黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り   作:雅媛

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運命の宝塚記念

春のシニア最終戦であるグランプリレースの宝塚記念もまた、多くの人が集まるレースだ。

今回は、マックイーンの史上初の春シニア三冠を懸けたレースでありより多くの人が集まっていた。

 

 

マックイーンの控室にはいつものゴールドシップとサトノダイヤモンドが訪れていた。

いつもべたべたに甘えるサトノダイヤモンドも、今日は少し心配そうにマックイーンを見ている。

健康状態などは当然秘密事項であり、チーム外のウマ娘であるサトノダイヤモンドには一切話していない。だが、毎日のようにマックイーンを見ているマックイーンファンの彼女にも、あまり脚の状態が良くないのが分かっていた。

逆にいえば、目に見える程度には状況が良くないのだ。

 

「マックイーン、無理だけはするなよ」

「マックイーンさん、無理しないでくださいね!!」

「大丈夫ですわ」

 

結局ゴールドシップはマックイーンを説得しきれずに今日まで来てしまった。

怪我は現状していないが、疲労がたまってきているのは確かだった。

勝ち負け以前に無事に戻ってきてほしいとゴールドシップは思っていたが、マックイーンにそれは伝わっていなかった。

 

 

 

一方テイオーの控室には、スズカとキタサンブラックがいた。

天皇賞春から約2か月弱、テイオーはさらに努力を積み重ね、スズカもまた知識を蓄え、準備してきた。

今度こそ必勝を期してこのレースに挑んでいた。

 

「テイオーさん、がんばってください!!」

「テイオー、あなたなら勝てるわ」

「二人ともありがとう。今日こそボクが勝つよ」

 

ライバルは多い。

マックイーンはもちろんだが、天皇賞春で好走したメジロパーマーや、パーマーと競ってくるだろうダイタクヘリオスも出ている。

今までテイオーがあまり得意でなかったハイペースなレースになりそうなメンバーだ。

他にも油断できないウマ娘達は何人もいる。

それらをすべて見て、研究して、それでいまこそ、テイオーは勝つべくレースに臨むのだった。

 

 

 

大外の枠になり、一番最後にパドックに入ったメジロパーマーは、違和感を感じた。

いつものように羽織っていた上着を脱ぎ捨て、笑顔で手を振れば観客の反応は悪くない。

しかし、何というかいつも以上にパドックがチャカついている気がする。

いつものようにダイタクヘリオスは騒がしい。

パーマーにハンドサインを送ってきたので、いつも通りハンドサインを返せば嬉しそうに尻尾を振っていた。

彼女がうるさいのはいつもだ。テンションが上がれば上がるほど強く成る彼女はおそらく絶好調だろう。

 

しかし、同じようにテンションが高く、観客に手を振るマックイーンを見て、いろいろなものを察した。

幼馴染のパーマーはマックイーンのことをよく知っている。

彼女が調子がいい時というのは、大体ふにゃふにゃスイーツを食べているときだ。

気が抜けているように見えるぐらいの時が自然体で一番実力が発揮できる。

一方で真面目ぶって真剣な顔をしているときは若干イレ混み気味のときだ。ああいうときのマックイーンは大体がんばりすぎるので、時に大ポカをする。

そしてああいうテンションの高いときは、イレ込み過ぎていて大体大失敗をするときである。

一番人気で期待がかかっている大一番でのマックイーンのあの態度は、観客から見たら余裕にも、体調が良いようにも見えるだろう。だからこそ、歓声が多いのだろう。

 

一方二番人気のテイオーを見ると何も表情が浮かんでいない。

今年に入ってからしっかりとパドックで観客アピールをしてきたテイオーにはやはり珍しい態度だった。

対抗するウマ娘の不調に会場は落ち込んでいるのだろう。

こういった雰囲気が合わさって異様な雰囲気になっているのだろうな、とパーマーは察した。

 

なんにしろパーマーには都合がいい。

逃げて逃げて逃げまくって、今度こそ勝つと、彼女もまた気合を入れたのであった。

 

 

 

今年の宝塚記念は、変な雰囲気だとキンイロリョテイは思った。

 

今年で彼女が宝塚記念に参加するのは4回目である。

スズカに負け、グラスに負け、キングに負け、今度こそ4度目の正直と思って参加した宝塚記念。

前走のドバイシーマクラシックで優勝し、念願のG1ウマ娘になったリョテイの調子は絶好調だった。マックイーンの強さはよく知っている。テイオーの強さも、ほかのメンバーの強さもよく知っている。だが勝つつもりでこのレースに挑んでいた。

 

宝塚記念はグランプリレースだけあり、毎回かなり独特の雰囲気がある。

だがそれでも今回のレースはかなり浮ついたというか、チャカチャカした雰囲気が漂っていた。

そんな中でも一番落ち着いている彼女が、リョテイにとっての最大のライバルである、とリョテイは直感していた。

また今年も荒れそうだな。

リョテイはそんなことを想いながら、レースに向けて準備をしていた。


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