黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り 作:雅媛
ダイワスカーレットは優等生である。
成績はいつも一番。
誰からも頼られ、誰からの信頼にも応える。
そして正義感の強い彼女は不正や中傷を嫌った。
そんなスカーレットが一番気になる相手が、アグネスタキオンだった。
アグネスタキオンは優しい人である、とスカーレットは思っていた。
周りの評判は最悪であった。
怪しい薬でズルをして速く走っている。
ズルをして成績を上げている。
サボってばかりいる。
そんな話ばかりである。
確かに話を聞くと、授業やトレーニングはサボりがちなようである。
他人の悪口を言って自分の精神を安定させる性根自体がスカーレットは気に食わないが、事実な部分もあるのでまだギリギリ彼女にも許せた。
しかし、ズルをしている、という部分については許せなかった。
なぜ、タキオンが他人の目を気にしない生活をしているのか。それは彼女を良く見ていればすぐにわかった。
タキオンの足は繊細過ぎる。そして彼女はその治療と対応にすべてのリソースを割いているのだ。
鍼灸、食事療法、漢方、クールダウン、そういったものをすべて使いながら、ギリギリのところで走っているのだ。
だから長時間走れない。その短い時間を最大効率でトレーニングしてるのだ。
勉強だってそうだ。彼女は本当に幅広い種類の本を読んでいる。図書室の貸し出しカードにタキオンの名前がない本を見つけるのが難しいぐらいだ。
ズルなんて何一つしていない。ただの憶測と嫉妬で、他人を悪く言うことが、スカーレットには許せなかった。
タキオンは優しい人である。
良く他のウマ娘達のトレーニングを見学している。
そうして、ケガをしたり、ケガをしそうな娘たちを積極的に助けていた。
故障した子が出ると、大体一番に駆けつけて、応急処置をするのが彼女であった。
タキオンに聞くと観察と実験でしかない、とひねくれたことを言うが、その対応が最善のものであるのは、スカーレットが見てて明らかだった。
助けられた子は何人もいたはずだ。救われた子も何人もいたはずだ。
なのに、それなのに、誰もタキオンの今を助けない。
それが悔しくて、苦しくて、悲しくて。
自分が何もできない無力をかみしめていた。
今日、タキオンが退学処分になる、という噂を聞いたスカーレットは、焦って教室を飛び出した。
そうして見つけたのが、アグネスタキオンとマンハッタンカフェ、そしてその周りでイレ込んでいるゴールドシップであった。
「タキオン先輩、退学になるって本当ですか?」
言い方があるだろう。スカーレットは自分の発言に自分でそう思った。
しかし、この胸の焦燥を抑えきれなかった。
「正確には退学勧告さ。従わなきゃ退学にするぞっていうだけだね。もっとも、退学にならないための条件はトレーナーと契約して、チームに所属すること、だ。実質退学命令と一緒だね」
「私、抗議してきます!!」
明らかに噂に流された処分だ。
タキオンの学年には、多くはないとはいえまだチームに所属していない者だっているはずだ。
成績だって悪くないどころか上位に食い込むレベルだし、退学になる理由はないはずである。
公平を欠いた処分にスカーレットの正義感は爆発した。
早速抗議に出向こうとするスカーレット。
「いや、それには「よし、スカーレット、よく言った!!」っ!?」
アグネスタキオンは止めようとした。
タキオンもスカーレットを憎からず思っている。
そして、彼女が自分をかばうことで、最近若干立場を悪くしているのにも気づいていた。
捨てておいてくれ、そう言おうとしたところに割り込んできたのはゴールドシップだった。
どこからともなく取り出した目出し帽と釘バットをゴールドシップはスカーレットに渡す。
完全に殴り込みに行く不審者だった。
さらにゴールドシップは目出し帽をマンハッタンカフェに被せ、釘バットを渡していた。
カフェは完全にとばっちりだった。
カフェが助けてほしそうにタキオンを見ている。
「よし、いくぞー!」
「おー!」
「タキオン、助けて……」
殺る気満々な二人に、巻き込まれたカフェという不審者集団が出来上がった。
訳の分からないゴールドシップはまだしも、さすがに慕ってくれる後輩と友人を犯罪に巻き込むのはタキオンも気が引けた。
予想外、想定外、規格外なゴールドシップをどうにか止めようとした。
「待ちたまえゴールドシップ君。私の退学に反対したいなら、するべきことは襲撃じゃないぞ」
「ほえ?」
「さっき言っただろう? 退学勧告と。私の満足するトレーナーを連れてきたまえ。そんなのがいれば、契約して退学は回避できる」
「「たしかに!!」」
「キミら、バ鹿だろう?」
「そりゃアグネスタキオン博士に比べたらさすがのゴルシちゃんもバ鹿ですよ」
気持ち悪いぐらい持ち上げてくるこいつはいったい何なのか。
タキオンも若干泣きたくなってきた。
カフェは既に泣き始めている。
スカーレットは鼻息荒くイレ込んでいた。
「なんにしろ、私の満足するトレーナーを連れてきたまえ。条件は、私のすることに文句を言わず、自由に実験を許す奴だ」
「大丈夫です、心当たりはあります!」
「ふふ、そんなの無理だろう? ってえ?」
「スカーレット。スピカに連れて行くぞ!!!」
「らじゃー!!!」
「なんだそのズダ袋は!? なんで近づいてくるんだ!? たすけてカ」
ぼすっとアグネスタキオンにズタ袋が被せられる。
藻掻くタキオンをゴールドシップとダイワスカーレットが担ぐと、そのまま運んで行った。
目出し帽をかぶって釘バットを持たされたカフェがその場に残された。
どうしていいのか、彼女には全く分からなかった。
お気に入り、感想、評価お待ちしております。
今後スピカに加わってもらいたいメンバーは?(補足は活動報告へ)
-
蹴りたいトセジョさん&きれいなシチーさん
-
不屈の帝王 トーカイテイオー
-
不撓の王・高貴な雑草魂 キングヘイロー
-
うーららーん! ハルウララ
-
朝はパン派 ライスシャワー
-
イマジナリフレンドならアドマイアベガ
-
ウマ娘最小ニシノフラワー
-
やっぱりメジロマックイーン
-
メジロはメジロでもライアン
-
私服のセンスが光るメジロドーベル
-
パーマーのこと忘れてない?トレーナー?
-
その他ー活動報告へ