黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り   作:雅媛

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第八章 秋の風が吹くころに
秋の戦いの準備


スピカの今秋のシニア戦線はテイオー一人だけである。

マックイーンはいまだ休養中であり、練習が始められるのは10月ぐらいになりそうだ。そこから有馬記念に直行するのは不可能ではないが、マックイーンはその予定を取るつもりはないようだった。

 

「万全の準備をしていればまだしも、無理に出ても正直勝てる気がしませんし。わたくしは来年の天皇賞春二連覇を目指しますわ」

 

マックイーンはナッツをもぐもぐと食べていた。

タキオン博士から体にいいと言われて食べているようだが、正直食べ過ぎだとゴールドシップは思った。

 

テイオーの方はスズカとゴールドシップが面倒を見て、マックイーンもそれをサポートすることになった。

スズカだけだとトレーナー資格がなくてトレーニング設備の申請等が大変だったが、ゴールドシップがその辺りをすれば問題も解消されるだろう。

 

テイオーの予定は秋の三冠、天皇賞秋、ジャパンカップ、そして有馬記念である。

まずは初戦。前哨戦なしに秋の天皇賞に挑む予定であった。

おそらくカノープスのナイスネイチャとイクノディクタスが参戦してくるだろう。

特にナイスネイチャは一度負けた相手だ。油断ができる相手ではなかった。

 

その後のジャパンカップには外国のウマ娘達が

有馬記念にはそれらに加えてクラシッククラスのウマ娘が出てくる。

油断できない勝負が続いた。

 

そうしてそれらに勝てば、テイオーはウィンタードリームトロフィーに参加し、そのまま皇帝に挑む予定だった。

URA最優秀ウマ娘に選ばれれば、そのままウィンタードリームトロフィーの決勝へ優先出走が可能だ。

そこで皇帝と雌雄を決する。そんなことをテイオーは目指していた。

 

そしてそれには少なくとも秋のシニア三冠を2勝、できれば3勝する必要があった。

ウオッカやスカーレットの成績次第ではそちらに取られかねないし、ネイチャあたりも成績次第では最優秀ウマ娘になる可能性がある。

もう1度も負けない決意を胸に、テイオーは準備を始めるのであった。

 

 

 

一方ウオッカとダイワスカーレットについても、沖野トレーナーとタキオン、そして当事者二人を交えてスケジュールを検討していた。

 

「それで、二人の予定はどうするかね?」

「ウオッカ君が菊花賞でタンホイザ君に勝つ可能性は低いだろう。ウオッカ君は基本的にマイルから2000mぐらいがベストだろう? 2400mだって長いと思うのに、菊花賞は長すぎるよ」

「じゃあ秋華賞からエリザベス女王杯、そして有馬記念か?」

「秋華賞の代わりにスズカ君みたいに天皇賞秋へ出るとか、エリザベス女王杯の代わりにジャパンカップに出るという選択肢もあるね。どちらにしろチーム内でバッティング多数だ。あとは本人に決めてもらえばいいのではないかな?」

 

一流ウマ娘のレーススケジュールなんてそうパターンがあるわけではないのだ。

距離適性次第で一つにしかならないことも多いし、多くても二つか三つぐらいだ。

現役が同じチームに何人もいるとバッティングしてしまうのはやむを得なかった。

 

最初ウオッカがタキオンの代わりに菊花賞を走ることを主張していたが、タキオンの立場からそれは反対することにした。

単純に距離適性的に京都の3000mはウオッカにはきついだろう。本人が出たいというならこれ以上止めるつもりはないが、適性的には2000mがベストだ。

そうすると秋華賞か天皇賞秋がいいだろうとおもっていた。

 

「ウオッカ君、どうするかね?」

「そうですね。菊花賞に無理に出たいわけではないし、秋華賞からジャパンカップかなぁ…… 東京の2400mはダービーで走って思ったけど走りやすかったし」

「なるほど、スカーレット君はどうする?」

「タキオンさんと一緒に有馬を走りたいです!!」

「え?」

「タキオンさんと一緒に有馬を走りたいです!! だってウオッカは一緒に走ったのに私は走ってないもん! ずるい!!」

「ふむ、まあいいんじゃないか?」

「え?」

 

スカーレットが急に駄々をこね始め、トレーナーがそれを追認しようとしている状況に、タキオンの思考は止まった。

 

「ちょ、ちょっとまってくれよトレーナー君。私、もう引退届だしたよね?」

「あれ、まだ手元にあって学園には出してない」

「なんで!?」

「ドリームトロフィーリーグに移籍ならまだしも引退の届けなんて出すのは学園離れる直前だから、普通はこのタイミングでは出さねーよ」

「なんと!?」

 

一度引退届を出すと撤回は難しいのだ。別にレースに出る義務があるわけでもないので、通常引退届は卒業時など学園を離れるときに同時に出すのが通例だった。

当然タキオンの届もまだ出されていない。

 

「出場資格はちょっとギリギリかもしんねーけどまあ大丈夫だろ。脚の方だって、トレーニングして年末にもう一回走るぐらいなら大丈夫だろう?」

「いやしかし……」

「タキオンがスカーレットを説得できるなら俺は別段どっちでも構わねーが?」

「……」

「タキオンさぁん」

 

涙目ですがるように、そして期待する目でタキオンを見るスカーレット。

この顔にタキオンが逆らえた試しがないのだ。

諦めたタキオンは、有馬記念出走に同意するのであった。


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