マリオネット   作:らるいて

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その二

 デート場所とかを調べてくれることになった翌朝、学校に登校すると教室には銀子しか居なかった。

銀子はいつも通り机に座ってパソコンを弄っている。

その前の席に後ろ向きに座りながら銀子に、来る途中で買ったパンを渡す。

銀子は素っ気無く礼を言うと紙束を手渡してきた。

 

「頼まれてた物よ」

「え? 早くないか……?」

 

昨日の夕方頼んで、渡されたのは今日の朝。銀子がいくら情報網があるからって早すぎる。

 

「そんな事ぐらいパソコンがあれば誰でも調べられるわよ」

 

普段の仕事と違い、どこの壁も破る必要もなく、誰から聞く必要も無いから簡単だったと言うことだ。

言われてみると確かにな、と思う所はある。

 

「そ、そうか、でもありがとな、銀子」

「どういたしまして」

「早速コレで夕乃さんと相談して」

「それぐらい自分一人で決めなさい。もちろん私とのもね」

「は、はい」

 

礼を言って、夕乃さんと二人でコレを見ながら相談する、と言おうとしたら却下された。

確かに、こういうのは男が決める物なのかもしれない。

デート情報が詰まっているだろう紙束に目を降ろし、読み始める。

最初のページには簡潔に調査結果とだけ書かれている。

普段ならば此処で目を通すと銀子に渡して処分する。今回はそう重要な情報ではないので持ち帰るが。

ページを捲ろうとすると

 

「家で読みなさい」

「別にここでも良くないか?」

「いいから家にしなさい」

「そうか……」

 

どっちでも良いと思うんだけどなぁ……

紙束をカバンに仕舞いながらそう思う。

 

 特にすることも無く、パソコンを弄る銀子をじぃっと見る。

一瞬目が合ったが、何事も無かったかのようにパソコンを弄り始めた。

多分また、株でもしているのだろう。前にウン百万儲けた、とか言っていたので預金が幾らか聞いたことがある。

回答が相当以上に高くて、自身が惨めになったこともあるので、もう聞かない。

かといってこのまま眺め続けていても仕方が無い。なので、ふと思いついたことを言ってみる。

 

「銀子ってメガネ外さないよな」

「いきなり何?」

「いや、深い意味は無いんだけど、ちょっと思ってさ」

「あっそ」

 

それだけ言葉を交わすと、またパソコンを弄りだし……すぐに手が止まった。

画面を見て眉根を寄せると、真剣な顔でこちらを見てくる。

 

「気をつけたほうが良いわ」

「?」

「誰かが真九郎を探っているみたい」

「それって」

 

それってどういうことだよ、そう言おうとした時、廊下から話し声が聞こえた。

銀子は俺と話しているところを見られたくないらしい。

普段一人でパソコンを弄っているから、誰かに話しかけられたくないんだろう。

俺と話しているのを見られれば、少しは話しかけられやすくなったり、噂になったりする。

気にはなったが、帰りにでも聞けば良いと考え、黒板の方を向いて机に突っ伏した。

 

 

 

 今日最後の授業の終了を告げるチャイムの音が鳴る。

前で話していた教師は、手に持っていた資料を畳むと、授業を終了した。

周りに生徒はまだ多く、銀子に話しかけられる状況ではない。

後ろから物音がしたので様子を伺うと、銀子が席を立ち、教室から出ようと歩いていた。

それを見て、机に出しっぱなしになっていた教科書と筆記具をカバンにしまい、教室を後にした。

 

 廊下で顔を右左。銀子が見えた。後を追っていくと、どんどん人の少ない場所に向かっていく。

周りに人が殆ど居なくなった頃、ある教室に入っていったので、俺も其処へ、周囲を確認してから入る。

中では銀子がこちらを向いて待っていた。

窓から入る夕日が眩しくて、表情は良く見えなかったが、真剣な顔をしているのだろう。

長いこと一緒に居るからなのか、何となくそんな気がした。

眩しく無い場所まで移動して、しっかり銀子を見据えて口を開く。

 

「朝言ってた、探られてるってどういうことなんだ?」

「どういうも何も、そのままの意味よ。誰かが真九郎を探ってる」

「それ以外に何か分からないのか?」

「今の所は、ね。新しいことが分かったら教えるから」

「そうか……いつも悪いな」

「そう思うならツケを払って」

 

今までの空気をぶち壊すような調子で、ツケを払えと言ってきた。

仕事、というか真面目な話はここまでということだろう。借金返すことが真面目じゃないとは言えないと思うが。

別に好き好んでツケてるわけじゃない。払えないんだ。……余計駄目な気がして来た。

 

「うぐ……今は少し……」

「別に何時でも良いわよ、きちんと払ってくれるなら」

「ははは……」

 

乾いた笑い声を上げるしか出来なかった。

 

 銀子はもう少し学校に残るらしい。それじゃあ、帰るか。と、廊下に出た。

廊下に人通りはない。昇降口へ向かう。

来る時より人は減っていて、残っているのは部活をしている人間くらいだ。

そのまま昇降口で靴を履き替える。カバンを触って、布の上から紙束を撫でる。

しっかり考えないとなぁとか、環さんに見られたらからかわれるんだろうなぁとか。

紫に見られたら……此処に行きたいとか何だこれは? とか聞いてくるんだろう。

知らず、笑みが零れる。そうだな、デートが終わったら皆で行くのも悪くないかもしれない。

……お金の心配が無ければだが。

 

 

 

 五月雨荘に帰ると、ちびっこいのが抱きついてきた。

いきなりだったが子供に抱き付かれるくらいでよろめくような鍛え方はしていない。

少し反応が遅れたが、しっかり抱きとめると、ちびっこいのは顔を上げ、こちらを見上げながら満面の笑みで。

 

「おかえり真九郎!」

「ただいま、紫」

 

なんて言葉を交わす。

紫は、思い出したように俺から離れると、向き直る。

そして姿勢を正すと、息を吸って、吐いて。もう一度吸って。

 

「ごはんにする? お風呂にする? それともわ・た・し?」

「また環さんか!」

 

どこで仕入れたのか分かりきっている言葉を口走る紫。

つい、突っ込んでしまった。

紫にこんなことを仕込む人間は環さんしか居ない。十中八九、いや、十中十と言って良い。

 

「おぉ! さすがは真九郎! 確かに環から教わった物だ。こうすれば真九郎はメロメロだと言っていたのだが……どうだ?」

「いや、どうもこうも……10年早い」

「そうなのか? ならば10年後にしよう。待っていろ真九郎!」

「あぁ、楽しみにしてるよ」

「うむ! そうだ、学校でな――」

 

楽しそうに学校で起きた事を話す姿は、年相応の子供に見える。

妙な知識を教え込まれたり、常識を知らない……知らな過ぎる所もあるが、可愛らしい少女なのだ。

紫の話を聞きながら相槌を打つ。なんてことない些細なことでも、楽しそうに話すのだ。

話を聞いているとそのままいつまでも話していそうだったが、それは遮られた。

 

ぐううぅぅぅーー……

 

「……」

「……夕飯にしようか」

「わ、私はハンバーグが食べたい!」

「ひき肉あったか?」

 

ハンバーグが食べたいと言うので、冷蔵庫を確認する。

座布団に座って待っている。

冷蔵庫の中身は……とりあえずハンバーグは作れそうに無い。

 

「紫、材料が無いから無理だ」

「そうか……私は真九郎が作った物なら何でも良いぞ!」

 

一瞬残念そうにしたが、すぐに笑顔になって何でも良いといってきた。

何でも良いというのは本当なのだろう。それでも、ハンバーグがよかったのも本当だ。

 

「……すこし遅くなっても良いか?」

「構わないが……どうするのだ?」

「一緒に材料買いに行こう」

「! 分かった!」

 

さっきの笑顔よりも良い笑顔を浮かべて、返事をする。

俺のほうまで笑顔になるような、素敵な笑顔だ。

二人で手をつないで、スーパーまで買い物に行った。

 

 

 

 スーパーまで買い物に行って、一緒に料理を作って、肉は紫が捏ねた。

手を冷たそうにしながらも、必死で捏ねている様を見ると、ハンバーグが好きなのは、自分も手伝えるからなのかもしれない。

ハンバーグに限らず、いろんな料理の手伝いをしてくれるが、包丁とか火を使うのは危ないので見ている。

自分一人で出来ることが嬉しいのかもしれない。

紫が捏ねたタネを、一緒に形作って、焼いた。

楽しく会話しながら食べていたら、俗に言うあーん。なんて物をやることになったが、まぁ悪い気持ちではない。

 

 料理も食べ終わり、片付けも終わると、銭湯に行く用意をする。

五月雨荘には風呂は着いていないのだ。近場に銭湯があるのだが、今の季節は少し湯冷めしてしまう。

帰り道で湯冷めしないよう、しっかり温かい服装で銭湯に行く。

 

 すっかり常連で顔も覚えられている紫は、銭湯では老人達の人気者だ。

よく風呂上りに牛乳を奢ってもらっている。最近では俺まで奢ってもらっているので少々悪い気がする。

風呂上りにしばらく、室内でテレビを見たり老人と話したり。

隅においてある古いゲームをしたり。マッサージ機に座ってマッサージは最近はしていない。

色々と足りていないことが分かったのだろう。

三十分か一時間か、大体その程度の時間を風呂上り、銭湯で過ごす。

帰りの挨拶をして、帰途に着く。

 

 後は眠るだけなのだが、銀子に調べてもらったデート情報を思い出した。

紫にも見せてどこに行きたいか聞いてみよう。

これがもし、環さんが用意したような情報だったなら、紫には見せられないが、銀子ならばその点は安心だろう。

 

「なぁ紫。この中でどこか行ってみたい所はあるか?」

 

布団で横になりながら、隣に寝転んでいる紫に紙束を見せる。

 

「なんだそれは?」

「あー……遊び場所を書いてるんだよ」

「遊び場所?」

「そういうこと。紫ならどこに行きたい?」

「んしょ……真九郎、早く捲れ。次のページが見えんではないか」

 

いつの間にやら布団の中を近づいて、というか上に乗ってきながら、催促してくる。

気になったことがあると、これは何だ? と聞いてくる。

 

 紫が気に入ったのは動物園と水族館。それから遊園地だ。

特に遊園地については詳しく聞いてくるので、今度一緒に行こうと思う。

紫と話しながら、夕乃さんともどこに行くか考える。

よくある情報誌とは違い、どこどこで決まり! とかここがいい! とかは書いていない。

なので本当に自分が良いと思った場所から選ばなければならない。

それが想像以上に難しかった。

 

 中には、今まで一緒にいったことのある場所もあったので、思い出話をすることにもなった。

なんだかんだで紫と知り合ってから、結構な時間が経っている。

最初は生意気な奴だったのに、大分変わった、いや変わったのは自分の方か。

紫に会ってから、昔の夢を見ることは無くなった、とまでは行かないが少なくなった。

見ても昔のように取り乱したりすることは無い。

 

「紫、ありがとうな」

「いきなりどうした、照れるじゃないか」

 

顔を赤く染めながら、そうはにかむ。それが、たまらなく安心する。

 

「何となくだよ」

「そうか」

 

深くは聞いてこない。それも、心地良い。

 

 普段なら寝ている時間を過ぎても熱心に見ていたのだが、気が付くと耳元で聞こえる声が寝息に変わっていた。

上に乗られているので横に動かすことも出来ない。出来はするだろうが、起こしてしまうかもしれない。

仕方が無いからこのまま寝てしまうことにした。

ちなみに夕乃さんと行く場所は、映画館に行って、ショッピングモールを適当に見て回ることにした。

夕乃さんがそんなような事を言っていた気がしたのが主な理由だ。

自分の適当さに苦笑いするが、まぁ良いだろう。

紫の髪をそっと撫でると、今日同じシャンプーで洗ったとは思えないほど柔らかい。

指が何につかえる事無くすり抜ける。それと同時に良い香りがふわりと漂う。

 

「おやすみ」

 

やさしく微笑んで、うつぶせに寝た。

 




とりあえず登場。口調が難しい。
うまく書けないと言うか、気分が乗らない時は軽く流して切り替える。
次回は(多分)デート回……書けなかったら飛ばすかも。
夕乃さんとのデートではこれこれこういうことがあってどうなった。とか。
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