黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り 作:雅媛
「テイオー、大丈夫?」
京都での祝賀会後、一泊することになりスピカの面々は京都市内の旅館に宿泊をすることになった。
費用はゴールドシップがどこからともなく調達してきた資金があるらしい。
テイオーは、スズカとキタちゃんと同じ部屋に泊まっていた。
マックイーンの優勝祝賀会後、汗を流して落ち着いたところで、キタちゃんの頭を乾かしながらスズカはテイオーに声をかけた。
マックイーンの優勝祝賀会という事で、メジロ家からもお金が出てとても楽しく、また美味しいものが多い会だったが、負けたテイオーのことがスズカは心配だった。
見ている限り、とても楽しんでいるように見えたが、感情を押し殺していないか、本当はつらいのではないか、そんな心配ばかりが浮かんでしまっていた。
手招きするとテイオーは素直によってきて、そのままスズカに膝枕された。
キタちゃんはテイオーの上にのしかかった。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
「本当? 無理してない?」
「んー、そうだねー」
仰向けになったテイオーは胸に乗っかるキタちゃんを持ち上げた。
そんなこんなで謎の姿勢になりながら、テイオーは話を続ける。
「悔しくないかといわれたら凄い悔しかったよ。でも、レースが楽しかった」
「楽しかった?」
「今まで周りあんまり見てなかったなーって思った。マックイーンがすごいのもいつものことだけどさ、あの前を逃げてたパーマーもすごかったし、カミノクラシオンの後ろからの追い上げもすごい圧力だったし。ああやってマックイーンと離れて走ると、いろんなものが見えてさ、それで楽しかった」
「そう……」
「でも、次は勝ちたいなぁ」
「勝ちましょう、絶対に」
「そうだね、頑張ろう」
「テイオーさん、頑張ってください!」
「キタちゃんもいつもありがとう」
テイオーがギューッとキタちゃんを抱きしめる。
次こそは、次こそは勝ちたいとスズカは思った。
「マックイーン君?」
「なんですかタキオンさん」
「ちょっといいかな」
風呂に入りに行くところで、マックイーンはアグネスタキオンに呼び止められた。
ゴールドシップとサトノダイヤモンドは先に風呂に行って、時間がかかりそうなら先に部屋に帰っているというので、タキオンと二人、川辺のバルコニーに出て座った。
周りには誰もいなかった。
「ゴールドシップ関連のことですか?」
「いや、それは全部君のおばあ様任せさ。何かあればおばあ様経由でそちらに情報は伝わるはずだ。聞きたいことがあるなら答えるが、特に私から言うことはないよ」
「じゃあ何でしょうか?」
「脚の調子は大丈夫かい?」
「……問題ないですわ」
「……」
「……宝塚記念までは走れますわ。夏を休めば、秋も行けるでしょう」
「正直言えば、やめておいた方がいいと思うよ。疲労がたまりすぎている。今日も、前回もかなり無理してるだろう?」
「ここで止めるわけにはいかないのですわ。あなたと一緒で」
「……」
タキオンが日本ダービーに出走を決めるときもひと悶着あった。
脚部不安があるタキオンのダービー出場を沖野トレーナーが反対したのだ。
かなり大騒ぎして、どうにかタキオンの出場を認めさせた経緯がある。
スピカはけがに関してはかなり敏感だ。
マックイーンのレース後検査は悪いものが出そうだとタキオンは薄々感じていた。
まだ故障はないだろう。
だが次のレース、宝塚記念に万全の状態で出れるかは怪しいのではないかと思っていた。
しかし、タキオンは察していた。
マックイーンも回避するということはありえないだろう。たとえ脚が砕け、二度と歩けなくなる可能性があったとしても。
「データはちゃんとゴールドシップにも見せるから、マックイーンから説得するんだよ。私は口利きまではしないからね」
「大丈夫ですわ。絶対に譲りませんから」
それは説得じゃなくてごり押しではないだろうか。タキオンは思ったが、自分も同じようなことをしたので文句が言えなかった。
自分も、彼女も不器用だな。
そう思いながら、タキオンはマックイーンと別れるのであった。