バカと18禁と男装女子っ! 作:てあ
私の名前は
世界有数の資産家の家に生まれ、
天使のような二人の幼馴染がいて、
当代一の少女と呼ばれるほど才能に恵まれ、
家族や使用人さんたちは皆は優しくて、
これ以上ないほど、幸せだった。
その幸せは、
たった今崩れ去った。
サイレンの音が聞こえる。
鉄の臭いがする。
床が赤く染まっている。
優しかった兄が床に転がっている。
赤い水が足元に流れてくる。
母が私を抱きしめる。
目から何かが零れ落ちる。
誰かの叫び声が聞こえる。
ナイフが落ちている。
視界がぼやけ始める。
父が兄に呼び掛けている。
母の私を抱きしめる力が強くなる。
視界が、暗転する。
次の日、私は僕になった。
僕の名前は
世界有数の資産家の家に生まれ、
天使のような二人の幼馴染がいて、
当代一の少年と呼ばれるほど才能に恵まれ、
家族や使用人さんたちは皆は優しくて、
これ以上ないほど、幸せだ。
その幸せは、
血の臭いがするけれど。
「……………………」
ゆっくりと瞼を上げる。
目の前に見えるのは見慣れた自分の部屋。
「……………嫌な夢、見ちゃったな」
時計を見ると、針は八時を回っていた。そろそろ学校が始まる時間だ。一学期初日から遅刻は恥ずかしいので急いで着替える。ネグリジェを脱ぎ、シャツとズボンを着る。シャツはそのまま着ると少しキツいので、サラシを巻いて着こなす。顔を洗い、タオルで顔を拭く。
身支度を終え、鏡を見ると男の子が立っていた。
黒い髪、黒い目。
目が隠れるほど長い前髪に、バッサリと切られた後ろ髪。
僕には、彼が男の子にしか見えなかった。
「……………寝るか」
シャツとズボンを脱ぎ捨て、床に落ちているネグリジェを着る。
ベッドに飛び込み、瞼を閉じる。
今度は、良い夢が見れますようにと願いながら。
「ちょっと日和!いつまで寝てるのよ、早く起きなさい!」
下の階から声が聞こえてくる。聞きなれたこの声は、僕を一瞬で眠りから覚まさせる。……どうやら簡単には寝させてくれないらしい。
「起きてるよー」
平然と嘘をつく。今の僕は、学校に行く気分じゃない。
「どうせまた寝るんでしょ?さっさと起きないと日和の大事なゲームが消えることになるけどいいのかしら」
「はい!起こさせていただきます!」
ベッドから飛び起きる。今の僕は、学校に行ける気分だ。いや、学校に行かないと行けない気分だ。彼女は僕の扱い方を心得ているようで、それ以上は何も言ってこなかった。へっ、日和くん検定一級を贈呈してやる。
本棚に目を移すと、そこにはゲームの山が出来ていた。まあゲームといってもギャルゲーなんだけどね。
改めて思うが、ゲームは楽しい。
現実から目を逸らさせてくれるから。
シリアスでは、ない。