ガンプラの箱にて、ガンプラバトル時代のレジェンドファイターにしてビルダー、三代目メイジン・カワグチことユウキ・タツヤとの邂逅を果たした数時間後……
「まだ夢を見てる気分だ…」
「興奮強ずぎで、ザイン貰うの忘れだだよ~…」
「いやぁ…人生、何が起こるかわっかんないもんだな」 「本当に其の通りですね、店長」
「あのカワグチって人、すごくゆーめーなの?」
「あぁ。ガンプラを触る人達にとっては、神様…と言えば良いのかな?」
休憩室にて先に起きた出来事を振り返る4人は、興奮覚め醒め止まぬ状態にあった。それもそうだ、只でさえガンプラ界隈では万人に名が知れ渡っている、レジェンドの中のレジェンドが御忍びで来店し、慶に名刺を渡した事で初めて判明したのだから無理もない。
「あ、そうだ慶。メイジ…じゃなくてユウキ社長さんの名刺のコピーを取らせてくれないか?」
「はい、良いですが…どうするつもりですか?」
「今後の経営に役立てたい」
「さいですか」
國弘のお願いに、首をきょとんと傾げる慶へスッパリと言い切る。店を守る人間として、商売相手を増やして商いをより良く回すのは、当然の使命なのだろう。
と…━━━━
「兄さん、ただいまー!」
國弘が溺愛する弟であり、副店長代理の役回りに居る
其の声を聞いた瞬間、國弘の瞳はギラリ!と光輝くや、バーに弾き飛ばされたパチンコ玉の様に身体がかっ飛ぶや。
「明人ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!アキトニウムを俺にくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!もう欠乏して理性が飛びそうだああああああああああああああああ!!!!」
と、一目散に明人が居る玄関先に走り出し。数秒後に「わわわ、兄さん!?」と声がしたかと思えば、ドカンバタンガシャン!と玄関が喧騒の音を激しく立てた。
そうして数分後……
「ふぅ……」
瑞々しく艶々した顔立ちになり、風呂上がりのような気持ちであるような、太陽の陽射しに似たニッコニコの表情で國弘が帰って来た。
「何してたんですか、國弘ざん…」
「ん?アキトニウム摂取ですが何か?」
其れ以外に何かあります?と言わんばかりの顔と答えに、慶と順太郎は顔を見合せて、半ば諦めた顔で「そうですか…」と溜息混じりに肩を落とした。
きっと國弘のブラコンは、一生涯治ることはないのだと、二人はそう認めるしか出来なかったのだ。
「兄さん、兄さん。僕、学校の宿題しないといけないから、夕食お願い出来る?」
「よし、任された。アキトニウムも満タンだからな、ドンとやったるぜ!」
胸を叩き、フンスと鼻息を吐いた國弘の目には、活力とやる気が満ち溢れていた。これが常に持っていたらと、ヒノワ以外の従業員は心の中で思っただろう。
其の後は何事も無く、ヒノワにとっても貴重な経験であり。慶と順太郎、國弘と春日には忘れられない日のバイトは終了となったのだった………
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ガンプラの箱、従業員出入口……
「ふぅ~…終わったぁ……」
「大変だったべ~」
「慶~カンタ~おつかれさまー」
バイトを終え、何時ものように買い物タイムでお目当ての商品を買った慶は、思いっきり背伸びをして背骨をパキポキと鳴らした。
「明日は休みだげど、慶はGBNにログインずるべか?」
「うん。改良したビヨンドガンダムの性能チェックもだけど、ヒノワとジョーさんのビルドライジング加入祝いもしたいって考えてる」
「おいわい、おいわい♪」
祝賀会を何にするかと考えながら、慶と順太郎は夜道を歩く。空は梅雨の時期としては珍しく、雲一つ無い夜空が広がり、街灯に照らされる中で一等星の星は時折瞬いている。
「ケイ、ケイ。こっちの世界は、全然星が見えないんだね」
「あ…確かに。GBNの夜空は宝石箱みたいに綺麗だからなぁ」
「時間があっだら天体観測もじでみだいだね」
「それなら、俺前々から砂漠の時のバナージを一度やってみたいって考えてたんだ」
「んだら、オラがジンネマンだべな」
会話が弾む二人にヒノワが「それ楽しいの~?」の問うと、青年の口は「「楽しい」」と完全にシンクロしたのであった。
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ガンプラの箱の最寄り駅周辺…━━━
夜の時間帯ではあるが、人の往来は其れなりに起きる道を慶と順太郎は歩いていく。歩きスマフォをする者、目的地へ向かうバスに乗り込む者、タクシー乗り場で待つ者等、人各々である。
「やっぱり人多いね、この駅の周り」
「んだな~。活気が有っでオラば好ぎだべ」
周りの動きに順応しながら、駅の改札口がある上階への階段へ歩く。そんな人の流れを慶の背負ったリュックの、僅かにジッパーを開けた中から覗き見していたヒノワが、何かを見付けて慶の髪を引っ張った。
「イテて!?ヒノワ、髪引っ張ったか?」
「ケイ、ケイ!あそこ!あそこに誰か居る!」
リュックから身体を出し、肩から其の方をヒノワが指差しながらに言う。人の往来で状況が分からない慶だったが、身長が高い順太郎はヒノワが指した方角で、何が起きているのかを視認出来た。
其れは━━━━━『路地裏で中高生程の身長の女子が、四十代の中年男性に絡まれて、凄い嫌そうな顔をしていた』のである。
(慶、女の子が変なおっざんに絡まれてるべ)
(!?急いで助けに行こう!)
即断即決、人波を裂き、二人は急ぐ。念の為にスマフォのカメラを起動し、男性が良からぬ事を仕出かしていた場合に備えておく。
ヒノワにリュックの中に隠れるように小声で言い、慶と順太郎は静かな路地裏へと足を踏み入れた。
「良いじゃないかぁ~♪おじさんと遊ぼうよ~」
「ちょっ、ほんっとにシツコイよ!」
頭の中心が若干ハゲて、割腹の良い身体付きとスーツを着る男は、片手に数枚の諭吉を握りながら、もう片方の手で少女の逃げ道を塞いでいる。
男に逃げ道を塞がれた背丈が150cm程の少女は、栗毛色のショートヘアに高校の制服と裾を短くしたスカートを着、此の時期には似合わない赤い大きなマフラーを巻いていた。そして彼女の胸は豊満であった。
(カンタ、此方はスマフォの準備は出来てる。彼女を助けるぞ)
(何時でも行げるべ)
意を決し、二人は男に声を掛けた。
「其処の男性!ちょっと良いですかね!」
「そごの人!何しでるべよ!」
「んん?何だ君た」
不機嫌そうに声を放った男に、すかさずスマフォの画面を二人は見せ付け、彼を詰ませに掛かる。
「今さっき一部始終を録画させていただきました。これを交番に持っていきます」
「は?え!?」
「ただじ、其の娘に二度ど近付がず、同じ事を繰り返ざんっで約束ずるなら、ごいつば削除するべざ」
真剣な眼差しで青年達は男性を睨み付けた。カメラを起動させてはいるが、録画をしたというのはフェイクである。此の男性も一瞬の気の迷いで行動したかもしれない。其れを考えて、彼等は男に釘を刺す選択を取ったのだ。
「ひえっ!?わ、分かったからそれだけは勘弁してくれ!」
フェイクが効いたのか、男は油汗を額に浮かべながら、そそくさと路地裏から出て行った。其の背中が見えなくなったのを見計らい、青年達はホッと胸を撫で下ろす。
「━━━━━ふぅ…なんどが引ぎ下がってぐれたべ」
「大事にならなくて良かった」
互いに利き手でサムズアップする二人。と、彼等に「あ、あの!」と先程助けた少女の声が届く。
「さっきは助けてくれて、ありがとうございました!」
頭を下げると同時に、制服の上着を押し上げる豊かに実った胸部が、たゆん♪と音を立てるかのように揺れた。其れを男子の性に抗えず、一瞬視線を送ってしまった順太郎と、薄暗い中で車のライトで僅かに見えた少女の髪に、慶は視線を奪われる。
「…大丈夫?なんか二人、ぼぉ~…ってしてるみたいだけど」
「あ、うん…気にしないで。俺達も君が困ってるって思ったから」
「んだんだ!君が無事でホンドに良がっだべさ」
下から覗き込む様に問い掛けた少女に、青年二人は少し焦りつつも平静を装い答える。女性は他者からの視線に対し、取分敏感だと本やテレビで見聞きした覚えが在ったが、どうやら自分達の視線に少女は気付いたかも知れない。
そしてふと順太郎がスマフォに目を向けると、次の電車の到着時刻まで後4分に差し迫ろうとしていたのだ。此の電車を逃すと、次に電車がやって来るのは15分後となり、翌日の予定に少なからず影響が出てしまう。
「っで!慶、ちょど不味いべ!電車がもうずぐ来ぢまうだ!」
「あ、ホントだ?!急がなきゃ!」
慌てながらにスマフォをズボンのポケットへ押し込みながら、慶は少女の方を向いて「夜道に気を付けて!それじゃあ!」と一言述べ、順太郎と共に路地裏から駅の方へと一目散に走っていった。
其の背中を目で追い掛け、少女は自分のスマフォを手に取り、待ち受け画面を表示する。
━━━あの人が、ケイさんなんだ
そう徐に言葉を溢し、彼女もまた路地裏から街灯煌めく夜の町を抜け、自分の居場所へと帰っていった。
彼女の名は、
・少女と青年は