ハンターになったらモテると思っていた【完結】   作:皇我リキ

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ヒノエさんのうさ団子が盗まれた

 ───対は何処。

 

 

「───あら? 私のうさ団子が……一本足りない!」

 ───対は何処。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 何故か俺は今、縄で縛られている。

 

 

「貴方が犯人ですね! ツバキ!」

「いや待て何の話だ」

 俺の前で腕を組み、金色の髪を靡かせる一人の女の子。

 

 彼女の名前はシーナ。

 もう説明する必要もないかもしれないが、ジニアの取り巻き三バカトリオ女子の一人だ。

 

 

「何故俺は今縄で縛られている」

 そしてもう一度説明しておこう。何故か俺は今、縄で縛られているのだ。

 

 意味分からん。

 

 

「───今朝、この名探偵シーナの元に文が届いたのです! うさ団子を盗んだ悪党を捕まえてくれと!」

 話を纏めると、こういうことらしい。

 

 今朝方、里のクエスト受付嬢をしているヒノエさんが食べていた団子が突然一つなくなったのだとか。

 その団子一つでヒノエさんは大騒ぎ。このままだと暴れ回りそうなので誰がうさ団子を盗んだ犯人なのか突き止めようと里が賑わっているという事である。

 

 

 いやなんでそうなった。

 

 

「うさ団子一つで人が暴れ回るなんて事ある訳ないだろ。後、俺は絶対に犯人じゃないからな。今朝はカエデに畑仕事を手伝ってもらってたからアリバイがある。なぁ、カエデ」

「うん。いつもツバキはハンターのお仕事も頑張りながら畑のお仕事もやってて大変そうだったから」

 ハンターのお仕事は全然してないけどね。

 

「あら、そうなのですか。私はツバキが犯人だと確信していたのですが。パンツ盗む人ですし」

「パンツ盗む?」

「盗んでねーよ。盗み見ようとしただけね。適当に出鱈目を言うな」

「盗み見ようとした!?」

「でも、ヒノエさんが暴れそうなのは確かですよ」

「は?」

 カエデの反応は置いておく事にして、俺達はシーナに連れられて、里の茶屋に向かう。

 正直な所、俺はヒノエさんが暴れそうとか言われても想像も付かなかった。

 

 

 だからその時まで俺は、突然起きたこの騒動がそんなに大袈裟な事だとは思っていなかったのである。

 

 

 

「───なんだこれは」

 茶屋に着いた俺の視界に入ったのは、樽一個分くらいに積まれた大量のうさ団子。そしてそのうさ団子に黙々と手を付けるヒノエさんの姿だった。

 

 ヒノエさんがうさ団子を沢山食べているのは、別段珍しい光景ではない。

 しかし、今回は量が異常である。そして、彼女の手が速すぎるというか、樽のように積まれていた団子があっという間に片付けられていくのだ。

 

 それを、ヨモギが一生懸命補充しているというのが更にその光景の異様さを引き立てている。まさか、件の話があった今朝からずっとこうなのだろうか。

 

 

「あ、ツバキさん! ツバキさんも聞いてください!」

 ふと、俺と目が合ったヒノエさんが不機嫌そうな表情で俺に話しかけてきた。気のせいかな、何か不穏なオーラを纏っている気がする。

 

「今朝、朝食の後のうさ団子を食べていたんですけどね。ふと意識をうさ団子から話した隙にうさ団子が一つなくなっていたんです! 私は確かにうさ団子を二十本注文したんですよ? それなのに、十九本しか食べられなかったんです! 十九本目を食べたらうさ団子がなくなっていたんです!」

 朝食の後のうさ団子とか二十本という言葉の意味が分からない事は置いておいて、本当にうさ団子一つがなくなっただけでこの光景が生まれたという事実に目眩がした。

 

 一番大変なのはヨモギだろう。ヒノエさんが俺に話しかけて団子を食べる手が止まっているのを見ると、彼女はその場に倒れ込んで休憩の合図を二匹のアイルーに送っていた。

 可哀想なので少しヒノエさんとの会話を長引かせてみよう。

 

 

「……なくなっていたって、つまりどういう訳ですか? なんか、里中大騒ぎになってますけど」

 シーナが言っていた通り、茶屋の周りでは里の人達が「うさ団子を奪ったのは誰だ!」とか「誰だか知らんが、なんでこんな事をしたんだ!」とか窃盗でも起きたのかと思うくらい大騒ぎになっていた。

 

 いや窃盗といえば窃盗なのかもしれないが、取られたのはうさ団子一つである。カエデなんて毎日フクズクにうさ団子を食べられてるのに。

 

 

「そのままの意味です。今朝、朝食の後のうさ団子を景色を楽しみながら食べていて、二十本目の最後のうさ団子に手を付けようとした所……何故かうさ団子はそこになかったのです。……私は悲しくて悲しくて、今こうしてヤケグイをしている所なんですよ」

 うさ団子一つなくなったショックでうさ団子を無限に食べる人なんなの。

 

「数え間違えたという可能性は?」

「私がうさ団子の数を数え間違える訳がありません!」

 迫真。

 

「……なるほど。よそ見した瞬間にうさ団子がなくなったというなら、そりゃ近くに居た人が犯人だろうな」

「ツバキさん、まさか犯人を探すのを手伝ってくださるのですか?」

「当たり前です。事が小さい大きい関係なく、女性の物を盗むなんて最低の行為ですからね。俺が見付けてコテンパンにしてやりますよ」

 俺が格好付けてそう言うと、ヒノエさんは嬉しそうに「ツバキさんが手伝ってくださるのなら百人力です」と手を合わせた。

 

 任せろ、女性の笑顔の為なら男は───俺はなんでもするんだぜ。

 

 

「これで私のうさ団子を盗んだ犯人をなぶり殺しに出来ます」

「今なんて」

「なぶり殺しです」

「満面の笑みでそんな危ない事言わないで?」

 ヤバい。この人ヤバい。思ってた以上にうさ団子への愛がヤバい。

 

 

「私も手伝います! この名探偵シーナにお任せください!」

「所でシーナ、その名探偵ってのはなんだ」

「今朝読んでいた本が探偵物だったので! 私、読書が好きなんです。今朝もヒノエさんの隣で読書をしながらうさ団子を食べていたので! あと、将来の夢は作家さんです!」

 読んだ本に直ぐ影響されちゃう気持ちはよく分かる。

 俺も小さな頃は魔法を使ってモンスターを倒すハンターの物語を見て魔法を使えるようになろうとしていた事があったよ。

 

「私も手伝うわ。ヒノエさんには、この前ツバキとお勉強会をした時に私のうさ団子を取り戻して貰ったし」

「そんな事もあったな」

「あら、そんな、よろしいのですか?」

 ヒノエさんの言葉に、二人は「勿論」と息ぴったりで返事をした。幼馴染というのは伊達ではない。

 

 

 何はともあれこの三人でヒノエさんのうさ団子を奪った犯人を探す事になったのだが、今はとにかく情報が足りない状態である。

 こういう時はどうすれば良いのか、せっかくだしシーナ大先生に聞いてみるか。

 

 

「シーナ、犯人探しの基本は?」

「聞き取りです! 聞き取りやりましょう! まずは犯行を目撃した人が居ないか聞いて回るのです!」

 目撃した人がいたらそれで解決なんだが、この騒ぎを見る限りその可能性は低そうだ。

 しかし、なんでも良いから手掛かりが欲しいのは事実。聞き取りは正解だろう。

 

 

「一番ヒノエさんの近くにいたのは、多分ヨモギか?」

「そうだよー。でも私も、ヒノエさんのうさ団子を取った人は見てないかな」

 そりゃそうだ。そうでもなきゃ、今こうしてヨモギは必死こいてうさ団子を作っていない。

 

「とはいえ、ヒノエさんはこの茶屋に居てうさ団子を取られたんだろ? 何か気が付いた事はなかったのか?」

「気が付いた事、かー。えーと、あ……そうだ! 気付いたことじゃないけど、今朝お店を開けてからヒノエさんのうさ団子がなくなるまでの間にお店に来たお客さんなら全員覚えているよ!」

 仕事が忙しかったのか現場を見ていなかったらしいヨモギだが、ここでかなり有益な情報を手に入れる事が出来そうである。

 

 

「誰だ?」

「えーと、朝一番にヒノエさんが来てから……」

 なんで朝一番にいてまだここに居るの。そろそろお昼だよ。

 

「それから里長が挨拶に来てくれて、イオリ君でしょ、ビーミちゃんとエーコちゃん、その後シーナちゃんが来て、ミノトさんがヒノエさんに挨拶しにきて、セイハク君とコミツちゃんがお使いで来てから、アヤメさんが来てくれたよ!」

 大繁盛じゃねーか。

 

「んーと、そのアヤメさんってのは知らない人だな。セイハクとコミツは飴屋とおにぎり屋のガキンチョだろ? 後は三バカにイオリとミノトさんに里長か。犯人がこれだけに絞れたのは大きいな」

「とあらば、事情聴取ですわね! なんだかワクワクしてきました!」

「その前にお前も容疑者の一人だからな、シーナ」

 意気揚々と犯人探しに参加しようとしているシーナだが、彼女も彼女で一応容疑者の内の一人だ。事情聴取は良いが、それをされるのはまず彼女自身である。

 

 

 

「食え」

「私はやってません!」

 里のおにぎり屋。件の容疑者の一人であるセイハクという男の子の家で、俺はカツが中に入ったおにぎりをシーナに出しながら彼女を問い詰めていた。

 

「カエデさん、二人は何をやってるんですか?」

「えーと……探偵ごっこ」

 俺の注文したカツおにぎりを持って来てくれたセイハクは、この謎の光景に首を傾げてカエデに状況説明を求めている。

 

 ついでに俺も聞きたい。ナニコレ。

 

 

「私はやってませんじゃなくて! お前がこうしろって言ったんだろ!」

「事情聴取といえばカツ丼です! ツバキさんは何も分かってません!!」

「いや分からんわ!! お前の頭の中がどうなってるのか分からんわ、この頭メルヘンバカ!!」

 ジニアにホイホイ騙されてる奴だからバカだとは思ってたけど、ここまでよく分からないくらいバカだったとはな。

 

 

「良いから話せ。お前が犯人じゃないって説明してくれればそれで良いんだから」

「そこ、そこなんですよツバキ。逆に聞きますけど、もし貴方が犯人だった場合ここで自白しますか!? はい俺がうさ団子を食べましたとか言いますか!?」

 俺に詰め寄ってそう問い掛けるシーナ。

 

 そう言われると、確かにそうかもしれない。もし俺が犯人だとして「あなたが犯人ですか?」と言われて「はいそうです」なんて答えるバカはいない筈だ。

 

 

 事実「あなたはパンツを覗こうとしていましたか?」と答えられた場合、俺は「違います」と答える。真実がどうであれ、だ。

 

 

「なるほど、確かにそうね。事情聴取なんてしても、素直に答えてくれる犯人なんていないだろうし。でも、だったらどうしたら良いの? シーナ」

「分からないです!」

「何なのお前」

「でも、犯人が素直に自白しないのは今朝読んでいた本で知りました!」

「それはそうなんだけどな」

 そうなると、どうしたら犯人が素直に自白してくれるかを考えるべきなのか。しかし、どうしたら───

 

 

「───拷問、なんてどうでしょうか?」

 ふと、事の顛末を知る為に付いてきたヒノエさんがそんな言葉を落とす。俺達はセイハク含め、あまりにも恐ろしい発言に数秒間固まってしまっていた。

 

 

「例えば───」

「逃げろセイハクぅぅううう!!」

「うわぁぁぁぁぁああああああ!!!」

 嫌な予感がして俺は全力でセイハクを逃す。事情聴取はいけない。もっと効率的な方法を考えなければ。

 

 

「……そ、そうだ。こういう場合は誰がやったかじゃなく、誰がやってないかを考えるべきだと思う」

「なるほど、確かに犯人を探すよりその人が犯人じゃない証拠を探した方が簡単よね。流石ツバキ」

「確かに、その方が犯人以外を傷付けなくてすみますね」

 カエデが賛同してくれた事もあってか、ヒノエさんも嬉しそうにこの作戦に賛成してくれた。でも誰かが傷付くのは確定なんだね。

 

 

「そうなるとセイハクとコミツは白だな。そもそもこれは考えなくても分かる事だった」

「どうしてです?」

 俺の言葉に首を傾げるシーナ。このバカにも分かるように説明してやるか。

 

「セイハクとコミツはヨモギが言っていた通りお使いで茶屋に行っていた。知っての通り、我が里の名物うさ団子は巨大だ。俺の尻子玉よりでかい」

「尻子玉ってなに」

「カエデ、尻子玉というのはお尻から抜かれると死んじゃう臓器ですよ」

「なにそれ怖い!」

 そんな臓器はない。

 

 

「ヒノエさんのうさ団子を取って食べようとしたら、かなり時間が掛かるからな。ガキの二人にはまず無理だ。盗んで店の外に持ち出したとしても、里中で騒ぎになってるから誰かしらに目撃されてる。……犯人は、茶屋の中でしか事を起こしてないって訳だ」

 俺がキメ顔でそう言うと、ヒノエさんが「ツバキさんは聡明ですね!」と目を輝かせてくれる。もっと褒めて。

 

 

「凄いツバキ! 探偵みたいです!」

「ツバキ、本当に凄いわ。ハンターも畑仕事も出来て、探偵まで出来るなんて!」

「もっと褒めて良いよ」

 やべ、モテ期来ちゃったかも。

 

 

「でも天才のジニア様ならこんな事、事件が起きて直ぐに気が付きます!」

「うるせぇメルヘンジニアバカ。……てか、今日アイツ見掛けないけど何処に居るんだ?」

 いつもならこういう時、アイツは「面白そうな話してるね、僕も混ぜてよ」なんて言って話に入ってくるものなんだが。珍しい事もあるものだ。

 

 

「ジニアは今クエスト中よ」

 と、カエデの言葉。

 

「この大変な時に」

「そうよね。大変だわ」

 居ないものは居ないので、三バカ曰く天才で最強のジニア様の力は借りれそうにないな。

 

 

 なんて事を話をしながら、俺達は再び茶屋に戻る事にする。情報の整理もしたいし、ヨモギに聞きたい事もあるからだ。

 

 そして茶屋に戻る途中、茶屋の近くにある件の飴屋で───俺達はとある女性と出会う事になる。

 

 

「───男の子が女の子の前でそんなに泣くんじゃない」

「アヤメさん!」

 カエデが名前を呼びながら手を振る相手、白い髪に黒い鱗を使ったちょっと露出のエロい装備を着たその女性の名前はアヤメさん。

 

 彼女は飴屋の近くで震えて泣いていたセイハクを励ましていた。その隣で、泣きじゃくるセイハクを見て飴屋の看板娘───コミツも不安そうな顔をしている。

 なんかごめん。

 

 

「カエデか。アタシに何か用かい?」

「ツバキがちょっと聞きたい事があるみたいで。あ、ツバキ! 紹介するわ。彼女はアヤメさん。ハンターの先輩で、上位ハンターさんなのよ!」

 曰く、先輩の上位ハンター。

 

 

 上位ハンターとは、ハンターズギルドに認められたハンターの中でも選りすぐりのエリートハンター達の事だ。イズチ達の精鋭みたいな感覚に似ているかもしれない。

 俺達のような普通のハンターでは挑めない強敵や、俺達普通のハンターが倒せなかったモンスターの相手をする実力者である。

 

 俺はハンターですらないので先輩とかそういう問題ですらないけど。

 

 

「アンタが噂のツバキかい。話は聞いてるよ。アタシはアヤメ、宜しくね」

「きょ、恐縮です」

 顔立ちもスタイルもとても良い女性に握手を申し込まれて、俺は挙動不審になった。手が震える。

 

 

「アッハハ、そんなに緊張しないでおくれ。アタシなんかより凄いハンターは沢山いる。……それに、アタシは今ハンターとしての活動はしてないからね」

「と、言いますと?」

「怪我をしたんだ。恥ずかしいから、あまり深くは聞かないでおくれよ」

 俺から目を逸らしてそう言うアヤメさん。

 

 

 軽く話してくれたが、ハンターにとって大なり小なり怪我はハンター生命に関わる事が多い。きっと彼女は、見た目よりもずっと苦労しているのだと思った。

 

 

「……すみません。逆に、俺の話というのは?」

「アンタの自慢話さ。ツバキは凄いんだって、カエデが良くアタシに話してくれるからね」

 辞めて! 俺全然凄くないから! そもそもハンターじゃないから! 

 

「あのギルドマネージャーに秘密の依頼を貰うくらいなんだろう? 本当に凄いハンターなんだね」

 違います! じっちゃんにはただ世話になってるだけです! なんて、言える訳もなく俺は「あはは、そんな事ないですよ」とお茶を濁した。

 

 とりあえず話題を変えよう。

 

 

「……じゃなくて、話があるんですけど」

「良いけど、こんなアタシになんだい? 話って」

「実はですね───」

 カクカクジカジカ、と。

 アヤメさんに話を聞いた所、彼女が犯人ではないという結論に至ったのだが───彼女からはこの事件の真相を解き明かすかもしれないある重大な話を聞く事が出来た。

 

 

 それは───

 

 

「茶屋に寄った時、ヒノエさんの注文した皿の上を少し見たんだ。アタシの気のせいだったら悪いんだけど、その時皿の上にはうさ団子が一本しか乗ってなかった。そして、アタシが茶屋を去った後でこの騒ぎが起き始めたんだよ。……つまり、盗まれたうさ団子はアタシが見たうさ団子って事だろう?」

「確かに、そうなるな」

「そのうさ団子は───」

「そのうさ団子は?」

 それは───

 

 

「───そのうさ団子は確か、トリモ茶だんごだったね」

 ───それは、盗まれた団子の種類である。




うさ団子食べたい。
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