「………よし、大体こんな感じか」
GBNにてフォルテとのデートを終えた日の夜、大学内の寮に帰宅した慶は、スケッチブックに新しいガンプラの設計図を描いていた。
フォルテから教わった『脳内でキットを組み立てるイメージ』と、歴代ガンダム主人公機体のキットを踏まえ、慶は新しいガンプラのベースに『初代ガンダム』こと『RX-78-2 ガンダム』に決め、拡張性に富んだ3mm穴を多数持つ『ビルドシリーズ』のキットより、幾つかのキットを採用する所まで来た。
「問題は『脚部』……か」
そして現在、彼の前に立ちはだかった問題は『脚部をどの様な形にするか』である。設計図面における新ガンプラは、汎用性と拡張性が確保出来ているものの、武装が無い場合の『反撃手段と機動力の両立』に難を持ち、其れを解決出来ない限りは、先に進めないのだ。
「……そういえば、GBNに居た時にアズキさんからのメールが届いてたっけ」
スマフォを起動してGBNのユーザー画面を開き、届いたメールを確認する。
『ケイよ。私の身を案じて電子文書を送った事、感謝する。私はトラム殿の近くで、彼女の技を学んで今よりも強くなる。
ビルドライジングがソード・ブリンガー・レヴを倒して迎えに来た時、ビルドライジングのメンバーとして、二度と不覚を取らぬ事を誓う』
アズキの強き決意が、文章を通してケイに伝わってくる。
「絶対、貴女を迎えに行きます」
アズキを取り戻す為、トラムに勝つ。其の為にも己が、今以上に成長しなくてはならない。ビルドライジングのメンバー達が、皆各々の課題を見つめ、そして強くなるだろう。
自分も負けてはいられない……。あの時の、トラムとの戦いで味わった悔しさを糧に、彼はガンプラの箱でのバイトに備えて、眠りに着いたのだった。
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翌日、ガンプラの箱━━━━━
「慶、新しいガンプラの進捗はどうだべ?」
「あとは脚部だけだね。ただ、機動力と反撃手段の両立が難しくて、結構苦戦してるかな……。カンタはどう?」
商品棚の整理中に、親友の順太郎から声を掛けられた慶は、現在の状況を教え。返しに、彼の現状も聞いてみた。
「オラば、ガンオージャの武装を改めで見直じて、取捨選択をじどるだね。バインダーガンとユニットはそのまんまに、今『新武装』を搭載する予定だよ~」
どうやら順調に課題解決へ進んでいるようであり、安心した慶。その後、2人は別々の仕事をするために別れ、慶は店内入口で来客への挨拶と対応に移る。
「いらっしゃいませー!」
営業スマイルで元気溌剌な挨拶を行う。新しいガンプラを作り、アズキを取り戻す為にも今の自分に出来る事をやる。
「すまない、此所に『ラベンダー色のプチッガイ』は有るかい?」
そんな想いを抱いた彼に声を掛けたのは、白茶色の髪に、紫色の半袖シャツと光彩を宿した瞳、藍色のジーパンとグレーの靴を履いて、小さなバッグを襷掛けにした身長185cmの好青年であった。
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変わった雰囲気を持つ人だ……其れが、朱鳥 慶が初対面の好青年に抱いた感覚である。
「はい、7番エリアのプチッガイコーナーに有ります。此方へ御持ち致しましょうか?」
「いや…其の場所に案内してくれるかな?実物も見てみたい」
「わかりました」と彼を案内する慶。後ろを確認すると其の青年は、國弘と明人の兄弟と2人の両親が製作し、展示しているガンプラ達や、商品棚のキットを横目で確認しながら付いてきていた。
「此方へ来店されるのは初めてですか?」
「うん。ガンダムベースに向かう途中で、道路脇の看板に此所の事があったから、少し興味が湧いてね」
何気無く聞いてみると、彼は初めてやって来たと知り、青年は心の帯をきちっと締め直す。新規の客を獲得する事は、店を経営する上で必要不可欠であると、國弘から教わった事を思い出す。
『初めて来たお客様に気に入って貰うには、其の人の想いを大事にする事は絶対必要だ。ガンプラの箱は、ビルダーやダイバーに寄り添うサービスがモットーだからね』
そうこうしている内に2人は、多種多様なプチッガイのキットが置かれている、プチッガイコーナーへと辿り着いた。
「これは、凄いな……」
ガンプラの箱が誇る品揃えを前にして、青年が関心する間に、慶はラベンダー色のプチッガイの前に立つ。
(彼に買われたい子はどれかな………)
耳を澄ませて、聴覚に神経を集中する。慶が此の世に生を受け、物心付いた時より聞こえる、人が産み出した物が放つ声なき声を感じ取り、理解出来る特殊な感覚。
其の感覚を用いて、ラベンダー色のプチッガイの中から、青年に買われる事を最も強く望む箱を探し。
━━━私を買って!
奥から3番目にあるプチッガイから、一際強い声が聞こえ、慶は商品棚から其の箱を取り出した。
(……この子だな)
小さく頷き、其れを一番手前に置いて、周りを見ているマサキに声を掛ける。
「此方になります」とスッと手を翳し、ラベンダー色のプチッガイのキットを青年に提示する慶。
「これが…」とキットを手に取った彼の顔が、何処と無く活気が満ちたものに変わる。
「ありがとう、良い店だね此所は」
「ありがとうございます。レジエリアは此所から一度中央通路に戻り、東へ真っ直ぐに進んでいただくと、到着致します」
彼がどうしても気になった慶は、商品棚をチェックする傍ら、青年の後を感付かれぬ様に絶妙な距離感で後を付いていく。そうしてレジエリアへと辿り着いた彼を追い、慶は近くのフロアを見回りつつ、置かれたキットのビニール包装に傷が無いか確かめる。
「今いきまーす!」
そんな折、國弘がレジに入り青年と対面する。と━━━
「………もしかして、『ラルク』かい?」
「え、まさか……『シド』さん!?」
会話の流れが変わった瞬間、慶はバッと其の方向に目をやった。初めて此の店を訪れ、プチッガイを求めた好青年と店長代理の國弘は、知り合いだったのである。
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「初めまして、ラルクこと
「此方こそ初めまして。シドー・マサキ、ダイバーネーム『シド』です。まさか、此の店の主だったなんて」
「あ~……一応言っときますと、家の両親が店長で今は出張に出てて、代理をしてるんです」
「そうなのか…」
一通りの会計を終えた後、自己紹介と握手を交わし合い、何気無い会話を行う両者。ラルクとは、ガンプラバトルネクサスオンライン━━通称『GBN』をプレイする際に、國弘がユーザーとして使用するダイバー時の名前である。
「國弘さん、レジが混んでます!俺、入ります!」
レジに入った筈の國弘だったが、マサキとの会話で時間を忘れてしまい、何時の間にか数人の列が出来ている。慶が猛ダッシュで駆け寄って直ぐにレジ打ちに入り、事無きを得ることに。
「ふぅ…」
レジエリアに落ち着きが戻った所で、慶はマサキの事が気になり、質問をしてみる事にした。
「マサキさん、1つ質問をしてもよろしいでしょうか?」
「?何だい?」
「マサキさんは、GBNの有名ダイバーなのですか?」
順太郎のお陰で、名のあるダイバーやフォースの事は少しだが知ったものの、其れはGBNに名が知れ渡っているダイバーやフォースのみ。隠れた強者や軍勢への知識には、まだまだ疎いのだ。
「有名ダイバー…か。其処まで有名って程では無いよ」
自分の事を謙遜しながら答えるマサキ。しかし此のやり取りを見ていた國弘は、慶の無知故に出た質問に頭を抱え、彼の肩に震える手を置きつつ、マサキの事を話した。
「……慶は知らないんだよな。簡単に説明すると、マサキさんはソロで『ダイバーランクS』に上り詰めた、凄いダイバーの1人だ。諸事情が有ってGBNを休んでいたんだが、最近また活動を再開して、色々なミッションのランキングに其の名を刻んでいる。
つまり今、君の目の前に居る此の人は、とんでもない強者で慶よりも遥か先の世界を知っているという事。御解り?」
國弘の説明に慶は目を丸くした。ただ1人でSランクに駆け上がる事は容易な事では無く、其れを成し遂げた事は1人の人間として尊敬するのに十分だった。
「國弘。此の『オリジナル武器庫』の中で、HGサイズでオススメの武器は有るか?」
マサキが指差す先に有ったのは、國弘と明人がプラ板から自作し、様々なキットのサイズに合わせてショーケースで区分けされた、財団Bが販売している『システムベースシリーズ』の物と大差無いクオリティを誇る、多種多様な武装達。
特異な形状の銃口を持つビームライフルに、モーニングスターを想わせるスパイクハンマー。アタッシュケースの形をしたチェーンソー、箒型の超大型メイス等々……武器として見るには、些か疑問を抱くような物もあれば、巨大なマニピュレーターを模す指が稼働するハンマーに、宇宙を又に駆ける星狐の一団が使用する多目的戦闘戦車のような巨大バックパックと、一目でロマンが溢れる物も有る。
彼の言葉を聞いた國弘は、何を思ったかショーケースの中から1つの武器を取り出し、マサキの前に置いた。
其れは巨大な分厚い刃と盾に似た刀身を持ち、両手持ち可能な持ち手がある武器だ。
慶は此の武器が、何故か『盾と剣に斧と電磁砲の、計4つの機構を内蔵した特殊な物』であると感じた。
「名前を『グラップルアックス』。通常時は斧、持ち手を変えると電磁砲に、そして柄を刀身から引き抜くと剣と盾になる武器だ。感触と実際に装備して確かめてみてくれ」
マサキはグラップルアックスを手に取り、重量やギミックを確認。そして自分のバッグを開けて、中からケースを取り出し、其の中から『ガンプラ』を置いた。
其の小さな機体は『ガンダムMk-Ⅲ』をベースに、紫や青といった寒色系で無駄無く塗装が施され。独特な脚部と、バックパックには青を主体とする巨大なブースターに、白縁の小型シールドが合体、両手に形状が異なる2つのビームライフルを持っている。
差詰『ガンダムMk-Ⅲ版スーパーガンダム』の様にも見えてきた。
━━━━マサキ、今日はどんなミッションをするんだい?
━━━━ボクは君に付いていくさ、何処までも
彼のガンプラ……『ガンダムアドバンスドテルティウム』が、マサキに向けて声を放っているのを、慶は感じ取る。テルティウムの力強く、そして真っ直ぐな声が、彼がマサキの事を心の底から信じているのだと思うには、其れだけで十分だった。
「……うん、重量も悪くない。ガンプラの手首に負担を掛けず、攻撃力と耐久性を両立している。良い武器だね」
「そう言って貰えると、苦労して作った甲斐が有ったよ」
自作した武装を褒められて、ニッコリと微笑む國弘。慶は「あのっ!」と、マサキに声を掛ける。
「君は…慶君、だったね。どうしたんだ?」
「マサキさんのテルティウム、脚には何かギミックが有るのですか?教えてください!」
お願いします!と90度に近い御辞儀で、青年は頭を下げる。
「顔を上げて、大丈夫。見てて」と、マサキは慶の肩を優しく触れ、テルティウムの脚部の下腿と腓腹に当たるパーツを開く。カバーに覆われた中から現れたのは、ランチャーの砲身と中型のバーニア。
其れを見た瞬間、慶の脳内に存在する『新しいガンプラ』の完成形態のイメージに欠けていた『最後のピース』が、カチリと音を立ててハマり、真っ黒だった其の姿に鮮やかなトリコロールの色で染め上げられたのだ。
「どうかな?何か参考になったかい?」
「…はい!お陰で、新しいガンプラが作れそうです!ありがとうございます!」
御礼と共に頭を下げて、慶は自分の仕事を全うするため、再び売り場の方へと戻っていく。彼の表情には笑顔が溢れ、来るべきガンプラの完成への道筋が整った喜びに満ちていたのだった………。
新たな出逢いは、青年に道を照らす
用語解説
オリジナル武器庫:ガンプラの箱にあるショーケースの1つであり、國弘と明人の兄弟がプラ板を切り出し、1から全て作り上げたオリジナルの武装である。
見た目からして色物であったり、目に見えて殺意に満ちた物等、扱い易い物に一癖二癖もある物と多種多様だが、どれも人気。
特に刀や剣類の武装は、扱うダイバーやガンプラこそ選ぶものの、使い手にガッチリ嵌まれば一騎当千の戦闘力を得る程。