第三話でござい
「凄いダイバーも居るんだね、カンタ」
「んだんだ。ケイはまだ出会っだ事無いげど、フランシスざん以上に、化物みたいな滅茶苦茶強いダイバーも居るだよ」
魔骨の戦皇ことフランシスと別れたケイとカンタは、再びGBNを冒険を再開。現在2人が飛んでいるのは、針葉樹林が広がるヨーロッパ風のディメンション。眼下に見下ろす緑の絨毯を越えれば、残雪が残る秀峰と穏流の川が流れる場所に着く。
「此処も凄く良い場所だね」
「景色も良いじ、空気も旨いべ~」
機体を着陸、片膝立ちにしてから外へと出る。気温差故か薄い霧が足元を満たし、2人が踏む草の音もまた、現実に聞く音と同じ物となり聴覚に届いた。
「うっわ!?何だコレ!?音がリアル過ぎないか!?」
「GBNは無駄な所まで手が込んでるべから、驚ぐのも解るべさ」
「へぇ……」
乾いた笑いを溢しながら、ケイはカメラ機能で其の美しい景色をフィルムに収め、アルバムに入れた。
「あ、カンタ。GBNってディメンションごとに季節で分けてたりするのか?」
「そだよ~。春夏秋冬も此の世界には全部あるんだぁ」
「へぇ~。じゃあさ、GBNで『桜』がみたいな。其処に行ってみたい」
花の中でも桜が好きなケイは、GBNでは桜はどんな感じなのかが知りたくなり、カンタに言った。
「ケイ、其の桜が咲くディメンションなんだが………入ったら直ぐに機体を着陸ざぜで、徒歩で移動じた方が良いだ」
「え、どうして?」
首を傾げて其の理由を問うケイに、カンタは一拍置いてから言った。
「其のディメンションにば、逢魔時に現れる『辻斬りのダイバー』が居るんだぁよ。オラも噂で聞いだだけなんだけんど、そいつば『刀一本』で数多のガンプラとダイバーを屠った、とんでもねぇヤツなんだど。
付いた二づ名ば『MS斬りの悪魔』らしいだ。其の夕方まで時間がないがら、身を守る為にもそうずる事を奨めるべ」
━━━━━━と。
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午後4時30分………ケイとカンタはアジアンディメンション・ジャパンエリアへ続くゲートを潜り抜け、目的地に到着する。
ゲートを越えた直後、2人の視界には五重塔と赤い巨大な橋、そして山の斜面すら埋め尽くす薄桃色の桃源郷が広がり、沈み行く夕陽の輝きと相まって、時の流れを忘れさせてしまうかのような、神秘的な光景だった。
「ケイ、急ぐべ」
此のまま止まって写真を…と思ったが、カンタの声にハッとなり、直ぐに機体を着陸させて、一旦電子の粒へと還す。
「ふぅ…どやら、悪魔は今は居ないみたいだべな」
「カンタがそんなに危惧するなんてな…どんなダイバーが動かしてるんだろう?」
『悪魔』というキーワードから、ケイは其の機体が『鉄血のオルフェンズ』に登場し、厄災戦を終わらせたという設定を持つ『ガンダムフレーム採用機体』の可能性が高い事を推測した。
更に言うと、原作で『刀』を使ったガンダムフレームともなれば、其れに該当するのは『ガンダムバルバトス』か『ガンダムキマリスヴィダール』以外にありえない事も。
「嗚呼、やっぱり桜は綺麗だなぁ………」
悪魔の事を一度思考の隅に置き、目の前に広がる景色にケイはうっとりとする。
所狭しと咲き誇り、樹海を成すソメイヨシノの木々や根本や道に落ちた花弁が、そよ風に煽られて吹雪のように舞い上がり、2人の肩や頭に掛かった。
「ぷっ…!ケイ、鼻に乗っかってるべよ花弁が!」
「それを言うなら、カンタだって…リーゼントに沢山くっついて、クリスマスツリーみたいになってるよ」
「おわ!?ホントだべ!」
何気ない会話を交わしながら、2人は桜並木の中を足早に探索を始める。噂に聞く悪魔が現れる前に、少しでも長く此の景色を見ていたい。そう思いながら━━━━
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午後4時45分…
逢魔時が迫る中、2人が辿り着いたのは道の両脇を赤い石造りの灯篭が列を成し、赤い手摺と湾曲して対岸へと掛かる大きな橋であった。
「でっっっか……」
「昔の五条大橋みたいだべな…」
目を丸くする2人。其れもその筈、此の橋の広さはMSが5機は余裕で往来可能な幅と、橋の上で戦っても十二分に耐えられる頑丈な造りとなっている。
「此処渡ったらログアウトしよう、カンタ」
「だな。もう時間もないじ、此処等辺で切り上げるべ」
灯篭達が独りでに火を灯し、ポッ…ポッ…ポッ…と音が微かに耳に届く。不気味さを感じる2人の足は自然と加速し、早くも橋の中腹にまで差し掛かろうとしていた。
「あれ?カンタ、橋の中央に誰か居る」
此処でケイが視線の先に『人影』を捉え、カンタに小声で伝える。カンタが目をガン開きにして、ゆっくり近付いて行くと、其処には『女性』が1人居た。
「む、迷い人か」
シャン…と心に鈴の音が響くような、透き通った綺麗な声だった。
185cmの高身長に、スラッとした佇まい。真っ直ぐな背筋と同じ、腰まで伸びた艶のある黒い髪が、風に揺れていた。小豆色の着物には桜の刺繍が施され、赤い袴と高相性の組み合わせで、黒い革のブーツがより彼女の衣裳を引き立てている。
そして腰には、一本の日本刀があり、衣服や出で立ちはまさに、撫子侍そのものであった。
「あ、あの、こんばんわ!」
「こんばんわだべ!」
「あぁ、こんばんわ」
お互いに会釈し、取り敢えず早いところ橋を渡り切ろうかと考えるカンタ。しかしケイには、この女性ダイバーの内に秘めた力が、とてつもない物であると直感的に感じた。そして其れを確かめるべく、青年は女性へと問い掛ける。
「すみません、貴女は有名なダイバーなのですか?」
「私は有名なダイバーじゃあないが?」
「え、そうなのですか?」
「あぁ。私は剣の道を極める為に、こうしてGBNに潜っている」
スラリと腰の日本刀を抜刀し、2人が居ない方へと摺り足で向きつつ、刀を構える。『達人』━━━━其れが青年達が彼女の構えから思い浮かんだ言葉であった。
「剣術もガンプラも限界が無く、極める程に底が知れない。だからこそ其れを知り、極めて行くのは本当に楽しい」
縦一閃の煌めきが可視化出来る程に、彼女の太刀筋は美しく、ほんの刹那に込められた技があり。そしてケイは其の言葉により、今の自分のガンプラを越えた『新しい姿』が頭に描かれたのである。
そして同時に、此の人の剣術をもっと見て、学んでみたいとも思った。
「あ、あの!俺、今日初めてGBNにログインしました!貴女で良ければ、その…フレンド登録をしませんか?」
「お、オラもええだか!?」
女性の目には、純粋な想いを向けているケイとカンタの姿が映る。今まで『不埒な輩』から不純な目を向けられてきた彼女にとって、綺麗で濁りの無い目を久しく見たのだ。
「ふむ……良いだろう」
そう言ってフレンド申請を飛ばし、相互承認によって3人はフレンド同士となった。
「ケイ、そろそろ時間だべ!」
「あ、本当だ!あの、此処等で悪魔が出るらしいので気を付けてください!」
MS斬りの悪魔の事を女性ダイバーに伝え、ケイとカンタはコンソールからログアウトボタンを押し、電子の世界から退場していった。
「さて、頃合い…だな」
彼女は上空に現れる無数の光の点達を見上げながら、コンソールを操作し、自分の半身とも呼べる存在を顕現させる。其れ即ち、これから始まる戦いの、開戦を告げる事を意味していた。
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逢魔時特有の何とも言えぬ寒暖入り雑じる空気が、ネットリとした気味の悪いものに変わる。
今宵大橋にて顕現せし悪魔は、己を討ち取らんと空から降ってきた無数のガンプラを前に、高鳴る鼓動を押さえながら、其の手に握りし唯一の得物たる刀に手を置き、縮地の踏み込みと神速の抜刀で近くにいた敵機を両断。
濃密な弾幕の嵐を必要最小限のブーストで回避し、稲妻が迸ったかのようなツインアイの残光を残して、1機…また1機と、其の刃で獲物の体躯を斬り捨て、突き刺し、裂き倒す。
悪魔は唯一の牙をマニピュレータに通して、ゆっくりと刃を引き、再び研ぎ澄まされた一閃で、其の息の根を止め、命の焔を食い尽くす。
無数に居た敵達は、ものの数分で物言わぬ鉄塊へと変わり果て、橋には悪魔が降り立ち、其の刀を研ぎて鞘へと収めた。
「ふっ…今日もまた、善き戦いだった」
悪魔のコックピットに居たダイバー……ケイとカンタと話をしていたアズキは、呼吸を調え終えた後にコンソール画面からログアウトボタンを押して、電子の世界から現実へと意識を戻す。
逢魔時にのみ現れる悪魔を操るダイバーは、今日もまた敵の屍を積み重ね、己の剣の道を往くのであった…………
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「ふぅ……」
GBNから現実に戻った朱鳥 慶は、頭に着けたVRゴーグルを外して、大きく息を吐いた。未知の体験の連続に、新しい出逢い、そして広大な電脳世界………何もかもが『初めて』で、驚きと発見の連続に今も心臓が高鳴っている。
「慶、どうだっただか?初めてのGBNば?」
「…本当に凄いゲームなんだなって。明日もやってみたいし、この子の強化もしてあげたいし、兎に角やる事が沢山出来た」
「やづばり!慶なら気にいるど思っだだよ!」
シイタケ目を輝かせ、ズズズイと迫る順太郎。身長と体躯の大きさのせいもあって、やはり圧が強い。
「ぞれで、慶のガンプラはどんな改造を考えでるんだべか?」
「それなんだけどね━━━━━」
改造案の事を順太郎に相談し、彼からもアドバイスを貰う慶。その後2人はガンダムベース東京を物色、最終的に━━━━━━━━
『ガンダムバルバトス 第6形態』
『シュバルベグレイズ(マクギリス機)』
『ガンダムAGE-2 ダブルバレット』
『ガンダムAGE-3 オービタル』
『ガンダムAGE-1 フルグランサ』
『ガンダムトライエイジマグナム(レプリカ)』
『ガンダムAGE-1 レイザーウェア改造パーツ』
以上のキット中にあるパーツが必要となることが判明した。
「……………これ、トライエイジマグナム以外は購入出来るじ、レイザーウェア改造キットはネットで探ぜば、なんとなるだべな…」
「だよね~…」
メモに記した必要な物の一覧を見て、目処を付ける2人。GBNのチャンピオン『クジョウ・キョウヤ』が使っている『ガンダムトライエイジマグナム』は、レプリカ仕様のものが出回っており、高い人気から品薄になりやすく、更にダメ押しとばかりに、何処もかしこも高額で取引されている。
バイト先を増やさない限り、今の自分達の金銭では、トライエイジマグナムの購入は出来そうに無いのだ。
「どうしたんだい、2人共?さっきから、何か考え事をしているようだけど?」
「ケンざん。実ばだな………」
と、そんな時にケンが声を掛けてくる。順太郎と慶は駄目元で、慶のAGE-1 ノーマルの新しい改造案の事と、改造に必要なガンプラの事を話した。
「成程……新しいバイト先か…。……いや、待てよ………?確か…………」
何か思い出したのか、ケンは足早にレジへ向かい、備え付けのコンピューターから検索エンジンを掛けていく。
「あったあった。2人共、コレなんだが……」
画面を此方に向けてくる。其処には求人広告があり、企業名に『ガンプラの箱』と書かれている。
「……『ガンプラの箱』?模型店ですか?」
「日給制で手取『25000円』だで!?何だごの高給料ば!?詐欺じゃないがど!?」
「詐欺じゃないし、本当の事だよ。中々求人を出さない事で有名なんだ、この御店。慶君、順太郎君、やってみたらどうかな?」
何もしないよりかは、やってみるのも良いかもしれない。2人は顔を見合せあって頷き、近くの書店で履歴書を購入する事を決意し、ケンに御礼を述べた後、ガンプラベース東京を後にしたのだった…━━━━━
彼女は強く気高く美しく
ダイバー紹介
アズキ(CV:早見沙織):ケイとカンタがGBNでの冒険の最中、桜が咲き誇る京都のようなディメンションの、五条大橋によく似た場所で出会った女性ダイバー。
185cmの高身長に腰まで伸びた艶やかな黒髪、桜の刺繍を施した小豆色の着物と赤い袴を着、腰に日本刀を1本収め、黒革のブーツを履いて背筋を伸ばした姿は、撫子侍を思わせるダイバールックをしている。
現実だけでなく、GBNでも剣の道を極めんとする武人気質な女性であり「剣術もガンプラも限界が無く、極める程に底が知れない。だからこそ其れを知り、極めて行くのは本当に楽しい」と言い切り、其れによりケイはAGE-1 ノーマルの改造案を思い付く。
フレンド登録をしたところで2人はログアウトした為、其の後に起きた事を知らなかったが、彼女の愛機こそが刀一本で多くの敵を屠り続け、其の異名に『MS斬りの悪魔』を得たガンプラなのである。