マリオネット   作:らるいて

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その四

 映画館に着いた。着きはしたが一言も言葉を交わしていない。

いまだに何か話しづらいが、いつまでもこのままでは仕方がない。

 

「何を見ますか?」

 

なんて気の利いていない言葉がなんとか言えた。見る話は初めから決まっていて、夕乃さんにも話していた。

それでもこんな事でないと言えなかった。

 

「……あ、はい。えっと、これがいいです」

 

声を掛けられて驚いたのか、少しぎこちなかったが、きちんと声が返ってきた。

指差していたのは、あらかじめ決めていた、見たいと言っていたラブロマンスだった。

今の、この空気で、こういう話を見るのは気まずかったが、チケットを買いに受付に向かう。

 

 カップル割引があり、少し安い値段だ。あらかじめ知っていたので、予定通りなのだが。

カップルという言葉に夕乃さんが反応して、いつも通りに戻れることに少し期待したが、今回に限って顔を赤くして俯かせるばかりだ。

いつもの反応であればまた苦笑いでよかったのだけれど、自身がどう反応すればいいかわからなかった。

その様子を館員の人に微笑ましそうに見られたのも、また恥ずかしかった。

 

 結局その雰囲気を拭えないまま、飲み物とポップコーンを買って、上映場に向かった。

 

 

 

 映画の内容は、一組の男女が様々な障害を乗り越え結ばれる。というオーソドックスなもの。

男女が裏組織の重役の娘と下っ端の男という設定だったせいで、銃の打ち方やその傷が気になったりしたが、それは置いといて。

男がピンチになったとき女に助けられたり、女がやたらと強かったり、どうにも意識してしまう。

そのせいで映画が終わって適当にデパートを歩いている今も、会話はあまりない。

どうにかこの空気を変えれるようなものはないかと、辺りを探して話題を振っても数言で途切れてしまう。

こんなざまでも、映画を観る前と比べると大分マシにはなっている。

さらに話題を探すと、小さな女の子が一人で歩いているのを見つける。年齢的には紫と同じくらいだろうか。

周りの雰囲気と合っていない。着ているものが洋服ではない。唐草柄の着物で下駄を鳴らしながら歩いている。

おかっぱな髪型と相まって、座敷童のようだ。着物の紋様がどうにも子供らしくないが。

 

「夕乃さん」

 

声を掛けると夕乃さんも少女に気付いたようで、こちらを見て頷く。

二人で少女のところまで行き、声を掛ける。

 

「君、一人だけどどうしたの?」

「おにーさんたち誰?」

 

こちらが聞くと、首をかしげながら逆に聞き返される。

 

「私が夕乃でこっちのお兄さんが真九郎さんです」

「ゆーのおねーさんにしんくろーおにーさん?」

 

夕乃さんがしゃがんで、目線を少女に合わせて優しく話しかける。

少女は指差しながら俺と夕乃さんの名前を繰り返す。

 

「はい、そうです。あなたの名前はなんですか?」

「んー……(ゆめ)

「夢ちゃん?」

「うん。夢が名前」

「そう、それじゃ夢ちゃん。どうして一人でこんな所に居るの?」

「おにーちゃんの忘れ物届けに来たの」

「そのお兄ちゃんはどこにいるのかな?」

「それが分かってたら迷ってねーの」

「そ、そうだね……」

 

何やら気のせいだと思いたくなるような暴言が夢ちゃんの口から出た気がする。

夕乃さんも対処に困ってこちらを見てくる。

見られても子供の世話は……まぁ割と経験あるが。紫とか散鶴ちゃんとか。

俺も話を聞こうと少し近づいたところで、夢ちゃんが何事もなかったかのように言う。

 

「えっと、この辺りにいると思う」

「なんでそう思うのかな?」

「この辺でお仕事してるらしいから」

「どんなお仕事をしているの?」

「えっと……うー」

 

今までは普通に答えていたのだが、どんな仕事かと聞かれると困ったように答えに詰まる夢ちゃん。

仕事の場所だけ知っていてどんな仕事か知らないのかもしれない。

夢ちゃんが視線を忙しなく動かしている。少しして夕乃さんの胸元で目が留まる。

確かに思わず見てしまうのも分か……何を考えてるんだ、まったく。煩悩をかき消すように首を左右に振る。

そんな様子に夕乃さんは気づかず、夢ちゃんもわずかにこちらを見て首を傾げただけだ。

夕乃さんの胸元を指さしながら

 

「こんなの売ってる」

 

そう言われたので見ると、先ほど露店で買ったネックレスが妙な存在感を出していた。

なんというか、冷静に見ると今の服装にそのネックレスは似合っていない。

夕乃さんがどう考えてるかは知らないが、首にかけたまま手に持ちしばし眺める。

夢ちゃんの手を持ち顔を上げ立ち上がると、こちらを向く。何を言いたいのかはわかる。

 

「真九郎さん」

「そうですね、露天商のところに行きましょう」

 

実際にあの人でないとしても、似たようなものをどこで売っているか聞けば分かるはずだ。

 

「場所知ってるのー?」

「多分ね」

 

夢ちゃんの手を引きながら歩いて行く夕乃さん。

少し駆け足で夢ちゃんを挟んで反対側に移動すると、小さな手が左手を掴む。

見下ろすと手を上げながら笑ってこちらを向いていた。

笑い返すと何も言わず前を向いて歩きだす。

 

「こうやって手を繋ぐの初めて!」

「お父さんやお母さんは?」

「おとーさんもおかーさんも居ない、おにーちゃんだけ」

 

嬉しそうにそういう夢ちゃんに、疑問に思って聞いてみると、見事に地雷を踏み抜いた。

思わず絶句してしまう。だが夕乃さんがフォローしてくれた。

 

「お兄さんのこと好き?」

「うん! 一番好き!」

「そっか」

「ゆーのおねーさんとしんくろーおにーさんも二番目と三番目だから嫉妬しなくていーよ?」

「に、二番目ですか……」

「あ、ありがとう……」

 

屈託のない笑顔で好きといってから俺たちのことも好きと言う。

だがそれが何とも微妙な言い方でどう答えればいいのか悩む。

他の人は? とか聞くとまた地雷そうだし。夕乃さんも何やら複雑そうな顔だ。

素直に礼を言った。顔が引きつっていた気もする。

 

 

 

 しばらく歩いて、あの公園に到着する。

場所を変えていなければここにいるはずだ。とはいってもさっき買ってから四時間近く経過している。

居ないかもしれない、そう思いながらも足を踏み入れる。

 

「こーえんで遊ぶの? それならあれがいーな。捕まえるやつ。やったことないんだ」

「鬼ごっこの事かな?」

「かくれんぼかもしませんよ」

「隠れるだけって寒くないの?」

「確かに今の季節だと寒いかも」

「体を動かしたほうが温かいですね」

「鬼はぶっそー。怖いよ」

「やってみれば楽しいよ」

「あら、鬼が怖いから逃げるのかもしれませんよ」

「夕乃さん……」

「鬼からみんな逃げるなら、鬼は誰と遊ぶの?」

 

夢ちゃんが急に立ち止まり、鬼は誰と遊ぶのかと聞いてくる。

 

「鬼は……鬼同士で遊ぶんじゃないでしょうか」

「そっか。鬼も一人ぼっちじゃないんだね」

「はい、鬼にだって大切な友達がいるはずですから」

「鬼の友達……」

 

急に口を閉ざして、俯きながら歩き出す。どうしたのかと聞いても答えはない。

それだけでなくいろいろな話をするが、結局露天商に着くまで返事はなかった。

 

 

 

 露天商の男の居た場所に着くと、荷物を仕舞っていた。

相変わらずピンクのバンダナがよく目立つ。夢ちゃんも気づいたのだろう。

声を上げて男の元へと走っていく。

男は気づく様子はなく、そのままの勢いで気づいていない男に体当たりをした。

男の体は中腰の体勢だったこともあるだろうがそのまま横に倒れた。

倒れると、アクセサリーが辺りに散らばる。

 

「イテテ……なんだよ急に、って夢!? どうしてここに!」

 

男が起き上がるとぶつかって来た物の正体を確認する。

それが夢ちゃんだと分かるとなぜここにいるのか理解できない様子で、大声を上げる。

 

「おにーちゃんに忘れ物届けに来たの! ……あれ?」

 

笑顔で忘れ物を届けに来たという夢ちゃん。自身の手を確認するが何も持っていない。

慌てて袖の中を探し始める。だが見つからないようだ。

 

「勝手に家からっ! ……あー、うん。悪い」

「……失くしたの、ごめんなさい」

 

口を大きく開き怒鳴ったが、落ち込んでいるのを見るとすぐに普通の声量に変わる。

手で頭を押さえてバンダナに皺を作る、その様子はどこか困ったように見えた。

 

「おいおい、泣くなって。失くした物はいいから。届けてくれようとしたんだろ? ありがとな」

 

目の端に涙を湛える夢ちゃんを必死に泣き止ませようとする。

参ったように頭を掻きながら辺りを見渡す。

すると傍に居た俺と夕乃さんにようやく気付いたようで、声を掛けてくる。

 

「あれ? お客さんじゃないか。悪いんだけど今取り込み中で」

「違うよ! ゆーのおねーさんとしんくろーおにーさんがここまで連れてきてくれたの!」

「……そうかい。そりゃ世話掛けた。礼として少し安くするよ。これなんかどうだい?」

 

夢ちゃんが涙を袖で拭って俺たちのことを説明すると、見定めるように見てきた。

こちらに謝罪すると同時にアクセサリーを見せて宣伝してくる。付いている値札が予算ギリギリなのが恐ろしい。

こういうのを商魂逞しいというのだろうか。

だが宣伝されても買う気はない。さっき買ったので十分だ。

 

「あはは、生憎と間に合っているので」

「あり? お兄さん付けてないじゃないか。駄目だよちゃんと付けないと」

「どうにも恥ずかしくて」

「おいおい、折角ペアなんだから、一緒に付けないと意味ないじゃないか」

「そうはいっても」

「そんなんでどうするよ、男なら多少の恥くらい」

「メッ! 無理にしない!」

「おおう」

 

必要ないというと、残念そうに品物を下げる。本気で売るつもりはなかったのだろう。

しかし、首と指に何もつけていないことに気付き、さっき買ったものを付けるように促してくる。

やんわりと断ると、今度は食い下がってきて付けさせようとしてくる。

しつこく言ってきた露天商の人を夢ちゃんが叱る。子供に大人が叱られているという何とも奇妙な構図だ。

解放されたのでなんとなく、さっきから言葉を発していない夕乃さんのほうを見ると、明らかに落ち込んでいた。

 

「真九郎さんは私とお揃いなんて嫌ですか……?」

「え? そ、そんなことないですよ」

「……本当ですか?」

 

泣きそうな顔でそんなことを言うので、咄嗟に否定してしまった。

そのせいで、なにか陰のある、暗い、圧力のある声で確認された。

息が詰まるが、今さら否定もできない。ポケットの中から取り出ししばし眺める。

夕乃さんはその間無言で、こちらを見つめ続けている。

隣でいまだに叱り続けている夢ちゃんの声だけが響いて聞こえる。

視線に促されるまま、両手で持ち、自身の首に手をやる。

そこで夕乃さんが思い出したように途中で止めてきた。

 

「真九郎さん待ってください」

 

止められたので手を首元から降ろすと、持っていたネックレスを夕乃さんが取る。

一瞬何をするのか分からなかったが、夕乃さんが付けているものを見て分かった。

俺が夕乃さんにつけたように、夕乃さんも俺につける気なのだろう。

 

「自分でつけますから!」

「遠慮しないでください。動かないで……」

 

有無を言わさず距離をさらに詰めてくる。どうにか打破する方法はないかと目を動かす。

いつの間に叱り終わったのか、夢ちゃんと露天商がこちらを見ていた。

夢ちゃんは顔を赤くして手を顔に当てながら、でもその隙間から覗いて。

露天商はさっきも見たような、嫌らしい笑みを浮かべている。

夕乃さんも見られていると分かればやめるかもしれない。

視線を前に戻して、止めようとすると、すでに顔が目の前まで迫っていて、声が出なかった。

夕乃さんと目が合う。

 

「大丈夫ですから」

 

そう微笑む。顔に血が上ってくるのが分かる。熱い。

夕乃さんは、息がかかるような距離で、腕を俺の首の後ろに回して、金具をいじっている。

傍から見たら抱き合ってるようにしか見えないだろう。

首の後ろから夕乃さんの手が離れる。

一歩下がるとそのまま俺の顔を押さえて、首を軽く上下に動かす。

 

「はい、できました。とてもよく似合ってますよ」

「あ、ありがとうございます」

 

夕乃さんもこんな感じで恥ずかしかったのだろう。

赤い顔を隠すように、誰もいない方を向く。

夕乃さんもこちらに背を向けると、軽く背を向け口を手で押さえているようだ。

ほんの数秒そのまま固まっていると、先に夕乃さんが動き出した。

 

「さ、さぁ! お昼ご飯を食べに行きましょう真九郎さん!」

 

こちらを見ずに、少しぎこちない動きで公園の外へと歩き出す。

置いてかれてはいけないと、駆け足で隣まで移動する。

言葉はなく、せっかく普通に話せるように戻ったのに。また逆戻りだ。

 

 首にぶら下がっているネックレスをいじる。隣からも金属のすれ合う音が聞こえた。




デート終了。……いや、まだ午前が終わっただけだけど。
書いてる途中、ふと思いついたもの。
・愛してると言った場合の反応
「私もよ」
「私も愛しているぞ真九郎!」
「愛してるって私をですよね!? 真九郎さんが私を愛してる私を(中略)こほん……私も、真九郎さんのことを愛しています」
「! …………あいらぶゆー。わたし、も、です」
難しい。
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