みんな知ってると思うけど、俺ら狼男は五感が鋭い。
俺も、納豆とかブルーチーズとか、変な匂いする物は基本苦手だし、目もいいから視力を落とすためにメガネをかけてる。
特に俺は耳がいい。みんなより耳が大きいからって母さんに言われたから、多分そのせい。小学生の頃、みんなに聞こえない音が聞こえて気持ち悪がられていじめられたことがあってから、なんとか髪に紛れ込ませて隠してる。
他の狼男みたいに隠せれたらいいんだけど、しっぽは隠せるのに、どうしても耳だけ隠せなくて、、、。
大人になって、歌うのが好きだったからバンド組んで、コーサカと知り合って、上京して一緒に暮らすようになって、それからしばらくしたくらいに、変な夢を見た。
真っ暗な所で、ずっと誰かに呼ばれてて。
気がついたらベッドの上で、コーサカにしばかれて目が覚めた。
コーサカ曰く「まる3日音信不通だった」って言われたけど、俺はなんも覚えてなくて。
確かに体はめちゃくちゃ疲れてたし、泥だらけになってた。足も切り傷だらけで、変だなぁとはおもったけど、バンドとか仕事の事とかもあったし、その事は特に気にしてなかった、というか、気にする暇がなかった。
周りにも色々聞かれたけど、覚えてないから何にも答えれなかった。
そんな事があってから、大体1ヶ月くらいたった。
今日はなんかすこぶる感が良くて、撮影の時のクイズも早く反応出来た。ロシアンシューがいつも以上にめちゃくちゃ辛かったのはしんどかったけど。とにかく、色々引っ張り回されて、すごく疲れる1日だった。
夜、コーサカが生姜焼きを作ってくれた。
めっちゃ美味しかったけど、コーサカはそうでも無いって言ってた。
そんなことないけどなぁ。
そう言えば、風呂場のお湯もめちゃくちゃ熱く感じたし(そうでもなかったけど)、今日はなんか五感がやたら敏感な気がする、、、。
やらないといけないことも終わったし、そろそろ寝ようかなと思ったら、まだコーサカがパソコンとにらめっこしていた。
「コーサカ、寝ないの?」
「んー。まだちょっとキリいいとこまで行けなくて。」
「仕事?」
「そう。急に頼まれちゃってさ。」
「ふぅん、、、」
こんな時間に?珍しいな。
今日は1日ずっとこんを詰めたよな顔してたし、無理して欲しくないな。まぁそんなこと言うとまたどやされるだろうから、俺はもう寝ようかな。
「そっかぁ、じゃ、俺先に寝るね」
「はーい。」
「部屋の電気、消しといてね。」
「アンジョーじゃないんだから消すわ」
「えぇ、、、?俺消し忘れた事ないけどなぁ、、、あったかな、、、?」
いやぁ、、、ないと思うけど、、、
なんて思いながら、隠しておいた耳としっぽを出す。コーサカにはMPが〜とか言ったけど、俺ら狼男は定期的に少しでも術は解いておかないと狼の姿になる方法がわからなくなってしまう。だから、寝る時だけでもこの姿で居るようにしてる。
にしても、今日はなんかやたら虫の居所が悪い。妙に寝苦しくて、というか、寝付けない。うんうん唸ってたらコーサカに心配されてしまった。
「なぁんか、、、寝れなくて、、、」
「珍しいじゃん。昼夜逆転もしてなかったのに。」
「う〜ん、、、なんか落ち着かないんだよね。ソワソワしちゃって、、、疼くというか」
「、、、コーヒー飲んだ?」
「いやぁ〜?飲んでないと思うけど、、、飲んでた?」
「いいや?」
今日1日一緒にいたコーサカが飲んでないって言うなら飲んでないな。なんでかな、、、
寝付けないと言いつつ、今日あったことを振り返りながら寝ていると、気がついたらまた真っ暗な闇の中に1人で立っていた。
(この夢、久しぶりに見たな、、、)
1ヶ月前に見た夢と同じだ。
そうだ、今日はちょっと探索してみよう。
(、、、どこまで行っても暗闇だ、、、)
体は水の中を歩いてるように重いし、音も聞こえない。どっちが上で、どっちが下かもわからなくなってきた。
(やめとこ、、、)
そう思った時だった。
『おいで』
(この声、、、!)
『おいで』
「、、、だれ?」
『今どこにいるの?』
「、、、わからない」
『ねぇ、こっちにおいでよ。』
「、、、わかった」
『はやく!』
「今行く」
行かなきゃ。
声のする方へ。
早く行かなきゃいけない。
早く。
行かないと。
行かなきゃ
行かなきゃ
行かなきゃ
行かなきゃ
行かなきゃ
行かなきゃ
行かなきゃ
行かなきゃ
行かなきゃ
行かなきゃ
行かなきゃ
行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ
行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ
行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ
行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ
「行くな!!!!」
「コーサカ、どいて」
「俺の事は認識してんだな?!」
「どいて」
「教えろよ、誰に呼ばれてるんだ?」
「わからない」
「知らねぇやつの所に言って何すんだよ!」
「、、、わからないけど、呼んでるんだよ。行かなきゃ。」
「誰も呼んでねぇよ!!!座れ!!俺の顔見ろ!!!」
「俺にしか聞こえないなら、尚更行かないと」
「行ったらまた音信不通になんだろうが!!!」
「ならないよ」
「なってただろうが!!!馬鹿!!!!」
「コーサカ」
「行くな!!!!誰も呼んでねぇから!!!!」
「ねぇ」
「お前なんか誰も呼ばねぇよ!!!!」
「呼んどるから行かなあかんねん!!!!」
いきなり、左頬に強い痛みを感じた。
ハッとなって前を向くと、顔を真っ赤にしたコーサカが、拳を振り下ろしたまま固まっていた。
コーサカの鼻から、鼻血が垂れていた。
殴られた俺も、鼻血が出ていた。
しばらく沈黙が続いた。
「こ、コーサカ、、、?」
「、、、」
「鼻血、、、出てるよ、、、?」
「、、、かよ、、、」
「え?ごめん、なんて」
「俺じゃ役不足かよ!!!!」
「!!」
「呼んでるって誰がだよ!!!今お前の名前呼んでんのは俺だけなんだよ!!!今日は満月だし、お前は狼男で、俺には聞こえない声が聞こえてんのかもしれねぇ!!!ほんとに誰かがお前の事呼んでんのかもしれねぇけど!!!!てめぇの相棒は俺だけだし、俺の相棒もてめぇだけなんだよ!!!!俺らの仲はてめぇの本能に引き裂かれるようなちゃちなもんだったんかよ!!!!ちげぇだろ!!!!!俺らを求めてるヤツらがいる!!!!!俺らの音楽を!!!!!必要としてるヤツらがいんだよ!!!!!そんな奴らの声に!!!!!お前の本能は今歯向かおうとしてるって事が分かんねぇのか!!!!」
「目ェ覚ませよアンジョー!!!!!」
今まで、何度もコーサカの怒鳴り声は聞いてきた。
けど。
こんな風に
大粒の涙を零しながら泣き叫ぶコーサカは初めて見た。
俺、何をしようとしてたんだっけ?
『邪魔しないで』
「!!、、、また、声が」
「、、、なんて言ってんだよ」
「『邪魔しないで』って」
「邪魔してんのはお前らの方だろ!!!!!俺らからアンジョーを奪うな!!!!!同族かなんかしらねぇけど!!!」
「こいつは俺のだ!!!!!」
コーサカ、、、!!
そうだ。俺はコーサカの相棒だ。
MZMは、コーサカと、俺、2人がいてやっとなれるものだ。俺らの道を、こんな本能に揺さぶられる筋合いはない。
「俺は行かない!!!!!」
『!!』
「たとえ同族でも、俺はコーサカにつく!!!コーサカの隣に立てるのは俺だけだ!!!!アンジョーだけだから!!!!」
だから
「だからもう、俺を呼ばないでくれ!!!!」
目の前で膝から崩れ落ちるコーサカを慌てて支える。気絶したのかわかんないけど、何だか遠くに連れていかれてしまうようで、怖くなって棺桶の中に閉じ込めた。
コーサカに殴られた頬が急に痛くなって、アザになる前に湿布を貼っておいた。
それから、声は聞こえなくなった。
朝、先に目が覚めたコーサカにしばかれて目が覚めた。
「あ、コーサカ、良かった。起きてくれた、、、」
ほっと肩を撫で下ろした。
このまま起きなかったらどうしようとか考えてたら、中々寝付けなかったんだ。
結局寝てたけど。
「ジョーさん」
深刻そうな顔でコーサカが俺の名前を呼んだ。
「ん?」
「ごめん。殴って。」
そうだ、俺、コーサカに殴られたんだった。いや、殴って、目を覚まさせてくれたんだ。
「コーサカ」
「え?」
「殴ってくれてありがとう。」
コーサカが眉をひそめたのを見て、自分の失言に気がついた。
「あれ、なんか今のマゾみたいだったな、、、w えーっと、違くて。殴ってくれてって言うのは、、、その、、、正気!正気に戻してくれてありがとうって意味。あと、俺からも、ごめん。あの時俺、コーサカの事、まるで視界に入ってなくて。俺にもよく分からないけど、とにかく行かなきゃいけない衝動に駆られてて、、、」
「まってまって。俺お前殴った後の記憶ないんだけど」
え?
まじで?
困惑する俺に、コーサカが続けた。
「俺なんか言ってた?」
「ええええええ?!?!?!あの、え?!?!忘れた?!?!俺めちゃくちゃ嬉しかったのに!!!!」
「ちょっと俺の記憶にない俺の事で喜ぶのやめてもらっていいっすか?」
「えええ、、、まじでぇ、、、」
俺を殴った後のことを、コーサカは深く聞いてこなかった。
俺も、あれはコーサカの真の言葉だったんだって事を改めて自覚して、心の奥に閉まっておくことにした。
その日、俺はまたあの声が聞こえてしまわないよう、耳栓を買ってコーサカに見せると、コーサカはいつものように呆れ顔出俺の話を聞いていた。
俺は今、すこぶる幸せだ。