落とし穴。
それは、狩人の叡智が作り出した罠───トラップである。
起動すると強力な火薬により地面を吹き飛ばして穴を作り、丈夫なツタの葉とクモの巣で作られたネットを展開してカモフラージュ。
その上を通ったモンスターは穴に落ち、もがけばもがく程に身体をネットに絡まれて動きを封じるという優れものだ。
ただし、体重の重い大型モンスターにしか使用出来ない。
俺がこれを知ったのは、少し後のお話。
「ツバキ、何してるの?」
「見れば分かるだろ。落とし穴を使うんだよ」
大社跡。
俺はカエデと共に、イズチを一匹討伐するというクエストを受けて再びこの地を訪れている。
イズチはこの地に多く生息するモンスターだが、数が増え過ぎると里の近くまで来てしまう事があるので、こうして度々ハンターに討伐してもらっているらしい。俺は農家なので初めて知った。
これが、人が生きる為に命を奪うという意味である。
「落とし穴って……相手はイズチだけど?」
「何か問題でも?」
スコップ(農業用)で人間二人くらい埋められそうな穴を掘って、ネット(農業用)でカモフラージュ。
我ながら完璧な落とし穴だ。疲れたけど。
ところで俺はこの時ハンターが使う
ただその言葉だけは聞いた事があるので、こうして実践しているのである。
「良いか、カエデ。作戦はこうだ。まず俺が囮になってイズチを落とし穴にハメる。お前が少し攻撃する、俺がトドメを刺す」
「え?」
「はい復唱!」
「ツバキが囮になってイズチを落とし穴に落として、私が攻撃してツバキが倒す?」
「そういう事!」
「ちょっと待って!? イズチと戦うのよね? オサイズチと戦う訳じゃないわよね?」
オサイズチってなんですか。大きいイズチですか。知らんけど。
「……カエデ、よく聞けよ」
「え、はい」
「イズチは確かに小型モンスターだ。だけどな、それでも全長は俺達より大きい。とても恐ろしいモンスターだ。攻撃されたら怪我をする」
「それは確かにそうだけど」
「ハンターたるもの、危険はつきものだ。だがしかし!! 排除出来る危険は排除する!! それが真のハンターってやつだろ!!」
「つ、ツバキ……。そうね! その通りだわ! 流石ツバキ!!」
俺は後に思った。
もしかしなくてもカエデはバカかもしれない、と。
「ごめんなさい、ツバキ。私ハンターとしてなにも分かってなかったみたい」
「気にするな、新米ハンターなんてそんなもんさ」
俺はハンターですらないけどな。
「これから色々覚えていけば良い」
なんでこんなに偉そうなの俺。
「ありがとう、ツバキ。私、勉強は苦手だから今度ツバキにハンターとして色々教えて貰おうかしら」
「おう、任せろ。なんなら次の満月の日の夜にでも月見しながら教えてやるよ。月明かりに照らされながら勉強ってのもいいもんだぜ」
「ふふ、ありがとうツバキ」
「任せとけって。俺がハンターとしての勉学を手取り足取り教えてやるよ。とりあえず、クエストを進めるか」
そんな訳で───
【メインターゲットを達成しました】
◆ ◆ ◆
「───ツバキさんはバカなんですか?」
───そんな訳で、俺はイオリに罵倒されてます。
「違うんです。そうじゃないんです。許して下さい」
土下座。
それは、付近の集落に伝統される謝罪の方法だ。膝から座り込んで頭を地面に擦り付ける。許して下さい。
「ハンターの知識がないのに、ハンターの知識をカエデさんに教えるって、そんな事出来る訳ないじゃないですか」
「その通りでございます」
「イオリ、その辺にしてあげよう。愛弟子はバカなんだ」
「さてはあんた俺の事嫌いだな?」
「大好きだとも!」
「それはそれでキモいわ!!」
「ツバキさん正座」
「はい!!」
話を戻して。
俺の口が軽いせいで、後日満月の夜にカエデと月見をしながらお勉強会をする事になりました。
俺がカエデに教わる訳ではなく、俺がカエデに教える訳である。考えれば考える程意味が分からない。だって俺ハンターじゃないし。農家だし。農業の事なら教えてあげるけど。
「それで僕が呼ばれた訳だね」
「なんでコイツ居んの?」
「もしかしてツー君僕の事嫌いなの? 泣くよ?」
「泣け」
「うわぁぁぁぁぁん!!!!」
「やかましいわ!!!!」
今広場には俺とイオリと教官、そしてジニアが居る。あとオトモ達。
問題が一つ片付いたと思ったらまた別の問題で協力してもらう事になったので、イオリには頭が上がらない。
「うさ団子三本ですからね」
「お前は聖人か」
「ツー君、僕もうさ団子で良いよ」
「お前は帰れ」
「愛弟子!」
「教官はもう少し役に立って」
そんな訳で今日は勉強会だ。
「───そもそも落とし穴って大型モンスターにしか使わないの!? じゃあ囮が居ない時はどうやってイズチを倒すの!?」
始まった勉強会。
役に立ってと言って傷付いてしまったのか、ウツシ教官が本気を出してくる。
「二人の狩りをこっそり見ていたけど、イズチ一匹に毎回あんな事をしていたら労力が報酬と釣り合わなくなってしまうよ」
「こっそり見てたの。気配なかったけど。こわ。もしかしてウツシ教官凄い?」
「ふふん」
機嫌を取り戻したよこの人。単純か。
「と、いう訳で今回はハンターが使うアイテムについて勉強しよう! さぁ、愛弟子! 準備は良いかい!」
「なんかよく分からんがヨシ!」
まずは落とし穴。
これは教官曰く、大型モンスターの動きを止めてチャンスを作るアイテムだとか。後は弱ったモンスターの動きを止めて捕獲用麻酔玉というアイテムで捕獲する事も出来る。
決して農業用のスコップで穴掘って農業用のネットで作るような物はハンターの使う落とし穴というアイテムではない。詳しくはトラップツールを触ろうね。
「次は回復薬ですよ」
そう言ってイオリが持ってきたのは、アオキノコと薬草だった。薬草は俺の畑でも作ってる。傷口の手当てにピッタリの薬草だ。
「回復薬、とは」
「こちらを擦り潰します。こちらも擦り潰します。均等に混ぜて、水で解して完成だよ」
なんかキモい色の水出てきたんだけど。抹茶をグロくした感じの奴。
「回復薬はその名の通り、主に体力回復が目的のアイテムだね。怪我をした時なんかは、これを飲んでおくと治りが早くなる訳だ! こういったアイテムの
ウツシ教官曰く、これを飲むと怪我が治るらしい。
劇薬ですか。
「ツー君、次々。これは携帯食料だよ」
そう言ってジニアが取り出したのは長方形の固形物である。これは確か非常食的な扱いで、狩りの時に緊急でスタミナを回復する為に食べる物だったか。
「こんな感じのお菓子あったよな。なんだっけ」
「食べてみる?」
「頂きま───不味。なにこれ、お前の手料理? 才能ないよ」
「泣くよ?」
「やめて」
「分かった」
「物分かりよすぎん?」
しかし不味い。こう、口の中の水分を全て持っていかれそうなパサパサ感がする食べ物だ。なにより味がない。
もう少しこうお菓子的な食べ物にしても良いじゃないか。でもそうなると緊急時じゃなくても食べてしまうかもしれないし、このくらいの方が良いのかもしれない。
「狩場ではゆっくりと食事出来ない事もあるからね。こういう、いざという時の物も必要なんだ! 愛弟子はこんがり肉は焼けるかい?」
「俺は近所のおばちゃん達にこんがり肉マイスターと言われた男だぜ」
嘘である。
「狩場でゆっくり時間が取れる時、スタミナを回復するのに持ってこいなのがこのこんがり肉だ! 愛弟子も今から焼いてみるかい?」
そう言いながら肉焼きセットに生肉をセットするウツシ教官。それに習って、俺達も肉焼きの練習をする事にした。
「「「上手に焼けました!」」」
【こんがり肉が出来た】
三人は肉焼きセットから肉を持ち上げながら、高らかにそう口にする。その言葉通り、三人の持った肉は表面がこんがりと小麦色に染まっていて美味しそうに焼けていた。
しかし、だが、甘い。
俺が目指すのはこんがり肉ではない。究極のこんがり肉───こんがり肉Gだ。
それはこんがり肉を超えたこんがり肉である。
最高の焼き加減、最高のタイミングで焼き上げるのだ。そう、そのタイミングこそ───
「───今だ!!」
【コゲ肉になってしまった】
世の中そんなに簡単ではない。
「それは?」
「これは砥石だ! 切れ味の落ちた武器を研いで、その切れ味を復活させる事が出来るアイテムだよ」
「ほほぉ」
「武器によって使い方も変わるからね。とりあえず自分の太刀を研いでみよう!」
「僕のランスも研いでみるかい?」
「ボクのチャージアックスも貸しますよ」
切れ味を回復させる砥石は刃を使う武器にとって確かに大切な物らしい。ところで───
「───ハンマーとか狩猟笛ってどう研ぐの?」
「「「……」」」
「黙らないで? ねぇ、気になるから黙らないで!?」
「地方によってはボウガンに砥石を使う事もあるんだ!」
「もう意味分からんけど!?」
砥石とは。
「これは?」
「これは閃光玉と音爆弾ですね」
今度はイオリが掌サイズの球体を二つ持ってくる。大きさ的に投げやすそうだが、こんな物モンスターに投げつけた所で大したダメージは与えられなそうだ。
「使ってみると良いですよ。さっきロンディーネさんが、面白そうなことをしているじゃないか私にも協力させて欲しい───と、渡してくれた物なので」
「それはありがたい話で。どう使うんだ」
「投げてみてください」
「投げるだけとな」
言われた通り、俺は手渡された球体を一つ地面に投げ付ける。同時に三人が耳を塞いだのを見て、俺はハッとしたが時既に遅し。
「うるせぇぇえええ!!」
地面に当たった球体は大きな金切音を上げて破裂した。
読んで文字の如く、音爆弾はこうやって大きな音を立てる事が出来るアイテムらしい。つまり、閃光玉は───
「目が!! 目がぁぁぁああああ!!」
───こういう事である。
「ツバキさん分かってるのに目を開いてましたよね」
「ツー君はノリを分かっているんだよ」
「流石だ! 愛弟子!」
やかましい。
「ノリが分かっていても洒落にならないアイテムもありますから、気を付けて下さいね」
「例えば?」
「毒投げクナイ、麻痺投げクナイは身体の大きなモンスターに効くような危険なアイテムですから。間違って自分に当たったりしたら死にます」
「普通に怖い」
「キノコだって便利な物ばかりでもないからね。毒テングダケなんかはその名の通り毒キノコだよ」
自然界にあるアイテムや、人間が作り出したアイテム。それらを掛け合わせ───調合したアイテム。
ハンターはそれらを臨機応変に選んで狩りを有利に進めていくのだ。
アイテムは武器や防具と同じくハンターにとって大切な物なのである。それを今日は学ぶ事が出来た。
「それじゃ最後に、小タル爆弾と大タル爆弾の使い方を覚えよう!」
そう言って教官は広場の奥から何やら大きなタルと小さなタルを数個持ってくる。
タル爆弾というのだから中に火薬でも入ったタルという事だろうか。
「イオリ! 愛弟子に小タル爆弾の使い方を教えてあげてくれ!」
「火を付けて投げます」
「単純!?」
「火を付けてその場に置いておいても良いんですけど、投げた方が確実ですから」
「とか言いながら徐ろに爆弾に火を付けるな。笑顔で俺を見るな。危ないからそれ起きなさい」
イオリが火のついた小タル爆弾を地面に置くと、数秒後にそれは火を上げながら破裂した。
大タル爆弾の威力は曰く小タル爆弾の比ではないらしい。火を付けたらドカンだそうで。今日は実物を見るだけにしておこう。
「しかし、俺もこんなデカい大タル爆弾とか使って狩りをする時が来るのか。これどうやって運ぶんだよ」
なんて言いながら、俺は大タル爆弾の重さを確かめようと、足を上げて軽くタルを蹴った。
「ツバキさん!?」
「愛弟子!?」
「ツー君!?」
「ん───」
爆発。
大タル爆弾。
衝撃によって爆発する爆弾。
その威力は絶大。
「ぎゃぁぁぁぁあああああ!!!」
「「「爆発オチなんて最低!!!」」」
大タル爆弾は蹴るだけでも爆発します。取り扱いには注意しようね。
その日、里では何処かで爆発事件が起きたと騒ぎになった。
爆発オチです。
はじめまして()
匿名でこの作品を投稿していました、皇我リキともうします。ハーメルンでモンハン小説を漁ってる人は名前だけならどこかで見たことがあるかもしれません。
モンスターハンターライズの発売日から更新していたこの作品も、もう六話というそれなりの話数になってしまいました。時の流れは不思議ですね。
お気に入りも五十人を超え、評価も後一件で色が付くところまで来させてもらいました。ありがとうございます。
匿名で投稿していた理由は特に深い訳でもないのですが、とりあえず匿名解除したのでご挨拶させて頂きました。
ギャグ小説ですので気ままに読んで頂ければ幸いです。それでは、読了ありがとうございました。