【前回のあらすじ】
・魔理沙は悪魔に支配された
・彼女は苦しみながらも霊夢と本気で戦えることを待望していた
・彼女は目を覚ましたもう一人の魔理沙に殺されかけている
少し前、マッシブーンが封印を自ら破った後のこと。
「俺!解放!」
本の中から出てきたマッシブーンが意気揚々と大声を上げた。しかし、博麗霊夢たちはそこにはいない。
「霊夢ゥゥゥゥゥゥゥゥ!!どこだぁ!!」
心配性なマッシブーンは叫んだ。霧雨魔理沙が殺すと言った対象には霊夢も入っている。本に閉じ込められて二人きりにさせてしまったが、その二人が忽然と姿を消しているのだから、彼が心配しない筈が無かった。
代わりにいたのは、魔法陣の真ん中で背伸びをしている霧雨魔理沙だった。
「ん〜〜〜〜!うるせ〜……」
「……おお?起きたか本物!俺はマッシブーン!Zワザがキモいともっぱら評判の男!」
「紅魔館ぶりだっけか?私は霧雨魔理沙だ。いやー大変だったぜ!」
挨拶のマッスルポーズをスルーして、魔理沙は武勇伝を語るように喋り出した。
「試練ってのは夢の中で行われたんだけどさ!荒野の真ん中を彷徨ったり、トラウマを克服させられたり、悪魔と戦わされたりしてさ!一年ぐらい経ったんじゃねぇの?って感じだ!」
「それより霊夢が大変だぜ!」
「それよりってさ……」
悲しげに言いながら、彼女は立ち上がってきょろきょろとホウキを探した。しかし見当たらないので勝手に納得してから彼女はマッシブーンに言った。
「知ってるよ。偽物が暴れてるんだろ?
「あ?何言ってんだ、寝たきりだったろ。場所も分からないしよ。」
「体調なら万全だ!場所は分かってる。あの小さな球体の中だ。」
魔理沙が指差したのは、少女の指先でぷちっと潰せそうなくらい小さな球体だった。それはもう一人の霧雨魔理沙が魔法で作り出した世界だった。
「どのみちここには私しか入れない。諦めるんだな。」
「不服だぜ……」
「ま、安心して地上で待っといてくれ。最強の魔法使いの初陣ってとこだ!行くぜ!」
みなぎる魔力にテンションを荒ぶらせながら、魔理沙は飛び出そうとする。その前にマッシブーンが一声かけた。
「なぁ!絶対に霊夢を巻き込むなよ!」
「分かってるぜ!」
魔理沙は生身で飛んで行った。
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そして対峙する、魔理沙と魔理沙。
二人は全く同じ姿をしている。違う点があるとすれば、ボロボロになって地面に寝転んでいるか否か。
「返してもらうぜ」
目覚めた霧雨魔理沙が魔法を使うと、地面の霧雨魔理沙が持っていたミニ八卦炉とホウキが空に吸い寄せられた。そして右手にはミニ八卦炉を、左手にはホウキを、魔理沙はぱしっと掴んだ。
「行くぞーーーーっ!!」
魔力のチャージが始まった。覚醒した彼女が込める恐ろしい程の魔力が、みな一つのマジックアイテムへと一途に集まる。空が歪む幻覚を、地面にいる霧雨魔理沙は見た。
「霊夢ーっ!そいつ押さえとけぇ!
ホウキに乗って空を飛んでいる魔理沙は叫んだ。彼女が言う『
能力の極限。あらゆるものから完全に浮くことで、彼女は無敵になることが出来る。以前妖怪が襲ってきて、マッシブーンが庇おうとした時も、彼女は万物から浮いていた。*1
ただしそれも、能力があった頃の話。彼女は今、浮くことが出来ない。そのことを、空にいる方の霧雨魔理沙は知らない。
「……どのみち逃げる気は無いぜ。さっさと行っちまえよ。」
ボロボロの霧雨魔理沙は、独り言を呟くように口を動かした。
博麗霊夢は曇りなき眼で少女を見た。
しばらく見た後、空にいるもう一人の少女を目で追った。何を考えているのか、霊夢は黙って空を見上げていた。
彼女が地面にお祓い棒を突き、目を瞑って霊力を溜め始めた。
「……?」
「……?」
二人の魔理沙は、動かなくなった博麗霊夢を不思議に思っている。そのまま謎の時間が数十秒流れた。
やがて彼女は大声を出した。
「
「……よしっ!」
既にミニ八卦炉のチャージは終わっている。
スペルカードが発動した。
「行くぜぇ!魔砲!」
七色の特大光線が放たれようとしている。
ぴたりと景色が止まった。
時間を増やす魔法。直径数メートルの範囲のみが通常の時の流れを保ち、それ以外は例外無く停止する。
「……おい。何言ってんだ、お前……」
「……便利な魔法を持ってるのね。時間でも止めたの?」
集中を解き、何食わぬ顔をして言う霊夢に、霧雨魔理沙は困惑していた。このまま自分は本物に消されるはずだったのに。何故か博麗霊夢が巻き込まれようとしている。彼女が能力を失っていることは分かっている。戦闘中も一切彼女は浮かなかった。
何も言わない彼女に、魔理沙は怒りを募らせた。理解不能。そうして胸の内に留めることも出来なくなって、彼女は叫んだ。
「お前馬鹿か!さっさと逃げろって!霊夢!」
「あんたの」
博麗霊夢は静かに答えた。
「あんたの本気を、今度こそ受け止めてあげようと思ったの。」
「……はぁ!?」
魔理沙は変な声を出した。対して霊夢は笑わず、真面目な顔をして言葉を述べている。金髪少女は声を荒げた。
「何言ってんだ死ぬぞ!断言するぜ!お前には絶対に防げない!」
「俄然燃えてきたわね。全力を尽くすわ。」
「あぁ待て、お前そういう奴じゃないだろ!?鬼じゃねぇんだからさぁ!」
焦った彼女が大慌てをした。どうしてそんなに自信に満ちた振る舞いをしているのか、博麗霊夢は落ち着いた様子でまた言う。
「防げるって言ってんのよ。今日はもう神降ろし出来ないし、私自身の力で受け止めるわ。」
「だとしても、その行動に何の意味があるんだ!約束を守ろうとしてんのか!?もう充分なんだよ!逃げろって!」
「私は違う。あんたに負けっぱなしだわ。」
「何だお前!そんなに負けず嫌いだったか!」
「防げるって言ってるでしょ。」
相変わらず静かなトーンで話しながら、博麗霊夢はしゃがんだ。
ボロボロの金髪少女は歯を食いしばりながら、目の前の黒髪少女を睨んだ。黒髪少女は真顔をぴくりとも変えずに、じっと金髪少女を見つめる。
二人の目線が合っていた。
少女は言った。
「だから、私と話してよ。魔理沙。」
「やめろ」
薄暗い声が、喉の奥から、風船の空気がぷしゅうと抜けるように出てきた。霧雨魔理沙の喉が息苦しく詰まる。
「私は偽物だ。本物と話せよ……」
「あんたのどこが偽物よ?」
呆れかえった博麗霊夢が続けて言った。
「記憶は同じだし、喋り方も同じ。姿形も全く同じ。最初からあんたのことを偽物だなんて思ってなかったわ。」
ドクン、と魔理沙の鼓動が速まる。そのような意図は無いだろう。しかし残酷で辛いことを、霊夢は言った。
何の理由も無しに、死ぬことを受け入れる者はこの世にいないだろう。そこには理由が必要になる。プラスな理由、マイナスな理由。霧雨魔理沙のそれはマイナスな理由。
自分が偽物だから。本物の代わりをする為に生み出された分身だから。だから、役目を終えたら消される。かろうじて納得がいく。しょうがないさ、と諦めたように笑える。
でも、自分が本物と何も変わらないのなら。
何故私はこうなったのだろう。
何故私は偽物扱いされているのだろう。
何故私は本物なのに。
何故私は今から死ぬのだろう。
何故私は今、こんなに苦しいのだろう。
考えないようにしていた疑問が内から溢れ返るように湧き出た。
霧雨魔理沙は懇願する。
「やめてくれ」
「やめないわ」
「逃げろよ」
「逃げない」
「……馬鹿じゃねぇの……?お前、殺されかけたんだぜ。マッシブーンだって死にかけたんだ……。本物が、本物がするかよ……。何も知らないくせに!なんでだよ!意味分かんねぇよ!」
とうとう狼狽しながら彼女は必死に叫んだ。
「私は!偽物なんだッ!」
「うるさいわね!」
同じぐらい大きな声を博麗霊夢が出す。魔理沙は口をつぐんだ。
「あんたが何を喚こうが、どんな魔法を使ってこようが、あんたは霧雨魔理沙よ!偽物なんかじゃない!本物の霧雨魔理沙なの!」
博麗霊夢が霧雨魔理沙を押し倒した。今まで彼女に一度も聞かせなかったような叫びが、辺りに響いた。
「あんたを見てきた私を、あんたがあんた自身を、否定するんじゃないわよ!」
そして辺りは静かになった。
「……何泣いてんのよ。」
霊夢は背を向けてしまった。
「あんな変な顔して、人を殺そうとする奴がどこにいんのよ。事情があるのは分かってるわよ。」
一言呟いて、彼女は再び霊力を帯び始めた。
「受け止めるって言ってるじゃない。」
霧雨魔理沙は、声が出なくなった。
目元から、もう枯れ切ったと思っていた自分を否定する透明なものが流れた。
変な言い回しをせずに言えば、それは涙で。涙を流した自分に彼女は驚いていた。
彼女はむくりと起き上がった。痛む身体を動かして、背中を向けている友達に指を伸ばす。
魔理沙はそっと足に触れた。
その瞬間、彼女は博麗霊夢の全てを理解した。『触れた物の全てを理解する魔法』が、彼女に残酷な真実を伝えた。
(……無理だ。お前はファイナルスパークを防げない。全身に火傷負って、向こう数十年は治らないだろう。)
心の中で呟きながら、魔理沙は霊夢を見上げた。
(なんて言っても、聞かないんだろうな……。)
彼女は触れられた事を気にも止めないぐらい、集中をしていた。全ては霧雨魔理沙の全力を受け止めるため。霧雨魔理沙を守るため。
あまりに可笑しくなって、金髪の少女は微笑んだ。悲しみも怒りも、涙の跡も消え失せたようだった。このまま放っておけば、博麗霊夢は重傷を負う。自分も火傷をするだろうが、一先ずは生き残れるのだろう。
しかし。
愛とは全く異なるが、何かが、少女に傷の一切を負わせるなと囁いていた。
「霊夢」
霧雨魔理沙は話しかけた。博麗霊夢は黙って前を向いている。
数時間前に見せた時のように、霧雨魔理沙は笑おうとした。無理矢理作った笑みはぎこちない。数時間前、霊夢たちが訪れて来た時、彼女は救われ、素の自分を曝け出すことが出来た。
本物として振る舞おうと意識する必要は無かった。彼女自身が持つ本物の記憶と本物の仕草さえあれば、彼女は彼女だった。
霧雨魔理沙は、やっと自分が本物であることを思い出せた。
故にこの結末は、親愛なる友人に送る、自己犠牲の賜物である。
「最後の魔法だ。」
再び指先が博麗霊夢に触れた。
禁術"ロードナイトの子守唄"
「え」
集中の途切れた霊夢が、困惑しながらふらりと倒れそうになった。前のめりに倒れかけ、お祓い棒で身体を支える姿勢になる。
「ま……」
瞼が引っ張られているみたいに重たい。さらに立ち上がった霧雨魔理沙が彼女を羽交締めにする。睡魔に襲われて、博麗霊夢の意識が遠のいた。
その魔法は、少女を深い眠りに誘った。
『ロードナイトの子守唄』は、禁じられた魔法の一つだった。対象を眠らせる。眠っている間、対象はどんな攻撃も魔法も効かず、眠りを妨げられることの無い『無敵』になる。
ただし、いつ目覚めるかは分からない。いつか百年眠りが覚めない者が現れたことから、この魔法は禁じられていた。
しばらくすると、彼女は寝息を立てていた。すぅすぅと眠ってしまった霊夢を捕まえたまま、魔理沙は後ろに倒れ込んだ。
「いてっ」
彼女が声を上げる。
「おいおい……。やっぱり百キロぐらいあるんじゃないか?お前」
冗談めかして言った言葉に、彼女は寝息で返事をした。
「はは」
乾いた笑い声が沈んでいく。
「私を、私としてくれて、ありがとう」
霧雨魔理沙は感謝を呟いた。
誰の耳にも届かないまま。
もうじき彼女は自分に殺される。
「うれしかったよ」
やがて少女は、一緒に目を瞑った。
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「時にクワ、友達はいないのかい?」
「え?」
ある日の香霖堂。
店主の森近霖之助は倉庫の物品を探しながら、最近雇った半妖の女の子、クワに話しかけた。
「……ほら、僕は目が悪かったですから。仲良くしてくれる人なんていませんでしたよ。でも、その代わりに良くしてくれた人が二人いました。僕の大好きな人たちです。」
「そうか……。」
目を伏せながら言ったクワに、霖之助は落ち着いた返答を返した。
「今度本屋に行こうか。君も目が見えるようになったなら、本を読むといい。あそこには君と同じ背丈の女性がいるし、彼女は気さくだよ。本が好きな友達も自然と出来るだろう。」
「本屋なら一度行ったことがあります!けれど僕、目が見えても見えなくても文字が読めないですよ?」
「なら、まずは文字を学ぼうか。簡単なものからね。」
「はい!」
クワが元気良く返事をした。霖之助はごそごそと何かを探していたが、やっと見つけたようで両手に軽くかかえながらゆっくりと立ち上がる。
彼は言った。
「かけがえのない友達を作りなさい。自分のことを想ってくれる、自分と対等であろうとしてくれる、素敵な友達をね。」
「霖之助さん、それは?」
「これは外の世界のものでね。音楽が鳴るんだ。」
彼が探していたものは、埃を被ったCDプレーヤーだった。中には乾電池二本と、一枚のCDが入っている。霖之助とクワは店に戻り、机に真っ白な機械がことりと置かれた。
「聞こうか。とても良い曲だよ。」
「はい!」
次で終わりです。今度は嘘じゃないです
余談ですがユーミンさんの「Hello my friend」(ハローマイフレンド)という曲はすんごく良いです。是非聞いて下さい。