「本日から、新しく2人の仲間が此の店に加わった!慶君、順太郎君、挨拶をどうぞ!」
「朱鳥 慶と言います!新人ですが、御指導御鞭撻宜しくお願い致します!」
「上条 順太郎でず!どうぞ、よろじぐお願いしまず!」
ガンプラの箱での面接から翌日、慶と順太郎は新入として職場に入り、何故か着用義務になっている白衣を纏い、目の前に居る『3人』のメンバーに挨拶を行った。
1人はニット帽を深く頭に被り、前髪で目元が見えないようにしている、青のワンピースと科学者風の白衣を着て、分かりやすいダウナーな雰囲気を宿した、170cmの藍色の髪の女性。
1人は赤黄金色のギザギザ髪に、ネックレス・イヤリング・コンタクトに星をあしらい、白衣と白いTシャツ、グリーンのタンクトップを纏った、如何にもチャラチャラしている155cm程度の男性。
1人は坊主頭に細目、そして鍛えられた胸元と日焼け肌が白衣からチラリと覗き、黒のスウェットとジーンズの厳つい顔をした180cmの背丈で、三十代位の強面男性が腕組みしながら立っていた。
「は、初め…まして…。私、その……
「ちゅりーッス!オレ、
「私は
これから始まる、ガンプラの箱でのバイト。取り敢えず、迷惑だけは掛けないようにと、2人は気合いを入れる。
「分からない事が有ったら、皆を頼ることだ。では今日も1日、気張りすぎずに頑張りましょう!」
『『『はいっ!』』』
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「慶君、順太郎君。HGのキットを作品別の商品棚に置いて…。其の時の注意点として、1つを立てて後ろには、機体の設定説明文が記載された方を向けて…ね?」
青年達は新入として一週間、先輩達の元で研修を行うのが、此の店での通例になっている。先ず2人は、ガンプラの箱の紅一点である、ニット帽と前髪で目元まで隠している女性の帆波から、キットの置き方や向き、注意点を受けていた。
「こうですか?」
「そう、そんな感じ…」
「帆波ざーん!此の棚には何を乗せれば良いだか~?」
「ちょっと待ってて。今行くから……」
慶の方を見終えた後、帆波は順太郎の方へと行く。『何で目元を隠しているんだろう?』━━━僅かな時間だが、慶が彼女に抱いた疑問である。
孤児院で育ち、他者とは異なる力━━『創作物の声を聞ける』異能により、周りの子供達の輪から孤立していた幼少時代の慶。ある日、其の力に目を付けた『上級階層の人間』に引き取られ、彼は引き取り人の屋敷で『鑑定補佐』の職に就かされた。
創作物の声を聞ける慶の力を利用し、絵画や宝石を鑑定。其れを『贋作』か『真作』か見分け、贋作ならば真作として高く売り付け、真作ならば贋作と見なして安く買い取るという、所謂『詐欺鑑定士』の人間であり。
贋作であれ、真作であれ、創られた物に込められた作り手の確かな想いや願いを述べても、まるで見向きもされず、逆らえば酷い仕打ちを受けた。だがそんなクズであっても慶専用の口座を作り、鑑定によって得られた利益の3割を其処に振り込み、自分が逮捕されても口座の所有権が、自動的に彼の元に移るようにはしていたらしい。
物を鑑定する上で、目を養うべしと其の者に連れられて、上級階層の人間達が出席するパーティーや宴会に彼は付き添いで連れて行かれ、其処で沢山の装飾品や人を見る事を教わった。
確実に自分の品を買う人間か、財布の紐が弛い人間はどんな特徴があるか等々…其れこそ、自分の精神が凹凸の無くなったタイヤのようになるまで、何度も何度も言い聞かせて━━━━━━
そんな時間が3年以上に渡って続いたある日。慶は溜まりに溜まり続けてきた心労によって倒れ、病院に担ぎ込まれる事となり、其れから1ヵ月以上、目を覚ます事無く眠り続けた。そして目を覚ました時には、自分を鑑定補佐に就けていた者は警察に逮捕され、30以上の罪状に掛けられる結果となったらしい。
そんな事があった慶だが、其の3年で彼は様々な人間を見る中で、些細な違和感という物に気付くようになった。髪で顔の半分を隠す…腕にスカーフを巻く…その場に似つかわしくない色の服を着る…。
一見すれば、其の人の個性が出ている様に見えるのだが、慶からすれば其れは違和感に等しく。帆波が目元を隠すために、前髪とニット帽での二段重ねをしている事に、疑問を抱くには十分過ぎていた。
(………いや、今は止めておこう。仕事に集中しなくちゃ)
だが、朱鳥 慶という人間は『話題に踏み込むタイミング』を見定めるのが上手かった。彼女がどうして目元を隠すのか…其れは此れから先、共に働く仲間として良い関係で在る為にも、今は避けた方が最良だと判断し、再び自分に課された仕事をやっていく……。
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「お~慶ちん、中々器用に包むねぇ~。順ちんはレジ打ち、とっても早いねぃ」
「手馴れているな、2人共。例え顧客が目の前に居ても、慌てずに行えれば尚良しだ」
次に2人は、チャラチャラした感じの健司と、落ち着きと重厚感を常に待とう春日の元で、レジ打ちや注文伝票の見方、プレゼント等で用いる商品の包装を教わっていた。慶は手先の器用さから、ラッピングや包装を綺麗に包み、順太郎は其の体格に似合わぬ繊細な指先で、レジのボタンをタタタと優しく叩いていく。
「ありがとうございます。他のバイトもやっているんですが、其の時に教わった事が役に立ちました」
「オラは家の手伝いで、レジ打ちとかしてたがら出来てるだけだべ。昔は指先の力が強すぎで、故障さぜでしまった事があっただよ。練習した甲斐があったべ」
手を休める事はせず、練習用の箱にラッピングを施して、レジ打ちを行い、そして挨拶を繰り返す。そして春日はガンプラの箱の『最忙時期』について、青年達に伝達する。
「今は少し暇ではあるが、GBNでのイベントが有ると其の準備に向けて、思い思いのガンプラを購入する人達が増える。特に8月の『GBN
「毎年本当に大変になるんだよねぇ~…。まぁ、慶ちんと順ちんは其の時が来ても大丈夫なように、オレや春日ちん、帆波姉さんでサポートするからしっかり頑張ってくれぃ」
どうやらGBNには、大きなイベントが幾つか有るようで、ダイバー達は其処で成果を残せるように、己の最善を尽くすべく、新しいガンプラを作ったり、使っているガンプラを強化したりと、各々努力を重ねる。
ならば自分達も。其のイベントに参加する時には、もっと強くならねばならないと、慶と順太郎はアイコンタクトを取り合う。
其の後2人は店内の見回りと掃除、電話対応等を教わって、緊急時の電話番号をスマフォに登録しながら、来店した御客に対する國弘達の正しい対応についてを見て学び。
そして閉店時間の午後9時。2人はガンプラの箱にて、初めてのバイトを終えたのだった。
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「慶君、順太郎君、帆波さん、春日さん、健司さん、そして明人。皆さん、今日もよく頑張りました」
國弘から日給と掛かれた茶色の紙封筒を各々受け取り、中身を確認する。青年達が受け取った封筒の中には、2枚の諭吉と1枚の樋口がキッチリ入っており、慶と順太郎は嬉しくなった。
働いて給料を得る…詰まる所其れは、社会に貢献することと同時に、給料は其の頑張りに対する対価でもある。
と、國弘がテクテクとレジの方へと歩き、カウンター越しに立って言う、
「後、今から『10分だけ』俺がレジに入るので、何か買いたい物が有ったら持ってきてね」
其れを聞いた春日と健司が頷いて売場に向かい、帆波は兄弟達に頭を下げて出口に向かって歩き出した。どういう事だろう?と2人は思う。
「慶さんと順太郎さんは、何か欲しい物とか有りますか?」
顔を見合わせていた2人に、明人が問い掛けてくる。
「えっと…明人君、買い物をして良いってどうゆう事?」
「オラも気になっただ」
其の事について聞かれ、明人は小声で2人に事の次第を伝える。
「兄さん、皆が長く働けるように、モチベーション維持の一貫としてやってるの。売場の見回りをさせてたり、フロアの掃除をするのは、少しでも気になったキットや欲しい物を見つけて貰えるようにするため。
普段は僕に甘えて、撫でて愛でてないと食事すらまともに取れない、ちょっとダメダメな兄さんだけど、商売の事には本気で頭を捻って、色々試したりしながら一生懸命に頑張ってるんだ」
此の日、順太郎は給料を必要な時に使えるように、貯金しておく事を決め。
慶は何を買うべきか悩んだものの、最終的に絞り込みを行い、1万5000円の予算の中でガンプラ製作に必要な工具一式とサーフェイサー、缶スプレーにガンダムマーカー、そして『HGジョイントパーツ袋詰め』と『ガンダムAGE-2 ダブルバレット』のキットを購入したのだった。
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午後11時……大学前で順太郎と別れた慶は、早速寮内に在る自室へと戻り、まだ使っていない白紙の大学ノートを開く。
明人から貰った『AGE-1 ノーマルの改修イラスト』を元に、手持ち武器の1つたる『AGE-2 ダブルバレットのツインドッズキャノン』をベースとし、高い砲撃能力を宿した『ウイングガンダムゼロのツインバスターライフル』のような『合体砲撃機構』を備える。
………といった『デュアルドッズキャノン』の細かな設定を考える。
(ドッズキャノンの砲芯部分に、斜めの切り込みを入れて更に貫通力を高めよう。そしたら合体出来るように、干渉し合う部分をニッパーで落として、ジョイントパーツを付けて……)
実際のキットとイラストを見比べ、其れから慎重に製作を行う慶。先ず、AGE-2 ダブルバレットの素組を行い、本体とは別に、ツインドッズキャノンのパーツを一ヶ所に集める。
そしてツインドッズキャノンの砲芯部分に、斜めの切り込みを入れるのだが、慶は先にスマフォでドッズキャノンの内部の写真を撮り、ノートに図面を書く。此れは切り込みを加えた際に、ビームの回転がスムーズに行われるようにする事と、僅かな差異でビームが暴発してしまわないように防止する事が含まれていた。
深夜による眠気に襲われながらも、彼は其の手を止める事なく続行。ツインドッズキャノンのパーツを一旦洗い、ティッシュで拭き、ドライヤーで優しく水気を飛ばして乾燥し、組み立てる。
そして時計の針が午前2時を切った頃━━━━━
「出来た……!」
ガンプラの箱で購入したジョイントパーツに接続され、
ヒケの部分を小さくしたツインドッズキャノンこと『デュアルドッズキャノン』が完成。
スミ入れには通常『黒』を使うのだが、慶は黒一色のデュアルドッズキャノンに『白』のスミを使った事により、一気にメリハリと完成度が高まったのである。
「ふぁあ~……もう、2時……か………━━━」
欠伸が最後の一押しとなった事で、慶はデュアルドッズキャノンを手の中に収めたまま、息を立てて眠りに落ちたのだった……
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其の日の昼時━━━━━━
「ふぁあ……んん……」
「慶、今日は一段と眠そうだべな」
大学内のベンチに座り、購買で買った大玉おにぎりを美味しそうに食べる順太郎は、隣でサンドイッチを食べ終えて、眠気眼で欠伸する親友を見ながら言った。
「うん……ちょっと徹夜で、AGE-1の武装を改修しててね…何とか形に出来たよ……」
今にも寝落ちてしまいそうになりながら、慶がスマフォを取り出そうとするが、順太郎は彼を止めながら自分の膝をポンポンと叩く。
「膝枕だべ。少し眠って元気になるべよ」
にっこりと微笑む親友に、慶は暫くコックリを繰り返したものの、睡魔には打ち勝てず、吸い込まれるように彼の膝に頭を乗せて、軈てスヤスヤと赤子のような顔で眠り始めた。
そんな慶の眠りを少しでも善きものにしようと、順太郎は彼の頭を優しく撫でながら、母親が幼い頃の自分に寝かし聞かせた子守唄を口ずさむ。
「ねーんねーん、ごろーりーよ~♪おごーろーびーよ~♪ぼーやはー、よいーごーだー、ねんねじな~♪」
田舎訛りが残るものの、其の優しい歌声は慶の眠りをより深く、より有意義なものにしていく。
…………尚、此の時の様子を陰ながら見ていた『腐女子達』は、黄色い声を押さえながら上げたそうな……。
ゆっくりと、一歩ずつ
人物紹介
慶と順太郎という後輩が出来、本人は顔や口には出さないが、内心嬉しく思っている。
趣味は妄想する事であり、男性や女性同士が一緒に居たり、國弘と明人が仲睦まじくしている様子を黙視した後、頭の中で想像に深けるのが好き………らしい。
ガンプラの箱でのバイト歴は5年で、現在居るメンバーの中で一番長く、メンバーの事は「~ちん」か「~兄貴」、「~姉さん」と呼ぶ。
ガンダム作品の歌をほぼ全て網羅しており、カラオケでも常に90点以上を叩き出すという特技がある。
ガンダムベース東京での経験を活かし、GBNのイベント等の傾向から売買するガンプラキットを予測したり、國弘に相談してスペースを確保する等、縁の下の力持ち的ポジションにいる。
自分を越える身長の順太郎が入ってきて、少し驚いている。
ジョイントパーツ袋詰め:ガンプラの箱で売られている、國弘と明人がプラリペアを用いて製作した、オリジナルのパーツ達。
各キットに合わせたサイズが有り、ウイングガンダムゼロのようなライフルを二丁合体させるパーツや、AGE-1系列のガンプラのバックパックを、2穴に対応させるパーツ等が多く入っており、ビルダーとしての兄弟の能力が詰まった一品。