知らない物を知ろうとして 外の世界を覗き込んだ
追記 執事服着てたのに着物になってる……修正
(………)
(まっくらやみ)
(なにもない。ここ、どこ?)
(……声が聞こえる……)
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「ずっと『狂気』を取り除く方法を模索しているの。それは何百年も後になるでしょうけれど……いつか、貴方も食卓に並べられたらって。」
「……あぁそうだよ!知らなかったんだよ私は!!何百年も何も知らない薄情者のままで!フランに宿る『狂気』のせいでッ!」
「聞こえているか狂気!お前がいなくなることを私達が何回願ったと思っている!
「二重人格という言葉を聞いたことはある?フランはそれに近いもので、私たちはあの子の二つ目の性格を『狂気』と呼んでいる。」
それが突然消えた。
貴方のおかげでね。
さぁ?消えたんじゃないかしら。確実に消えていて欲しいのだけれど。
──アレは最悪の呪いだった。495年間、あの子を苦しめ、私を苦しめた諸悪の根源。
本当に、本当に、消えてくれて良かった……。
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「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「うるさぁぁぁぁい!!ババァルクウゥゥゥ!!」
静かな丑三つ時に、突然響いた大発狂。気付けば俺は真っ暗な空間に立っていて、目の前で号泣し出したフラン?に叫んだ。
すると彼女は顔をぐしゃぐしゃにしながら言う。
「言うわけない……言うわけない……言うわけない……言うわけない……お、お姉さまが!!言うわけない!!言うわけないの!!」
「……!」
理解した。
この少女は、狂気と呼ばれていた少女だ。そしてレミリアにこっぴどく言われていた少女だ。
(そりゃそうか……)
何故彼女がここにいるのかは放っておき、実の姉にあれだけ言われたなら、こうなるのは当然だった。もし俺だったら涙が神社を沈めていただろう。俺は泣けないが。
「おい、泣くな泣くな。よしよしよしよし」
「うわああああああああああああ!!!!」
「えーっとな、レミリアのは、冗談だから。おいおい……」
「うわああああああああああああ!!!!」
泣きじゃくる狂気の姿に昔を思い出す。とにかく落ち着かせるために、俺は遠くから言葉を投げかけた。やれやれ、今夜は夜更かしをすることになりそうだった。
しばらく経つと、狂気は赤い目をぱちくりさせて黙ってしまった。顔を俯けさせたまま、俺の方を見ない。
「疲れたか?」
金髪少女は返事をしない。心を閉ざされてしまったのだろうか。今は放っておくべきか。考えあぐねた俺は、とりあえず仲良くなる努力をしようと思った。
「なぁ、狂気。」
「……ちがう。」
「ん?」
「フラン。フランドール・スカーレット。」
「フラン。俺にお前のことを教えてくれないか。」
俺は彼女の手を取り、二倍ぐらい大きい自身の手を上から重ねた。
「知っているか?ここじゃあこうして触れ合っていると、俺たちはお互いに相手の記憶を見ることができるんだぜ。」
「何それ……」
「つまり、俺はお前のことを、お前は俺のことをもっと知れるんだ。期待しとけよ?俺の記憶はとびっきりだからな。」
「………」
フランは理解できないという風に俺を見つめた。抵抗は無さそうだったので、引き続き手を重ね続ける。
そして、俺の頭の中にフランの記憶が入ってきた。
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生まれた時から、彼女の魂は大きな形をしていた。そしてそこには二つの魂が混在しており、それがいわゆる"フラン"と"狂気"だった。
フランドール・スカーレットがある程度の知性を得た頃には、既に両親はいなかった。無償の愛は、代わりに姉が渡すようになった。フランも狂気も、次第にレミリアを姉として愛するようになるのは当然だった。
フランドール・スカーレットの人格はころころ変わった。二人に差異があるとすれば、目の色が紅く変わること、性格が若干無邪気になることくらい。レミリアは少しも気付かずに二つのフランを溺愛した。
事件が起きたのはそれからだった。
「あら、おはよう!人間さん。」
「フランドール。ご機嫌いかが?」
いつからか、吸血鬼の姉妹の前には一人の青年の人間が姿を現すようになっていた。レミリアが以前拾った人間で、どうやら彼女のお気に入りの人間だった。
中性的なミディアムヘア。中性的な声。レミリアに着せられた執事服。内気だが好奇心が強く、姉相手にも物怖じしない青年のことを、フランも気に入っていた。
「普通よ。人間さんは疲れてそうね?」
「ははっ……。君のお姉さんに怒られちゃってね。しばらく避難させて欲しいんだ。」
「もちろんよ!お姉さまったら酷いわ。ずっとここにいていいからね?」
「優しいね、フラン。さては血が欲しいんでしょ?」
「いいえ、今は大丈、夫……」
突然彼女はふらっとして、後ろに倒れた。
「……!どうしたの!フラン!?」
びっくりした執事の青年が駆け寄って、少女のおでこの熱を調べたり、心臓が動いているか確かめたりした。
すると、やがて彼女は目をパチリと開いた。
「………」
「大丈夫かい!レミリアを呼んでこようか!」
「わっ!人間だ!」
「え?」
狂気が目を覚ます。赤い目を爛々と光らせ、彼女は無邪気に笑った。
「お姉さまが言ってた!人間はすごく弱くて、私たちが好きにしていいんでしょ!?」
「……フラン?」
「うれしいうれしいうれしい!試してみたかったことがあるの!いっくよー!」
この後の惨状は言うまでもない。
地下室から聞こえた爆発音に駆けつけたレミリア。彼女は人間の青年がここに逃げ込んだことを知っていた。
長い階段を降りると、レミリアが丸々使わせていた大きな地下室には、薄らと血の臭いが漂っていた。
人間一人分の大きな血痕。紅く染まった青年の執事服。久しぶりに姉に会えて嬉しそうにしている狂気。
瞬間、レミリア・スカーレットは怒り狂った。
「──フラァァァァァァァァァァン!!!!」
「お姉さまっ!」
仲睦まじかった吸血鬼の姉妹は、生まれて初めて互いに命を握り潰そうとすような大喧嘩をした。
グングニルがフランの肩を貫き、レーヴァテインがレミリアの腹を裂く。姉妹喧嘩の勝敗を分けたのは、臓物を煮えたぎらせるような怒りと悲しみだった。
「アハッ、ハハ……」
壁に叩きつけられた狂気が楽しそうに笑いながら、死を目の前にして意識を失う。
「ハァッ……ハァッ……」
どうして妹が、こんなことをしたのだろう。混乱しながら呼吸を繰り返すレミリアが血溜まりを再び見ると、彼女の中で感情を堰き止めていたものが音を立てて崩れた。
「うっ」
レミリアは涙を流した。
「うぅ……!」
服しか残されていない彼の傍で、レミリアは青年の姿を思い出し、下らない理由で彼と相応しくない別れ方をしたことを強く後悔しながら、戻れない時間を睨んで泣き続けるばかりだった。
レミリア・スカーレットの能力が生まれたのは、この頃からだった。いわゆる、『運命を操る程度の能力』。もっと前に芽生えていれば、青年をフランに近付けることは無かったのにと、時々レミリアは紅茶を飲む手を止める。
彼の死と同時に知ったのは、フランドール・スカーレットに二重人格が存在すること。地下室はいつからか彼女を閉じ込める檻へと変わり、姉妹の溝は大きく深まった。
そして495年の月日が流れた。
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記憶の共有からしばらく経った後、マッシブーンは腕を組んでいた。
「……お前なぁ」
「……?」
「いいぜ、お前に教育をしてやろう。まずどうしてお前がレミリアに嫌われたか、だ。」
その言葉を聞いたフランは、事実であることは分かっていたが、むっとしてマッシブーンに怒鳴った。
「知らないよっ!!」
そのままフランは目の前の赤い怪物に殴りかかった。が、マッシブーンは容易く金髪少女の拳を受け止め、痛くなる程強く握った。
「いっ……!」
「お前、レミリアのことをどう思ってる?」
「離して!」
空いている片手でフランはレーヴァテインを握った。形を成した炎の剣が彼の胴体を斬ろうとする。その前に、マッシブーンは手を離してパッと後ろに下がった。
「……大好きだよ!嫌われてるかもだけど。」
「そんな大好きなお姉さまが誰かに殺されたらどうする?」
「ムカつく!絶対そいつをぶっ殺す!」
「じゃあお前、レミリアが怒った理由も分かるんじゃないか?」
「はぁ……!?」
「レミリアは大好きな奴を殺されたんだよ。お前にな。」
フランは一瞬固まった。何を言われたのか分からず、どう飲み込めば良いのか分からず、全身の動きを止めた。
「……?」
誰かを破壊したい衝動はあったものの、彼女が今までに殺した者は指で数えるほどしかいない。その中でも、レミリアが愛していたらしい者とは誰なのだろう。
地下室に閉じ込められ続ける中で、フランには後から気付いたことが一つあった。
初めて喧嘩をした日のこと。あの時、レミリアはフランと一緒に遊んでくれたのではなかった。あの時、レミリアは確かにフランに憤怒していたのだと後に気付いた。
ずっと理由が分からなかった。けれど今、彼女は頭がスッキリするような答えに辿り着いていた。そして同時に戦慄した。
あの人間は"大好き"だったのか?
フランは固まった。
「お前が何とも思ってないような物が、他の誰かにとっては何よりも大切だったり……。そういうことは度々あるんだよ。学べて良かったな。」
「……ウソだ!だって、だって……!お姉さま言ってたもん!人間は弱いから私たちが好きにしていいって!」
「そこだよな。俺はな、お前に少し同情してんだ。」
戸惑うフランに、マッシブーンは淡々と言い続ける。
「多分レミリアは、お前のもう一つの人格の方には教え直してたんだよ。人間にも価値のある奴はいるってな。でもお前は聞かされていない。すれ違っちまったんだ。お前が知らないうちに、お姉さんは妹を置いて成長しちまったって訳だ。」
「……ウソだ……」
ぼそりと呟いたフランは、どしんと崩れ落ちるように膝を地面に着け、両手をぶらりとさせ、真っ黒な地面を見つめていた。
「知らなかっただけだ、お前は。今まで誰も教えてくれなかったんだよ。お前は悪くない……訳じゃないけどな。」
「………」
優しく諭すようにマッシブーンは言う。彼はフランに近付き、脚のような四本足を曲げてから金髪の頭にぽんと手を置いた。
「……安心しろよ!これから俺が色んなことを教えてやるぜ。
「……私、お姉さまに……」
「謝りたいか?」
「でも、きっと許されないよ……。お姉様すごく怒ってたの。どうしよう……。」
「それだけ悪いことをしたって思ってんなら、尚更謝るべきだな。」
「でも……」
「心配か?大丈夫だ、俺がついてる。」
わしゃわしゃと頭を撫でながらマッシブーンは言った。
「今度レミリアに会ったら、そいつはチャンスだ。遊びに行く約束をして、お前とレミリアが話すチャンスを必ず作るぜ。」
「……ほんと?」
「俺は約束を守る男だ。守れなかったこともあるけどな。」
そう言いながら彼は昔を思い出した。*1
落ち着いてきたフランが、彼に質問をした。
「ここってどこ?」
「ここは魂の世界だ。真っ暗闇で殺風景。だが、よく目を凝らせば見えてくるぜ。」
「……?」
「真っ暗な神社の天井がな。今はしょぼくれた景色だが、明日になれば色々見せてやるよ。まぁ楽しみにしておけ。」
マッシブーンはぐっとサムズアップをした。
「何百年も閉じこめられていたお前には、きっと刺激的すぎるだろうな?」
そして、煽るように言った彼は、突然フランの目の前から消え去ってしまった。
「えっ?」
真っ暗な世界にはぽつんと、孤独なフランドール・スカーレットがいるのみとなった。
「……マッシブーン。」
彼女は呟く。お互いに記憶を共有したので、フランは彼の名前を初めに、彼が過ごしてきたウルトラジャングルにおける生活や一号との出会いと別れまで、全てを知っていた。
だから彼女は、既にマッシブーンを決して殺してはいけない特別な存在として無意識に認めていた。そして、助けてくれると言った彼に好意を抱いていた。
「また、会えるかな……」
じっと手のひらを見つめながら、フランはかつて自分が殺した人間のことを思い浮かべようとした。
けれど思い出せなかった。
「ごめんなさい。」
彼女は呟く。
初めて芽生えた罪悪感は、やがて彼女を急速に成長させる種となる。多彩な種が心の中に蒔かれて、水と栄養が彼女をぐんぐんと伸ばす。
それなら、太陽はきっと彼だった。
紅き姉妹の為のソロ 完
紅魔館編 8/8話 完
【おまけ】
現在能力を失っている者たち
・博麗霊夢
・レミリア・スカーレット
・フランドール・スカーレット
・フェローチェ