筋肉蚊の楽しい幻想郷観光   作:すくぇ

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 伊勢海老のように腰を曲げて書きました


二章 紅魔館編『紅き姉妹の為のソロ』
八、 一週間の始まり


「……ふっふっふ。霊夢め、何が『最高に悪趣味』だ。良いぜ、良い趣味してるじゃねぇか。こんなにも俺の身体の色と同じ館とはな。」

 

()()感じちゃうぜ」

 

 顔を照らす眩い陽を手で遮りながら、一匹のポケモンが呟いた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 森の中を歩き続け、妖精たちの彷徨う霧の湖を越え、やがて辿り着く一つの立派な洋館。見る者全てを圧倒するその傲慢な佇まいは、その館の主を実に忠実に表していると言えよう。

 

 日差しの柔らかい正午ごろ、今日も紅魔館は全身を紅く染めて森の奥にそびえ立っていた。

 

「えーっと。妖怪、ですよね。何しに来たんですか?」

 

 紅魔館。そこに住むのは吸血鬼の姉妹に魔女と小悪魔、更には時間を止めるメイド長、おまけに有能な門番。

 

「……略奪……いや、ここは平和的に……」

 

 多種多様な妖怪が暮らす様は、まさに魔の巣窟。そんな場所にわざわざ来るのは命知らずか物好きか。

 

 何にせよ、変わり者であることには間違いなく。今日も今日とて紅魔館の門番は、

 

「血を分けて貰いに来ました」

 

「……お引き取り下さい。」

 

 顔をしかめる羽目になるのだった。

 

 

 私の名前は紅美鈴。長くて紅い髪を垂らし、緑の帽子と緑の服を着こなす少女。ひょんなことから紅魔館の門番を始めて、毎日与えられた仕事に精を出している。

 

「あれ?吸血鬼が住んでるのに血が無いのか。」

 

「ありますけど……図々しい客人に分け与える血は無いですね。最近はお嬢様もそこまで飲めていませんし。」

 

「ならいいじゃないか。飲んでないなら余ってるんだろ?」

 

「残ってる分が少ないってことですよ。……あと、お嬢様のことを吸血鬼って言うのやめて下さい。そろそろ動きますよ、私。」

 

「あー悪かった。決してあんたんとこの主を馬鹿にした訳じゃないんだ。このマッスルボディに誓ってな。」

 

「………」

 

 目の前の妖怪は何なのだろうか。

 

 黒くつぶらな瞳に、金属で作られたような尖った口。何よりも真っ赤な全身に授かった凄まじい筋肉がこの妖怪の秀でた特徴だろう。そして屈強な見た目に反して物腰は意外と柔らかく、紅魔館を守るべき存在であるこの紅美鈴もなかなかに動きづらい。

 

 しかし血が足りていないのは事実だし、このよく分からない妖怪に渡すわけにもいかず、どうしたものかと私は困っていた。

 

「そしてさっきあんたが言った通り、一方的に要求ってのは確かに図々しいよな。よし、なら俺を雇ってくれ。」

 

「……はぁっ!?」

 

 そうして私が困り果てていると、妖怪が素っ頓狂なことを言い始めたではないか。

 

「金は要らないし、精一杯働くぜ。でも代わりに血を貰う。これでどうだ?」

 

「駄目に決まってるじゃないですか!信用できませんよ!」

 

「うっ。そこをなんとか頼む!信用は俺の類い稀ない仕事ぶりで稼いでみせるぜ!」

 

「その仕事を任せるのに信用が必要なんですー!」

 

 頭を下げてくるこの妖怪らしくない妖怪に私も声を張り、実に些細な言い争いが始まる。そのせいで、ますます彼を追い払いづらくなった気がした。

 

 

 それから数分が経ち。

 

「雇ってくれよっっっっ!!」

 

「駄目ですってっっっっ!!」

 

 私たちは日差しに刺されながら、こんな極限まで語彙力を削ぎ落とした言い争いを性懲りもなく続けていた。

 

 この時間帯はいつもならば壁に寄りかかってぐっすりと居眠りをしている時間なのだが、今日はそういうわけにもいかない。それが酷くもどかしく、そろそろ限界が近付こうとしている、

 

 その時だった。

 

「……今日はいつもと違って忙しそうね、美鈴。」

 

「咲夜さん!」

 

「うおっ!!」

 

 何も無い場所から嫌味を呟いて姿を現したのは咲夜さんだった。と言っても、そんな芸当が出来るのは彼女以外にはいないだろうけれど。

 

 急に現れたメイド服姿の彼女に妖怪もビックリしたらしく、両手を上げて随分と大袈裟な反応をし、そして同時に声も上げた。ちょっとだけ長めの銀髪と構えたナイフが日光できらきらと輝いて、それが少し眩しい。さて、彼女は今のこの状況をどう見ているのだろうか。

 

「今瞬間移動したよな!種も仕掛けもないのかよメイドさん!」

 

「メイドたるもの手品も完璧でなきゃね、妖怪さん。その覚悟が貴方にあるのかしら?」

 

「……えっ?本当に雇うつもりですか咲夜さん!正気ですか!?」

 

「いいから美鈴。私はアンタには聞いてないわよ。……貴方の名前は?」

 

「マッシブーンだ。最近の悩みは血を吸えないことだぜ。」

 

「マッシブーンね。それで答えはどう?」

 

「もちろん、覚悟させてもらおうか。」

 

「……決まりね。」

 

 彼女が呟き、ナイフを腰に付けた革製のケースに直す。

 

「中で貴方のことを少しだけ聞かせてもらうわ。ついてきて。」

 

「よし、面接は苦手だぜ。」

 

 一人と一匹が、開いた門の中に入っていくのを、門番である私はただその光景を見ることしかできずに、

 

「えーー……」

 

 ため息によく似た声を漏らした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 霧のかかった博麗神社から森の方に向かって歩き、そうしてたどり着いた紅魔館。霊夢から聞いていたその館の情報と、目の前に聳え立つそれは明らかに一致していた。

 

 吸血鬼が住むとも聞いた俺は、その吸血鬼から自分が飲む用の血を分けて貰おうと考える。しかしそこにいたのは意外とガードが堅い門番の赤髪ロング少女。そして瞬間移動が得意なメイドさん。

 

 等価交換は基本であることを思い出した俺は、ここで働くことを約束に血を貰う約束をした。これで久方ぶりの血にありつけれて、新たに住む場所も獲得できて一石二鳥。笑いが止まらないぜ。

 

 こうしてマッシブーンの新天地での生活が始まりを告げる……そう思っていたのも束の間。

 

「ん〜?」

 

 マッシブーンは唸る。

 

 まず、マッシブーンが門の中に入って紅魔館の玄関前を歩いていると、前からメイドさんの物らしき銀色のナイフがニ本ほど飛んできた。それを全て片手で掴み、なんとなく背後を振り返ってみると今度はナイフが三本。

 

 マッシブーンはもう片手でその三本を裏拳で弾く。すると今までとは明らかに違う、鉄板を貫通するタイプのスピードのナイフが一本だけ飛んできた。それを今度は全力で殴り、ぐにゃりと曲がった銀色の何かが辺りに転がる。

 

「……これが面接って言うのなら、俺は合格かな?メイドさん。」

 

「凄いわね。慣れているのかしら?こういうのは。」

 

「まぁな」

 

「……悪かったわね、試した様な真似をして。ま、これくらい危険な場所だと思っておきなさい。」

 

「それはいいんだけど、俺が曲げたナイフ弁償した方がいい?」

 

「新調するから大丈夫よ」

 

 メイドさんがそう言ったと同時に、俺が手に持っていたはずのナイフが彼女の手元に戻っていた。これはまた、彼女の『手品』なのだろうか。そろそろこの非現実的現象を説明して欲しいところではあるが。

 

「話は霊夢から聞いたわ」

 

「!」

 

 霊夢。その時、思いがけないワードが聞こえてきた。話をしたと言っているが、霊夢は前もってこのメイドさんに俺のことを話していたのだろうか。

 

「貴方をしばらくの間、この紅魔館で雇ってあげる。それでね、その第一歩としてちょっとした頼み事があるのだけれど……」

 

 彼女は口を閉じ、しばらく何かを考える様な素振りを見せて、それからこう言った。

 

「うちの門番の美鈴。あいつ、最近緩くてね。(居眠りするし門番の自覚無いし)ちょっとだけ喝を入れてあげてくれないかしら?」

 

「いいぜ。でもその前にこの手品のタネを教えて貰おうか?」

 

「それはダメ」

 

 人形の様な彼女は、真顔で答えた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ねぇ、美鈴は妖怪でしょ。」

 

「そうですね。」

 

「私は人間でしょ?」

 

「ですね。」

 

「時々考えるの。妖怪より寿命の短い、私の寿命が尽きて、私がいなくなってしまった紅魔館はどうなるのかなって。」

 

「……そうですね。咲夜さんがいなくなると寂しくなりますよ。それに、きっと紅魔館は成り立たなくなってしまうと思います。」

 

「……そーなのよ!私、結構頑張ってるし。妖精メイドはやる気ない子たちばっかりだし。そろそろ私より役に立つ人をね、一人ぐらい紅魔館に呼び込められたらね。私は安心して逝けるって話よ。」

 

「ははは。貴方より有能で素敵な人なんて、この先現れるかどうか。いっそお嬢様に吸血鬼にしてもらったらどうです?」

 

「……出来れば人のままでありたいわね。」

 

 

 

 

 日差しの柔らかい午後のこと。

 

「焦ってるのかなぁ、咲夜さん。それにしてもなぁ……」

 

 一人取り残された私は、少しだけ昔のことを思い出していた。

 

 忘れもしない、珍しくも聞かせてくれた咲夜さんの本音。彼女はきっと、ずっと不安なのだ。この紅魔館で自分だけが人間で、それ故に私たち妖怪との間に生まれる『違い』に、『寿命』に、いつか来る終わりに怯えていたのだ。

 

「……だからってあんな胡散臭い妖怪を雇わなくてもなぁ、もう。」

 

 いくら彼女が優秀な人材を求めていると分かってはいても、突然やってきた妖怪がとんとん拍子で雇われるとなると流石の私も募る不信感を隠せない。

 

「ふん。私はまだ信用していませんからね!もしもあの妖怪が本性を出して牙を剥いた瞬間、私がこう……ハッ!シュッ!ドォォンッ!って!」

 

 実際、私が勝てる見込みは多分少ないが、とりあえずイメージトレーニングは完璧だった。

 

「紅魔館を守るのはこの紅美鈴だっ!……なーんて。」

 

 意気込みは良し。空回りしなければなお良し。一人で勝手に心を燃やしながら、私は来るかも知れないあのマッシブーンとやらとの勝負に向けて想像を膨らませていた。

 

 しかし、その瞬間が早くも刻一刻と迫ってきていることを、私はまだ知らない。

 

 カチッと懐中時計の音が鳴り、

 

「話が終わったわ、美鈴。」

 

「うわっ!急に現れないでくださいよ咲夜さん!あと……君!」

 

「久しぶりにキミとか呼ばれたぜ。」

 

 目の前にばっと姿を現したのは咲夜さんに、それから例のマッシブーンだった。

 

 話が終わったと聞いたけど、別に私に報告する必要は無かったんじゃないだろうか。そうして私が怪訝そうにしていると、彼女が腰に手を当てて喋り出した。

 

「美鈴。マッシブーンって強そうよね。」

 

「まぁ、えぇ。」

 

「強い奴に適した仕事って言ったら、門番よね。」

 

「いや、紅魔館内の警備とか、他にもいろいろあるんじゃ」

 

「門番よね?」

 

「……えぇ。」

 

「門番さえ強ければ館内の警備なんていらないわよね?」

 

「え、えぇ。」

 

 飛んできたのは、胃が痛むような発言だった。

 

「でも門番って二人もいらないわよね?」

 

「……まさか?」

 

「そのまさかよ。」

 

 そう言って、咲夜さんは楽しそうに微笑を浮かべる。……嫌な予感がする。私に何かの罰を与える時、決まって彼女はこんな笑い方をするのだ。

 

「というわけで美鈴。今からアンタにはこのマッシブーンと戦ってもらうわ。これで勝った方が紅魔館の新たな門番。負けた方は……」

 

「雑用だってよ。俺の横にいるメイド長、十六夜咲夜の元でな!」

 

「いーっ!?」

 

 紅美鈴、門番解雇の危機!

 

 




 だんだんとポケモン要素もマッシブーン要素も薄れていく中、とうとう一周年を迎えてしまいました。これからもよろしくお願いします。
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