黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り   作:雅媛

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夜の闇は安らぎであり

「で、マックイーンに怒られて拗ねてるわけか」

「拗ねてねーもん」

 

呆然としていたゴールドシップを迎えに来たのはキンイロリョテイだった。

床に体育座りをしているゴールドシップの後ろから抱き着いて、頭の上に顎をぐりぐりと押し付けていた。

 

「というかさー、一つ不思議だったんだけど」

「なにさ?」

「未来に大事な人っていなかったわけ? そっちの話聞いたことねーし。親族とかも全然残ってない感じ?」

 

リョテイは結構不思議だった。

未来で何が起きたかは知らないが、まあ別に大災害が起きたわけじゃないだろう。

ゴールドシップの動きは大災害に備えるようなものではないし、おそらく個別にいろいろな不幸が積み重なってきたはずだ。

そうすると大事な人の一人や二人、残っていそうな気がするのだが……

親族でもそうだし、恋人とか、そういう相手もいなかったのだろうかと不思議に思っていた。

 

「うーん、リョテイパパもママも亡くなってたし」

「お前パパママっていうのな」

「リョテイパパがそう呼べって言ったんだけど」

「……」

 

思わぬブーメランがリョテイに突き刺さった。

 

「リョテイパパの親族は全然わからなかったし、ママの方もマックイーンしか知らないんだ」

「駆け落ちでもしたんかね」

「よくわからないよ。パパも何も教えてくれなかったし」

「メジロ家はどうなってたんだよ」

「アタシが生まれたころにはもう無くなってたよ。マックイーンが解散させちゃったらしい」

「何があったんだ……?」

「レースに絶望して、それで組織をバラバラに解散させちゃったんだってさ。だから跡形もなかったよ」

「ふむ……」

「で、イクノ教官から聞いたんだけど、祖母がマックイーンで、でもマックイーンも亡くなってて……」

「ちょいストップ」

「?」

「イクノ教官ってだれだ?」

「イクノディクタスだよ。学園入学時からずっと優しくしてくれてお世話になってたんだ」

「? なあゴールドシップ」

「?」

「いや、お前の母親のもう一人の親ってイクノだろ?」

「え?」

「え?」

 

ゴールドシップは呆けたままだ。

ゴールドシップにとってイクノディクタスはとても親切にしてくれた教官だった。とてもお世話になっていたが、もう一人の祖母だという認識は全くなかった。

 

「いや、イクノ教官はマックイーンの元恋人とは言っていただけだし、そんな話聞いたことないぜ」

「目のあたりとか輪郭とか思いっきりイクノじゃんお前! どう見ても血縁だろ!?」

「え? うそだろ?」

「気づいてなかったのかよ……」

 

何というか、自分のこと蔑ろにするところとか、自分のことに察しが悪い所がゴールドシップはマックイーンそっくりである。

手が焼けるな、とリョテイはあきれた。

 

「というかさ、親族が居なくても、トレーナーとかチームメイトとかライバルとか普通にいただろ!? 大事な相手じゃないのか?」

「……」

「全くそういう変なところまでマックイーンに似るなよ……」

 

頑固で思い込んだら一直線。自己犠牲ばっかりしてしまい周りに助けを求めない、本当にマックイーンそっくりだった。

 

「……」

「はぁ、まあいいや、あとは周りのみんなに任せとけって」

「任せとけって……?」

「お前を未来にちゃんと届けてやるってことだよ。スピカのメンツも頑張ってるし、うちの連中もいろいろ動いてるからな。ちゃんと未来まで一直線で連れてってやるさ。誰かが」

「リョテイパパが連れて行ってくれるんじゃないのかよ」

「お前みたいな面倒な娘は未来で世話するだけで精いっぱいだよ」

 

世話が焼ける、とあきれながら、ゴールドシップの手を引き立たせるリョテイ。

本当にゴールドシップが自分の娘になるのかも不明だが、なんにしろゴールドシップを未来に送り返してやらないとな、と気合を入れる。

 

「ひとまずテイオーのこと面倒見てやれよ。お前が拾ってきたんだろ」

「うん」

 

大人しく成ったゴールドシップを連れて、リョテイは部屋へと戻るのであった。


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