暮れの中山に咲く桜 作:未熟なトレーナー
ハルウララのトレーニングに付き合って一週間。
この一週間、特にコレと言った特別な訓練はしていない。
やったのは走る時のフォームの矯正とスピードとスタミナ増強のメニューぐらいだ。
「教えた通りのフォームで走れば疲れも減るし、今までより長時間スピードを維持したまま走れるから、フォームの意識を忘れないでね」
「うん、分かった!」
「それじゃあ頑張って」
「行ってきまーす!」
元気にゲート入りするハルウララを見送り、僕はレース会場に向かう。
ハルウララのレース結果を知りたいってのもあるし、何より僕も早く担当するウマ娘を見つけないといけない。
いくつかのレースを見て、有望そうなウマ娘に当たりを付けていると、とうとうハルウララの出番が来た。
ハルウララを含め10人のウマ娘がゲートに入る。
そして、合図と共に一斉に走り出す。
ハルウララは集団の後方の方に居る。
走り方は良くなってる。
息切れも見られないし、この調子なら………っと思っていた。
徐々に、ハルウララはスピードが落ちていき、とうとう最後尾まで落ちた。
最後の最後にどうにか食らいつき、最下位は免れるも結果は9着。
下から2番目だ。
全員のウマ娘のデビュー戦を終え、トレーナーの殆どは目を付けたウマ娘をスカウトしに行ってる。
僕が目を付けていたウマ娘の殆どは、多くのトレーナーが目を付けており、多くのトレーナーに囲まれている。
僕もいち早くスカウトに向かわないといけないのだが、どうしてもハルウララのことが気になっていた。
(期待させるようなこと言ってあの結果じゃ、落ち込んでるだろうな……)
申し訳ないことをしたと思い、ハルウララの姿を探す。
すると、遠くで辺りを見渡しているハルウララを見つけた。
「お~い!」
ハルウララに向かって大声で声を掛ける。
ハルウララはこちらに気づくと、勢いよく走り出した。
そして、僕に向かって突っ込んできた。
「トレーナー!」
「ぐふっ!?」
僕の腹目掛け飛びついて来たハルウララをなんとか受け止める。
「い、いきなり飛びつくのは止めようね………」
「あ、ごめんなさい!」
「まぁいいよ。それで、レースのことなんだけど」
「あ、そうだった!」
レースのことを話し出すと、ハルウララは何故か笑顔で、きらきらした瞳を向ける。
「あのね!ありがとう、トレーナー!」
「えっ…?」
行き成りお礼を言われ、驚いた。
てっきり文句の一つぐらいは言われると思ってたから、尚更だった。
「えっと、どうしてお礼を言うの?」
「だって9着だよ!私、いっつも最下位なのに、今回は9着!順位が一つも上がったんだよ!私、すっごく嬉しいよ!全部、トレーナーが見てくれたからだよ。だから、ありがとう、トレーナー!」『ありがとうございます、トレーナーさん』
「ッ!!」
一瞬、彼女とハルウララが重なって見えた。
思わず目を擦り、もう一度ハルウララを見る。
当然、彼女の姿は見えない。
「トレーナー、どうしたの?」
「いや、なんでもないよ………」
ハルウララから目線をそらし、下を向く。
しばらく沈黙した後、再びハルウララの方を見て、僕は口を開いた。
「あのさ……唐突だけど、これからも、僕がトレーニングに付き合ってもいいかな?」
「……え?それって……」
「まぁ、要するにスカウトしたいってことなんだけど……どうかな?」
僕の言葉に、ハルウララは呆然とし、そして、急に耳と尻尾をピンッ!と立てた!
「えええ~!!それって本当!?」
「う、うん……もちろん君さえ良ければの話だけど」
急に大声を上げられ、驚きながらも頷き言う。
「やったー!私、トゥインクル・シリーズで走れるんだ!トゥインクル・シリーズにデビューしたら、いろんなレースでいっぱい走れるんだよね!そしたら、1着もいっぱいとれるかも!楽しみー!」
万歳しながらはしゃぐハルウララに、本当にレースが好きなんだなっと思った。
「それじゃあ、契約はOKってことでいいかな?」
そう言い、ハルウララに手を差し出す。
「今まで名乗ってなかったけど、僕の名前は伊勢美春静。よろしく、ハルウララ」
「うん、よろしくね!トレーナー!」
差し出した僕の手を両手で掴み、笑顔のハルウララに僕も自然と笑みを浮かべた。