「狼男は五感が鋭い」
周知の事実だが、相方と暮らしていると改めて感じる。
アンジョーは鼻がめちゃくちゃいい。味覚にも敏感だから、食べられない物がよくある。
視力も高い。見えすぎて酔うらしく、いつもかけてるのはそれを減らすためのメガネらしい。
アンジョーが特に敏感なのは聴覚だ。
他の狼男より耳が大きいらしい。隠しているのも、聞こえ過ぎるからだって言ってた。
狼男は基本、耳としっぽをしまっている。そうやって、人間界に溶け込んで暮らしている。ただウチのジョーさんはしっぽこそ隠せるけどどうしても耳がしまえないよう(ポンコツ具合は筋金入りみたい)で、髪に上手く紛れ込ませて隠している。努力の方向を間違えてると俺は思う。
そんなアンジョーも、寝る時は「MPが減るから」とか何とか言ってしっぽと耳を投げ出して寝ている。
別段、俺も棺桶で寝るから特に支障はなく、気に止める事もしていなかった。
ルームシェアを初めてしばらくした頃、朝棺桶から出るとベッドにアンジョーの姿がなかった。なんか用事あったんかな、と思いつつ、俺の第六感がやけにざわついて落ち着かなかった。
アンジョーが帰ってきたのはそれから3日後だった。朝起きると、泥だらけでベッドに横たわっていた。
俺は顔面蒼白でアンジョーを揺さぶると、いつものように大あくびをしながら目を覚ました。
肩を撫で下ろしたが、まず何処に行ってたかが先だ。3日間、何の連絡も寄越さなかった理由を聞き出さないといけない。
が、アンジョーはこの3日間の事を何も覚えていなかった。
「なんか夢を見てた気がする。誰かに呼ばれてて、、、」
3日記憶が飛ぶなんて、たとえアンジョーだろうと異常だ。この話を司やメイカ、ドーラ、ヤカ、、、とにかく色んな奴に話したが、みんな夢遊病だとか、神隠しだとか、挙句の果ては作り話だとか言う。まぁ、普通はそう思うとは思うけど、、、。
アンジョーは、狼男だ。
幸い俺は頭がいい。
ひとつの仮説を建てた。
それが正しければ、あれから1ヶ月後の今日
アンジョーは前回宜しく行方不明になる。
11:46
今日は収録やらなんやら、外に行く仕事が多かった。2人でクタクタになりながら狭い部屋に帰る。
「お腹空いた、、、」
「何食いたい?」
「肉」
「んぁ、、、生姜焼きでいい?」
「いいよ」
俺も腹が減ってるから、昨日の鍋の残りで
ササッと見繕って食べる。
「ん、おいひい。いつもより美味しい。」
「そうか?変わんねぇよ?」
「コーサカにはわかんないかぁ」
「あ?」
んだコイツ。そんな褒めたって俺も別に上手くいったとも思ってねーけど。
なんならかなり手抜きで作ったけど。
まぁ、こいつは好きなもんならなんでも美味いって言うからいつもどうりか。
12:36
「熱っ!!」
風呂場からアンジョーの情けない声が聞こえた。
「んぁー?どしたー?」
「いや!お湯が熱くて!」
ふと給湯器を確認したが、そこまで熱がる温度でもない。
「そーお?そんな熱い?」
「、、、そうでも無いかも!」
お騒がせポンがよ。心配させやがって。
ま、それならいい。いつもの事。
けど、俺の中で、パズルのピースがひとつずつハマって、仮説が確信へと近づいていた。
1:48
そろそろ月も登りきり、普段なら俺も棺桶に入る頃だが
「コーサカ、寝ないの?」
「んー。まだちょっとキリいいとこまで行けなくて。」
「仕事?」
「そう。急に頼まれちゃってさ。」
「ふぅん、、、」
イヤホンをつけてパソコンに向かってカタカタと作業する俺を横目で見ながら、アンジョーは自分のベッドに寝転んだ。
「そっかぁ、じゃ、俺先に寝るね」
「はーい。」
「部屋の電気、消しといてね。」
「アンジョーじゃないんだから消すわ」
「えぇ、、、?俺消し忘れた事ないけどなぁ、、、あったかな、、、?」
ブツブツ文句を言いながら、アンジョーはいつものように耳としっぽを投げ出して、布団に潜り込んだ。
1:58
しばらくゴソゴソしてたアンジョーが、唸るようになった。
「んあぁ、、、ん゛ん、、、あ゛〜、、、」
「どした」
「なぁんか、、、寝れなくて、、、」
「珍しいじゃん。昼夜逆転もしてなかったのに。」
「う〜ん、、、なんか落ち着かないんだよね。ソワソワしちゃって、、、疼くというか」
「、、、コーヒー飲んだ?」
「いやぁ〜?飲んでないと思うけど、、、飲んでた?」
「いいや?」
このアンジョーの発言で、俺の中の全てのピースがハマり、確信した。
あとは、その時が来るのを待つだけ、、、
2:10
しばらくモゾモゾしていたアンジョーが動かなくなった。
しっぽを触るとパッと払い除けてくるけど
「寝た?」
、、、寝たか。
あんだけゴソゴソやってたのに秒で寝るんだから、所詮はアンジョーって感じだ。
2:13
さてと。
睡眠の妨げにならないよう、そっと電気を消す。これで部屋を照らすのは月明かりだけになったが、俺には十分だ。
俺の赤い目はかなり夜目が利く。
時計の針の音とアンジョーの寝息をBGMにして、俺の独り言が部屋に響く。
「今のところ、とくに問題はねぇな。
俺の思惑通りに全て進んでる。」
今日はいつも以上に月明かりが眩しい。
空に昇った満月が、じっとりとアンジョーを見つめていた。
ただ、リズムを刻みながら時間が過ぎていった。
「ねむ」
1時間は経っただろうか?
重力に負けてぺったり頭に張り付いているアンジョーの耳を見つめながら目を擦った。
2:59
目を閉じ瞼を擦って
3:00
目を開いた時だった。
さっきまでヘタっていた耳が、
ピンと立っていた。
「アンジョー?」
返事はない。
「起きた?アンジョー?」
アンジョーは背中を向けたまま、ゆっくりと起き上がった。
「、、、だれ?」
「アンジョー」
「、、、わからない」
「おい」
「、、、わかった」
「ジョーさん!」
「今行く」
「行くな!!!!」
立ち上がったアンジョーを必死に押し返す。
くっそ、無駄に筋肉ばっかつけやがって!!脳みそ鍛えろこのポンコツ!!
「コーサカ、どいて」
「俺の事は認識してんだな?!」
「どいて」
「教えろよ、誰に呼ばれてるんだ?」
「わからない」
「知らねぇやつの所に言って何すんだよ!」
「、、、わからないけど、呼んでるんだよ。行かなきゃ。」
「誰も呼んでねぇよ!!!座れ!!俺の顔見ろ!!!」
見ない。ビクともしない。
アンジョーの目は、俺の知っている目じゃなかった。開ききった瞳孔、青白く月の光を反射する虹彩。
「俺にしか聞こえないなら、尚更行かないと」
「行ったらまた音信不通になんだろうが!!!」
「ならないよ」
「なってただろうが!!!馬鹿!!!!」
「コーサカ」
「行くな!!!!誰も呼んでねぇから!!!!」
「ねぇ」
「お前なんか誰も呼ばねぇよ!!!!」
「呼んどるから行かなあかんねん!!!!」
部屋がビリビリと響いた。
初めて聞くアンジョーの怒声に、俺の中で何かが切れる音がした。
床に鼻血が垂れる。
振り下ろした右手拳は、アンジョーの左頬を思いきり殴っていた。ものすごい速さで脳が動き、ショート寸前。鼻血が出ていた。
頭に昇った血は降りない。
俺はその後の事を覚えていない。
朝目が覚めた時には棺桶の中で、慌てて飛び起きるとアンジョーはいつも通り布団にしっぽを投げ出して寝ていた。
「、、、アンジョー」
「んん、、、?
、、、あ、コーサカ、良かった。起きてくれた、、、」
アンジョーの頬には湿布が貼ってあった。
夢ではない、、、
「ジョーさん」
「ん?」
「ごめん。殴って。」
「コーサカ」
「え?」
「殴ってくれてありがとう。」
、、、は?
「あれ、なんか今のマゾみたいだったな、、、w えーっと、違くて。殴ってくれてって言うのは、、、その、、、正気!正気に戻してくれてありがとうって意味。あと、俺からも、ごめん。あの時俺、コーサカの事、まるで視界に入ってなくて。俺にもよく分からないけど、とにかく行かなきゃいけない衝動に駆られてて、、、」
「まってまって。俺お前殴った後の記憶ないんだけど」
「え???」
「俺なんか言ってた?」
「ええええええ?!?!?!あの、え?!?!忘れた?!?!俺めちゃくちゃ嬉しかったのに!!!!」
「ちょっと俺の記憶にない俺の事で喜ぶのやめてもらっていいっすか?」
「えええ、、、まじでぇ、、、」
予期せぬことが起こりはしたけど
今こうやって満月を乗り切れてるという事は、なんとか正気に戻ったっつー事か
アンジョーの言ってる話が気になるところではあるが、とりあえず満月の話は身内みんなにしとかなくてはいけない。
その日、アンジョーは耳栓を買ってきてドヤ顔で俺に見せつけてきた。
やっぱバカだろこいつ、、、