「いい?美鈴。アンタが平和ボケしてるのか分からないけど、凶暴そうな妖怪は本来なら即刻排除すべき存在よ。それを追い返しもせずに、しかも和気あいあいと話し続けるだなんて言語道断。門番失格よアンタ。」
「はい……」
(“和気あいあい“ではなかったけどな)
俺は心の中でそうツッコむが、咲夜の口は止まることを知らない。当たり前だけど。
「アンタの仕事は紅魔館とお嬢様達を守ることでしょ?居眠りをすることじゃないし、妖精と遊ぶことでもない。暇ならせめて弾幕勝負の練習でもしなさいよ。たかがメイド長より弱いってどういうことよ。」
「はい……」
「お、おい。その辺にしてあげてやれよ。門番勝負は美鈴が勝ったんだしさ。」
「そうよ。弾幕勝負は弱いのに肉体勝負は滅茶苦茶に強いじゃない。久しぶりに見たわよ美鈴のあんな動き。その力を少しは門番として発揮したらどうなのよ?」
「うっ。いやだって、基本的に弾幕勝負が主流じゃないですか今は。私、これでも結構カラダ鈍ってましたし、いくら強くてもあまり意味無いですよぅ……」
「……まぁ、元気出しなさい。長くなったけど説教はここでお終い。引き続き紅魔館の門番はアンタよ。頑張りなさい、美鈴。」
「……!はいっ!」
美鈴が元気良く返事をしたのを聞いてから、咲夜は精巧な歩き方で紅魔館の中に入っていった。
「あの、マッシブーン!さっきはどうもすみませんでした!」
「え?」
「手加減せずに殴りまくってしまったことです!痛かったですよね?」
「あー。別に良いんだけどさ、お前チョー強いんだな。俺普通に負けちゃったぞ。」
「……それも謝りたくてですね。私、ちょっとズルをしてしまったんですよ。」
「ずるぅ?」
俺が裏返った様な声で聞くと、彼女は若干きまずそうな顔で言ってくれた。
「えぇ。私には『気を使う』ことが出来るんですけど」
「舐めんな!気ぐらい俺でも使える!誰かが泣いているとき、ドンマイ!と言える。」
「使えてないじゃないですか。……えー、その力で貴方の身体能力を下げて、私は逆に上げさせてもらったんです。」
「へぇ。そんなことが出来るのか。」
そりゃ凄い。俺がそんな感情を包み隠しもせずに聞くと、それが嬉しかったようで彼女は嬉々として答えてくれる。
「えぇ!どんな生物にでも必ず『気の流れ』というものがありまして。それを乱したり加速させたりすることで……」
「アンタ達何を話してんのよ。」
「あ、咲夜さん。」
まるで初めからそこにいたかのように現れたのは十六夜咲夜である。名前はさっき教えてもらった。
最近のメイドは瞬間移動も完璧とのことで、彼女と同じくメイドになる可能性のある俺はヒヤヒヤするばかりだ。手品が出来ない代わりに何でも破壊できます、とかで手を打ってくれないだろうか。
「遅いわよマッシブーン。貴方には説明しなきゃいけないことがまだ沢山あるんだから。ほら、来なさい。」
「分かったぜ……じゃあな、美鈴!」
赤く膨張した人差し指を彼女の小さな手のひらに握られて、俺はそのまま紅魔館の中へと連れて行かれた。手加減はしたが、彼女は本当に強かった。俺が引きずられ、美鈴が笑いながら、少なくとも見ていた限りではずっと手を振っていた。
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「初めまして。私はパチュリーという名前の魔女よ。」
「私は小悪魔です。貴方は……貴方も悪魔ですか?」
「おうとも。俺は悪魔神の神、
悪魔神の神とは。自分で言っておきながら何か変に感じる。そしてそう感じるのはどうやら俺だけでは無いようで、
「頭痛が痛いわね……」
パジャマ姿?の紫色の髪をした彼女が冗談交じりの反応をしてくれた。
「えっ!?大丈夫ですか!パチュリー様っ!大丈夫ですかっっ!?!?」
「………」
その場にいたのは、頭を押さえる毒キノコみたいな髪の色の少女に、翼の生えた騒がしい赤髪の少女に、変な嘘を言ってしまったと反省している俺。そして目の前に広がる無数の本棚に、俺はここが大図書館と呼ばれる所以の威厳をひしひしと感じていた。
「おのれ悪魔神めっ!パチュリー様のかたきーーっ!」
林檎色の髪の少女が翼を動かし、緩やかなスピードで俺に殴りかかる。それを手でぱしっと受け止めて『パチュリー』とやらの方を見ると、彼女は袖で口を隠してくすっと笑った。
事は遡って数分前のこと。
「紅魔館で貴方に出来る仕事は三つ。一つ目に『門番』、二つ目が『司書』、そして三つ目に『メイド』よ。」
「じゃあ司書してみるぜ!」
以上。
「小悪魔?頭痛が痛いというのはただの言葉遊びよ。本当に痛いわけでは無いわ。」
「はい。」
「だから私は本当に頭痛がするわけでは……」
「分かってますよ?」
小悪魔がニコニコ笑い出した。流石、悪魔というべきか、誰かを欺くことに長けているらしい。見事な演技に拍手。
「あはは。それぐらい分かってるに決まってるじゃないですかパチュリー様。馬鹿ですか?」
「そうなの?貴方馬鹿っぽいから気付かなかったわ。」
「……で、どうです。緊張はほぐれましたか?妖怪さん。」
「俺は妖怪じゃないぜ、悪魔神だ。」
「ふふっ。本物の悪魔神はもっと強そうですよ?」
「いるのか?」
「いえ?」
「何なんだよ!」
どうやらまたもや欺かれたようだ。虚言癖に近い彼女とのコミュニケーションはなかなか疲れる。疲弊している俺を横目に見た後、パチュリーが小悪魔に言った。
「マッシブーン。小悪魔、今日は一段と調子に乗ってるみたい。ちょっとお仕置きするから待っててくれる?」
「いっ!?お仕置き!?まさかまたアレをするつもりですか!?」
「そうよアレよ。何か文句でも?」
「いやですいやです!アレだけは嫌です!私逃げますから!」
そう言って風のような速さで逃げる小悪魔。とりあえずパチュリーには後で『アレ』とやらの詳細を教えてもらおう。
「待ちなさーい。冗談よー。」
「いーや嘘です、非道いです!嘘を吐くのは悪魔の特権なのに!」
「そうなんだ」
かくして小悪魔がガラス張りの大きな窓の方へ飛んで逃げていると、俺は不思議そうに目を凝らした。何故かって、だんだん小さい何かが猛スピードで近付いてきているのが窓越しに見えたのだ。
いや、見えてしまったというべきか。凄まじい勢いで飛んでくる何かが引き起こす未来を、誰も望んでいるはずがなく。
「え?」
小悪魔が声を上げたその瞬間、ガラス窓がパリーンと大きな騒音を響かせて辺りに散らばる。そうして出来上がった歪な穴から、ホウキに乗って小悪魔をど突きながら侵入してきたのは、黒い帽子を被った黄色い髪の魔女っ娘だった。
「ぐえっ」
「久しぶりだなパチュリー!本を借りに来たぜ!」
「ホウキに黒い帽子……典型的魔女っ子……!?」
「消え去りなさい、今すぐに」
四者が言葉を交わした時、血みどろ魔法合戦が始まる───
間に俺を挟んで。
「おい、ちょっと待て!」
前には妙ちくりんな六角形の魔法道具に何かをチャージしている典型的魔女っ子。
後ろには分厚い本から何やら危うい感じの光を放っているパチュリー。
このまま彼女たちの大喧嘩を見ていたい気持ちもある。だが、二つの攻撃を同時に喰らう位置にいる俺はそれを目撃する前に死ぬだろう。
走馬灯がチラつきそうでチラつかないこの場面で、輝く光を見ながら思考する。これは側から見れば百合の間に挟まるマッシブーン。それならば、このまま死ぬべきではないのか。死んでもいいのではないか?
いや、そんな冗談を考えてる場合じゃない、マジで死ぬ一秒前……
「そこまでです、パチュリー様。」
「……咲夜。」
そんな絶体絶命の窮地に現れたのは、咲夜だった。
「おいおい、こんなの軽い冗談だぜ、咲夜。魔法使いのコミュニケーションってのはこうやって始まるんだ。」
「
「ん?」
「アンタが窓を割った回数、そしてアンタが返さない本の数。何か言いたいことはあるかしら?」
「ははっ。もうすぐ記念すべき100冊目だな。お祝いしてくれたっていいんだぜ?」
「……アンタ今の状況分かってるの?私はこのまま首切ったっていいのよ。さっさと持ってるもん全部返しなさいよこの泥棒。窓の修理代はいいから。」
「……分かったよ。だから泥棒呼ばわりはやめてくれ。私は歴とした魔法使いだからな!」
黄色い髪の少女がそう言うと同時に、咲夜は彼女の首元に突きつけていたナイフを腰のレザーケースに直した。
「あー、そこのお前!名前はなんだ!」
「……俺か?俺はマッシブーンだ。」
「私は霧雨魔理沙だ!さっきは巻き込もうとして悪かったな!また会おうぜ!」
短い自己紹介を交わし、魔法使いはニカッと笑い、ホウキに跨ってそのまま空の彼方へと飛んでいってしまった。
「………」
「全く……何しに来たのかしらアイツ。マッシブーン、あの人間は要注意人物よ。次に見かけた時は容赦なく追い返していいわ。」
心底迷惑そうな顔で咲夜はそう言う。あの魔女っ娘の窓を割りに来るという蛮族行為ももう七回目との話だ。そりゃ一つや二つ、うんざりした顔でため息を吐きたくもなるのだろう。
ちらっとガラスの破片の散らばっている方を見てみると、ぐったりした様子の小悪魔が傷一つ無く倒れていた。彼女に近付いてから耳を澄ましてみると、「タマ……たま……」と呟いてるのが聞こえる。遺言が下ネタというのはなかなかに珍しい。俺は「おい、大丈夫か」なんて言って彼女を起こした。
次にちらっとパチュリーの方を見てみると、俺は一驚。彼女が突然口を押さえて、苦しそうに激しい咳をしだしたのだ。
「げほっ!げほっ!げほっ!」
「パチュリー様。薬をこの水と一緒にゆっくりお飲み下さい。」
「げほっ!げほっ!げほっ!げほっ!」
「パチュリー様。僭越ながらたった今『私の力』を使って貴方に薬を無理矢理飲ませました。」
「げほっ!……毎回報告しなくていいの……げほっ!……助かるわ。」
「はい。では仕事に戻りますので。失礼しました。」
そう言って、咲夜は瞬く間に消えてしまった。
「……ふぅ。色々と見苦しかったわよね。
「いいや、
「そう。……懸命な判断ね。もしも客として本を借りに来るのなら、私は歓迎するわ。窓を割らずに、あとちゃんと本を返すのならね。」
あの魔女っ娘に相当頭を悩ませているのであろう言葉と表情に思わず同情してしまう。可哀想に。
ふと気付いたが、俺はいつの間にか手に何かを握っていた。それはくしゃくしゃとした、上質な紙のようなもの。実際に手の中を見てみるとそれは一枚の丸まった白い紙であり、広げてみると、
そこには一言だけ、『頑張りなさい』と書いてあった。
「………」
指に力を込めて、俺はじっとそれを見つめた。
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(紅魔館で俺に出来る仕事は三つ。一つ目に『門番』、二つ目が『司書』。そして三つ目に……)
明くる日のこと。
「師匠……コレ、本当に着なきゃいけないのか?」
「何言ってるのよ。メイドであるということを示す以上、これはメイドの嗜みよ?今日から貴方も紅魔館のメイドになるんだから、私みたいに華麗に着こなさなきゃね。」
「分かったぜ、っと。……悪い。大きさが合ってないぜ師匠。せっかくのメイド服が弾けちまった。」
「はい、新しいの。今度は大丈夫なはずよ。」
「わお!一瞬で俺のサイズに合ったメイド服を作ってくるなんて流石に人間離れしてるぜ師匠!今度はどんな手品なんだ?」
「簡単に種を明かしちゃうとつまらないでしょ。……あと私のことを師匠って呼ぶのやめなさい。なんかムズムズするから。」
曇り空の昼、メイド長である十六夜咲夜の部屋からは二人分の声が外に漏れ出ていた。
薄暗い部屋の中では、俺がメイドとしての正装に着替えるのを咲夜が無表情でガン見しているという中々カオスな状況が行われている。特例としてワンピースは断らせてもらい、似合うはずもないエプロンとカチューシャを着こなせば、あっという間に紅魔館の筋肉メイドは完成した。
そして可愛いマッシブーンという概念が爆誕したその瞬間、コンコンと二回だけノック音が聞こえてきた。
「失礼しますメイド長さま〜。入ってもよろしいでしょうか〜」
「あぁ、いいわよ。入ってきなさい。」
「は〜い。」
咲夜に許可を出され、気怠そうな声と共に入ってきたのは緑色の髪の小さな女の子。よれよれのメイド服を着て四つの羽を背中に生やしたその姿に、ほぼ同じ特徴を持っている俺はシンパシーを感じる。彼女が話に聞いていた、昔から紅魔館で働いているという『妖精メイドたち』らしかった。
彼女はいわば俺の先輩。仮に上下の関係は無くとも、同じ同業者への挨拶は必須だろう。ここは一つ、粋の良いコミュニケーションをかましてやろうではないか。そんなことを考えていたら、早速その機会が回ってきた。
「これから貴方たちと同じ、メイドになるマッシブーンよ。」
「マッシブーンだぜ!よろしくな!」
俺は最高かつ完璧な挨拶を繰り出し、ここぞとばかりにマッスルポーズを決める。
「いやぁ〜〜〜!!バケモノーー!!」
妖精メイドは逃げてしまった。
「………」
「元気出しなさい。しょうがないわよ、貴方のその姿じゃ。」
「ひどいぜ師匠。」
メイドとしての生活は、まだまだ始まったばかりだ。
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焦ることはない。
「……ククッ。」
定められた
ぜんこくずかん No.●●●
チクリンにて
ここの紅魔館にはなぜか窓の描写がありますが、紅霧異変の後に図書館にだけ作ったという設定で。