フォースとして歩み出す、第11話である!
「まさか、ミシェルさんとフレンド登録は愚か、フォースメンバーに加わってくれる事になるとはね……。世の中、本当に分からないな……」
「僕、何だか夢を見ている気分です……。というより、こんな簡単に事が運んでしまって、ちょっとバチが当たらないか心配になりました……」
「オラも同じ意見だべよ……」
セントラル・ディメンションに帰還し、システムベースで自分達の機体を修復しながら、ケイ達は真横に視線を移す。
彼等が見つめる先には、見るからに高級品だと分かる虎の毛皮のマットレスを敷き、其の上に座りながら特注品のティーセットで、ブレイクタイムを楽しむ御嬢様ダイバーが居た。
彼女こそが、嘗てGBNで行われた『大規模狙撃大会』にて、現チャンピオンを含めた数多くのチャレンジャーを押さえ、見事『総合優勝』を果たした『千里の狙撃手』の異名を抱く存在、ダイバーネーム『ミシェル』其の人である。
「ケイ様、これは現実です。私がフォースメンバーとして加わるからには、皆様に勝利をもたらす事を御約束致しますわ」
自信に満ちた瞳で、ミシェルはそう言い切る。此処まで頼もしいと、頼りきりにしてしまいそうになり、彼女の負担を減らす立ち回りをしなくてはと、ケイは気合いを入れた。
と━━━━━━━
「お、居た居た。アキト~♪」
ミシェル以外の者達の耳に聞いた声が聞こえてきて、其の方角に視線を移す。其処には黒茶色の髪と、左側に大きな渦巻き型のアホ毛、青縁のグルグル伊達眼鏡に、ブカブカ袖の科学者風白衣と黒ジーンズ、スニーカーシューズを履く、身長はアキトと同じ程度の美少年である。
トテトテとアキトに近付いていき、抱き付いて頬を擦り寄せる其の少年に、ケイとカンタは頭に?マークを浮かべ。
ミシェルは、2人の行動に顔と頬を赤らめ、鼻息と呼吸が荒々しくなり。
アキトは「もう、兄さんったら……」と恥ずかしそうに、其の美少年の頭を撫でた。
「兄さん?……えっまさか」
「もじがじで……『國弘ざん』べが!?」
驚くカンタに対し、美少年は「おい、ネトゲで実名はNGだぞ」と、当然とも言えるツッコミを放ったのであった………
**********************
「コホン。……ケイとカンタは此方じゃ初めましてになるな。では、改めまして━━━━俺は『ラルク』、アキトの兄で3割ファイターの7割ビルダーなダイバーだ。よろしくな」
ブランブランと白衣の袖を揺らし、其れに同調してグワングワンとアホ毛が揺れる、國弘ことラルクは3人に自己紹介を行う。
「兄さん兄さん。此方はミシェルさん、僕達のフォースに入ってくれることになった、千里の狙撃手さんなんです!」
ミシェルを紹介するアキトに、ラルクは「へ~………」と彼女を見つめ。其の直後、千里の狙撃手というワードで「ファッ!?」という、すっとんきょうな声を上げた。
「え、何で…?何で狙撃大会でチャンピオンに勝った、凄腕ダイバーをフォースに迎え入れられたんだ…?」
アキトに抱き付き、代わり番こで彼の頭を撫でるラルクは、当の本人に説明を求める。そんなミシェルは、2人の仲睦まじい光景に口元が弛みきり、しかし直ぐに表情筋を戻し、事の端末を簡単に語った。
「ケイ様が目視どころか、センサー機器を使わず、私の居場所を御当てになられたからに他なりませんわ。私もまさか、見付かるなんて思いもしませんでしたから」
ティーカップの紅茶を飲み干し、ふぅ…と一息付いたミシェル。
「ケイ、お前さぁ……」
怪しいとラルクはジト目でケイを見つめる。そんな彼に対して、ケイはどうしたかというと……
「えっと、その………ごめんなさい!」
直角90度の思いっきり頭を下げ、謝罪の言葉を放ったのである。其の言動にラルクは『真面目か!』と、ツッコミを入れた。
「はぁ……。取り敢えず、家のフォースにとんでもない実力者が入る事が、既に決まった訳か……。で、ケイ。フォースの指針とか有るのか?」
フォースを組む際、何かしらの指針━━つまりは『目標』を設ける事も大切になる。簡単な事や難しい事、無数のフォースがあるように、各々の指針もまた千差万別。
キツすぎず、弛みすぎず。そんな指針が無いかと、一生懸命に考えたケイだったが、自分よりもフォースメンバーの事を大事にしたいと思い、カンタ達にこう言った。
「う~ん……『皆のやりたい事やリアルを優先』する感じが良いなって思ってる。後は……『色んなダイバーと交流やバトル』してみたい。
フォース戦は、どうしても参加出来ない時や事情がある場合は、事前にメンバーに連絡を入れて、他のメンバーで調整する感じにしたいと思ってる」
ケイには現在、『唯一無二のダイバーになる』という目標がある。しかし今の自分は、まだまだGBNを知らなすぎている。先ずは見解を広めつつも、メンバー達のやりたい事を優先していく事にしたのだ。
「リアルと、自分がやりたい事を優先……か。うん、悪くないな」
「お店の事とかで忙しくなってしまった時、凄く助かると思います!」
「ケイらしい、良い指針だべ」
彼の決めた指針に、男性陣はウムウムと頷いた。しかし、ミシェルだけは落ち着きを以て、ケイへと『重大な質問』を投げたのである。
「確かにコレならば、各々のモチベーション維持も容易く出来ますし、良いと思います。ところでケイ様━━『現在のダイバーランク』はどの辺りでしょうか?」
ダイバーランクとは、GBNをプレイするダイバー達に与えられた『階級』であり、同時に其のダイバーの強さを示す『指標』たるもの。
しかしながら、高ランク=強さという訳では無い為、低ランク帯と侮った結果、逆に返り討ちに合ったという事も、ダイバー達の間では多々あることらしい。
因みにカンタは『B』で、ランクとアキトは兄弟揃って『C』、ミシェルは『A』といった具合である。そしてケイが、プロフィール画面を見て答える。
「俺のダイバーランク、ですか?俺は確か……『E』ですね。其れがどうかしたのでしょうか?」
其の答えに全員が言葉を失い、唖然とした表情に。そして、ミシェルは申し訳ない雰囲気でケイに言う。
「ケイ様、1つ言い忘れていましたが………フォースを結成したり、入ったりする為には………『ダイバーランクD以上無くては出来ない』のですわ………」
其の一言が、ケイの全身と思考を一撃で石化に追い込み、其の果てに漸く絞り出した青年の言葉は━━━━━「え……、マジで?」だったという。
*********************
「コホン……取り敢えず、今日中にフォースリーダーとなるケイの、ダイバーランクをDにランクアップさせる為の作戦会議を開始する」
アイテムボックスからホワイトボードを取り出したランクが、白紙の板に図等を高速で書き示し、人の手が先端に付いた棒を振るう。
「先ず基本的な事だが、ダイバーランクはクエストやミッションをクリアしたり、PVPで勝利する事で得られる『ダイバーポイント』を一定値まで溜める事で、自動的に昇格していくシステムになってる。『Dランク』になる為に、必要なダイバーポイントは『1000』……普通に色んなミッションをやってれば、何時の間にか溜まっている程度の量だ。
ただ今日中に上がる事を踏まえると、普通のミッションじゃ時間が足らない。其所で俺達が取る作戦が『引率作戦』だ」
ホワイトボードの右上に赤字で書かれた『引率作戦』の項目を棒で指し、彼は内容を説明する。
「簡潔に言うと、俺達が参加出来るクエストやミッションにケイを連れていき、俺達がある程度済ませる。そして最後の一押し……と言うよりは、最後のトドメとかをケイにやって貰う作戦だ。
クエストやミッションには『貢献度ボーナス』という、見えないパロメーターが有って、ソイツはミッションのボスへのトドメやら、納品クエストの対象アイテムを一番多く入れたりすると加算されて、結果ダイバーポイントが入りやすくなる。
以上が、始めたての初心者をフォースに加入させる場合に、よく用いられている引率作戦の内容だ。何か質問は有るか、ケイ?」
引率作戦とは
「大丈夫。凄く丁寧で分かりやすい説明で、本当に助かります」
深々と頭を下げ、礼を述べたケイは、何を思ったかコンソール画面を開く。「ん?ケイ、何してるべ?」とカンタが問うや、青年はこう答えた。
「メンバーが、もう1人か2人は欲しいと思ったんだ。出来るなら『前に出て、相手を引っ掻き回せる』タイプのダイバーが入れば、戦略の幅も広がる筈なんだけど……」
前衛をアキトのダイガンダムとして、遠距離をミシェルのアルケイン・デコレートが担当。オールラウンダーなケイのフルリビルドと、カンタのガンオージャといったポジショニングならば、全体的にバランスが取れており、手堅く戦える。
『千里の狙撃手』ミシェルのインパクトもあり、ダイバー達の記憶に十分残る事は間違いない。しかし、アキト1人に前衛を任せる事は、彼に負荷が掛かるという事。
何とかして、もう1人…前衛としての適性が高く、相手に揺さぶりを掛けられるような、そんなダイバーが居ないかどうか……そう思っていたのだ。
「俺は一応、全距離でも戦える機体にしてるから良いが……引っ掻き回すとなると、ちょっと難しいな」
「私は狙撃で此処までやってきたので、前に立って戦うのには馴れてませんわ」
「暴れまぐる人材、が…。フリーで格闘機体使っでるダイバーなんで、そう見つかるべが?」
うーん………と悩む4人。その時、アキトが閃いた。
「それなら、募集リストに記載しましょう!」
「メンバー募集リスト?」
アキト曰く、フォースメンバーや傭兵ダイバーを募集する際に役立つ、謂わば掲示板の役割を担う物らしい。一旦、メインロビーに移動して受付で募集リストのメニューを開くと、既に500件近く掲載されていた。
「おぉ……凄いな、これ」
「ダイバーの皆さんは、フォースを組んで戦ったり、1対1のバトルがしたかったり、困難なミッションをクリアする為に、こうやってメンバーを探しているんです」
「俺達は『こういった特色のフォースです』とか『どんな事を目標にしている』とか、分かりやすくしておく事をオススメするよ」
アキトとラルクのアドバイスを貰い、ケイは募集内容を書いたテキストをリストに貼った。内容は━━━
『今はまだ結成していませんが、自分のやりたい事やリアルを優先するフォースになります。前衛を担当してくれて、敵陣を引っ掻き回す事に自信があるダイバーさんが居てくれると、凄く心強いです。
宜しくお願い致します』
━━というものであった。
「ごれで少じ経っで、連絡が来だら興味を持っでくれだり、話し合いに応じでくれるってことだべよ」
「よし、その間にケイのダイバーランクをDにしてしまおう。ミシェル嬢、何か良いミッションやクエストは有るかな?」
「フフフ……ケイ様にピッタリのミッションが有りますので、其れをしましょう」
受付でミシェルがミッションを選び、付き添いの御共として男子4人を連れていく、そんな奇妙な光景を成しながら、格納エリアへとワープ移動をしていった。
「ほぅ……新しくフォースを立ち上げるのか。……彼等が帰って来た時、少し相談してみよう」
そして其れを上の階層から眺めていた、小豆色の着物と赤袴に袖を通す大和撫子侍風ダイバーのアズキが、中央ロビーに歩き出す………
********************
1時間後………
「なん……なんなん……?Aランクミッションって……とんでもない……なんなんだアレは………!?」
メインロビーに帰還したケイは、目には生気が消え失せ、身体はゲッソリと痩せ細り、口からヨヨヨヨ~と半透明な霊魂が半分出て来ている。
「滅茶苦茶キンヂョーしだべー!!けんど、すっんごく楽じがったべさ!」
「あんなミッションが有ったなんて、GBNはまだまだ奥が深いです!」
「今回はアキトの機体に乗っての見学だったが、今度は自力で挑戦してみたいところだ」
「アキト様のタンクとしての適性の高さ、カンタ様のバインダーによる跳弾、最後にケイ様の特殊なミサイルが決め手になってクリア出来ましたわ」
一方の中堅と上位ダイバー組は、全身がキラキラと輝き、未知なる挑戦をやり遂げた達成感と余韻に浸っている。端から見れば、ケイが虐めに遇っているようにしか見えない。
「だけど……何とかDランクになれて、一安心しました」
コンソール画面を見ると、ミッション前まではEだったダイバーランクは、Dへクラスアップを果たしており、無事フォース結成に必要な最低条件を充たした。
「ん?」
そんな彼等の視線の先、腕組みと仁王立ちで構える女性ダイバーが1人。芍薬のように凛と背筋を伸ばす姿は、此れより死闘に挑む剣士の如く、気迫に満ち充ちている。
「お久し振りです、アズキさん」
ペコリと頭を下げ、御辞儀をしたケイ。
「単刀直入に聞こう。此のメンバー募集のテキストは君達の物で合っているか?」
そう言ったアズキが提示したのは、1時間前に彼が募集リストに掲載したメンバー募集テキストである。
「はい………え、もしかして……」
「私自身、一度はフォースに入り、チーム戦をしてみたいと考えていた。テキストによれば、自分のやりたい事を尊重するフォースだそうだが、其れは本当の事だな?」
研ぎ澄まされ、鋭利な視線が突き刺さる。自分達は今まさに『悪魔との契約』を交わさんとしているかのような、不気味な錯覚を抱いた。
結んだなら、地獄の底まで追い掛けて来そうな、そんな空気が支配する。足の裏、脇の下から脂汗が滲み出て、口と喉が急速に渇いていく。
それでも。ケイは逃げ腰になりそうな己を必死に鼓舞して、アズキと向き合い。そして真っ直ぐな、曇り無き眼で答えた。
「はい。俺、皆がやりたい事を出来て、自分の事を大事に出来るフォースを作りたいです。其の為にアズキさんが力を貸してくれるならば、よろしくお願い致します」
深々と青年は頭を下げ、彼女に願い申し出る。そんな彼の姿勢に、アズキはふっ…と微笑み。数歩前に歩みながら、小豆色の着物の袖を少し捲って、己の右手を彼の前に差し出しながらこう述べた。
「よろしく頼むよ、ケイ」
アズキから差し出された右手を、己の右手で握り、固く強い握手を交わす。契約は此所に結ばれ、彼女はケイ達と共に戦う事となった。
「アズキさんの加入で、メンバーが6人になったな。これなら、新参向けフォースイベントにも出場出来る」
「そいじゃいよいよ、フォース立ち上げべか!ケイ!」
いよいよフォース結成か…といった所で、ケイは言った。其れは彼自身、フォースで一緒に戦いたいと思った存在が居たからである。
「実はもう1人、加入出来そうなダイバーに心当たりが有ります」
*******************
数分後……セントラル・ディメンション内、ELバースセンター。ケイ達6人が此所に来た理由は、あるダイバーをフォースにスカウトする為だ。
インターフォンのチャイムを鳴らし、「ごめんください」と職員を呼べば、中から紫色のハロことアンシュと、彼を抱えるELダイバーのヒノワが現れる。
「ケイ!カンタ!久しぶり!」
「ヒノワ、元気にしてたか?」
「うん!俺、すっごく元気!」
アンシュを抱え、キャッキャッとヒノワがはしゃぐが、「あんま振り回すな、あぶねぇ」と当たり前の指摘を貰い、渋々止める事に。
「んでだ。お前等は何しに来た?」と、アンシュが問い掛けて、ケイがヒノワをフォースメンバーに加えたい事情を説明する。
「フォース…!皆と一緒…一緒!」
目をキラキラ輝かせ、ワクワクと腕を振るヒノワ。
「フォース…か。まぁ、悪くはねぇが…チビ助の『素体』は完成してねぇ、フォース戦はまだ参加出来ねぇぞ。其れでも良いな?」
素体の出来ていないELダイバーが、GBNで死ぬ事は其の存在が消滅する意味を持つ。其れを知っているからこそ、アンシュはケイ達に警告を投げ掛け、ケイとカンタは頷く。
尚、ヒノワがELダイバーだと知った5人は、2人に事情の説明を求め、彼等は小さな命との出逢いから、現在へ至る迄を語ったのだった。
其の後、ヒノワの外出許可を貰ったケイ達は、ヒノワをセントラル・ディメンションのメインロビーにある、総合受付へと連れて行き、受付の女性NPDの指示に従い、フォース立ち上げに必要な『フォースエンブレム』と『メンバー登録』を行う。
掲げるのは『右手の拳』、刻むのは作る・創造するの『BUILD』の『B』と、駆け上がる・昇るの意味を宿した『RISING』の『R』。
エンブレムを設定し、メンバーの名前を枠内に収め、遂にフォース登録を終えた。
これは後に、GBNに其の存在を刻み付け、『変人魔境』の異名を賜る事となる、フォース『ビルドライジング』━━━其の結成の瞬間であった。
フォースの名は、ビルドライジング