黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り   作:雅媛

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夏合宿の始まり

今年の夏合宿はカノープスと合同で近場の高原に行くことになった。

最初は高知の予定だったが、夏の高知は南国であるせいで非常に暑い。

なので近場で涼しく、療養ができる温泉もある場所が選ばれたのだった。

 

「……暑い」

「お姉さま♪」

「おねえさま~」

「ゴールドシップは私のものですわ!!」

 

そんな涼しい湖のほとりで、ゴールドシップは囲まれていた。

木製のテラスで、なぜかリギルなのにこちらに交じって合宿に参加しているグラスワンダーのお茶を飲んでいた時の話だった。

まずサイレンススズカが当然の様に近寄ってきて、当然のように正座するゴールドシップの膝の上に自分の頭を乗せた。膝枕である。

続いてトウカイテイオーが近寄ってきて腕にへばりついてきた。お茶が飲めなくなった。

そして最後にその姿を見たマックイーンが後ろから抱き着いてきたのだ。

三人の体温でとても暑かった。

 

あと、すぐそばの木の陰から覗くスぺの視線がとても怖い。

暑いのに悪寒を感じる。

 

「グラス、助けて……」

「……」

 

笑顔だけで無言で拒否された。

 

結局その後、のそのそと出てきたスぺは、この4人の塊に入る隙がなくてしょんぼりしてしまう。単に一人はぶられて寂しかっただけのようだ。

全員にかわるがわる膝枕させられたゴールドシップの脚は完全にしびれて、しばらく動くことができなくなるのであった。

 

 

 

やることが、やることが多い……

リョテイは内心で愚痴っていた。

 

まずはマックイーン対策が必須だ。

別にマックイーンが潰れまんじゅうになっていてもリョテイ自身はあまり困らないのだが、そういう状態になるとゴールドシップもまた凹んでしまう。

ゴールドシップに元気を出してもらいながらできればテイオー当たりの面倒をスズカとみてもらいたいと考えると、マックイーンの対応が必須であった。

ひとまずスズカもテイオーもなんだかんだでゴールドシップを慕っている。二人をくっつけておけば嫉妬したマックイーンも元気を出すので、それで十分だろうというのがリョテイの判断だった。

もっとも放置し過ぎるとスぺが修羅に目覚めたり、グラスワンダーが良くわからないちょっかいを出してかき混ぜ始めたりするので、あまり目を離せないのが難点であったが、ひとまずそれで対応は良しとした。

 

次にイクノディクタスの対応も必須だった。

最近若干病んできているこいつをちゃんと走らせる必要がある。

表情が常に真面目で考えていることが分かりにくいが、付き合いが長いリョテイはその辺りが良くわかっていた。

マックイーンが好きすぎるのはいいが、イレ込み過ぎて面倒なことになる前に死ぬほど走らせておく必要があった。

このまえ鎖付きの首輪を通販で取り寄せていたのは既に没収済みだ。

トレーナーやネイチャにお願いして無茶苦茶走らせているが、目を離すとすぐ暴走しかねないので、リョテイが監視するのはやはり必須だった。

 

カノープスのリーダーとしての仕事の量もうなぎのぼりだ。

ヘイローブランドと学園との交渉に同席させられたり、高知のトレセン学園との交流に関しての会議に学園側として出させられたり、自分の立ち位置がころころ変わる交渉をしょっちゅうさせられていた。

同じようにスピカのチームリーダーであるスズカはあんなに余裕がありそうなのに、なんで自分は下手すると分刻みのスケジュールになっているのか、とリョテイは泣きたくなった。

 

後はゴールドシップ対応の音頭も取る必要があった。

ゴールドシップの周りに集まる者は皆癖がある連中ばかりだ。

そして協調性があまりない奴が多い。

だが、今回のタキオンとマックイーンの失敗から、協調する必要性を実感させられたため、集まって話し合いなども必要だろうということになったのだ。

しかしその音頭を取る者がいなかった。

マックイーンは脳筋だし他人の話を聞かないのでダメだし

メジロの総帥が出張ると格上すぎてみんなが発言できなくなってしまう。

同じ理由でスピカのトレーナーもダメだろう。

タキオンは学者肌で協調性がない。

結局別チームなはずのリョテイが言い出しっぺなのもあり、やらざるを得なくなっていた。

 

「そうはいっても投げ出さないのがあなたのいい所ですよ」

 

苦笑しながらリョテイを慰めてくれるのは南坂トレーナーだった。

彼自身も非常に忙しく、目の下にいつもクマを作っている。

今回の夏合宿で少しは温泉で療養できればいいのだが……

 

二人でため息をつくと、遠くから騒ぎが聞こえた。

リョテイはゴールドシップを追いかけ始めたスぺを止めるべく駆け出し、トレーナーは湖の上を走って渡ろうとして湖に落ちたターボを助けるべく駆け出したのだった。


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