ライスシャワーに魔の手が掛かる 作:耳と尻尾に釣られたドクター
私的には尻尾の付け根を触る話か尻尾の手入れの話でも良かったんですけどこうなりました。セクハラじゃねーか
追記:日刊短編5位になってました。あざーっす
なんの変哲もない、商店街の一角に存在するマッサージ店。そこに今、一人のトレーナーとウマ娘と店長が向かい合って話していた。
「…という事で担当してるこの子、ライスシャワーの事をお願いしたいんだけど、どう?」
「ふむ…そうだな。ではまず…」
トレーナーである女性はライスシャワーの頭にポンっと手を乗せて撫でる。ライスシャワーは来たことのない場所、見ず知らずの、それもかなり怖そうな雰囲気で自分を見てくる店長に若干の恐怖があるのか、尻尾は垂れて耳はぺたーんと落ちている。
そんな様子を見つつ、店長と呼ばれた男性はジーッとライスシャワーを見る。
「…ライスシャワーと言ったか。それじゃあまずは…」
「ま、まずは…?」
「───服を脱いで下着だけになってもらおうか」
「もしもし警察ですか?」
「ストップライス!大丈夫、大丈夫だから!!」
「決して下心の意味で言ったわけじゃない!!ただ脚と腰と背中が見たいだけなんだ!!」
「ちょっと、それじゃあ意味がないわよ!?」
発言内容が完全に犯罪者のものだった。
▼▼▼
商店街の一角にありながらその存在を知る人は少なく、初めて来た人などはここがマッサージ店だとは分かりもしない場所。そこで店長を務める男性は、有名なレースに出るウマ娘が名前を聞けば「絶対に行きたい」と答えるレベルの手腕を持っている。
今までの実績として「致命的な怪我で復帰が不可能と言われたウマ娘が2週間で帰ってきて大差1着をもぎ取った」、「全く活躍できなかった無名のウマ娘がワープするレベルで追い抜いた」、「脚が4本あるんじゃないかというレベルで加速した」などなど、都市伝説もかくやと言わんばかりのことをしているのだ。
しかしここ店の場所を知るものはほぼ居らず、気がつけば「あった」などというレベル。それ故に、店長の存在は嘘ではないかとも言われるくらいである。
「ふぅむ…右脚に掛かっている負担がとんでもない上に、受け切れないダメージが腰の筋肉にまで及んでいる」
「んっ…」
「ちょっと失礼…ああ、やはりか。脚で受けきれず、腰も限界、ならば当然フォームも崩れて背中や肩、挙句胸周りの筋肉も煽りを喰らって固まっているな」
「ふぁぁ…」
「股関節周りの柔軟をして可動域を広げていたのは幸いだな。脚まわりの負担限界を股関節で何とかできているから致命傷には至っていない、と言ったところだろう」
「あっ、んぅっ…」
施術用のベットにうつ伏せになり、脚腰背中を絶妙な力加減で揉まれるライスシャワー。神妙な顔をしているトレーナーと店長を他所に、ものの数分で骨抜きにされたライスシャワーは蕩けた顔をしていた。
尻尾はご機嫌である事を示すようにブンブンと振られ、時折店長の顔に直撃しているが店長はそれを気にすることなくマッサージと診断をしていく。
「今日来たのは幸いだな。本当ならば2週間ほど寝かせろと言いたいが、明後日のレースに出るとなればそんなことなんぞ言ってられないだろうし、この子も走ると駄々をこねそうだ」
「そうね…勝つためとは言え、相当厳しいトレーニングをさせたのも事実。致命的な怪我を負う前に分かって良かったわ」
「ほあぁ…」
「フッ、ンンッ…!それに、してもっ!やはり、脚は、かっっったいなぁ…!」
高身長、スキンヘッド、仏頂面の3拍子が揃っている店長に手込めにされている光景は側から見れば何とも言えない不安を煽る。だが、このトレーナーと店長は高校からの付き合いであり、お互いを知っているからこそ何も言わずに会話を続ける。
「だがまあ、筋肉の硬さと負担の具合に反して髪と尻尾はしっかりしているからストレスは少ないだろう。寧ろうまく走れない事に対して苛立っている、と言ったところだな」
「んっ、あぅっ、あぁっ、ん!」
「そりゃそうよ。ライスの専属トレーナーなんだから、毎日髪と尻尾の手入れは私も見てるもの。中途半端な格好をさせるなんてトレーナーとして失格よ!」
「はっはっは!お前さんらしくて安心したわい!さて、と。施術は終わったが…」
朗らかな笑い声をあげる店長であったが、施術が終わりベットでくたっとなっているライスシャワーを見てトレーナーの方をみる。
ライスシャワーは完全に力を抜き、少々荒い息遣いと赤面状態になっておりどう見ても事案後にしか見えない。
そうなると分かっていたトレーナーと店長は揃ってなんとも言えない顔になる。
「あなたさ、ここじゃなくてトレセン学園で専属マッサージ師、しない?」
「そうさな…常に揺れる尻尾と可愛らしい耳を前に理性が保つか怪しいからやめておこう」
「そう言えばそうだったわ…」
呆れた声を出すトレーナーと真顔で思案する店長。その視線の先は共通してライスシャワーへと向けられている。
「…煩悩退散目的でマッサージ師をしたら、ウマ娘に指名されるくらいの腕になったなんて、死んでも言えないわね」
「全くだが、何も言えん。あと彼女の尻尾はいい力加減で顔に当たって大変素晴らしかった」
「はいはい。あんただから許すけど、他の人に言うんじゃないよ」
そう喋る店長の顔は非常に満足げであった。
▼▼▼
『い、一着になったのはライスシャワー!!まるでワープしたかのように後ろから見事な差しを決めたぁー!』
その後、きっちりとレースで一着をもぎ取ったライスシャワーであった。
「あの、ライスさん」
「マックイーンさん?」
「少し、聞きたいことがありまして…」
「…?」
レース後、控室に訪れたのは2着になったメジロマックイーンであった。トレーナーはちょうど電話で席を外しており、控室にいたのはライスシャワーだけだった。
マックイーンは少し逡巡した後、言葉を切り始めた。
「1週間ほど前、脚の動きがおかしかったのでもしかして怪我をしているのでは、と思ったのですが、今は大丈夫なのですか?」
マックイーンの言葉に「あっ」と言う顔をするライスシャワー。マックイーンの言葉はほぼほぼ当たりであったのだ。
マックイーンはライスシャワーの思い出したかのような顔を見て表情を硬くする。もしかして、無理をさせたのではないのかと思ったのだ。
「はわ、えっと。ラ、ライスは大丈夫です。お姉さまと先生がちゃんと見てくれたので、大丈夫です。ただ…」
「た、ただ…?」
続きを促すマックイーンに対し、ライスシャワーは顔をそらして小さな声で喋る。
「……先生の所に3日に一回来るように、って言われていて」
「先生?」
そう、ライスシャワーは3日に一回通うようにと厳命されたのだ。無茶をした脚腰を治すには必要なことだと言う。しかし、行くたびに骨抜きになって情けない姿を声を晒してしまうので一人で行くには抵抗感があった。
そこにやってきたマックイーンは、ライスシャワーにとっては渡りに船であった。
これはチャンスと思ったライスシャワーはすかさず、そして犠牲者をこっそりと増やす事にした。
「えっと、もし良ければ一緒に来てみませんか…?」
「そう、ね。貴女が私を負かすくらいのコンディションを出せる人物に会ってみるのもいいかもしれないわね」
その言葉にライスシャワーは顔を綻ばせ、マックイーンはこの約束をした事をちょっとだけ後悔する事になった。
後日、商店街の一角から少女の嬌声がすると通報される案件が発生し、警察が「またかよ」と言った呆れ顔でやってくる事件が発生したと言う話がトレセン学園でちょっとだけ話題になったらしい。
わたくし、これでも金曜日から装甲列車相手に人形で突撃したりしますわ…