マリオネット   作:らるいて

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その十

 状況の説明をする前に、腹から流れ続ける血を止めるために応急処置を施す。とはいえ包帯も持っていないので随分と簡単なものだ。夕乃さんが持っていたハンカチで傷口を塞ぎ、夕乃さんが自身の服を裂いて包帯代わりに巻いた。これは俺のハンカチや服が、銀子を押し倒した時に汚れたからだ。夕乃さんの服以外に良さそうな布がなかった。

 その後で夕乃さんは銀子が背負い、森の外へと歩き出す。俺が背負おうとしたのだが、怪我人は大人しくしなさい。と有無を言わさず却下された。

 歩き出す前に、紫が携帯を取り出して、どこかへ電話しようとする。それを見て夕乃さんが紫を手で制する。

 

「紫ちゃん、119番は駄目ですよ」

「分かっている。騎場に迎えに来てもらう」

 

紫がそう返すと夕乃さんは手を引いた。紫は再び携帯をいじり、騎場さんに連絡をする。騎場さんというのは紫の護衛を務める、九鳳院の近衛だ。普段は学校など、様々な場所への送迎をしている。

 

「騎場か、迎えに来てくれ。場所は――」

 

紫の携帯は防水性なのだろうか、雨は止んでいない。まぁ、仮にも九鳳院の人間なのだから、普通の市販されているような携帯とは違うのだろう。などと紫が騎場さんと話している間に考えていると、夕乃さんがこちらに近づいて耳元で囁いてきた。

 

「話は車の中で、じっくり、聞かせてもらいますからね」

 

念を押すように言ってきたので、俺は静かに頷く。車の中ならば他の誰かに聞かれる心配はない。騎場さんが人に話すということも、まずない。夕乃さんは微笑むと、また離れようとした。だが紫が電話をしながらこちらを睨んでいるのに気が付いたようで、離れた距離をまた詰めて、擦り寄ってきた。紫は電話を切ると、こちらに大股で歩いてきて俺を追い越し、前を横切り、夕乃さんの反対側、俺の右隣にぴったりとついて手を握ってくる。それから夕乃さんの方を向き、二人の視線が合う。二人ともすぐに前を向いて止まっていた足を動かしだした。

 

少し進むと、放り出されたように傘が二つ並んでいた。片方は子供用、もう片方は女性用の傘のようだ。二人は当然のように傘を拾って差した。夕乃さんに、銀子を背負って大変だから俺に差してほしい、と頼まれる。断る理由はないので、傘を差して二人で入る。

 すると右手にかかる圧力が少し強くなった。紫の方を見ると、こちらを睨んでいる。握られている手を離させ、苦笑いしながら頭を撫でると、機嫌は良くなった。手を繋ぎ直して前に進む。

 

 左に夕乃さん。右に紫。横に広がっているので、森の中を歩くのには中々難儀する。夕乃さんは銀子を背負いながらでも疲れを見せず歩いているが、紫は何度か木の根や雨でぬかるんだ地面に足を取られ転びかけている。紫と手を繋いでいるので、今のところ転んではいないが。

 

「大丈夫か? 紫」

「大丈夫だ、心配するなっ、真九郎」

 

少しだけ途切れ途切れになりながら大丈夫だと言っている途中で、また足を取られて転びかけている。

 

「言わんこっちゃない。何なら運ぶぞ?」

 

その言葉に一瞬悩むようなそぶりを見せたが、首を振って、口を開こうとする。すると後ろから、というか反対側から声が聞こえた

 

「駄目です」

 

夕乃さんだ。

 

「真九郎さんは怪我人なんですから、体に負担を掛けてはいけません」

「でも夕乃さん、紫が疲れて」

 

その言葉に反論しようとすると、当の紫本人からさらに否定された。

 

「いや、夕乃の言うとおりだ。私は大丈夫だから気にしないでくれ」

 

紫自身がそういうのなら、無理に言うことはできない。とはいえ危なっかしくて心配なのは変わらないので、先ほどよりも手をしっかりと握った。向こうからも、握り返してきたのが分かった。

 

 

 

 しばらく歩くと、道路が見えてきた。車が見えないことから、騎場さんはまだ来ていないのが分かる。と言っても、電車でもあれだけ時間がかかったのだから、車でもかなりかかるはずだ。その間雨の中立ち尽くす、というのも何なので、疑問に思ったことを聞いてみた。

 

「そういえば二人ともなんでこんなところに?」

 

至極当たり前の疑問をぶつけたと思ったのだが、二人は急に目を逸らして、二人で少し離れた場所に移動し、そこでいくつか話をし始めた。どうし……近づいて、しゃがんで話している夕乃さんが濡れないように傘を差す。それに気が付いたようで、夕乃さんは勢いよく立ち上がり、礼を言ってきた。気にしないでくださいと返したところで、紫が口を開いた。

 

「私たちがここにいる理由はな、真九郎と銀子をつけてきたからだ」

「はい?」

 

紫が言ったことの意味が分からず、思わず聞き返してしまった。後をつけてきたということは分かるが、何故つけてきたのか分からない。そう考えたところで、紫が続ける。夕乃さんは気まずそうに眼をそらしている。

 

「環に今回の事を話したら、"真九郎君がデートだって? もうこれは大人の階段のぼっちゃうんじゃないかな"とか言っていたんだ

「それで?」

 

何となく予想ができた気がするが一応先を促す。心なしか頭痛がするのは気のせいではないだろう。

 

「大人の階段とはなんなのか気になって聞いてみたんだが、教えてくれなくてな。真九郎に聞こうとも思ったが忙しそうだったので、夕乃に聞いた。そしたら夕乃が"真九郎さんに限ってそん"なご!? もがもが!」

 

紫が夕乃さんが言ったであろう言葉を話し始めると夕乃さんに口を塞がれた。一応傘の下にいるので濡れはしないだろうが、銀子が苦しそうだ。夕乃さんはこちらを見て、紫の言葉の続きを話し始める。

 

「ここからは私が話しますから、紫ちゃんは少し静かにしてください」

 

そういうと紫の口から手を離す。紫は息を思いっきり吸うと大声で夕乃さんに文句を言った。

 

「ぷはっ! いきなり何をするんだ! 苦し! ……かったぞ」

 

途中夕乃さんが声量を抑えるようジェスチャーすると紫は声を抑えて言葉を言った。それから夕乃さんは仇を見るような目で睨む紫を気にせず、こちらを向いて話を始めた。

 

「私は紫ちゃんが言った通り、紫ちゃんに大人の階段とは何か、と聞かれました。その質問に私は真九郎さんに限ってありえません。と答えたんですが、傍で聞いていたおじいちゃんが……まぁいろいろ言ってきたわけです。一応念のために、別に真九郎さんのことを信じていないわけではないですよ? 念のために、二人の様子を監視、じゃなくて見張ろうと紫ちゃんと二人でここまでつけてきたわけです」

 

紫の方を見ると、まぁ大体そんな感じだ。というので本当なのだろう。だが大人の階段の意味を紫はまだ知らないのだろうか。法泉さんなら教えている気がする。いや、気にする必要ないか。

 ほかに聞きたいこともなかったので、三人で雑談しながら騎場さんが来るのを待った。

 

 

 

 騎場さんは思っていたよりも早く、30分ほどで来た。車に乗る前に騎場さんに盗聴器などがつけられていないか、確認されたが見つからなかったようで何の問題もなく乗れた。銀子はまた暴れると困るというので、腕を縛り舌を噛み切ったりしないよう口もふさがれた。異議を唱えたかったが、必要なことだということは分かっている。何も言えなかった。

 車の中に乗るとすぐにさっきの状況の説明、というわけではなく。病院に行くことになった。九鳳院で治療を受けるというわけにもいかないし、かといって普通の病院では警察沙汰になる。なのでこういったことに慣れていて、警察沙汰にもしない、お得意さんである山浦医院まで行くことに決定した。病院がお得意さんというのはなんだか複雑ではあるが、信頼できる医者がいることはいいことだ。

 向かう場所を決定すると、車が動き出す。それと同時に二人がこちらを見つめてくる。今から説明しろということだろう。俺は、言葉を選びながらゆっくり、急に様子が変になった。そして妙なことを言われた。そのことについて考え込んでいたら刺された。その後自殺しようとしたから止めた。ここで二人が来た。といったことを説明した。

 説明を終えると聞きたいことがあるのようで、軽く手を上げながら夕乃さんが聞いてきた。

 

「本当に何か無かったんですか? 些細なことでもいいので、おかしくなる直前でなくても、今日、何かおかしなことはありませんでしたか? いえ、今日起こったことを振り返ってみましょう」

 

今日の出来事を一つ一つ聞いて、何が原因かを考えるつもりだろう。紫も真剣な顔で考え込んでいる。

 

「そうですね今日はまず駅前で待ち合わせをして、それから神社に。お参りしてから境内を散歩、雨が降ってきたからご神木の下で……」

 

一つ一つ、確認するように声に出していくと、それに合わせて頷く紫と夕乃さん。そうだったこの人たち後をつけてたんだった。

 

「二人とも。俺と銀子が何してたか見てたんだから知ってるでしょう」

 

二人は顔を見合わせて、そういえばそうだった。と二人して呟くと、なんとも言えない空気になった。その空気をかき消すように

 

「こほん。私たちの視点だけでなく、真九郎さんの視点からも考えれば真相に近づけるはずです」

「夕乃さんの視点だけでおかしいと思うことは無かったんですか?」

 

一応これを聞いておく、夕乃さんが言った通り、別の視点から見ることは必要だろう。

 

「そうですね。まず朝、銀子さんが眼鏡をかけていなかったことが」

「コンタクト付けてたんですよ。理由はわかりませんが」

「あぁ。そういうことですか」

 

なんとも哀れそうに後ろで縛られている銀子を見る。何か分かったのだろうか。

 

「何か分かりましたか?」

「いえ、問題ないです。次に気になったのは……」

「そういえば傘を買おうとしたのに止められたな、なんでだろう。おかげで濡れたし」

「真九郎さん……それも関係ないと思います。えぇっとその後は」

 

ため息をついて、呆れたようにそう言う夕乃さん。改めて気になった点を挙げていく。

 

 その後も二人で考えた結果いくつか判明した事と、謎があった。

 判明したことは今回の事は予定されていた可能性が高い事。根拠は一時間以上かかる駅、そこから森の中まで迷わず行ったこと。そのことから銀子が何者かに強制されたというなら、少なくとも今日より前であるということ。

 そして、そんなことをするのは難しく、俺たちが異常に気付かないのは変である。もしかしたら銀子が自分からしたことなのかもしれない。ということ。このことは信じたくはない。だが、どうにも銀子が言ったことが気になる。好き、どの好きなのか。俺自身の態度が銀子にこんなことをさせたのかもしれない。そう考えるとどうにもやるせない。

 最後に、俺はわからないが夕乃さんには分かったことがいくつか。教えてくれはしなかったが。必要なことならば教えてくれるはずだと、そう考えることにした。

 謎に関しては、銀子が何者かにやらされたと仮定した場合だ。

 まず、いつから強制されていたか、そして自分たちが気付けなかったのは何故か。

 次にその手段。弱みを握られたか、人質か。あるいはそれ以外の事。また目が虚ろだったということから薬等を使われたという線もある。これは医者に確認してもらう予定だ。

 

 今まで会話に参加せず、ずっと黙っていた紫に、お前は何かないかと聞くと顔を上げて言う。

 

「真九郎、夕乃」

「どうしたんだ?」

「なんですか?」

 

ただ俺と夕乃さんの名前を呼ぶ紫。俺も夕乃さんも疑問符を付けながら返事をする。

 

「まず銀子が真九郎を刺すはずがない。だから、銀子が自分の意志で刺したというのはありえない。脅されたとしてもだ。だから銀子が何者かに操られていることになる」

「私たちもそう思いたいですけど」

「私たちが信じず誰が信じるのだ! そうだろう真九郎! 夕乃!」

 

紫は断言する。銀子が俺を刺さないと。だから裏に誰かいると。だが、銀子が自分の意志で刺したとする方が無理がないのが事実だ。

 

「っ……こういうのは客観的に」

「必要ない! 銀子がどういう人間か。お前が一番知っている筈だぞ真九郎! お前が一番信じてやらずどうする!」

 

……

 

「そう……だよな。悪い。銀子に刺されたせいで少し、後ろ向きになってたみたいだ」

「分かりました。銀子さんは誰かに操られている。だからその誰かを懲らしめましょう」

 

俺も夕乃さんも、どこか後ろ向きになっていたらしい。それを紫に指摘されて分かった。銀子に刺されたのが自分のせいだとしたら受け入れればいい。銀子を使って、いや、操って。こんなことをした奴を懲らしめないと。銀子も言っていた。俺を狙う奴がいるから気を付けろって。俺を心配する銀子が俺を刺すわけがない。我ながらずいぶん無茶苦茶な理論だが、不思議と元気になる。

 

「騎場。騎場は何か疑問に思ったことはないか?」

 

紫が話を聞いて居た筈で、ずっと運転していた騎場さんに問う。

 

「疑問、とは少々違いますが」

 

そう前置きをしてから騎場さんは語りだした。




心理・状況描写が書けない。から無理やり書いた(飛ばした)。書けない場所は無理やり書くか飛ばす。飛ばせないような重要な場所だと……
紫がいるとそれだけでストーリーが進む。何故だ。
次回は……山浦医院。出番はない。
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