黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り   作:雅媛

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スペちゃんが生徒会長になった話がすっぽり落ちていたので


閑話:スペちゃん生徒会長のはじまり

生徒会長は選挙で選ばれる。

だが、実質的な意味はあまりないことが多い。

大体先代の生徒会長から指名された者が次の生徒会長になるのだ。

 

長年生徒会長をやっていた伝説でもあるシンボリルドルフが、後任に選んだのがスペシャルウィークだった。

 

実績的には申し分ない。

シンボリルドルフには劣るが、それでもG1を6勝したダービーウマ娘だ。この実績に対抗できるようなウマ娘で、彼女の就任に反対する者はいなかった。

信任投票も特に荒れることなくスペシャルウィークが生徒会長になったのだった。

それはちょうど、スペシャルウィークがキングヘイローに宝塚記念で負けてから3カ月後ぐらいの話だった。

 

「でもー、正直レースの成績なんてどうでもよくないです?」

「たしかにそうだよね~」

「人ははっきりわかる指標をありがたがりますから」

 

スペシャルウィークは自身が生徒会長に選ばれたことにあまり納得していなかった。

先代のシンボリルドルフは確かにお堅い雰囲気や言い回しが難しいところがあり近寄りがたいところがあったのは確かだ。だが、彼女はすべてのウマ娘を幸せにするためにいろいろな施策をしていた。

その情熱は本物だったと思っていた。

 

一方の自分は特にそんなことは考えていない。

楽しく走って、スズカさんと二人で牧場に帰って、牧場を継ぐか、ぐらいしか考えていない普通の牧場系ウマ娘だ。

こんなふわふわな椅子に座らされたって、なんの覚悟もできてない小娘だった。

幸いグラスちゃんやセイちゃんは手伝ってくれると言っているし、先代の時代から副会長だったエアグルーヴ先輩も残ってくれている。

仕事が滞ることはないだろう。

だがこれでいいのかなーということは今でも思うところだった。

 

「エアグルーヴ先輩が生徒会長になればよかったのに」

「残念ながら私では実績が足りん。あと誰かに責任を取ってもらって好きなことをする方が性に合っている」

「ぶー」

 

スペシャルウィークは、自分より生徒会長に向いていると思う相手が何人もいた。

例えば今話しているエアグルーヴ先輩。

確かに言葉が強くてちょっとびっくりすることがあるが、基本的に非常に優しい女性だ。

心配りも非常にできる人で、みんなのために動くまさにお母さんだった。

確実にエアグルーヴ先輩の方が生徒会長に向いていると思うのだが、実績が足りないとか言って引き受けてくれなかったのだ。

その辺が非常にもやもやしていた。

他にもグラスちゃんだって、責任感が強くてしっかりしたウマ娘だ。自分なんかよりよほど生徒会長向きだと思う。

なんで自分がこんなところにいるんだろうと思ってしまうのだ。

 

そうやってぶー垂れてると、エアグルーヴがため息をついた。

 

「スぺ、お前が思う以上に、お前は生徒会長に向いていると思うぞ」

「そうですかー、どんなところがですか?」

「お前を助けようとみんなが動く。人望というやつだな。それは先代の会長も、私もグラスもセイも持っていない稀有な素質だ」

「みんな優しいし、私じゃなくても動いてくれますよ」

「はぁ、あまり自分を貶すものじゃないぞ。お前を好いている相手への侮辱だ」

「気を付けます」

 

ションボリしてしまうスペシャルウィーク。

しかし仕事はどんどん来るのだ。

 

「スぺちゃん。トレセン学園交流会の企画書、来てますよ」

「ありがとうグラスちゃん」

 

例えば今度始めようとしているのはローカルシリーズの地方トレセン学園との交流だ。

中央のトゥインクルシリーズがレベルが高く、地方のローカルシリーズがレベルが低い、と一般的に言われているが、必ずしもそうとは限らない。

地元を出たがらないウマ娘は一定数いるし、そういった中に素質あるウマ娘もいるのだ。

地方交流を通じて、ウマ娘全体のレベルを上げていくとともに、ローカルもトゥインクルも盛り上げようという企画であった。

ハルウララから持ち込まれ、最初は高知トレセン学園との交流イベントが計画されていた。

 

「スぺちゃん、こっちも企画書あがったよ」

「セイちゃんもありがとう」

 

こっちはこっちで学園内の制度改革だった。

バックのチームやサポーターなどが学園内にいるが、そういった子たちの評価軸が非常にあいまいなのだ。

スピカもタキオン博士はじめ、バックのチームの部分があるが、その辺りの評価も明確でないまま外郭組織としてタキオン研究所までできてしまった。

そういったものを評価する資格制度やレーティングなどを設定予定だった。

現状いろいろな意見が出ているのをセイウンスカイがまとめていた。

 

「会長、既存のイベント関係はすべてまとめたぞ」

「エアグルーヴ先輩もありがとうございます。これでいいので各委員会にそのまま全部回してください」

「チェックはどうする?」

「予算が例年のままならお金的には問題ないでしょうし、アンケートを取れば質の低下はわかるでしょう。それだけで十分ではないでしょうか」

「なるほど、じゃあ回しておく」

「よろしくお願いします」

 

スぺの方針は基本丸投げである。最低限のチェック以外は基本何もしない。

先代の会長とは大違いであるが、その分スぺにはある程度余裕があるようにも見えた。

任せて仕事を投げることができるスぺは、生徒会長に十分向いているとエアグルーヴは思ったが、これ以上言うのもくどいと思い、生徒会室を後にするのであった。


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