黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り 作:雅媛
「という事で第一回、チーム対抗スワンボートレースを始めるぜ!」
「わーい!」
「スイーツ! スイーツ!」
「テンションたけえぁ」
若干おかしな雰囲気になっているためにイベントとしてキンイロリョテイがいきなり企画したのは、合宿場所の近くにあった湖のスワンボートを使ったレースだった。
優勝賞品は宿のスイーツ食べ放題ペアチケットであり、必然的に皆盛り上がり始めた。
ルールは、ブイを回ってスタート地点に戻ってくるまでを競うという単純なものである。ただし、スワンボートが二人漕ぎで左右にペダルがあり、それぞれが独立して別のスクリューを回す方式だった。息が合わないとその場で旋回を始めてしまう。
身体能力のみならず二人の息が合うかどうかが重要な競技になっていた。
各々が選んだペアが次々とボートに乗っていく。
「誰が勝つと思う? マックイーン。あれ? マックイーン?」
隣にいると思い込んでいたマックイーンがいない。視線を巡らせて探すゴールドシップ。マックイーンはイクノと一緒にボートに乗り込もうとしていた。
「スイーツですわ!」
「スイーツですね」
「おい、マックイーン、イクノ」
「なんですの?」
「なんですのじゃ、ねーだろ!!」
「ですわ!?」
ゴルシドライバーで投げ飛ばされたマックイーンは湖に逆さまに突き刺さるのであった。
「脚怪我してるのにレースでちゃダメに決まってんだろ! イクノも止めろよ!」
「私が二人分がんばれば問題ありません」
「問題しかねーだろが!!」
イクノの首をひっつかみ、マックイーンを湖から引き上げるゴールドシップ。
びしょぬれになったマックイーンはしょんぼりしていた。
そんなトラブルがあったが、レースは始まった。
ゴールドシップの合図でスタートした各ボートはしかし、最初からトラブル続きだった。
まず事故を起こしたのはスぺとスズカのボートだった。
スズカの最初からフルスロットルな漕ぎ方に対して、スぺはぽややんと、ゆっくり漕ぎ始めてしまった。
二人の息が全くあっていなかったスぺスズボートは、高速で左回りを始めた。
「ひゃあああああ!?」
「まだ速さが足りない……」
そうしてそのまま、左にいたリョテイとネイチャのペアのボートに激突し、二つのボートとも転覆してしまうのであった。
次にトラブルが起きたのはテイオーとターボのボートだった。
息があった二人は、最高速度で大逃げを始めたのだが、全力でこぎ過ぎたらしく、ちょうど湖の真ん中あたりで二人して体力が尽き果ててしまった。
ボート内で倒れ伏す二人が見えるが、少しも動けなさそうだった。
次にトラブルが起きたのはウオッカとスカーレットのボートだった。
息があった二人のボートはテイオーとターボに少し遅れて進んでいたが、ブイの近くに来た時にトラブルが起きた。
どうやら右に回るか左に回るかで、二人の意見が割れたらしい。
そのまますったもんだで大げんかをしたせいで、船がバランスを崩し、やはり転覆していた。
残るボートは二つになった。
一つのキングヘイローとハルウララのペアのボートは、ゆっくりと進んでいた。
「キングちゃん、お魚さんだよ!」
「そうね、きれいね」
キャッキャうふふしながら、二人で楽しそうにボートデートをしている。
レースに出ている意識もどこかに行ってしまったようで、そのまま綺麗なちょうちょを追ってブイとは違う方へとふらふらと航海をはじめてしまうのであった。
あと一つは、沖野トレーナーと南坂トレーナーのボートだった。
「なんでこんな地獄みたいなペア作ったんだよ……」
「わかりません……」
男二人でボートに乗るという苦行に耐えながら、ゆっくりと進んでいくトレーナーボート。
途中でくたばっていたテイオーとターボのボートを捕まえてけん引しながら、予定通りのコースを通って無事にゴールをするのであった。
「どーすんだよこれ……」
結局優勝してしまったトレーナー二人にスイーツ食べ放題無料チケットが渡された。
だが、二人ともスイーツ食べ放題には興味がなかった。
かといってチームの誰かに渡すと絶対角が立つ。
二人は呆然と立ち尽くすしかできなかった。