黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り   作:雅媛

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京都レース場10R 芝3200m 第105回天皇賞 本バ場入場

京都レース場はいつも以上の熱気に包まれていた。

メジロマックイーンとトウカイテイオーの対戦を見に観客が例年以上に集まっていたのだ。

そんな中、落鉄により、マックイーンが靴の修理に入ることがアナウンスされた。

 

ゲート裏で、蹄鉄の修理をしようとするマックイーンにゴールドシップが蹄鉄を持って現れた。

 

「大丈夫か? マックイーン」

「落ち着いてますわ。大丈夫です」

「ばっかだな、マックイーン」

「なにするんですの!?」

 

直す作業に入ろうとしたマックイーンの頭をゴールドシップがぐしゃぐしゃとなでる。

 

「トラブルが起きて、想定外のことが起きて何もないわけないだろ?」

「もー、ゴールドシップ! 髪が乱れてしまいましたわ!」

「よしよし、多少は緊張が解けたかな」

「十二分に解けましたわ!!」

「マックイーン」

「なんです?」

「予想外のことが起きて驚くのも、緊張するのも当然だ」

「……そうですわね」

「その緊張感を上手く使えよ」

「わかりましたわ」

 

幸い壊れたのは蹄鉄だけであり、勝負服の靴自体に傷はなかった。蹄鉄を付け替えるだけで、レースは問題なさそうだった。

 

「頑張って来いよ」

「頑張りますわ」

 

マックイーンはそれだけ告げて、ゲートへと戻っていった。

 

 

 

待たされているテイオーは、落ち着いていた。

今回の作戦についてはスズカとよく話し合って決めた。

スズカはどうやらおハナさんと相談していたらしい。

テイオーとしては少し怖かったトレーナーさんだが、結局恩を仇で返すような形でチームから離れてしまったので、とても悪い気がしていたが、それでも協力してくれるのはありがたかった。

昔より、レースのたびに考えることは非常に増えた気がする。

皐月賞やダービーの時は何も考えずに走っていた。

菊花賞の時やホープフルステークスの時は何も考えないで走って負けた。

この前の大阪杯は考えたが負けた。

だが、その方が楽しかった。

今回はもっと考えた。

勝てるかどうかはわからない。

今回のレースは長距離でマックイーンにとって有利な距離だ。

しかし全力を尽くそうとテイオーは気合を入れたのだった。

 

ちょうど蹄鉄をつけなおしたマックイーンが戻ってくる。

その眼には闘志が宿っている。

負けたくないとテイオーは思うのであった。

 

 

 

メジロパーマーは考えた。

どうすれば勝てるか。

今回のレースの参加者の中で自分が一番なのは何か。

それを考えると答えは一つ、スタミナだった。

マックイーンにはパワーもスピードも負けている。

テイオーにはスピードで大きく負けている。

同じところからスピード勝負になったら確実に勝てない。

しかしスタミナ勝負になればどうなるか。パーマーはスタミナ勝負なら、テイオーはもちろんマックイーンにも負けるつもりはなかった。

 

今夏は3200mというロングディスタンスだ。

天皇賞はメジロ家の悲願であるが、メジロはマックイーンだけではないのだ。

 

パーマーもまた、勝てる方法を考え、この勝負に挑んでいた。

 

 

 

参加者は皆、そのウマ娘なりの戦略を練ってこの場に挑んでいた。

それがすべて合わさった時に何が起きるのか。

答え合わせはすぐそこまで迫っていた。


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