黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り 作:雅媛
京都レース場はいつも以上の熱気に包まれていた。
メジロマックイーンとトウカイテイオーの対戦を見に観客が例年以上に集まっていたのだ。
そんな中、落鉄により、マックイーンが靴の修理に入ることがアナウンスされた。
ゲート裏で、蹄鉄の修理をしようとするマックイーンにゴールドシップが蹄鉄を持って現れた。
「大丈夫か? マックイーン」
「落ち着いてますわ。大丈夫です」
「ばっかだな、マックイーン」
「なにするんですの!?」
直す作業に入ろうとしたマックイーンの頭をゴールドシップがぐしゃぐしゃとなでる。
「トラブルが起きて、想定外のことが起きて何もないわけないだろ?」
「もー、ゴールドシップ! 髪が乱れてしまいましたわ!」
「よしよし、多少は緊張が解けたかな」
「十二分に解けましたわ!!」
「マックイーン」
「なんです?」
「予想外のことが起きて驚くのも、緊張するのも当然だ」
「……そうですわね」
「その緊張感を上手く使えよ」
「わかりましたわ」
幸い壊れたのは蹄鉄だけであり、勝負服の靴自体に傷はなかった。蹄鉄を付け替えるだけで、レースは問題なさそうだった。
「頑張って来いよ」
「頑張りますわ」
マックイーンはそれだけ告げて、ゲートへと戻っていった。
待たされているテイオーは、落ち着いていた。
今回の作戦についてはスズカとよく話し合って決めた。
スズカはどうやらおハナさんと相談していたらしい。
テイオーとしては少し怖かったトレーナーさんだが、結局恩を仇で返すような形でチームから離れてしまったので、とても悪い気がしていたが、それでも協力してくれるのはありがたかった。
昔より、レースのたびに考えることは非常に増えた気がする。
皐月賞やダービーの時は何も考えずに走っていた。
菊花賞の時やホープフルステークスの時は何も考えないで走って負けた。
この前の大阪杯は考えたが負けた。
だが、その方が楽しかった。
今回はもっと考えた。
勝てるかどうかはわからない。
今回のレースは長距離でマックイーンにとって有利な距離だ。
しかし全力を尽くそうとテイオーは気合を入れたのだった。
ちょうど蹄鉄をつけなおしたマックイーンが戻ってくる。
その眼には闘志が宿っている。
負けたくないとテイオーは思うのであった。
メジロパーマーは考えた。
どうすれば勝てるか。
今回のレースの参加者の中で自分が一番なのは何か。
それを考えると答えは一つ、スタミナだった。
マックイーンにはパワーもスピードも負けている。
テイオーにはスピードで大きく負けている。
同じところからスピード勝負になったら確実に勝てない。
しかしスタミナ勝負になればどうなるか。パーマーはスタミナ勝負なら、テイオーはもちろんマックイーンにも負けるつもりはなかった。
今夏は3200mというロングディスタンスだ。
天皇賞はメジロ家の悲願であるが、メジロはマックイーンだけではないのだ。
パーマーもまた、勝てる方法を考え、この勝負に挑んでいた。
参加者は皆、そのウマ娘なりの戦略を練ってこの場に挑んでいた。
それがすべて合わさった時に何が起きるのか。
答え合わせはすぐそこまで迫っていた。