ハンターになったらモテると思っていた【完結】   作:皇我リキ

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昔聞いた話を思い出した

 子供の頃、こんな話を聞いた事がある。

 

 

「イズチのボス?」

「そう、今日俺が倒してきたのは大社跡で良く見るイズチってモンスター達のボスなんだ」

 鮮明に残る記憶。

 

「ほぅ、流石兄さんだな。俺の兄である事だけはある」

「ツバキはどこからそんな自信が出てくるんだ?」

 ───それは、生前ハンターだった兄との他愛もない会話だった。

 

 

「いずれ里一番のハンターになるんだから、俺も実質里のボスだろ」

「里のボスは里長だよ」

 目を半開きでそう言う兄は、ふと視線を上げながら「でも確かに、お前はボスっぽいな」と言葉を落とす。

 そんな言葉に俺は舞い上がって「だろだろ!」と目を輝かせた。

 

 

「さっき言った、俺が倒してきたイズチのボス。アイツは大きな群れを作るんだけど、その中から精鋭と呼ばれる選りすぐりの二匹を引き連れて戦う習性があるんだ」

「へー。それと俺がボスっぽいって話になんの関係があるんだ?」

「お前、いつも友達二人連れてるだろ。誰だっけ? いつもお前の後ろを着いて来てる二人」

「あー、カエデとジニア。なるほど、精鋭か。アイツらじゃ俺の精鋭としては心許ないが、良いかもしれない」

 今じゃ精鋭どころか、その二人の方が立派なハンターになってしまっている。

 

 そんな二人と、イズチ達のボス───オサイズチの戦いが始まろうとしていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 甲高い鳴き声が木霊する。

 大社跡に響く音。人の数倍はあるその巨体は、一歩一歩ゆっくりとカエデ達に近付いた。俺はその光景を遠くから見守る。

 

 

「少し早かったね。カエデ、イズチは四匹しかいない先にこっちを───」

 ジニアが動こうとした瞬間───仕掛けたのはオサイズチだった。

 

 飛び上がったオサイズチは、ジニアを踏み潰さんとその脚を彼の持つ盾に叩き付ける。

 しかし単純な攻撃だ。ジニアは腰を落として、しっかりとオサイズチを受け止める。

 

 

「ジニア!」

「大丈夫! けど、賢いな」

 オサイズチを振り払いながら、ジニアは横目で周りを見渡した。

 

 今の一撃で出来た隙に、残っていた四匹のイズチが安全な所まで後退したのである。

 

 

 確かに目標はあくまでオサイズチの討伐だ。

 しかし、イズチを片付けなければどこかでそのツケが来る可能性は高い。

 

 オサイズチはそれを理解しているのか、下がらせたイズチに視線を送る。

 そして、四匹の内───二匹のイズチがオサイズチの横に並んだ。

 

 

 

「───アレは」

「精鋭だ」

 教官の口から溢れる言葉。それは、昔兄に聞いたイズチの群れのボスが連れている選りすぐりの二匹の事だと思い出す。

 

 三位一体。

 まるでその言葉を体現したかのようなモンスターだ。

 

 

 

「ジニア、あの二匹」

「分かってるよ。精鋭だね。気を付けよう、この二匹は手強い」

「作戦変える?」

「そうだね、オサイズチに狙いを定めて短期決戦を狙うのが良いかもしれない」

 どうやら二人はイズチを減らす事を諦めて、オサイズチに狙いを絞る事にしたらしい。

 

 精鋭はその名の通り、イズチの中でも選りすぐりの猛者である。

 そんな相手を倒そうと躍起になって、オサイズチから気を逸らすのは本末転倒という奴だ。

 

 

 たった今ジニア達は奇襲を仕掛けた訳だが、その時にジニアの槍を交わした個体が二匹居たのを思い出す。

 その二匹が精鋭だったという訳だ。後ろから出てきたイズチ二匹は、ボスであるオサイズチと目を合わせると短く鳴いてからカエデ達を睨む。

 

 ジリジリと詰め寄るような仕草を見せるオサイズチは、次の瞬間身体を持ち上げて鳴き声を上げた。

 

 

「来る!」

 同時に地面を蹴る二匹のイズチ。

 二匹は身体を横に回転しながら、尻尾の鎌でカエデ達を切り裂こうと二手に別れる。

 

 ジニアはそれを盾で防ぎ、カエデは背後に跳んでそれを交わすが、オサイズチの狙いはそこにあった。

 

 

「おっと……」

 突如跳び上がるオサイズチ。ジャンプといっても、その巨体がジニアの身長よりも遥かに高く浮く脚力である。

 そうして跳躍したオサイズチは、距離を離してしまったカエデとジニアの間に入り込んだ。

 

「……挟まれたね」

 カエデを挟んでイズチとオサイズチ、その二匹ともう一匹のイズチの間にジニアが挟まれる事になる。

 大きな盾と槍を持つランスは攻撃力も防御力も高いが、その分機動力に難があるのが欠点だ。

 

 

 オサイズチの狙いは、機動力のないランス使いであるジニアを挟んで孤立させる事だったのだろう。

 

 事実オサイズチはジニアに身体を向けて、もう一匹のイズチと彼を睨んでいた。

 残る一匹はカエデの足止めが仕事なのか、彼女から目を離さない。カエデが少しでも動いたらその邪魔をする気なのだらう。

 

 

「やばくね?」

「いや、大丈夫だよ愛弟子」

 戦い慣れている個体なのか。オサイズチの策略にピンチだと思ったのだが、いざという時の為にいる教官は余裕の表情で二人を見ていた。

 

 本物のハンター二人を信じろ、という事なのだろうか。

 

 

「どっちから───そっちからか!」

 オサイズチが短く鳴くと、ジニアを挟んでいたイズチがジニアに襲い掛かる。

 予め身体を横にしてどちらから来ても反応出来るようにしていたジニアはイズチの飛び掛かりをガードするが、オサイズチには背中を向ける事になってしまった。

 

 カエデはイズチに足止めをされている。どうするつもりなんだ。

 

 

 隙を晒したジニアの背後から、オサイズチが自らの尾の鎌を向ける。防具を着ているとはいえ当たりどころが悪ければ腕の一本───首の一つは持っていかれてもおかしくない。

 その刃がジニアを切り裂こうとしたその時───

 

「やぁぁあああ!!」

 ───カエデが飛んだ。

 

 

 正確には、跳んだ。

 精鋭イズチ一匹に見張られながらも、彼女は操虫棍を地面に叩き付け、しなる操虫棍の反発力も使ってオサイザチの全高よりも高くジャンプしたのである。

 

 精鋭イズチが抜けられると思っていなかったオサイズチは、跳び上がったカエデの全体重を乗せた刃を背中に受けて悲鳴を上げた。

 

 

 

「すげぇ……。なんだ今の」

「操虫棍の特徴は猟虫だけじゃない。さっきもネムリガスガエルの時にカエデがやっていたように、長くて丈夫な武器で今みたいに大きく跳躍する事にも適した武器なんだ!」

 二人がイズチ達に囲まれた時、カエデはネムリガスガエルの出したガスの中で、今みたいに跳躍してイズチ達を飛び越えた訳か。

 

 

 

「流石。ありがとね」

「今のでうさ団子三本ね!」

「あはは、まじかー。一気に攻めようか!」

 イズチを振り払ったジニアは、身体をひっくり返してオサイズチに槍を向ける。

 オサイズチはカエデの攻撃で怯んで首を横に振っていた。崩すなら今がチャンスだろう。

 

 二人もそう思ったのか、得物を構えて一気に踏み込もうとした瞬間───カエデを見張っていたイズチがオサイズチを庇うように前に出て来た。

 手元の狂った二人の武器は、虚しくも空気を切る。その間にオサイズチは体勢を立て直して、二匹の精鋭イズチと再び横並びに合流した。

 

 

「そう簡単にはやらせてくれないようだね」

「なんとか分断するしかない。私がやってみる!」

「カエデ……?」

 言うと同時に、腕に止まっていた猟虫を飛ばすカエデ。真っ直ぐに飛ぶマルドローン───モミジは、オサイズチの真横を通り過ぎるようにして飛び去っていく。

 攻撃ではない。しかし、不意の突撃に三匹は一瞬だけカエデ達から気を逸らした。

 

「たぁぁっ!」

 その隙に、操虫棍を再び地面に叩きつけ跳躍するカエデ。

 

 しかしマルドローンが気を逸らしてくれたのは一瞬である。

 イズチ二匹は直ぐに跳躍したカエデに鋭い眼光を向けた。意識外からならともかく、一度目と違ってカエデの手はもうバレている。

 

 大きなジャンプからの攻撃は確かに体重を乗せやすくで威力も出るが、空中にいる間は恰好の的だ。

 イズチ二匹が狙いを定めて跳躍する。人が操虫棍を使ってようやく辿り着く高さに、モンスター達はその足一つだけで牙を届かせてくるのだ。

 

 二匹の牙が空中で身動きが取れない()のカエデを捉えようとしたその時───カエデは()()()

 

 

 翼を持たない人間は飛ぶ事が出来ない。

 跳躍とは、翼を持たない人間が精々足で地面を蹴って空中に少しの間浮く事を言う。

 

 本来跳躍して浮いているだけの人間は、空中でその軌道を変える事は出来ない筈だ。

 しかし、カエデは空中に居る間にまるで鳥や竜のように飛んだのである。

 

 

「こっちよ!」

 そうしてイズチ達の攻撃を交わしたカエデは、少し離れた位置に着地して精鋭イズチ二匹の意識を奪った。

 こうなるとオサイズチはフリーになる。カエデがイズチ二匹を相手している間に、ジニアにオサイズチと一対一をしてもらう作戦だ。

 

 

「無理するんだから。でも、作ってもらったチャンスは活かさないとね……!」

 ジニアもあっけに取られてはいたが、このチャンスを逃す手はない。彼はその視線を切り替えて、オサイズチに自らの得物を向ける。

 

 一方でオサイズチは精鋭二匹がカエデに釘付けになっているのも構わずに、目の前の殺意を感じてジニアを睨んだ。

 分断は成功したという事だろう。

 

 そしてオサイズチはその巨体を捻って自らの尾を横薙ぎにジニアに叩き付けようとするが、ジニアは盾でそれを受け止めた。

 カウンター気味に放たれるランスの突きはオサイズチの肩を抉る。悲鳴を上げるオサイズチは、一度後ろに跳んでジニアを睨んだ。

 

 

 一方でカエデはジニアやオサイズチから距離を取りながら、二匹のイズチを相手に自分からは仕掛けずに引き続ける立ち回りで分断を成功させている。

 あのイズチを倒す必要はなく、オサイズチさえ倒してしまえばクエストクリアだ。このまま行けば、なんの問題もないだろう。

 

 

「───っと!」

 再びオサイズチの尻尾がジニアに叩き付けられた。今度は縦振りで威力重視の攻撃である。

 流石にジニアもカウンターを取れず、冷や汗を流していた。

 

 それでもジニアにダメージはない。

 オサイズチはカエデとジニアの攻撃を一撃ずつ貰っているし、焦らずいけば二人はオサイズチを倒す事が出来る。俺はそう思っていた。

 

 

 

「───僕が負ける訳にはいかないからね!」

 次の突進を再び受け止め、カウンターでオサイズチの横腹にランスを突き刺すジニア。

 完全にジニアが推している。そう思っていたのだが、オサイズチはそのまま身体を捻り、一回転しながら勢いを付けた尻尾をジニアに叩き付けた。

 

 何とか攻撃を受け止めるジニア。

 しかし、オサイズチは更にニ回転───三回転とジニアの盾に連続で尻尾を叩き付ける。

 

 

 流石の大盾も、これを全て受け止め切れはしなかった。大きく仰反って隙を晒すジニア。

 それでも次の攻撃に何とか備えるだけの余力がジニアにはある。しかし、オサイズチの目的は連撃でジニアを防戦に傾かせる事()()ではなかった。

 

 

 オサイズチは突然ジニアに背中を向けて吠える。

 体勢を崩されたせいで、ジニアは自分から仕掛ける事は出来ない。反撃や防御の姿勢は取れても───相手を追いかける、こちらから仕掛ける為の体勢は整っていなかった。

 

 その隙に、オサイズチはカエデに狙いを変えて跳ぶ。

 操虫棍を使ったジャンプよりも早く、一瞬でカエデとの距離を殺したオサイズチ。

 

 

「カエデ!」

「こっちに来た!?」

 再び横並びになった三匹は、全く持って同じ動きで身体を捻った。

 

 三位一体。

 まさにその言葉がオサイズチ達を表す物だと、俺は再び認識する事になる。

 

 

 カエデと二匹だけで戦っていた時のイズチは動きもバラバラで、連携のれの字もない攻撃を繰り返してカエデにのらりくらりと交わされていた。

 しかし、オサイズチが加わった事でその動きは一気に変貌する。

 

 二匹は無駄なくカエデを挟むように、たった今オサイズチがジニアにしたように三回転。カエデの退路を防ぐようにその鎌を振り回した。

 その鎌が一つ、カエデの右腕を掠めて赤い液体が地面を濡らす。俺が飛び出そうとして、その肩を教官に押さえつけられたその時───オサイズチの刃がカエデを襲った。

 

 

 

「───カエデ!!」

 誰が叫んだか。

 

 

 それだけで彼女の胴体よりも大きい尻尾を叩き付けられ、カエデは地面を転がる。

 イズチとオサイズチを分断したと思っていた───しかし、それは逆だったらしい。

 

 イズチ達はあえて分断に乗り、カエデとジニアを分断させた。そしてボスがジニアの動きを封じ込めた瞬間、カエデに一気に狙いを定めて仕留める。それが彼等の作戦だったのだ。

 

 

 モンスターだって生きていて、考えて戦っている。

 相手をどのように崩すか、相手の攻撃をどう凌ぐか、そうしてこの自然で生きているんだ。だがそれは───

 

 

「───教官、カエデが!!」

「大丈夫だ、愛弟子」

 オサイズチの尻尾を叩き付けられて、鎌の直撃は何とか避けたようだがカエデは完全に死に体である。

 そこに三匹は同時にその尾を振り上げて、彼女の命を狩ろうとした。

 

 刃が振り下ろされようとした瞬間、カエデの手元から一匹の蟲が飛び出して糸を引く。

 カエデはその糸を引くようにその場を無理矢理離脱して、刹那ついさっき彼女がいた場所を三本の鎌が抉った。

 

 

 

「今のは確か……翔蟲?」

「流石カエデだね」

 翔蟲。

 教官曰く、丈夫な糸を作れるこの虫をカムラの里のハンターは上手く利用して狩りの手助けをしてもらっているらしい。

 ジニアがさっき使っていたのもそうだが、カエデも確かマガイマガドというモンスターから逃げている時にそれを使って俺を助けてくれた事を思い出す。

 

 彼女はそれを使って、ピンチから一気に離脱したのだ。

 

 

 

「大丈夫かい、カエデ」

「うん、平気。私だって、この二年間ちゃんとハンターの修行してきたんだから!」

「頼もしいね。僕も良いところを見せないと」

「相手も強敵だけど、ツバキと約束したんだもん。……私は負けない!」

 モンスターだって生きていて、考えて戦っている。

 相手をどのように崩すか、相手の攻撃をどう凌ぐか、そうしてこの自然で生きているんだ。だがそれは───

 

 

「───ここからが本番よ!」

 ───だがそれは、狩人(ハンター)だって同じである。

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