【前章のあらすじ】
亡くなったはずの博麗綾子との出会い。霊夢たちを守るように伊吹萃香は言葉を託された。紅魔館、白玉楼、永遠亭で送られる平和な日々。一方で眠り続ける博麗霊夢を、マッシブーンは殴り殺そうとした。
六十、 開戦
八章 最終編
『喪失異変 ─後編』
その頃。
マッシブーンは眠る少女の顔に拳を振りかぶり、
博麗霊夢を殴り殺そうとした。
すると突然、奇妙な音が鳴った。
マッシブーンの攻撃を飲み込んだ紫色の裂け目は、端と端に赤いリボンが付いており、幾つもの目玉がじろりと彼を見ている。
かくして、不意を突くような博麗霊夢の殺害は未遂に終わった。
「!」
いつの間にかマッシブーンの拳には一枚のお札が貼られていた。術を施された紙が何十枚も重ね合わせられて完成した札が、一瞬光ると彼の右手に凄まじい衝撃を与えた。
どおおおおおん。重低音と共に彼は吹き飛び、障子を突き抜け、広大な境内を転がり続けた。
次に彼が立ち上がると、遠くに見えるのはスキマと呼ばれる境界から出てきた一匹の妖怪だった。
「動くな。そして答えろ。」
かつて日本三代妖怪の一匹と謳われ、冬眠中の八雲紫から境界の力を預かった者。妖狐の中でも最上位に君臨する、九尾を持つ妖狐。
名は、八雲藍。
正真正銘、最高峰の妖獣である。
「博麗霊夢を襲ったな?」
彼女は言った。理由はいらない。大事なのは博麗の巫女を襲ったことであり、博麗の巫女を襲った者の末路は、いついかなる時も変わらない──と。
ただし、八雲藍は確かに与えた。マッシブーンが何かを言う時間を。
マッシブーンは答えない。
沈黙したまま、無機質な両目で八雲藍を見つめている。
やがて恐ろしく冷たい声色で言った。
「しくじった」
その瞬間、赤い巨体は高く跳ね飛んだ。
素早い動作でマッシブーンは前に跳び、縁側で涼しげに立っている藍に迫る。
が、八雲藍はその場で一回転し、金毛の尻尾で彼を思い切りぶっ飛ばした。
ずざざっとマッシブーンは後退りする。そして八雲藍の恐ろしい形相を見てしまった。
揺らめく九つの尾が全て彼に向かっている。
彼女は歯を剥き出しにして笑っていた。
両手を合わせながら。
合掌。
マッシブーンの全身を覆った妖力が、灰すら残さないとばかりに勢い強く燃え始めた。
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九尾の炎を見た者は、この世に一人も存在しないと言われている。
まず、歴史上観測された九尾は二体しかいない。そのうちの一匹が八雲藍であったが、彼女は滅多に九つの尾全てを使わない。
何せ、妖力を激しく消費する。何せ、六つの尾で敵を焼き殺すのに十分な火力。これでは使う理由が無いように思える。
「………」
八雲藍は両手を合わせながらマッシブーンを眺めていた。彼が恐ろしく強いことは分かっている。本当はこのような乱心を起こさないことくらい分かっている。
ならば、目の前の彼は偽物。それか救えない物。一刻も早く消すべき物。
九尾の炎を見た者はいない。何故なら、炎は一瞬で敵を燃やし尽くし、灰にする物を見失って消え去るからだった。
マッシブーンは燃え盛っている。
炎は消えない。
悶えない。倒れない。一切効いていない。
かつて彼がマグマへの耐性を身に付ける為に使用した神器、『滑稽な炎神の指』。これがマッシブーンをあらゆる熱に耐えられるようにしていた。
「………」
再びマッシブーンが両腕を伸ばして飛びかかる。解せない藍が、無表情で合掌を解いた。
「行け。」
藍が一言呟くと、何も無い場所から伊吹萃香が現れた。
「あいよ!」
襲いかかったマッシブーンの腹を、萃香は思いっきりぶん殴った。藍の札を凌駕する威力の拳に吹っ飛ばされ、マッシブーンは階段の下へと転がり落ちる。
「あちち、火傷しそうだね」
そして見上げた先にいたのは、伝説の鬼。
日本三代妖怪の一角、伊吹萃香。
最強の実力を持つ者。
「リベンジと行こうか?マッシブーン。」
彼女は微笑みながら言った。
活動報告にも書いた通り休みます。いよいよ完結が実現しかけてきました。最後まで書きます。