【前回のあらすじ】
・マッシブーンには魂が二つあった。現在は使われていない方の魂が乗っ取られたことにより、身体の主導権は握られていたものの消滅せずに済んでいた
・追い詰められた乗っ取る者が歴代最強の雷神に変身する
・以前フェローチェから奪っていた『ダイヤモンドになる程度の能力』により、ダイヤモンド・マッシブーンが爆誕した
「言ったはずだ」
天満大自在天神──かつて数多の妖怪たちと戦い、日本三代妖怪を除いた殆どの妖を蹂躙した最強の雷神──は、たった一匹のダイヤモンド・マッシブーンを相手にし、他愛無くその命を終わらせようとしていた。
「動けば灰にすると。」
雷神が呟いた瞬間、黄金色の光に支配された空間が神力で満ちる。そして、無色透明に輝く怪物を四方八方から眩い稲妻が襲う。
ずがががががががががががが。雷がマッシブーンを埋め尽くさんとばかりに打ち続ける。打たれ続け、激しい熱に焼かれて黒焦げになる筈の怪物は、びくともせずに直立している。
ずがががががががががががががががががががががががががががががが。更に雷鳴が勢いを増す。天満大自在天神は心底驚いたように瞳孔を開く。マッシブーンは指を下ろし、徐に歩き出した。
その瞬間、空間支配が解除される。地面に刻まれていた黄色い紋章は消え去り、雷神は稲妻の如き速さでマッシブーンの背後の方へと回った。
恐ろしく速いスピードを保ちつつ、無色透明のマッシブーンに殴りかかる。同時にぐるんと振り返ったマッシブーンが、手の甲で雷神の拳を弾こうとした。
ガンッッ!攻撃が激しくぶつかり合った瞬間、バチバチバチと雷撃の音が響いた。
(俺の雷を無効化している……?ならば、内部から流すのはどうだ)
雷神は拳をぶつけたまま、その内部に極度の電流を走らせる。ズァッとマッシブーンの全身を刹那巡った雷は、敵を痺れもさせない。動きが止まった雷神の顔を、マッシブーンが首を刎ね飛ばそうとバキッと殴った。
フェローチェの能力、『ダイヤモンドになる程度の能力』は、正確に言えば能力者の身体にダイヤモンドの性質を付与する物である。結果、電流を一切通さない絶縁体の性質、恐ろしく硬い防御力という二物をマッシブーンに与えていた。
殴られた天満大自在天神が首を捻らせながら彼方へと吹っ飛び、バチっと一瞬光る。そしてずざざざと真っ黒な地面に足を摩擦させ、勢いを殺して止まる。
「──フフフフフフフフフフフフフハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
止まった瞬間、雷神は全身からバチバチと神力を滾らせ、気が狂ったように笑い始めた。陥没した筈の顔は既に回復している。
「貴様ァ最高だ!!我が最強の天敵であり、唯一無二の対等な者よ!」
叫んだ神の後光──
いや、背後に現れた無邪気な吸血鬼の赤い眼光に、マッシブーンは驚いた。
(……!)
妖力を滾らせた金髪の吸血鬼が、炎の剣を首元に振りかぶる。しかし妖力を感知した雷神が一瞬にして横へと避けた。
「はやっ……」
「フラン!」
マッシブーンがその名を呼ぶと、少女は彼の方を向いてにやりと笑った。
避けた雷神は、突然背後で察知した妖力の正体を掴めずにいた。俯いたまま停止し、やがて徐に顔を上げて神は言う。
「邪魔だ」
天満大自在天神が人差し指をフランドール・スカーレットに向けた瞬間、咄嗟にマッシブーンは叫んでいた。
「逃げろフランッ!」
「があっ……!」
稲光は速く、早く到達する。
彼のフランへの声よりも早く、電撃に身を焦がす彼女が声を上げるよりも早く、雷神は更に彼女の腹を蹴った。
「ゔぅあっ!!」
凄まじい速度で血を吐きながら飛んでいくフランを横目に、興味を失くした神が唯一の天敵へと目を向ける。
「さぁ──」
近付くまでもなく、既に飛びかかって殴ろうとしているマッシブーンに歓喜し、雷神は拳に拳で返した。
「最高の闘いを愉しむ為に!全身全霊で挑むぞ、マッシブーンッ!!」
「テメェ、最悪だ!」
マッシブーンが叫び、意思一つで技は発動する。
[ PP 21 / 30 ]
「インファイトォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」
がががががが、と激しい音がする。一匹と一柱が互いに素手で殴り合う。ダイヤモンドの猛攻と、稲妻を纏った雷神の拳がぶつかり合った。
インファイト。遠きも近きも関係無く、距離を無視して相手の懐に潜り込み、敵を粉微塵に破壊する一撃を何度も喰らわせる、いわば最強の技である。
「ォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」
「いいぞおおおおおおおおおおおおお!!」
二者が拳と拳のぶつかり合いに呼応し合う。技を放って五秒経過。インファイトの持続時間はそこで終了してしまう。インファイトの効果により防御と特防がダウン。されど浴びせた無数の打撃。
ダメージは、ほとんど通っていない。
(コイツ、全ていなしやがった……!)
突きつけられた現実。正真正銘の強さ。マッシブーンが殴りかかった瞬間、雷神はその拳を殴り、連続する攻撃を相殺していた。
「その程度かァ、マッシブーン!」
楽しそうに声を上げる淡い黄色をした雷神は、満ち溢れんばかりの雷光を放出している。その邪悪な笑顔に刹那の速さで腕を伸ばすと、そこにはもう誰もいない。
確認もせずに背後を手の甲で殴ると、それが雷神の蹴りで弾かれた。がら空きになったマッシブーンの胴体には一瞬で何発も拳を放たれたらしき痛みが走る。しかし彼の眼には、迸る雷の軌跡しか見えない。
(野郎、何倍速だ!)
圧倒的な速度に翻弄され、蹴りや殴りを受けるままの彼に、雷神が更に攻撃の勢いを増して語りかける。
「不老不死の藤原妹紅!そして我々のような!千も万も腐った現世を生き続ける者達が果てに行き着く場所は何だ!?」
殴り合いは最早誰の目にも追えない。寧ろ、最強の雷神にここまで張り合えている者が異常と言える。ピシッと、ひび割れるような不快感を胸に抱え、ダイヤモンド・マッシブーンの拳は時折弾かれたり空を切った。
ズガァンッ!!お互いの全力のパンチが敵を粉砕せんと放たれ、静止する。
「死を手向け合う、快楽だッ!」
「黙っとけ」
強く呟いたマッシブーンが、技を発動する。
[ PP 21 / 30 ]
「!」
突然、頭に電流のような危機察知が走った雷神が、地面を一蹴りしてマッシブーンから離れた。浮遊と同時に、無色透明の輝きを放つ怪物を中心に大きな振動が発生する。
(避けるかよ!まるで『じならし』が来ると分かっていたかのように!)
マッシブーンは拳を握り締めた。彼が放った技、『じならし』は命中した者のスピードを下げる効果がある。少しでも雷に追いつこうとした男の小細工だったが、結果は避けられて失敗に終わった。
だが、繋がるものはある。浮遊したことで隙だらけになった天満大自在天神に、ダイヤモンドの怪物が飛び掛かった。羽を動かし、吸い込まれるように彼が右ストレートを放つ。しかし雷神は視界から消えた。否、一瞬にして地面に降り立ったのだった。隙だらけになったのは、マッシブーンの方であった。
「受けてみろ」
ドォンと太鼓の重低音が鳴る。背後に浮かぶ雷太鼓を、雷神が手の甲で殴った途端に、ビリビリと響く稲妻の姿をした巨大な神力が引き摺り出された。それは行き場を見失ったように留まっていたかと思えば、雷神がマッシブーンに向かって、豪快に、壮大に、何かを投げつける動作に合わせて形を成した。
天を貫き、大地を消し飛ばす、雷の矛である。
真っ直ぐに、一線を描くように、最早雷を凌駕する速度で放たれた巨大な槍は、大きな攻撃を予感したマッシブーンの『まもる』によって防がれた。
[ PP 20 / 30 ]
(背筋が冷えるぜ)
パリィィィィン!という音が鳴り、散らばった青白い結界のようなものと共に、矛は消えた。どんな攻撃も防げる技、『まもる』が無ければ穴が空いてたに違いない。地面に降り立ったマッシブーンにはそう思えた。
「フッ」
乾いた笑い声を出した神が独り言を呟く。
「"雷神の矛に貫けぬものなど無い"と、虚言を戯けたのは誰だったか。しかし今、この瞬間まで、その嘘は紛れも無く真実だった。」
「……薄気味ワリィな。」
「何?」
「その気持ち悪い真似をやめろ。今すぐにだ。お前は、ソイツの記憶を持っただけのニセモンだろうが。何が雷神だ?本物ぶってんじゃねぇぞ、クズ。」
ダイヤモンドの人差し指で指差された、雷神の姿をした者は、しばらく沈黙してから笑った。
「クク……では、貴様は何を以て本物とする?」
「あ?」
「肉体も記憶も精神も、今の俺は天満大自在天神だ。これを本物と呼ばず何と呼ぶ。」
「偽物と呼ぶんだろ?俺の目の前に立ってるのは、ただ全部奪っただけのクズだぜ。その事実一つで、お前は偽物にしかなれねぇんだよ。」
「……違うな。あらゆる者どもが『本物』と思えば、それは本物だ。貴様の言う偽物とは、貴様の死によって本物となる矮小なものに過ぎない。」
仁王立ちしたままの雷神は、更に口元を歪めながら、マッシブーンに言葉を放った。
「そして貴様を殺した後……俺は本物の博麗霊夢になってやろう。」
(そうか、俺は)
[ PP 19 / 30 ]
(コイツが馬鹿なことを喋る隙すら与えずに……)
[ PP 18 / 30 ]
(俺が待つ全ての力を出し切って、コイツをぶっ殺さなきゃいけねぇんだった)
[ PP 17 / 30 ]
「ククク……ハハハ……!」
[ PP 16 / 30 ]
「そんなに愛おしいか、博麗霊夢が!」
[ PP 15 / 30 ]
「………」
[ PP 14 / 30 ]
「?」
愉快そうにしていた天満大自在天神は、頭の上にクエスチョンマークを浮かべた。
「……少し太ったか?」
そこには、技──『ビルドアップ』を6回発動し、鍛え抜かれた筋肉が極限まで膨張したダイヤモンドの怪物がいた。
そして、更なる技を発動する。
[ PP 13 / 30 ]
親指以外の四本指を上に曲げ、手招きをする。
いわば挑発であった。
(何だ)
突然に、雷神の頭の中が真っ赤になった。必死に取り繕うとしようが、次から次へと憤怒が湧き出てくる。
(煮えたぎるような、この怒りは……)
天満大自在天神の目を鋭く尖らせ、腕や足の血管を浮き出させ、溢れんばかりの神力を全身から靡かせる怒りが──
(目の前の敵を消し去れと、ひたすらに叫んでいる)
激怒した雷神が、自身の最高速度でマッシブーンの真正面に立ち塞がり、何十体もの残像が現れる程に素早く、力任せに殴り続けた。
両腕で上半身を隠すようにガードしているダイヤモンド・マッシブーンは、彼を襲う数百の打撃にぴくりとも動じない。
(硬い!これまでよりも遥かに!)
まるで鉄の山を殴っているかのような感覚。打撃を叩き込む雷神の拳が寧ろダメージを受けている。
それでもなお攻撃を続ける雷神の腹に、両腕でガードしていたはずのマッシブーンが右腕を伸ばす。
技は、意思一つで簡単に発動する。PPを消費することで、どんな体勢からでも放つことができる。
彼が放った一撃──『ばかぢから』が、雷神の姿をした者に炸裂した。
[ PP 12 / 30 ]
「オラァァァッッ!!!!」
腹を殴られた瞬間、雷神の屈強な肉体を衝撃的な衝撃が駆け巡る。あまりに強過ぎた一撃は、彼の目を大きく開かせ、一瞬にして多粒の冷や汗をかかせ、口から大量の血を吐かせた。
「ぐアァァぁぁッッッッ!!!!!!!!」
血痕が途切れ途切れになる程に、隕石が横に降るような凄まじい速度で、雷神は吹っ飛び続けた。針一本さえも通さない程に硬い腹筋は貫かれる寸前であり、拳を喰らった場所は赤黒い痣となっている。
(何故だ!頭は危機を知らせていた!だが避けられなかった!いや、避けようとすら思えなかった!奴め、奴が俺の思考を異常にしているのか!?)
無様に転がる雷神が息も絶え絶えに思考する。この神には、勘と呼ぶには余りに巨大すぎる、危険を予知する力があった。今からどのような攻撃が来るか、どうすれば回避できるか、突然頭に稲妻が降るように閃くのだった。
しかし、その力は最早無意味であった。どう足掻こうと、回避すら出来ない精神状態の
(………)
殴り飛ばした方角を見つめながら、『ばかちから』の効果で少し力が抜けた無色透明のマッシブーンは拳を握り直した。
(雷神、お前に使用した技──『ちょうはつ』は、攻撃技しか使えなくする技だ。)
その技は強制的に相手を怒らせ、行動を縛る。強化も回避も防御も、攻撃以外の行動は全て禁止される。効果は絶大であり、喰らったポケモンによっては一切の行動が不可能になる。*1
(だから、奴はもう俺の技を避けることが出来ない。どれだけ骨が砕けようとも、闘志を燃やして俺に襲いかかることしか出来ない。)
例え正面からぶつかられても、今の彼は力も防御もほぼ最高の状態。どんな攻撃にも対処が行える自信がある。
[ PP 11 / 30 ]
(来いよ雷神……次は腹をブチ破るからよ)
再び『ビルドアップ』で筋肉を膨張させたマッシブーンが、次に放つ技を考えていたその時だった。
ズァッと空を切り裂く音が鳴り、マッシブーンの視界の中にいた雷神が大きく見えるようになった。
すたり、すたりと、雷神はゆっくり歩いて近付く。表情はどこか穏やかにすら見える。頭に添えた片手からは、ビリビリと電気が放出されていた。
(……何だと?)
マッシブーンは疑問を抱いた。
(『ちょうはつ』の効果が切れてやがる……。まだ3ターンも経ってねぇはずだ。何故……)
涼しげに歩き、そのうえ立ち止まった雷神は、よく見れば何のダメージも負っていない、完璧な姿をしている。
(コイツ、腹の傷が癒えている……!完全に!)
先程、貫通寸前の致命傷を喰らわせ、血液を吐いたはずの雷神は無傷であった。
「無用の長物だな、マッシブーン。」
笑みを浮かべる雷神が、全身に張り巡らせた神力を雷に変える。すると、彼の肉体は眩い黄色に淡く光り、身体の周りはバチバチと揺らいだ。
バチッ。揺らぎが大きく見えた刹那、遠く離れていた雷神はマッシブーンの目の前にいた。ほぼ無意識に、反射的にマッシブーンが殴ると、雷神は素早く強く受け止めた。
「我々にこのような小細工は不要だろう?」
その瞬間、マッシブーンの身体の自由は失われた。指先さえも動かすことが叶わない。
(……!?)
追い討ちをかけるように、彼が奪ったダイヤモンドになる程度の能力は解除され、元の真っ赤な姿に戻ってしまった。
(マズイな……動けねぇ。まるで金縛り……ギガインパクトを打った直後の硬直……!)
どれだけ力を入れようとしてもぴくりとも動かない彼に、雷神が語りかけた。
「──思考とは稲妻のようなものだな。命令は全身を駆け、肉体を突き動かす。感情は頭に集い、心模様を変化させる。」
受け止められているマッシブーンの拳から、ビリビリと電光が抜け出ていた。
「故に、俺はその稲妻を操れる。思考という雷を放出させ、命令が身体に行き渡るのを防ぐ……と言ったところか。お前が俺に与えた怒りも、今、絶えず放出している。」
『雷を操る程度の能力』を持つ雷神は、脳から送られる電気信号さえも操ることが可能だった。片手はマッシブーンに、もう片手は自身の頭に触れていた雷神は、どちらの手からも電気を出していた。
「さて、くだらない小細工など使う意思は無かったが……。あれほど強く殴られたのだ。返させて貰うぞ。」
そう言った雷神が、殆ど全ての神力を右足に集中させ、槍のように尖らせ、即座にマッシブーンの腹筋を蹴った。
「がっ……」
目に追えぬ速度で炸裂した。
「ごはっ!!」
長く叫ぶ代わりに、レーザーのような血を吐いた。
彼自身が雷になったように、細長い軌跡を描いてマッシブーンは吹っ飛んだ。ダイヤモンドの状態が解けた彼を襲うのは、想像を絶する感電の痛みであった。
煙が出る身体は動かせないまま、地面に四本脚を擦らせる。痺れが治ってきたと共に、腹の痛みがより一層増したように思えた。
穴が、空いていた。向こう側の景色が見れるほどに酷くはない。見えるのは、垂れ落ちる真っ赤な血液のみだった。
(痛ってぇ。)
傷口を片手で押さえても、どろりとした血は止まらない。ドクンドクンと心臓が波打つ。
(……自分の血を飲んで再生できりゃあ、苦労はしねぇんだがな……)
血が止まらない。
少しだけ。
暗雲が彼の心を覆いつつあった。
びゅううううん。
びゅんびゅんびゅん。
真っ黒な羽を広げ、全速力でマッシブーンの元へと飛ぶ少女がいた。
少女──かつて狂気と呼ばれ、能力と共に魂を吸い取られ、以来マッシブーンの中で過ごしてきた吸血鬼──フランドール・スカーレット。
少女が辿り着いて、したことは何か。
迷うことなく、自身の首元をマッシブーンの口に突き刺したのだった。
(……!!)
驚いた彼の口先には、きらきらと輝く宝石のようなものが広がっている。咽せ返るような血の臭いが充満している。
(フラン……。)
真っ黒でつぶらな両目が、彼女を見た。
痛みを我慢する少女のいじらしい笑顔に、彼の心はすっかり折れてしまった。
静かに、徐に、ごくりと血を飲む。ごくりごくりと続けて飲む。その度に、彼の腹の傷が塞がる。
ゆっくりと口を離した。針を抜かれた彼女の首筋からは、どくどくと赤い液が漏れ出す。
すぐにマッシブーンは自分の人差し指を口で刺し、それからフランの口元に差し出した。八重歯を見せてちゅうちゅうと吸い出した彼女の傷がゆっくりと塞がれる。
きゅぽんと口を離した金髪の少女に、マッシブーンは言った。
「最高に美味ぇよ。」
「マッシブーンのもね!」
笑顔のフランと怪物は、お互いにサムズアップをした。
「──ほう。血袋になる程度には、そこの小娘にも使いようがあったか。」
稲妻が迸る音が聞こえると、その男の邪悪な声も聞こえて来る。現れた天満大自在天神は、既に眩い黄色の発光を失っていた。
「何故ここにいるのかはさておき……小娘、貴様は離れていろ。邪魔さえしなければ楽に殺してやる。」
「邪魔だと?勘違いすんなよ、クソ野郎。」
キラリ。再びダイヤモンドに変身したマッシブーンが、フランの頭を軽く撫でながら言った。
「お前の言う小娘ってのがコイツなら、そりゃとんだ見当違いだ。なんたって、495歳の大妖怪様なんだからな。」
「……ほめてないでしょ。」
「それから言っておくが、フランは俺より強い。舐めてると後悔するぜ?」
無色透明のマッシブーンは雷神を指差して宣言した。
「今から俺たちは、二匹でお前をぶっ殺す。まだ勘違いしてんなら、お前は……」
[ PP 10 / 30 ]
(……!)
突然『インファイト』を発動したマッシブーンが瞬間移動のように目の前に現れ、雷神の全身は繰り返し殴られた。しかし彼の意識はダイヤモンドの怪物ではなく、その背後の少女に向いていた。
(まずい──)
彼の脳内の危険信号は、フランドール・スカーレットのみに警鐘をガンガンと鳴らしている。凄まじい力で殴打される中、かろうじて彼が飛ばした雷の矛は、美しい炎の軌跡を描いた剣──レーヴァテインに弾き飛ばされる。
そして、手のひらはきゅっと握られた。
(ッ!)
魂への直接干渉。『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』が、雷神を捉えて動けなくする。まもなく手のひらを開き、念じれば彼は跡形も無く破壊されてしまうだろう。
王手。
「一回死んで、馬鹿治してこいよ!」
やがて動けなくなった雷神を、マッシブーンが全力で殴り始めた。