』

 

 霊符『陰陽大結界』

 

 

 

 

 

 

 

 

「──あっははははははは!!」

 

 やがて音が止んだ後、魔理沙は高笑いした。服ごと裂かれた腹を押さえながら、彼女は叫ぶ。

 

 接近した博麗霊夢がお祓い棒で突いたのを、魔理沙はホウキで受け止めた。

 

「痛ぇけどさぁ!最高に楽しいよなぁ!霊夢!」

「………」

 

 矛盾対決。

 勝ったのは、霧雨魔理沙のファイナルスパークだった。

 

 魔理沙が風の魔法を使う。吹き荒れる大気の流れが霊夢を一気に遠方へと追いやり、二人の距離は離れた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 博麗霊夢には分かっていた。

 

 結界がほんの少しだけ彼女の魔砲を受け止めた隙に、少女は瞬間移動で横に逃げた。逃げ終わったのと同時に、陰陽大結界は限界を迎えて跡形も無く壊れてしまった。

 

 彼女はしばらく陰陽玉を出せなくなった。霊力も残り半分といったところ。比べて、霧雨魔理沙はマスタースパークを十回放てる程度の魔力を残している。

 

「そろそろ決着をつけようぜ」

 

 彼女が地面に手を当てると、一際大きな赤い魔法陣が描かれた。そして彼女が魔法陣から離れると、大きな生物が光りながら召喚された。

 

「お前も絵本で見たことあるだろ?」

 

 現れたのは、真っ赤な身体に巨大な翼を生やし、鋭く大きな爪と牙を持つ伝説上の存在。レッドドラゴンだった。

 

 サイズは、周りを囲う巨大な大木をさらに超える。ドラゴンは鼻を鳴らしながら、人の身体よりも大きな目玉で霊夢を睨んだ。

 

「それからコイツらをお前にぶつける」

 

 金髪少女が魔力を放出する。彼女の魔力から、霊夢の分身が大量に作り出された。

 

 数えずとも二十体以上、実力は少し落ちるが、見た目がそっくりそのままの同一存在がみな、博麗霊夢というオリジナルを見つめた。

 

「余裕よ」

 

 霊夢は独り言を呟き、依然として目を赤く光らせている。一斉に飛んできた自身の分身たち。彼女はお祓い棒を構え、鬼神のような強さを以って応戦した。

 

 

 

 

「ハァッ……ハァッ……」

 

 落ち着かない呼吸と痛みに戸惑いながら、少女は自身の傷を魔法で癒した。

 

 (私の全力を確実に当てる。これこそがあの博麗霊夢に勝てる唯一の方法だ……)

 

 霧雨魔理沙は確信していた。先程のファイナルスパークを、霊夢はまるで受け止めきれていなかった。火力は完全に上回っている。ならば後は当てるだけ。

 

 彼女はドラゴンの口の中に移動していた。バリアを張りつつ、ドラゴンが宿す膨大な魔力を自分のものにし、ミニ八卦炉へのチャージを悟られないようにする。

 

 そして放つは彼女の切り札、『ファイナルマスタースパーク』。

 

 生半可な判断では避けられないぐらい大きなレーザーを、不意打ちで放つ秘策。

 

 (これなら勝てるぜ……!)

 

 魔理沙は意気込み、今か今かと魔力が溜まりきるのを待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 (でも)

 

 不意に、霧雨魔理沙は躊躇した。

 

 自分が今、博麗霊夢を殺めることに夢中になっている。そのことを自覚してしまった。

 

 (でも……)

 

 彼女は冷や汗を流しながら、魔力を溜め続けた。

 

 (でも、ここで止めたら、本気で戦ったことにならないよな)

 

 かつての約束を少女は思い返していた。夏のうんざりするほど暑い日。冗談めかして話したことを、今になって実現しようとしている。

 

 (でも)

 

 彼女の頭は真っ白になった。

 

 

 

 

 アイツ死んじゃうんじゃないかな

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、博麗霊夢はレッドドラゴンの動きに注意しながら、迫り来る分身の自分を次々に薙ぎ倒し、霧雨魔理沙の姿を探していた。

 

 (あの馬鹿、何を企んでいるのかしら)

 

 また一人自分を蹴り飛ばしながら彼女は考える。

 

 事実、魔理沙の作戦は成功していた。ドラゴンの口の中は分厚い皮膚に覆われていて、魔力を遮断する。その上で、もしも何の予期もさせずに魔理沙の切り札が放たれたなら、博麗霊夢という人間は呆気なく消し飛んでいただろう。

 

 だが。

 

 博麗霊夢は予期せざるを得なかった。霧雨魔理沙が膨大な魔力をミニ八卦炉に込め、その姿を現したからだ。そして、博麗霊夢を模していた分身たちが全員どろりと一斉に溶けてしまった。

 

 ドラゴンの口から出てきたのは荒々しい炎では無く、長い金髪に真っ黒なとんがり帽子を被った魔法少女。

 

 尋常ならぬ様子で、霧雨魔理沙が地面に降り立った。

 

 

 

 

 (頼む)

 

 ミニ八卦炉が眩く光っている。

 

 (私の本気を受け止めてくれ)

 

 彼女は苦しそうに笑った。

 

 

 

 

「──分かってるわよ。」

 

 博麗霊夢は神降ろしを行った。

 

 

 

 

 能力を失って以来、彼女が修行したものの中に『神降ろし』があった。その結果、通常は己の身に八百万の神を宿せるものを、ただの霊力の塊に宿らせることが可能になっていた。

 

 とはいえ、彼女のそれは発展途上。まだまだ修行は足りず、位の低い神様しか降臨させられない。

 

 だが、彼女は神降ろしを行った。

 妖怪の身でありながら風神の力を手に入れた、最も位の低い神様を──

 

 

 

 

 

 

 

   

 "月光を呑む蒼鬼神(かぜのかみ)"

 

 その異名は、かつての月面戦争の際、月人の最新兵器から放たれたレーザーを呑み込み、多くの妖怪の命を救ったことから密かに広まったものである。

 

 雷神が攻撃の神であれば、風神は防御の神。あらゆる攻撃を背中に背負った風袋に吸収する。

 

 霧雨魔理沙は驚愕した。自身の全てを注ぎ込んだ傑作、『ファイナルマスタースパーク』は全て吸収されてしまった。

 

 そして風神が動く──

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女が倒れたと同時に、霊力の塊が消え去る。

 

「……やっぱ、勝てねぇな……」

 

 霧雨魔理沙は満たされたように微笑んだ。

 

 





後編は明日完成すれば明日投稿します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。