ガンダム・ビルドライジング   作:ガリアムス

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主人公が中盤以降で使用する機体の製作中&格上との戦闘終了な第15話です




Ep,15 天剣の女王(ソーディアス)からの挑戦状(後編)

暗礁宙域サルガッソー・某所………

 

 

『トラムざんが来る前に急ぐだ』

『えぇ、解っていますとも』

 

トラムの奇撃によって、乗っていたダイドラゴンごとビルドライジングの一陣から引き剥がされた、カンタとミシェル。2人は現在トラムの一撃を受けて、戦闘不能に陥ったダイドラゴンに寄り添い、各々の武装を展開。何時現れるか分からないトラムを相手に、見えないプレッシャーを受けながらも、迎撃の準備と合流の手筈を備えていた。

 

『ダイドラゴンはトラムざんの攻撃で、戦闘不能になっどっだだよ。オラだつを守っでぐれだんだな……ありがとうだ』

『先の一撃、もしまともに食らっていたならば、私達は即脱落させられていました。ダイドラゴンへの感謝と共に、ケイ様達と合流しなくてはいけませんわ』

 

ダイガンダムの耐久を知っているカンタとミシェルにとって、天剣の女王が持つ攻撃力で、ダイドラゴンが倒れた事実に震えるも、勇気を振り絞る。

 

と━━━━━━━

 

『カンタ!ミシェルさん!真上!真上を見て!』

 

2人のコックピット内、スピーカーに轟くケイの声。

 

『見 つ け た』

 

同時に訪れる其の者にとっては獲物を、2人にとっては絶望の襲来。デプリに足裏を着け、まるで中破したガンダムキュリオスのように、しかしサバーニャは無傷の状態でハイモックとアルケインを見下ろしている。

 

『わぁぁぁぁ!?』

『ッ━━━━食らいなさいな!』

 

超絶に怖いお化け屋敷で、化物と遭遇した一般人に似た絶叫を上げたカンタに対し、ミシェルは冷静を保ちつつもスコープを覗く事無く、目視で引き金(トリガー)を数度引いた。

 

『良い攻撃だ、しかし私には通じん』

 

銃口の位置を目視する事をせず、サバーニャは己の近くを漂っている宇宙船の燃料タンクを、オーバーヘッドシュートの要領で蹴り飛ばし、アルケイン・デコレートの狙撃を防ぐ。エンジン内部に僅かに残っていた燃料に引火し、爆発が起きてカンタとミシェルの2人の視界を真っ白に染める。

 

『くっ━━━!………トラムさんは…!』

 

辺りを警戒するミシェルは、空いた左手に御守りとして積んだビームサーベルを抜刀し、辺りを警戒していた。まさに其の時である。彼女のコックピットのスピーカーに、カンタとケイの張り裂けそうな声が聞こえたのは。

 

『ミシェルさん!後ろ!』

『トラムざんが、後ろにいるだ!!』

『え━━━━━━』

 

2人からの通信が入った瞬間、アルケインの影に隠れる形でサバーニャがアルケインを強襲。背中に装備したポータントフライヤーごと、レイピアの刃が青の機体を貫いて、返す一閃が黒天の(そら)へと振られ、機体の上半身は豆腐のように、いとも簡単に割けた。

 

『先ず、1つ』

 

電子の粒へ還り、メインロビーへ強制送還される直前、ミシェルの耳にはそう聞こえ。其の淡々とした、路上の蟻を潰すかのような無機質な声が、彼女の脳裏に呪いの如く、深く刻み込まれた。

 

『ミシェルざんッッッッッッ!!』

 

四散して塵と化したアルケインが遺す爆発煙を割き、FDCバインダーが周囲を暴れて飛び回りながら、バインダーガンの乱射を叩き付けるカンタと、ハイモック・ガンオージャがサバーニャに一矢報わんとし、玉砕覚悟の突撃を敢行した。

 

『次は君か、ハイモック君』

『カンタ無茶だ!一旦離れて!』

『逃げたら逆にやられじまう!一撃当てれば勝でるんだ…!絶対に、当でるだよ!』

 

親友の声がカンタを止めようとするが、彼はミシェルの敵討ちとフォースの勝利の為に、其れを振り切ってひたすらに銃撃とオールレンジ攻撃を行った。

 

誰の目にも彼の形成した弾幕は濃密で、一縷の隙を見せようものなら、必ず蜂の巣にするぞといった強い意志が宿っている。バインダーを交え、今までの経験を踏まえて繰り出した此の攻撃ならば、女王に届く━━━━『筈だった』。

 

『足らないな』

 

斬撃の一閃も、砲撃の一打も、刺突の一撃も。全てが、彼女に見透かされているかのように、攻撃は躱わされて。

黒塗りの宙を駆け、洗練と研鑽を極めたレイピアがバインダーガンの弾丸を弾き、FDCバインダーを切り裂き、彼が呼吸する間を縫う様に、ハイモックの武器と関節という関節の全てを破壊し、僅か15秒の早業で抵抗不可能な達磨状態へと変えた。

 

『な、んだ……これ……━━━』

 

悪夢を見せられているのか?カンタは声を絞り出そうとするが、其れを行うよりも早く達磨となった愛機に、トラムの機体であるガンダムサバーニャ・ソーディアスが足を着ける。

 

『此れで━━━!?』

 

トラムはそう淡々と述べた後、達磨に変えたハイモック・ガンオージャの真上からコックピットを貫こうとした時。心臓を鷲掴みされた様な恐ろしい感覚に、トラムは達磨になったハイモックを蹴り飛ばして、近くのデプリに足を付け━━『無かった』。

 

『フフフ……良い攻撃だよ、アズキ!』

 

直前にバックステップを掛けた刹那、デプリを一閃が迸りアズキのバルバトス・武が飛び出した。其のまま女達は鍔迫り合いに突入し、ジオンガーZがアズキの後を追う。

 

『ケイ!アキト!2人はカンタとダイドラゴンの回収を!俺はアズキの援護に入る!』

『お願いします!』

『兄さん、無茶はしないでください!』

 

 

『ビルドライジングvsソード・ブリンガー・レヴ!トラムの攻撃でミシェルが倒れ、戦局が動いたぞぉぉぉぉぉ!』

 

 

戦いは続く。ビルドライジングはミシェルを失い、トラムは未だに無傷の状態。ソード・ブリンガー・レヴの優勢は、少しずつ。しかし確実なものに成っていく。

 

其れは大蛇が獲物を捕らえてゆっくりと。水気を含んだ注連縄が巻き付くように。命運が尽きた事実と終わりへの恐怖を与えて抵抗の意思を奪うように………。

 

 

**********************

 

 

『くぞぉ…動いでぐれだ、ハイモック━━!』

 

コックピット内を覆い尽くすハザードランプと、各部に異常発生を報せるレッドアラートが、桁ましくも一定の間隔と音量を以て鳴り響く中、カンタは1人操縦桿をガチャガチャと必死に動かし続ける。

 

しかし彼の想いとは裏腹に、達磨と化したハイモック・ガンオージャは一切反応せず、寿命寸前の白熱灯の如くモノアイが点灯し、砕かれた四肢からスパークが走るのみである。

 

『カンタ!カンタ、大丈夫か!?』

 

と、コックピットのノイズ走るモニターにフルリビルドの上半身が映り込み、ケイが友の名を呼び掛ける。

 

『あ、ケイ…!オラ、ミシェルざんを守れながっただ……!こんなザマじゃ、顔向げでぎねぇだよ……!』

『反省は後だ!ハイモックは……まだ、諦めたくないって言ってる!俺達もまだ━━━━!?』

 

言葉を紡ごうとした時、自分の真横を高速でジオンガーZが通り過ぎて、宇宙船の廃材に背中から叩き付けられるのを見た。

白霧の隙間から見えたジオンガーZの黒艶に輝く装甲は汚れ鈍く光り、彼方此方に引っ掻き傷や斬撃痕、風穴が穿たれて、各部からスパークを起こす姿は、見るからに中破以上の大ダメージを負っているのが分かる。

 

『ラルク!?』

『ラルクざん、大丈夫だが!?』

『あぁ…何とか、な━━━正直、ジオンガーじゃなきゃ既に終わってた……!』

 

叩き付けられた廃材から巨体を起こして、両腕の拳を握り締めつつ、ジオンガーZはファイティングポーズを取る。

 

━━━まだだ、まだ…終わらない!

━━━ジオンガーZは、伊達では無いのだ!

 

原作のアムロ・レイとシャア・アズナブルの台詞を放ち、モノアイに灯るピンクの光が血と同じ真紅に変わり、各部装甲から蒸気が放出され始めた。

 

ケイは其の機構が、鉄血のオルフェンズ由来の機構である『リミッター解除』と同等か其れ以上の出力を繰り出し。同時に今のジオンガーZでは数分持たずに自壊する諸刃の剣であると悟る。

 

『ケイ、カンタのハイモックと一緒に、俺達の背中に掴まれ!アキトとダイドラゴンを拾って、一気に戦線復帰するぞ!』

『分かりました!カンタ、動かすよ!』

『頼むだよ!』

 

ケイの駆るフルリビルドが、腕部複合兵装ヨルムンガルドよりワイヤークローを伸ばして、達磨状態のハイモックの腹部にワイヤーを巻き付け固定。

そしてジオンガーZの右肩装甲に取り付き、ワイヤークローを挿し込み、両腕に力を込める。

 

『限界ギリギリまで戦い抜くぜ━━━!』

 

言うが早いか、ジオンガーZは各部のスラスターより蒼白い焔を速力に変えて、某光の巨人が如く今尚鍔迫り合うサバーニャとバルバトスに向けて、決死の突撃を行った。

速度はぐんぐん上がっていき、其れに準ずるように傷を負った各部から、血を流すようにスパークが走る。

 

『兄さん!』

『アキト、今行くぞ!』

 

前方にピクリとも動かないダイドラゴンと、其の巨体を前へ押しているリューナイトが居た。ジオンガーZはダイドラゴンとリューナイトを速度を維持したまま回収し、左腕に抱きながらアズキの元へと急ぐ。

 

『ダイドラゴンは……いや、聞くまでも無いか』

 

左腕に抱かれたダイドラゴンは、目を閉じたまま動かない姿を見、心の中でトラムの強さに静かな戦慄を抱く。

アキトが作り上げたダイドラゴンの事は、彼は誰よりも知っていたし、客観的に見てもGBNで充分通用するレベルだと、今も信じている。

 

其のダイドラゴンがサバーニャの一撃で倒された事実は、兄弟にとって大きな衝撃となり、自分達が己を過大評価していたのかを痛感させられた。

 

『ごめん…ダイドラゴン。僕がもっと頑丈に作ってあげてれば……』

『オラどミシェルざんを守って、戦闘不能になっでじまっだだ………オラもミシェルざんも、トラムざん相手に、なんにも出来なかっだだべ……』

 

二人が自分の無力さに打ち拉がれ、弱気な言葉を溢す。ラルクも自分の愛機の状況を逐一確認する中で、『そんなことないよ』とケイはラルク達に言う。

 

『俺が……もっと━━『逃げろ!皆!!』━━━━!?』

 

其の言葉が紡がれるより早く、コックピットのスピーカーに轟くは、アズキの切迫した声であり。僅か数瞬にして到来するは、緑を纏う殺戮の化身サバーニャ・ソーディアス。

 

(このままじゃ、俺も含めて三人共やられる!……もうやるしかねぇ!!)

 

脳内の思考回路がラルクにもたらしたのは、己と仲間を守りつつ、トラムに一泡吹かせる方法だった。

 

『ケイ、カンタ、アキト!今すぐジオンガーZから離れろ!』

『え、何で!?』

『どいうことだ、ラルクざん?!』

『兄さん、まさか!?』

 

戦線復帰の為に掴まっていたのに、掌返しで離れろと言われ、ケイとカンタは混乱を隠せない。しかし唯一人、ラルクの思惑に気付いたアキトが、声を上げるも『早く行けぇぇぇぇ!』と、普段見せない必死な叫びに、少年はリューナイトを動かして、フルリビルドとハイモックの背中に移動した。

 

『ケイさん、カンタさん!行きましょう!兄さんの覚悟、無駄にするわけにはいきません!』

『だげんど、ラルクざんは大丈夫なのだべ!?』

『ジオンガーは、まだやれるとは言ってるけど…!いや、ラルクを信じよう!』

 

ケイは一瞬迷い、それでも仲間を信じてハイモックの腹部を抱え、コンソールで背中に懸架したトライホルダーフレームを開き、ビームマントを広げるやフルスロットルでジオンガーZから離脱した。

 

(覚悟は決めた……後は、やるだけだ!)

 

離れていく背中で、ラルクは愛する弟(アキト)に想いを馳せながらも、視線の先に居るサバーニャ・ソーディアスを見据えながら突撃する。

 

『玉砕覚悟の特効か、其れもまた良し。なれば私が、君に引導を渡してあげよう』

 

ジオンガーZの迫り来る巨体を前に、トラムは昂る感情を抱きながらも、冷静に中世の聖騎士が如く得物を構え。

 

『フッ!』

 

一閃と共に放たれたレイピアビットが、ジオンガーZの巨体の中心部にして、心臓と同意義たるコアに容赦無く突き刺さる。

 

『ぬ……っぅ!?』

 

だが、ジオンガーZは止まらない。其れ所か、先程以上にブーストを掛けて、レイピアビットを突き刺したサバーニャ・ソーディアスを押し込む。

 

更に胸部のサイコフレームプレートが、共振現象と共に高熱を帯び始めて、真紅の輝きを放つ。トラムが片目で後ろに視線を見ると、其処には放棄された資源衛星らしき岩の塊が在った。

 

『ラルク!早く脱出しろッ!』

『分かってる━━━よっ!』

 

ジオンガーZの胴体へ、サバーニャ・ソーディアスの攻撃を誘導し、其の一撃を深く刺させる。そうして、巨体の加速によって抜けぬように自ら押し込み、資源衛星に突撃させて、其のままジオニックファイヤーを発射。

 

損壊した胴体をエネルギー発射の反動で破壊・爆破し、サバーニャ・ソーディアスを焼却又は自爆に巻き込み被弾させ、ビルドライジングの勝利をもたらす。其れがラルクの狙いだった。

 

何としても此所で決める━━━!限界ギリギリを見極め、頭部を胴体から離脱させたラルクは空かさず、ジオン系列MS特有のモノアイより、ジオニックビームの発射態勢を整える………。が、そんな彼の策謀は、トラムの言葉と一手で儚く水疱に帰す。

 

『そう━━━━━━ジオンガーZのベースの特性ならば、必ず脱出するギミックを温存する。そして、其の巨体を犠牲に自爆して一撃を見舞い、運が良ければ此のまま破壊する。

 

其の一手が必ず繰り出されると、私は既に読んでいたがな』

 

トラムの声、そしてジオンガーZの頭部が離れた場所の影から、サバーニャ・ソーディアスが飛び出したのである。よく見ると、両手に握り締めたレイピアビットの刀身が無く、ナイフのような形状となっていた。

 

同時にラルクは、サバーニャ・ソーディアスのレイピア型武装のギミックに気付く。ホルスタービットの内部に、ガンダムヴィダールのバーストサーベル刀身換装機能があり、其れを応用した物であると。

 

『くそっ、これでも食らえ!』

 

スコープにサバーニャを入れ、操縦桿のボタンを押し込み、ジオニックビームを放つラルク。しかしトラムは、其のビームの軌道がまるで解っていたかのように、雷が迸るマニューバで距離をサンインチまで狭めた。

 

『マジ、かよ………』

『打ち砕く』

 

移動の最中、懸架されたホルスタービットの1つに、ナイフビットの持ち手を合体。斬撃が効かない敵機に対する質量武装『ホルスターメイス』を片手に、ホルスターの中に持ち手をくっ付け、刀身を換装しレイピアビットに仕立て直した物を合わせて、ジオンガーZの頭部に強襲する。

 

ラルクがやられる━━━誰の目にも分かる展開、アキトはフルスロットルを掛け、止めに入ろうとするが間に合いそうにない。

 

『やらせるか!』

『うおおおおおおおおお!』

『ごうにゃらヤゲグゾだあああああ!』

 

ジオンガーZの胴体が遠く資源衛星に激突、同時に赤い熱線がサルガッソーに赤い閃光が走った時、ケイとカンタ、そしてアズキの3人がトラムへ襲い掛かった。

 

『アズキ、君は後でゆっくりじっくり相対そう。しかし他の者には手間を取る程、私は甘くは無いのだ』

 

アズキの一撃を寸での所で躱わし、フルリビルドの腕部複合兵装ヨルムンガルドのワイヤークローを避けて、レイピアビットでカンタのハイモックを貫き。刀身を基部よりパージするや、サッカーボールシュートのように鮮やかで。しかし熟達した拳法家の重く、洗練された脚撃でフルリビルドの顔面を蹴っ飛ばし、其の一撃でメインカメラが半壊する。

 

『うわあああああ!?』

『なんだ……ごれ、ごんな………』

 

四肢をもがれ、最後の抵抗も虚しく終わり、カンタはトラムの底知れぬ強さに恐怖を抱き。ハイモックは更に駄目押しとばかりにヤクザキックを胸部に貰い、フルリビルドの方へと飛び。機体はスパークを放った後、機体はケイのほぼ至近距離で爆発四散を遂げ、電子の粒と還るやバトルフィールドのサルガッソーより消えてしまった。

 

『カンタぁ!っう………!』

 

━━━━━━━━終わりだ

 

爆発で目を細めた時、不意に耳に届く『声』。フルリビルドの声でも無ければ、リューナイトでも、バルバトス・武でも無い声。

 

サバーニャの声だ……!そう思った矢先に、煙より四閃の光が走り、フルリビルドの両肩を肩元から両腕を抉り取って、更にはトリモチミサイルの発射口も貫き、潰したのである。

 

『っ………!?』

 

瞬く間に武装の大多数を失い、ノイズ走るモニターに映るはサバーニャ・ソーディアス。初心者のケイにも解る、トラムと己の掛け離れた圧倒的なまでの実力差が、機体の周りを漂う気迫と成り、彼を縛り付ける。

 

『わからんな』

 

そんな時、トラムの声がスピーカー越しに聴こえる。

 

『何故アズキは、君に従った?彼女程の女傑が、一体君に何を見た?』

 

そう問い掛け、首を傾げたトラム。彼女には、ケイという存在が理解出来ない存在だった。

自分と比べて圧倒的なまでの弱者、己より実力もランクも全てが劣るダイバー。

 

なのに何故…此の青年は人の心を惹き付ける?

 

『ま………だ、だ……!』

『?』

『まだ、終わりじゃないッ!』

 

僅かに見せたトラムの隙。其の一瞬に、残された今持てる全ての力で、ケイは抗う道を選ぶ。

 

トライホルダーフレームからビームマントを放出し、脚部も高速飛行形態に移行し、荒牛のように暴走飛翔で暴れながら、エクセントブースターよりビームサーベルをカウンターとして突き出すケイ。

 

しかしトラムは━━━其れすらも読みきっていた。

 

発射口諸とも、膝より下の脚部をレイピアの斬撃に切り飛ばして、ハイモックと同じ達磨状態に変える。

 

『…さらばだ』

 

コックピットを貫かれ、放出されていたビームマントは消失。機体は糸が切れた操り人形のようにダランと、力無く停止し、軈て粒子となって消え去った。

 

『ケイ!』

『ケイさん!!!』

『ラルク!アキト!トラムが来るぞ!』

 

アズキがこれ以上の蹂躙を阻む為に立ち塞かるが、彼女は左手のレイピアビットを腰に納め、ホルスタービットをマニピュレーターで掴むや、其れを徐にバルバトスの方へとスナップを効かせて、3つ投げたのである。

 

『斬ッ!』

 

先行して飛んで来た1つを回避し、凛とした声と共に刀刃煌めくや、残り2つをスルリと、まるで豆腐を切るかのように、一刀両断せしめて見せたバルバトス。

しかしトラムにとって、僅かな隙を作れさえすれば良かったのだ。彼女の後ろに居る、ジオンガーZの頭とSDガンダムを仕留める為には。

 

ホルスタービットを4基残してパージし、サバーニャの足裏に着けるように漂わせ、力一杯踏み込み━━━━飛んだ。

緑の機体は彗星となり、アズキのバルバトスへ突撃。迎え撃とうと牙突の構えより繰り出した一閃は、サバーニャを直撃…………『したかに思われた』。

 

 

 

『何……!?』

 

 

サバーニャの姿が、『幻』であったかのように消え。

 

『アズキさん!』

 

アキトの声が耳に届く数瞬の間に、距離を縮めたサバーニャが、ホルスターメイスの一撃でバルバトスの頭部を殴り、其の勢いで兄弟に迫る。

 

『アズキと戦う前に、君達2人には退場願おう』

 

トラムの瞳が捉えたのは、小さな竜騎士リューナイト。サバーニャが殺意と覇気を纏い、ホルスターメイスの持ち手を軟らかく構え、小さな騎士へと振るい掛かる。

 

『わあああ!?』

『アキトは、やらせねぇええええ!』

 

ドンッ!とリューナイトの小さな身体が、ジオンガーZの頭部の突撃で横に押し出される。

 

数秒が数時間にも引き延ばされたような時の中で、上を見上げたラルクが、此の日のバトルで最後に見た光景は、ホルスターメイスを大振りに構え、振り下ろしたサバーニャの姿であり。

 

其の一撃は、ラルクが此れまで経験したことのない衝撃と共に、頭部コックピットが一瞬で圧壊される音だった。

 

『━━アキト、すまない』

 

ホルスターメイスに叩き潰され、ジオンガーZの頭部が爆散。立て続けに遠くで、残されたズタボロの四肢を含む、ジオンガーZの胴体が連鎖爆発を起こし、白霧の暗礁宙域で一際大きな火の花が咲き、軈てディメンションから消えて行く。

 

『兄さぁああああああああん!!!!!!』

 

ラルクがやられた瞬間を見て、アキトの悲痛な叫び声が木霊して。同時にターゲットを定めたサバーニャの刺突が、正確無比にして無慈悲にもリューナイトのコアを貫いた。

 

『あ………あぁ………』

『さよなら』

 

引き抜かれた衝撃で、耐久値が0となったリューナイトが消えていった。

 

『くっ………』

 

 

『此れでやっと…………私とアズキ以外、誰も居なくなったな』

 

歪に狂い、心よりの笑みを浮かべ。

瞳の奥に、底無しの闇を飼い。

野獣の如く、本能のままに息を吐き。

 

残虐の面を見せたトラムとサバーニャ・ソーディアスは、アズキとバルバトス・(もののふ)を見つめて言った。

 

『…………あぁ、そうだな』

 

ビルドライジングはアズキを残して壊滅状態、対するソード・ブリンガー・レヴはトラム一人で無傷。全ての命運は、トラムと対峙する彼女一人の手に委ねられる。

 

『アズキ。ガンダムバルバトス・武』

『トラム。ガンダムサバーニャ・ソーディアス』

 

両雌、己の魂を預ける機神の名を唱え、自らが信ずる得物を構える。そして━━━━━━

 

『━━━━━━切り捨てる!』

『━━━━━━蹂躙する!』

 

双つの巨星が、暗礁宙域で激突(ぶつか)った。

 

 

*********************

 

 

其の光景は、誰もが呼吸をする事を忘れさせ。

 

其の閃光を、剛の者以外に追う事を許さず。

 

其の一撃が、人を熱狂の坩堝へと誘う。

 

 

『はぁああああああああああ!』

『おおおおおおおおおおおお!』

 

研ぎ澄まされた刃が煌めき、洗練された技と殺意が幾重に渡り交錯する。

両雌全ての攻撃が、敵を唯一太刀で確殺せんとし、僅かな隙も弛みすらも、存在そのものを許さない。

 

『ハハハハハッ!やはり、強者との戦いは良い!生きていると実感するよ!君だってそうなのだろう、アズキ!』

 

歓喜、狂気、併せて狂喜。サバーニャの振るいし二刀流のレイピアが、バルバトスの唯一無二たる得物にして、特性の刀の峰に当たり、刀芯を震わせる。

 

『武器破壊の技か━━━!』

『そうだ!全力で此程叩いても、刃零れ一つ起こさず、砕けない強き刃!やはり私の目に狂いは無かった!』

『貴女がどう思おうとも構わない。私は貴女を倒して、フォースを勝利に導くだけだ!』

 

刀の一閃が迷い無く振るわれ、レイピアを鋒をスルリと。まるで豆腐に包丁を通すように、綺麗な断面を作りて切り飛ばす。

 

『良い!やはり君は最高だよ!其れでこそ、迎え入れる価値が有ると言うもの!』

 

レイピアビットをパージし、ナイフビットに切り替え。直ぐ様ホルスタービットへ挿入し、レイピアビットがバーストサーベルの要領で刀身合体され、刃が新しくなる。

 

同時にレイピアビットが空になったホルスタービットを、機体より切り離して軽量化。アズキとの斬り合いをより深く、よりスリルを以て愉しむために、

 

『厄介だな、其の武装は』

『フフフ……まだまだ楽しもう!もっともっと、君の力を見せてくれアズキ!』

 

三度刃が激突し、迸る衝撃が暗闇の宙に、二人のダイバーの信念と矜持を鳴らす。

 

『何という戦い!何という意地のぶつかり合い!此れはどっちが勝っても可笑しくはないぞ~!』

 

(どっちが勝っても?違う……トラムは『本気』を出していない━━━!此方が全力で打ち込んでいると言うのに、だ!)

 

そう。トラムは此の局面に至るまで、まるで本気を出さず、ケイ達を含めた『真の強者』以外は全て片手間で倒してきた。其れこそ、小動物と遊んでいる程度の力でしか、彼等彼女等(此迄のダイバー)を相手にしていない。そして現在、彼女と切り結び合うアズキ相手には、ほぼ全力に近い『八割程』の実力で戦っている。

 

と、其の時だった。

 

『フフフフ………アハハハハハハハハハハハハ━━━! アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!』

 

サバーニャが振るうレイピアビットと、バルバトスの振るう刀がぶつかる。しかし先程迄鍔競り合い、拮抗していた筈の力の天秤が、一挙にトラムに傾いた。

 

『ッッ!?』

 

重い━━━━そう感じた時、受け止めていたレイピアビットの刀芯が、突如として高速回転を起こしたのだ。

 

『嗚呼!血が湧き滾り、肉が大震え、渇きが癒えていく!そうだ!此れだ!強者と戦い、其の全てを圧倒し!相対す者を蹂躙して!己が生きる証を刻み付ける!

 

此れがッ!此れこそがッ!私の生きる理由ッッッッ!!』

 

回転する事によって、己の持つ刀が横に振られ、結果として防御態勢を崩される。其処にもう片方の手に握るレイピアビットが、バルバトスの肩装甲に突き刺さり、けたたましい破砕音と火花が入り雑じりて、抉り抜いて宇宙の闇へ吹き飛ばす。

 

『これは………ッ!?!』

『さぁ、耐えてみせろよ!アズキッッッッ!』

 

纏っていた気迫が、まるで爆発したかのように増大して。トラムの此所まで敵を屠る為、無駄という物が一切存在し得なかった冷徹かつ美しさを覚える太刀筋は一変。

 

野獣の如く荒々しく、悪魔が乗り移ったように魑魅魍魎に、回転する細刃がバルバトス・武の刀を擦り、纏う装甲を削り取る。

 

(私が出来る事、其れはケイ達に『先』を託す事だ━━━!)

 

装甲が殆ど死んだ状態になり、アズキはバルバトスのスラスターを全開に開き、一気に後方に下がるや、刀を左手に変えて、更には逆手に持ち直す。

 

『!!』

 

構え…気迫…アズキとバルバトスの全てが、其迄の『動』から転じて『静』へ変わり、トラムも僅かな警戒心を抱く。

 

『此れで━━━貴女を斬る』

 

低く、低く、ひたすら低く。ガンダムフレームの可動域の限界ギリギリまで、体勢を低く屈めた。其れは、己とビルドライジングの運命、そして此の戦いを、一刀で決する為に。

 

『そうか…!良いぞ、受けて立とう!君の覚悟と其の一刀にッ!』

 

対するトラムは、猛牛の勇角を彷彿とさせるレイピアビットの構えを取る。其れはトラムが堂々と、真っ向からアズキの一撃に答える形であった。

 

数瞬の沈黙と静寂が戦場を満たし、闘気と殺意が混じった見えない風が両者の間を抜けた時。

 

同時にアクセルを全開、バーに弾かれたパチンコ玉の如く機体が跳ね、寸の間も無く互いに殺陣距離下(キリングレンジ)に足を踏み入れた。

 

(新月流(しんげつりゅう)壱刃之型(いちじんのかた)━━━━━━!)

 

彼女が繰り出すは、自身の会得せし剣術の流派にして、一刀流と二刀流、其の両極を究めんとする『新月流(しんげつりゅう)』。其の剣技の中に在り、壱刃之型の中で『最速』、そして『逆手持ち』という条件を以て、初めて出せる技が在る。

 

九日九晩の祈祷と断食、肉体と精神を極限にまで追い詰めた果てに、遥か昔に天より落ちた神鳴りを、鞘より抜きし其の刃で断ち切ったとされる、新月流の抜刀居合術。

 

『━━━━━━━━━麒麟斬り』

 

刀を振るうアズキの視界はモノクロへと変わり、清み渡る眼は迷う事無くトラムと、サバーニャ・ソーディアスを捉え、一閃が天使の頸を凪ぐ━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

筈だった。

 

 

 

 

 

 

『な━━━━━』

 

 

最速の抜刀による居合、其れはサバーニャの重ね合わせたレイピアビットの鋒に鋏まれる形で止まり、瞬く間に手の内から取り上げられて、明後日の方へと飛ばされた。

 

そしてトラムはXに交差した刃と共に、アズキとバルバトス・武をエイハブリアクターがある胸部に、鮮烈かつ熟達された斬撃で、血濡れの御身を切り裂き抜ける。

 

 

『アズキ、君は本当に強かった。其の事実は誰の目にも明白で、そして誇るべき事だ』

 

 

エイハブリアクターと共に爆散し、宇宙の塵と消えた悪魔と、其の乗り手に敬意を表して見送ったトラムは、己の獲物を腰に納め、振り向いた後に静かに一礼を行う。

 

そしてディメンションには、天剣の女王(ソーディアス)トラムの完全にして、ソード・ブリンガー・レヴの絶対不変の勝利と、ビルドライジングの敗北を告げるアナウンスが轟いた。

 

『Battle Ended!』

『Winter! Sword・Bringer・Rev!』

 

 

戦いは終わった。片方に勝利と栄光を与え、片方に敗北と痛みを深く刻み付けて━━━━━。

 

 

*********************

 

 

私の勝ちだな、ビルドライジング」

 

変則フラッグ戦を終えた後、セントラルディメンション・メインロビー……。変則フラッグ戦に縛りを交え、アズキと極限の戦いを終えた身でありながら、トラムは額や皮膚に汗1つ掻かずに、ビルドライジングの前に立ち、彼女の後ろにはソード・ブリンガー・レヴのメンバー達が控えていた。

 

「……俺達の、敗け……です」

ビルドライジングの面々は、トラムの圧倒的な迄の実力差を見せ付けられ、何もさせて貰えぬまま蹂躙され、エースのアズキでさえも、彼女の卓越した剣技を前に一太刀浴びせる事も出来ずに敗れ去った。

 

誰の目にも分かる、完全敗北という結果。自分達と彼女の実力差を、骨身に深く刻み込まれた。しかし其れ以上に、ヒノワ以外のメンバーから生気が失われている。

 

「君達は良くやった。お陰で私は、更なる強さとアズキを我がフォースへ迎え入れられた。此の戦い、決して無駄にしない」

 

強すぎる……否、其れは『次元』が違い過ぎた。

 

策略も戦法も戦場も、全てを敵に講じさせた上で、其れ等を真っ向から打ち破り、完全なる勝利を以て対峙する者の『闘争心(戦う意志)そのもの』を無慈悲に、そして完膚なきまでに減し折り、粉砕する。

 

其れがトラムというダイバーが持つ、冷静沈着な心の内に忍ばせた残忍なる本性であり、ソード・ブリンガー・レヴのメンバー達はそうして歩みを止めた多くのダイバーを知っていた。

 

「アズキよ、我がフォースへ」

 

アズキへ手を差し伸べるトラムに、ケイは止めようとした。しかし、フォース戦で敗北を喫した自分達が約束を庇護する事となれば、他者の視線は冷たい物に変わるのは明白で、最早彼等彼女等にはどうする事も出来ず、彼女を見送る以外に残された選択肢は無かった。

 

「あぁ」と唯一言述べて、アズキはコンソール画面にあるフォース名簿の自身の名前をタッチして、一番下にある『脱退ボタン』を押す。同時にケイ達にメッセージが届いた。

 

『アズキさんが、フォースを脱退しました』

 

自分達は負けたのだと、否応無しに意識する瞬間。唇を噛み締め、必死に悔し涙が溢れるのを堪える。

 

と……

 

「━━━━━ケイ、カンタ、ラルク、アキト、ミシェル、ヒノワ。……此の敗北を、決して忘れるな」

 

去り行く仲間(アズキ)の一言は、悲鳴を上げた心に注連縄を巻き付け、縛り上げるように絡み付く。しかし背を向けたアズキが握る右拳から、数度赤い雫が滴り落ちたのを、ケイは見た。

自分達よりもアズキはずっと、悔しい想いをしていたのだ。フォースのエースでありながら、敵大将に一撃を見舞う事すら厭わなずに散った、不甲斐ない己に対して。

 

「ッ……………アズキさん!俺、此の戦いを絶対に忘れません!絶対に……!絶対に!!!」

 

彼女に向かってケイの声は響くも、答えが返って来ることは無く、ソード・ブリンガー・レヴは観衆の波に溶けて消えた。

 

こうしてビルドライジングは、格上フォースとの一戦に敗北を喫し、フォース内のエース喪失という、苦すぎる2つ苦汁を飲む事となったのである……………

 

 




此れは夢ではなく現実
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