黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り 作:雅媛
「お疲れさまでした」
「ああ、本当に疲れたよ。まさか彼女に負けるとは思わなかったよ」
学園の裏山で寝転がるタキオンに声をかけたのはメジロマックイーンだった。
「ところでゴールドシップは?」
「スカーレットさんとウオッカさんにつかまって今頃大騒ぎしていると思いますわ」
「なるほど」
「で、タキオンさんはずいぶん落ち込んでるように見えますが」
「負けたからねぇ。いや、負けると思ってないのに負けたから、だね」
「ウオッカさん、速かったですね」
マックイーンから見ても驚くほどの末脚だった。
しかもあのウマ娘集団後方からのすり抜けである。魔法か何かかと思った。
進路のロスを減らすことがスタミナとタイムのロス、さらには速度のロスを減らすことにつながり、あの末脚につながったのだろう。
彼女の本当に奥の手だったようだ。
あんな芸当できるのは本当に彼女だけだろう。何でもできる器用なゴールドシップですら、「絶対無理」といったテクニックであった。
「あの後控室で、みんなに怒られたよ」
「みんな?」
「ウオッカ君と、スカーレット君と、あとカフェだね」
「仲良しですわね」
「そうだね、私にはもったいないぐらいの友人だよ。みんな」
「そんなことないと思いますけど。それで、何を言われましたの?」
「「もっと自分たちを頼ってほしい」って言われたよ。ゴールドシップのことも、私が何で走っていたかも、全部ばれていたらしい」
「ふむ……」
ゴールドシップが居なくなることや、ゴールドシップを未来に無事帰そうとしていることは別に秘密なわけではない。
だが、不思議な力でそれを理解し認識できる人物が限られているのだ。
もともとの話が突拍子もなさすぎるのもあり、この情報を共有できている相手の方が少なかった。
だがタキオンの周りの3人は情報を集めきったらしい。
「だから、私は彼女らを頼ることにしたよ。スカーレット君ならティアラ三冠に届くだろう。ウオッカ君が菊花賞を走れるかは知らないが、彼女もまた頑張ってくれるだろう。だから私は研究と根回しに尽力するさ」
「……」
「そっちの方が、私しかできないことだからね」
「応援してますわ」
「ありがとう」
「さて、そろそろ戻りましょう。あまり席を空けてしまうと、スカーレットさんあたりが血相変えて飛んできますよ」
「あれはあれでかわいいんだよ」
「心労を考えてあげてください」
手を差し出すマックイーン。
その手を握ってゆっくりと立ち上がるタキオン。
「結局さ」
「?」
「私は、ウオッカ君の想いに、スカーレット君の想いに、そしてみんなの想いに負けたのさ」
「……」
「周りをもっとよく見て、もっとみんなと話し合うべきだったのさ。ゴールドシップ君のためなんて思いながら、結局全部自分一人でできると驕った私が、勝てる勝負じゃなかった」
「……」
「マックイーン君は私よりももっと助けてくれる人がいるんだ。一度立ち止まってもいいと思うよ」
「……」
帰りがけに独り言のようにつぶやくタキオン。
マックイーンはそれに、何も答えることなく皆が待つ場所へと戻るのであった。