ハンターになったらモテると思っていた【完結】   作:皇我リキ

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応急処置のやりかた

 これは決して覗きではない。

 

 

「───ちょ、ジニア。辞めてよ」

「我慢してカエデ。大丈夫、優しくするから」

 ベースキャンプのテントの中から聞こえてくるそんな声。いや何してるんですか二人共。

 

「で、でも私……こういうの初めてだから」

「僕が教えてあげるから」

 何が初めてなんですか!! 何を教える気なんですか!! 

 

 

「い、痛い痛い!」

「我慢我慢そんなに痛くないよ。心をマゾに染めるんだ。むしろ気持ち良くなるかもしれない。んー、まー、こんな事初めてだろうし、痛いかもしれないけど我慢してくれ。ん、血が沢山出てるね」

 いやナニしてるの!! 本当にナニしてるの!! 

 

 俺は居ても立っても居られなくてテントに潜り込もうとするが、教官に肩を掴まれて阻まれてしまった。

 

 

「ゆっくりしてあげるから、力を抜いて」

「……っ、うぅ」

「そうそう。よーし、出すよ。出た!」

「出すなよ!!! 何してんだこのクソジニア!! ゴラァぁぁあああ!」

 とうとう俺は我慢出来ずに、教官の静止を振り切ってテントに殴り込んでジニアを蹴り飛ばす。

 

 

「痛ぁ!?」

「え、ツバキ!? なんでここに居るの?」

「んな事はどうでも良いわ!! ジニアてめぇ、ここにきてカエデにまでその陰湿な手を───ん?」

 ふとカエデに視線を向けると、俺の思考は金縛りにでもあったかのように止まってしまった。

 

 

 

 ぶっちゃけよう。

 俺はジニアがカエデにエロい事をしてるのだと思っていたのだ。

 しかし、カエデは確かに上半身は防具を脱いでインナー姿だったがそれ以上脱いでいる訳でもなく。

 

 彼女の肩は痛々しい赤色に染まっていて、俺が蹴り飛ばしたジニアの手には何やら鋭い刃物のような物が握られていた。

 

 

「……ナニしてたの?」

「私、イズチと戦ってたんだけど……その時にイズチの尻尾の鎌で攻撃されて」

「その時の傷口に刺さっていたイズチの鎌の破片を抜き出していたんだよ」

 起き上がりながら、手元にある見た目だけでも痛そうな破片を持ち上げてそう言うジニア。

 

 

 まるで鎌のようなイズチの尻尾の先。

 その鎌で斬られたカエデの右肩からは、今も痛々しく血が流れている。

 

 

「ち、治療中だったのか……悪い。大丈夫か、カエデ?」

「え? あ、うん。このくらい平気」

「そ、そうか」

「平気じゃないでしょ。そのままじゃ傷も残る。……丁度良かった、ツー君もカエデの治療手伝ってよ」

 俺に蹴られた頭を押さえながら、半目でそう言うジニア。せっかくカエデの治療をしてくれていたジニアを、俺は蹴飛ばした訳だ。

 

 

「……ジニア」

「どうしたの? ツー君」

「……ごめんなさい」

「ツー君が僕に謝るなんて……明日は嵐だね」

 お互い、お互いの事をなんだと思ってるんだろう。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 翌日、嵐が里を襲っていた。

 

 

「いや本当に嵐になっちゃったよ」

 吹き荒れる暴風雨。家の柱はガタガタと音を鳴らし、家の外に視線を向けると団子とか傘とかが宙を舞っている。

 

 いや本当に嵐になっちゃったよ。

 

 

「あはは、ツー君が珍しい事するからだよ」

「あはは、それな───じゃ、ねーよ。なんで我が家に居る訳? 帰れよ」

「家に居ても暇だったからさ。エーコもシーナも今日は用事があるって言うし」

「あ、さいですか」

 なんなのこの女たらし。

 

「だから今日はビーミを連れて来たよ」

「ツバキ君の家お邪魔しまーす」

「なんで?」

 突然玄関から現れた青い髪の女の子。彼女の名前はビーミ、カエデの幼馴染みで俺達とも昔から仲良くしている───ジニアの囲い二号だ。

 

 ちなみに一号がエーコ、三号はシーナ。他にも居るがとりあえず俺が知る馴染みの囲いはこの三人である。

 

 

「いらっしゃい。おやつも用意してあるから、今日はゆっくりしていきなさい」

 そして突然現れたお父様は団子やらお茶やらを持って俺の部屋に二人を通した。勝手に話を進めないで欲しい。

 

「……なんなんだお前らまったく───は?」

「やぁ! 愛弟子!」

「先にお邪魔してるわよ」

 そして部屋に帰ると、何故かウツシ教官とカエデが勝手に寛いでいる。なんで嵐の日に他人の家に集合してるのこの人達。バカなの。

 

 

「状況を説明しろ」

「今日は嵐で狩りにも行けなければ訓練も出来ない! だから今日は知識を得る時間にしようと思ったんだ!」

「そういうのは良いけど事前に連絡しようね。俺何も聞かされてないからね。朝起きたから嵐になってて黄昏てたら突然ジニアが来るし部屋には教官達が居るし、もう訳分からなかったからね」

 そう言いながら教官にチョップを喰らわせようとしたが、教官は座ったまま鮮やかな身のこなしで俺の攻撃を全て交わして見せた。

 

 表情一つ変えてないのがムカつく。

 

 

「……知識を得るって事は、お勉強って事か。俺が一番苦手な奴だ。それにハンターの勉強だろ? なんでビーミまで居るの」

「ふふーん、今回私は先生として来たんだよ!」

 カエデばりにない胸を張って自慢げにそう語るビーミ。

 

 突然だが何がとは言わないがここには居ないエーコとシーナを合わせると大きい順でエーコ、シーナ、ビーミ、カエデの順番だ。カエデはない。二年間里の外で修行してる間も成長しなかったらしい。

 

 

「ビーミが先生とな。なんの勉強を教えてくれるんだ?」

「彼女は里のお医者さんの娘さんで、彼女自身も将来は医学を勉強して家を継ぐ予定だそうだ」

「へぇ」

 教官の説明で、なんとなく今日の目的も分かる。

 

 

 彼女が医者の子という事は───

 

 

「今日は狩場で怪我をした時の、簡単な治療について私が教えちゃいます! カエデは特によく聞く事!」

「なんで私なのよ!」

「カエデは昨日怪我して帰って来たでしょ! ジニア様に聞いたんだから。大怪我だったのにそのままほったらかしで帰ろうとしたって!」

 ジニア()は気に食わないが、ビーミの言っている事は正しい。

 

 

 昨日、オサイズチの討伐を成功させた二人がベースキャンプでなんやかんやしていた時に俺が突撃した訳だが───その時カエデはジニアに傷口を触られるのを凄く嫌がっていたんだそうだ。

 理由は単純で、曰く「触られると普通に痛かった」とかなんとか。怪我してるんだから当たり前だろバカか。

 

「……だって、痛いし」

「痛いのを痛いままにしてて良くなる訳ないでしょ! そのまま化膿して、病気貰ったり腕を切り落とさなきゃいけなくなったり。最悪それだけで死んじゃうんだから!」

 カエデに詰め寄って脅すようにそう言うビーミ。

 

 大袈裟に聞こえるかもしれないが、彼女の言っている事は正しい。

 人間は簡単に死ぬ。それこそ、俺の兄のように───

 

 

「……ご、ごめんなさい」

「分かれば良し。それじゃ、教官にも手伝ってもらってお勉強会を始めます! ジニア様は最強だから怪我なんてしないかもしれないけど、カエデとツバキ君はよーく聞くように!」

 そんな訳で、本日は我が家でお勉強会をする事に。

 

 

「ツバキは怪我とかした事あるの?」

 ビーミが準備をしている間、カエデは俺の顔を覗き込みながらそう問い掛けてきた。彼女の右肩はまだ包帯が巻かれていて、滲み出る赤い染みが少し痛々しい。

 

「……ある。戦ってる時に足を切った」

「それは大変だったわね。大丈夫だったの?」

「俺はハンターだからな、そのくらい平気だった」

「流石ツバキね」

 半分は嘘である。

 

 いや、半分は本当なのだ。

 畑仕事を始めたばかりの頃、俺は畑に蔓延る虫を狩り殺してる時に誤って道具で自分の足を切った事がある。

 じゃあ何が嘘なのか。

 そもそも俺はハンターじゃなかったし、足を切った時は死ぬ程泣き叫んだ。全然平気じゃなかったよね。

 

 

 

「さて始めるよ! まずは自分の腕が吹っ飛んだ想定から説明するね!」

「いや状況が急過ぎない!? なんで突然腕が吹っ飛ぶの!?」

 開幕からハード過ぎるだろ。もう少しこう、切り傷とか打撲からにしてくれよ。

 

 

「狩場なら良くある事よね」

「人間の腕一本簡単に吹っ飛ぶからね」

「あ、吹っ飛ぶんだ」

 確かに良く考えてみたら、オサイズチの尻尾の鎌で斬られたら腕どころか首の一つ吹っ飛んでもおかしくはない。

 アオアシラというモンスターは腕だけでも成人男性の胴体より太いとかなんとか。人間の腕の一本や二本、狩場では簡単に吹っ飛ぶものなのだろう。

 

 

「それじゃ教官! お願い!」

「任せてくれ! よし───ッ!!」

 して、突然教官が鳴いた。

 

 

「え!? 何!? 何々!? 今の何!? モンスター!?」

 家に響くモンスターの鳴き声。

 

「今のは俺の特技の一つ! モンスターの鳴き声の物真似だ!」

「いや普通に凄いけど怖い!!」

 その正体はどうやら教官の物真似だったらしい。いや、突然里の中にモンスターが現れたかと思ってビックリするからやめて。

 

 ───ちなみに教官はこの特技のせいで、里のフクズクにガチで警戒されてるのかなんとか。不憫。

 

 

「よし仕切り直して。───ッ!!」

 再び鳴きながら、ビーミに向けて両手を挙げる教官。

 

 その腕を振り下ろすと、突然ビーミが「ぐわー!」と死ぬ程大袈裟な演技で床に転がる。

 

 

「も、モンスターに腕を引きちぎられたー!」

 これは多分モンスターに襲われた過程を説明する為の演技なのだろうが───ビーミの演技はあまりにも下手過ぎた。子供のごっこ遊びより酷い。

 モンスターに襲われて腕を一本吹き飛ばされた設定なのに、ビーミの演技のせいでまるで臨場感がないのである。ここは笑うところですか。

 

「ビーミ!!」

 カエデさんはガチで心配していた。お前バカだな。

 

 

「うー、聞き手の右腕がー。しかもまだモンスターが目の前にー!」

「───ッ!!」

 ビーミと教官のあまりにも差がある演技に唖然とするしかないが、この状況をこの先絶対に経験しないとは限らない。

 自分自身が、もしくは隣の誰かが───狩場で命を落とす、大怪我を負うなんてのは珍しくない事だ。兄がそうして命を落としたように。

 

 

「───と、いう状況で使える応急処置の方法を今日は教えるね」

「ビーミ、さっきの演技上手だったね」

「本当? やったー! ジニア様に褒められた!」

「いやさっきの要る?」

 何故かビーミの演技を褒めるジニア。何処が上手だったのか教えてくれ。

 

 

「それにしても、モンスターに腕を千切られるか。……想像しただけで痛いな」

「実はね、そんな事ない事もない事もないかもしれないよツバキ君」

「いやどっち」

 半目で俺が震えていると、ビーミが凄く曖昧な物言いをする。

 

 

 曰く「大怪我になれば大怪我になる程、実感が湧かなくて痛くないんだって。お父さんがそう言ってた」らしい。

 そういうものなのだろうか。それが幸せなのか不幸なのかはさておき、どのみち後が大変だ。

 

 そうなってしまった時の対処法、それを今日はちゃんと聞いておかないといけない。

 

 

「まず第一に身の安全の確保をしなきゃダメ!」

「と、いうと?」

 俺が聞くと同時に、教官が再び咆哮を上げる。そんな教官を指差しながら、ビーミはこう口を開いた。

 

 

「目の前に危険なモンスター、自分は大怪我でいつ倒れるか分からない。出来るなら、出来るだけ、怪我の大小に関わらずに、怪我をしたら一旦皆安全を確保して欲しいというのが私達医者の訴えです。……いや、私はまだ医者じゃないけど。あはは、見栄を張るのは良くないね」

 分かるよー、俺もハンターじゃないもん。

 

「でも、出来るなら出来るだけだよね」

「はいジニア様! これは勿論医者側の話だから、ハンターさん達からしたらそんな訳にはいかないよね。目の前にいるモンスターから逃げれない状況もあると思うし」

 それはその通り。

 

 

 例えば俺とカエデが再開したあの日だって、あのマガイマガドという奴から俺達は結局逃げ切る事が出来なかったのである。あの時俺達が死んでないのが未だに不思議なくらいだ。

 

 大怪我をしようが、それは変わらない。むしろ相手からすればこちらを殺す絶好のチャンスである。

 

 

「本当は傷口の洗浄、消毒をして欲しい。けれど、それが難しいならまずは止血ね」

「止血……血を止めろって事か」

「うん。腕とか足が千切れたら凄く血が出て来るから。ほっといたらそれだけで死んじゃうし」

 嫌だ想像するだけで痛い。

 

「なので、今日はお医者さんに見せる前の応急処置。緊急時の止血の方法を実演するよ。もし出来る状況なら、止血する前に傷口の洗浄と消毒も忘れないでね。それじゃ、まずは出来るだけ綺麗な布を二枚用意します」

 そう言ってポーチからタオルを取り出すビーミ。彼女はふとカエデを見てから、口を開いて首を横に振って俺を指差した。

 

 

「ツバキ君、ここきて」

「なんで俺」

 ついに来たか、モテ気。

 

「ツバキ君になら本気でやれるから」

「え、待って怖い」

「さぁ! 愛弟子! 来るんだ!」

 突然人の言葉を話す教官は、なんだか嬉しそうである。嫌な予感しかしないね。

 

 

「そして出来るだけ丈夫な棒を用意します。武器でも良いよ」

「ほう」

「そして、用意しておいた綺麗な布を傷口の上に当てて、もう一枚をその上で回して結んで───棒を入れて回すよ。回すよ! もっと回すよ!!」

 棒の回転で捻られる布。それは棒を回して捻られる度にキツく俺の腕を縛っていき───

 

 

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!! 痛いってぇぇえええ!!!」

「このくらい縛ります」

「痛いって言ってるんだけどぉぉおおお!!!」

「昨日の仕返しだよ、ツバキ君。あ、ちなみにこれやると本当によく血が止まるからもの凄い止血方法なんだよ。普通に腕が付いてる人に凄く強くやったら血が止まって腕が腐って逆に千切れるからやめようね」

「やめようねじゃなくて辞めろよ!!!! 今まさにお前がやってる事だからねそれ!!!!!」

 怖いからやめて。痛いからやめて。

 

 

「パンツ」

「パンツ? なんの事、ビーミ」

「いやだからそれは誤解だと昨日も───」

「ツバキ君、パンツ」

「はい!! 僕が全て悪いです!!」

「ちょっと、二人ともなんの話してるのよ」

 全てはそこで満足そうにニコニコしてる教官のせいだと言いたいが、パンツの件は俺の勘違いが悪いので黙っておこうね。

 

 

「……さてと、これが緊急時の止血方法ね。止血したら、傷口を心臓よりも上に上げると良いよ。それと、血がいっぱい出た後は水分補給を欠かさない事ね。これも絶対に忘れないで! あと三人はまだそんな事にならないと思うけど、どうしても数日以上治療が出来そうにない時や片腕だけじゃなくて両腕吹っ飛んで直ぐに止血出来ない時の最終手段があるんだけど」

「嫌な予感しかしない」

「ツバキ君にやってもいい?」

「痛くないやつなら」

「傷口を火で炙って焼きます」

「やって良い訳ねーだろ!!!」

 曰く、これは本当に最終手段らしい。本当に、どうしようもない時の最終手段だ。

 

 

 

 

 だけど、これはいつか何処かで聞いた事がある気がするんだが。こういう事は大抵、いつか何処かで役に立つ物だから───覚えておいて損はない、とかなんとか。

 

 

 それはもし俺が、本当にハンターになれたらの話だがな。




今回のお話、Twitterのフォロワーさんや知り合いに色々参考になる話を聞きながら執筆致しました。自分の専門でもないので、参考知識になりますが間違っていた場合はごめんなさい。勿論、自分なりにこのモンハンの世界ならではという考えもありますので現実での最善とは違う場合があります。

それでは読了ありがとうございました。
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