黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り   作:雅媛

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何のために走るのか

カノープスの秋期のスケジュールは過密を極めた。

その筆頭がイクノディクタスだ

毎日王冠から始まり天皇賞秋、マイルチャンピオンシップ、ジャパンカップ、スプリンターズステークス、そして有馬記念である。

G1を5戦とか聞いたことが無い過密スケジュールであった。

 

「さすがにこれ、大丈夫なの?」

 

ネイチャはドン引きであるが、イクノは自信をもってこれをやると断言した。意味が分からない。

トレーナーも

 

「無理そうになったらゲート開いた後でも走るの止めてくださいね」

 

しか言わない。

無理はしないだろうというところについては確かにイクノは信用できるが、それでもこのハードスケジュールはなくないか? とネイチャは疑問だった。

 

リョテイは天皇賞秋、ジャパンカップからの香港ヴァーズという海外レース狙いだ。ドバイの実績を考えると海外レースの方が調子がいいのではという事でこんなスケジュールになったがやはり過密気味だった。

ターボはオールカマーに勝てば天皇賞秋に出走予定、勝てなければ秋の別の重賞の予定だった。

マチタンは菊花賞から有馬記念というクラシッククラスならよくあるルートだ。

 

そんな中、ネイチャは迷っていた。

夏の間に小倉記念に再度勝っているし調子は悪くない。

天皇賞秋からジャパンカップ、有馬記念と順当に出て、テイオーと戦うのも悪くないだろう。

そう、悪くない、というだけなのだ。

 

ネイチャは走る意味を見失いつつあった。

前は違った。

キラキラしたウマ娘になりたいとか、テイオーに勝ちたいとか、そういう気持ちで走っていた。

しかしテイオーに勝って、G1も勝って、どうすればいいかわからなくなってしまっていた。

 

 

 

迷ったネイチャはみんなに聞いてみることにした。

 

「はしるのたのしーもん!」

 

ウララは元気よくそう言っていた。

年間30レース以上走る彼女は伊達ではなかった。

いつも楽しそうに走っているウララ。

そう言えば自分はいつから走るのに理由を求め始めたんだろう。

ネイチャはそんなことを想った。

 

 

 

「走るのが楽しいからですね」

 

イクノも似たような答えをした。

万年勝てないウララとG1出走するイクノではレベルが違うが、結局考えているのは同じことなのだろう。

 

「それって練習ではダメなの?」

「あのびりびりとした緊張感や、歓声がいいんですよ。あとみんなで競うというのが楽しいのです。だからできるだけG1を選びますし、たくさんレースに出ます」

「なるほど」

 

ネイチャにはちょっとない境地だった。

 

 

 

「あ? そりゃ楽しいからに決まってるだろ?」

 

キンイロリョテイも結局似たような答えをした。

彼女にとってはゴールドシップのためというのもあるが、この回答自体も本心だった。

 

「すげー奴と走るのはやっぱり楽しいもんさ。負けると悔しいけどな。フクやスズカはやっぱりヤバかったし、スぺの奴もやばかった。スぺやスズカに勝ったキングもやばかったし、テイオーやマックイーンもやばかったな。結局みんなやべー奴ばっかりだからこそ楽しいんだよ」

 

中央のレースを40戦以上という破格の数を走っている彼女のいうことはやはり違った。

 

 

 

「走るの楽しーもん!!」

 

ターボは元気よく答えた。

 

「でも負けたら悔しくない?」

「そしたらもっと頑張るもん!!」

 

素直にそう答えるターボ。

 

「ターボは強いねぇ」

 

純粋に自分を信じているのだろう。

その気持ちの強さにネイチャは感心するとともに、やはり自分にはないものだなと思った。

 

 

 

「走るのが楽しいから、かなぁ」

 

マチタンはそう答えた。

 

「みんなで頑張って、みんなで走って、みんなでレースすると楽しくない?」

 

純粋な目でそう聞き返されてしまい、ネイチャは言葉を詰まらせた。

 

「うーん、ごめんね。あんまり答えになってなさそう」

 

マチタンは困ったようにそういう。

悪いことをしたと思ったネイチャであった。

 

 

 

「楽しくなくなったなら、止めるのも手ですよ?」

 

トレーナーに相談したらそう答えた。

 

「走りたくないのに走ってもいいことがありませんから」

 

まあ、トレーナーはこういう人だってわかっている。

予想通りといえば予想通りの回答だった。

 

「でもどこか走りたい気持ちもあるんです」

「じゃあ秋のG1、好きに走ってみればいいと思いますよ」

「好きに?」

「何も考えず一生懸命走ってみればいいのでは?」

「でもそれだと勝てないし……」

 

ネイチャは自分の実力が分かっている。

綿密な作戦を実行する知力と器用さ、そして視界の広さが彼女の武器だ。

何も準備せずにただの実力勝負になってしまえば勝てない相手は多い。

何も考えずに走れば、おそらくテイオーには勝てないだろう。

 

「勝つだけがレースじゃないですからね。負ける覚悟をして出るのもいいのではないですか?」

「うーむ」

「どうしても勝ちたくなったらまた作戦をたてますよ」

 

そう言われると、ネイチャはいつもトレーナーと作戦を綿密に立てていた。

そう言うのじゃないレースをするのもありなのかもしれない。

 

結局ネイチャは天皇賞秋にも、ジャパンカップにも、有馬記念にも登録をした。

 

勝てるかどうかはわからないが、勝てないとしても、あの頃の楽しさを思い出すために頑張るつもりだった。

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