サイレンススズカの神戸新聞杯 或いは女帝とライブと勉強とスペちゃん 作:雅媛
原作:ウマ娘プリティーダービー
タグ:ガールズラブ サイレンススズカ スペシャルウィーク エアグルーヴ スぺスズ 神戸新聞杯
そんなサイレンススズカの神戸新聞杯をスペシャルウィークに解説するエアグルーヴ先輩の話です。
「お疲れ様です、エアグルーヴ先輩! これ、差し入れです!」
「ふむ、ありがとう」
エアグルーヴが日課の校内回りをしていると、AVコーナーでまたスペシャルウィークを見つけた。
また研究でもしているかと思ったら、自分に用があるのか差し入れを渡してきた。
ニンジンのはちみつ漬けである。
スペシャルウィークが好むお菓子の一つだと、エアグルーヴはスズカから聞いたのを思い出した。
ありがたく頂戴しながら、エアグルーヴは尋ねた。
「で、私に何か用かな?」
「えへへ、またスズカさんのレースについてお話聞かせてもらえればと思いまして」
そういいながらスペシャルウィークがモニターに写したのは神戸新聞杯だった。
「ああ、これか」
圧倒的に勝っていたにもかかわらず直線最後で失速して、マチカネフクキタルに差されたレースだ。
一見すると勝利を確信して油断していたところを差されたようにしか見えない。
「スズカさんがゴールする前に油断して負けるって、少し信じられなくて。どうしてか、エアグルーヴ先輩なら知ってるかなって」
「まったく、教えてやるから聞いたら帰るんだぞ」
「はーい♪」
楽しそうに返事をするスペシャルウィーク。
この子がいると、スズカも感情をあらわにするし、お互い良い影響を与えているのは明らかだ。
今までさんざん面倒掛けられた先輩として、これくらい彼女にしゃべっても構わないだろう。
だいたい愉快なことが起きるし。
そんなことを考えながら、エアグルーヴはその時のことを話すことにした。
「スペシャルウィーク。まず聞こう。スズカはどんなウマ娘だ?」
「どんな、ですか?」
「そうだ、お前の認識を確認しておこうと思ってな」
「えっと、きれいで物静かで」
「なるほど」
「いつも冷静で速くて強くて」
「ほうほう」
「歌もダンスも上手で」
「ふむふむ」
「私の大好きな、大切な人です」
「のろけは要らん」
「えっ?」
だいたいスペシャルウィークの認識はわかった。
間違っていないところは多い。スズカは美人だし、確かに寡黙だ。そして足はめっぽう速い。あとスペシャルウィークがスズカを大好きなのはまあ、疑いようもない。
だが、いくつか違うところがある。
「まあいい、ひとまず、スペシャルウイークのイメージを訂正しよう」
「なんですか?」
「まず、スズカは歌もダンスも苦手だ」
「えっ!? でも初めて見たとき、ライブすごくよかったですよ!?」
「このレースの後、会長にこってり絞られたからな」
「……? どうしてですか?」
「このレース、スズカは気合が入っていなかったんだが、その原因がウイニングライブだったんだ」
「えっ?」
「勝つとライブのセンターにされるだろ。それが嫌で気が散ったらしい」
「スズカさぁん……」
今のスズカはライブも完ぺきにやるから信じにくいのだろう。
スペシャルウィークは、ダンスも歌も苦手なスズカを想像して百面相をしている。
「ウマ娘には、レースが好きな子と、ライブが好きな子がいる。スペシャルウィーク、お前もそうだろうが、スピカのメンバーはテイオー除けばみんなレース好き、ライブ嫌いだろう?」
「確かにその傾向はあるような……」
「チームスピカ レースに勝ってもこのありさま」という記事を書かれたのをスぺシャルウィークは思い出す。
会長命令まで出てしまった一連の騒動、スペシャルウィークだけでなくウオッカにダイワスカーレット、ゴールドシップもライブはひどかった。
いや、ゴールドシップは今でもアドリブが多すぎてひどいが。
「リギルにもレースしか興味がないのは居る。例えばナリタブライアンなんかはライブに全く興味がなくてな。ビワハヤヒデが別チームなのに良く苦労している」
「へー」
「スズカもそういった方向の一人でな。それが理由で敗けたものだから、会長命令でウマドルユニットに所属することになったんだ。そこで鍛えられて、今のスズカになったってわけ」
「ユニット……? スズカさん、ユニット入ってるんですか!?」
「知らなかったのか」
ユニットは、チームとはまた別の存在だ。
アイドル活動をメインに行う有志の集まりであり、チームを縦断してメンバーがいることは珍しくない。
「スズカの入っている『逃げ切りシスターズ』は、それなりに有名だぞ。まあスズカが怪我したり、ほかのメンバーが怪我したりで活動は不定期みたいだがな」
「知らなかった……」
逃げ切りシスターズはチーム横断のユニットである。
リーダーのスマートファルコンが歌も踊りも上手いため、彼女に教わるようにと会長が無理やりスズカを加入させたのだ。
他にはリギルからはマルゼンスキーも加入している。
まあ、マルゼンスキーが腰痛になったり、マルゼンスキーが片頭痛になったり、マルゼンスキーが筋肉痛になったりで活動が不定期であるが。
マルゼンの奴は脱退させた方がいいのではなかろうか。そんな考えがエアグルーヴの頭をよぎる。
「さて、そんな恋人の活動を知らなかったスペシャルウィークに朗報だ」
「だからまだ恋人じゃないです!」
「ここに、逃げ切りシスターズのチケットがある。一週間後のライブだ」
「なんですって!?」
「三日後の小テスト、いい点数を取ったらあげてもいいんだがなぁ」
「うっ」
スペシャルウィークの座学の成績はあまり良くない。
頭の出来が悪いわけではない。
難しい編入試験を好成績で突破してきているのだから、むしろかなりいい部類なのだ。
だが、地元で独学で、しかも彼女の進展に合わせて進んでいた授業にくらべ、トレセン学園のカリキュラムの速度が圧倒的に早く、また、最初の時点でかなり遅れていたため追いつけていないようだった。
一度追いつけばそう苦労することはないだろうが、ほかのことが忙しいらしく、なかなか勉学に注力できていない状況だった。
不謹慎だが、ケガをすればその休養期間勉学に励めるのだが、スペシャルウィークは丈夫なのか、そういったことも起きなかった。
あまり赤点を取られると外聞も悪いので、一度はっぱをかけることにしたのだ。
「わ、わかりました! 三日後の小テスト、満点取りますから!」
「その意気だ。頑張れよ」
そんな話をしていると、「スペちゃーん」という声が聞こえてくる。
よく考えたらスズカ、毎回迎えに来てるな…… どうやってスペシャルウィークの居場所を察しているのだろうか。愛の力か。
頑張れよ、とだけスペシャルウィークに声をかけ、スズカに一言挨拶だけしてエアグルーヴはこの場を立ち去るのだった。
幸いなことにスペシャルウィークは三日後の小テストで見事満点を取った。
いそいそとスズカグッズを買い込み、逃げ切りシスターズのライブの最前列に居座ったスペシャルウィーク。
そんなスペシャルウィークを見つけたスズカは緊張ですっころび、エアグルーヴはスズカに理不尽に怒られることになるのであった。
スぺスズはいいぞ