黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り 作:雅媛
「なあマックイーン」
「なんですの?」
「なんでこんなに無茶したんだ?」
星空の下のバルコニー。
他のメンバーは部屋に戻って、今頃ゲームでもしているだろう。
マックイーンとゴールドシップの二人だけがそこにいた。
「なんで、ですか……」
「宝塚記念はパスして、天皇賞秋を目指してもよかっただろ?」
「そうですわね。かなり無理をしました」
「その理由、教えてほしいなって」
「……単純にゴールドシップのためですわ」
「……アタシのため?」
ゴールドシップは首を傾げた。
「おばあ様から、全部聞いていますのよ」
「……」
「あなたが、すべてを懸けて過去に来ているということも、全部聞いてますのよ」
「……」
ゴールドシップもメジロのおばあ様が他人にそれを話すことを想定していなかったわけではない。
だが、修正力の影響もあるし、理解できる者は他にはいないと思っていた。
楽しむだけ楽しんで、こっそり消える。
おばあ様にだけは申し訳ないが、記憶も記録も残らないのだから、問題ない、とそう思っていた。
「ゴールドシップ。いうことはありますか?」
「ゴルシちゃんには何のことかわかんないぜー」
「消えるのは大体来年の頭。そうですね。私とゴールドシップが会った時ですわね」
「……」
ゴールドシップはごまかそうとしたが、まったく乗ってくれそうな雰囲気ではなかった。
「タキオンさんやイクノさん、リョテイがいろいろ調べてくれました。おばあ様もいろいろ協力してくれました。ゴールドシップを未来に無事送り届けるための方法もタキオンさんたちが考えてくれてます」
「……」
「私たちが走り、あなたを想えばきっと未来に届くはず、そういう話でした。まあ、私も気がはやり過ぎたのは反省してますわ」
ゴールドシップすら知らない情報がマックイーンから出てきて、ゴールドシップは困惑していた。
元に戻れるってなんだ。
自分がいた未来では、スズカは亡くなり、スぺもグラスも惚けていた。
ネイチャさんは涙を流し、キングさんは月曜日を待ち望み、イクノさんはずっと苦しんでいた。
もうそんな過去は無くなった。それは疑いようもない話だった。過去は変わった。
じゃあ自分が戻れる場所はもうないはずだ。
それが別に悲しいわけではない。それは想定してここに今いるのだから。
後は残り少ない時間をみんなと楽しみ、人知れず消えるはずだったのだ。
その覚悟は既にできていた。まったく怖くないわけではないが、受け入れていたのだ。
「余計なお世話だぜ」
だからそんな軽口が口に出る。自分のことなんてどうでもいいからだ。
それよりマックイーンやタキオンや、みんなのことが大事だから。
それのマックイーンの回答は、握りこぶしだった。
「歯あ食いしばりなさいゴールドシップ!!」
「ふげらっ!!!」
頬を思いっきり殴られた。
親にも殴られたことないゴールドシップにとって初めての痛みだったかもしれなかった。
「あなたが! いなくなって! なんでみんな幸せになれると思っているんです!!」
「……」
「みんなを助けたあなたがいて初めて!! 私も、みんなも幸せになれるんですよ!!! なんでそんな簡単なことが分からないのです!!」
「どうせみんな忘れる」
「忘れられるわけありませんわ!!!」
「……」
「あなたは何でそんな簡単なことすらわかりませんの!! 私が! タキオンさんが! スズカ先輩やスぺ先輩が!! チームのみんなが!! イクノさんやリョテイが! あなたのことを忘れると本当に思ってるんですの!!」
ゴールドシップの肩をつかんで揺らすマックイーン。
涙が零れ落ちていた。
「あなたがここに来た目的は何ですの?」
「みんなを幸せにするためだ」
「あなたも幸せじゃなきゃ、みんな幸せじゃないのです」
「……」
「私も反省しました。一人だけで頑張るなんて傲慢でした。しかし、ゴールドシップ。あなたも反省してください」
「……」
「私は、部屋に帰ります」
ごちゃごちゃになったマックイーンは頭を冷やすためだろうか、その場から立ち去った。
一人ぼんやりと星空の下に残ったゴールドシップ。
どうしていいかわからなくなった彼女はやはり困った表情を浮かべることしかできなかった。