黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り   作:雅媛

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第七章 最終章まであと少し
夢の祭りの後


全治三か月

マックイーンがレース後に発症した屈腱炎の治療にはそれだけの期間が必要だった。

そこまで重いわけではなく、また最新の治療法である幹細胞移植注射もしたのでそこまで長引く怪我ではない。復帰も可能だが、今年の秋冬期のレース出走は絶望的だった。

 

「バカだなぁ、マックイーンは」

 

ベッドで休みながらしょんぼりしているマックイーンを見舞いに来たのはキンイロリョテイである。

イクノディクタスは既にずっと泊まり込んでいて、今でもマックイーンにくっついていた。

体調不良は薄々察していたイクノだが、さすがにライバルチームという事でマックイーンの体調までは知らされていなかった。

なのでこうしてマックイーンが怪我をしたことで拗ねてくっついているのだ。

 

「なんでこうなるまで頑張っちゃうかねぇ」

 

これがリョテイの本音であり、イクノの本音だった。

マックイーンが優秀なのは知っている。

一期上だがまだ重賞止まりのイクノや、スズカと同年代でデビューして何年もかけてやっとG1に勝てたリョテイと比べてマックイーンは非常に優秀だ。

ゴールドシップを助けたいと誰よりも思っているのがマックイーンであるというのも二人は知っている。

しかし、だからこそ二人はマックイーンに頼ってほしかった。

 

ゴールドシップに勝利を捧げるというならば、マックイーンが怪我するまで無理しなくても、別の誰かが勝つといった方法もあったはずであった。

それこそ同じチームスピカの中ならトウカイテイオーだっている。カノープスだって、八百長をすることはないが、ゴールドシップに縁深いメンバーも多く、そういったメンツが同じようにゴールドシップを想って戦ってくれる可能性は十分あった。

 

そう言うのに頼らないほど、いや、気付けないほどマックイーンは追い込まれていたのだろう。

うええええぇぇぇ……

と謎の鳴き声を漏らしながら泣き始めてしまうマックイーン。

イクノは抱きしめて優しくその頭を撫で、リョテイはやれやれと肩を竦めた。

 

 

 

「だっで、だっでぇ……」

「落ち着いて、マックイーン。はい、お鼻チーン」

「ずびびびび」

「ゆっくり話してください」

「わだぐじだっで、いろいろがんばっだんでずよぉ」

 

マックイーンもマックイーンなりに周りに声をかけていた。

特におばあ様やカノープスの目の前の二人とバッティングしない範囲は自分で頑張ろうといろいろ画策したが、結果はさんざんだったのだ。

 

幼馴染で同年代のライアンやパーマー、そして少し年下の妹分のドーベルなどに声をかけたが全く理解してもらえなかった。

クラスで仲の良い友人にもいろいろ声をかけたがやはり全く理解されなかった。

マックイーンが声をかけた人たちは基本全く駄目だったらしい。

おそらくゴールドシップとの縁が強くないからだろうとは、漠然と想像した。

 

「……はぁ」

「頑張りましたね、マックイーン」

「がんばりまじた……」

 

思い立ったら即行動、というのはスピカのスペシャルウィークと同じだが、マックイーンとスぺでは全く違うところが一つある。属性の違いだ。

マックイーンはメジロのご令嬢なのだ。しかも一見非常にお嬢様然としている。

ほわほわと明るいパーマーや、スポーツ万能で快活なライアンと違い、しゃべり方や外見が、とてもお嬢様っぽいので、第一印象がそれになってしまう。

実際はポンコツで脳筋で、自分で一生懸命やってしまう庶民的なウマ娘なのだが、それを理解している者は少ない。だから、皆マックイーンのポンコツ行動に、きっと何か深い意味があると深読みしてしまうのだ。

 

これがスぺだと何か勘違いしていると周りがすぐ気づいて正してくれるが、マックイーンはそういったことをしてくれる相手が少ない。

そのせいか自分一人だけで誰にも相談せず暴走特急になってしまう悪癖があった。

結局最初から最後まで、マックイーンはそういう子だったというだけであった。

 

まあ、マックイーンの世話はイクノに丸投げでいいだろう。

イクノが黒いチョーカーをマックイーンの首に巻き始めたり、なんか指輪を取り出したりしているのは見ないふりをしながら、リョテイはさっさと逃げ出した。

後は二人で好きにすればいいし、マックイーンはもう戦力外だと思っておいていいだろう。

リョテイにとっても大事なのはゴールドシップだった。

 

がんばった者は報われるべきだとリョテイは思っていた。

その報われる量は当然違うだろうが、あれだけ皆のために頑張っているゴールドシップの最後が一人寂しく消えていく、なんていうことはリョテイにとっても許容できる話ではなかった。

彼女に入れ込んでいる理由が血縁による本能なのか、それとも単なる友人への気持ちなのか、そういったものはリョテイにとってはどうでもよかった。ただ気に食わないだけだった。

 

そのために必要なメンバーを一度集めて話し合うべく、リョテイは皆に声をかけた。

マックイーンのことはイクノに投げたのだから、残りは全部自分でやるべく、リョテイは病室を後にするのであった。


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