黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り   作:雅媛

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阪神レース場11R 芝2000m 大阪杯 本戦

レースは皆綺麗にスタートした。

先を切るべく先行したのはトウカイテイオーとメジロマックイーンとイクノディクタスであった。

三人が並んで先行していく。

内側がテイオー、真ん中がマックイーン、外側がイクノで進んでいく。

スタート最初の上り坂で、パワーに任せてマックイーンが前に出ようとしたが、テイオーはぴったりとマックイーンについていき、内側にはいらせないようにしていた。

 

テイオーは枠に恵まれていた。

スタートから直線が長い阪神の2000mでは外枠がそう不利なわけではないが、しかしこのように先行バとして先陣を切りたい場合にはやはり内枠が一番有利だった。

テイオーより外枠だった二人は内側に潜り込むことができない。この差はコーナーに於いて走行距離が1m、2mといった差になって現れる。

1mは約半バ身だ。

それだけのアドバンテージをテイオーは得ることができるのだ。

テイオーより前に出る、もしくは後ろへ行くことでそのディスアドバンテージを削ることもできるが、テイオーはマックイーンと並走することで内側に潜り込めないようにしていた。

 

イクノは二人についていくのがやっとだった。

二人の速さはかなりのものであり、ハイペースといえるものだった。できれば前に出たいところだが、二人の走りはそれを許すような速度ではなかった。

かといって後ろに入ってしまうと二人が壁になる可能性が高い。テイオーが外側なら二人の間から割って出ることが可能かもしれないが、外側がマックイーンだとまずパワー負けして跳ね飛ばされてしまうだろう。

そんな事情もあり、イクノは一番不利な外側を走り続ける羽目になってしまっていた。

 

マックイーンは焦っていた。

テイオーががっちり内側をブロックしている。前がふさがれることはないが、これのせいで一人分外側を走らざるを得ない。

そのロスは約1mだが、テイオーと実力が伯仲している現状では1mの差がかなり大きい。

スタミナ的な問題はないが、スピード的に届かなくなる可能性があった。

ゆさぶりをかけて内側に入ろうとするが、テイオーはこちらの動きに合わせてしっかりブロックしてきた。

このままだとどうしようもないだろう。最終コーナーから抜け出すときにどうにか隙を作る以外、マックイーンには手がなかった。

 

 

 

第一、第二コーナーを抜け、向こう正面でも、そして第三コーナーに入っても、マックイーンとテイオーとイクノは並走を続けた。

マックイーンは加速減速を繰り返し内に入ろうとしたが、テイオーは完ぺきにブロックし続けた。

マックイーンとしてはスタミナ的な問題は心配はあまりないが、抜け出し時に半バ身差つけられるだろうこの状況で、直線勝負になるのは勝ち目が薄かった。

だからちょうど第四コーナーの三分の二ぐらいのところ、抜け出すタイミングで、マックイーンは決意を込めて、一歩を踏み込んだ。

 

ドゴーン!!!

 

大きな音がレース場全体に響いた。

 

震脚といわれる動作である。

強く踏み込むことで地面からの反発の力を使う技法だが、今回の場合はその力利用ではなく、音と振動の利用がメインであった。

ここ半年ほど死ぬほどリョテイとイクノにさせられた柔軟により、マックイーンの体はかなりの柔軟性を得ていた。

その柔軟性を生かし、足を大きく上げると、そのまま全力で踏み下ろしたのだ。

その大きな音と衝撃波に、一番影響を受けたのは、隣を走っていたテイオーだった。

 

 

 

テイオーはマックイーンの様子を全力でうかがっていた。

現状並んだ状況からは、コーナーの外と内の分、テイオーが半馬身分有利だ。

そうしてそんな有利な状況でスパートをかければ、テイオーはマックイーンに負けるつもりはなかった。

スパートタイミングを誤らないように、マックイーンに注意を振りすぎたのが、敗因につながった。

空気が震えるほどのすさまじい音に、テイオーは一瞬ひるんだ。それは時間として見たら1秒も満たない。コンマ数秒の時間だっただろう。

しかしそれは、ウマ娘のレースにおいては絶対的な差であった。

なんせウマ娘は1秒で5馬身程度、10mぐらいは進む。コンマ数秒でも数メートルは進むのだ。

大きな音とともにスパートをかけたマックイーンに対し、テイオーは致命的に遅れてしまうのであった。

 

すぐに態勢を立て直して全力で追いかけるテイオー。

しかしすでにマックイーンは三バ身ほど先を走っていた。

ラストスパートをかける二人だが、距離は縮まることもなく、そのままマックイーンが1位でゴールに走りこむのであった。

 

 

 

 


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