黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り 作:雅媛
「テイオー!!」
「ふぎゃっ!!」
戻ろうとしたところで、後からゴールしたターボにテイオーは押し倒された。
その小さいからだが熱くなっており、その心臓の音が聞こえてくるぐらい鳴っている。
息も荒く、限界まで走ったように思えた。
「テイオー、速いなぁやっぱり!!」
「ターボも速かったよ」
「次は勝つからな!!」
負けたのにターボはテンション上がりっぱなしである。
でも歩く余力もほとんどないだろうことは、付き合いがそれなりにあるテイオーにはわかっていた。
よいしょとお姫様抱っこで持ち上げる。
ネイチャも寄ってきて三人でライブ控室まで戻ることになった。
「テイオー、調子が悪いのか心配したんだぞ! パドックで元気なかったし」
「あはは、ごめんね、心配かけちゃったね」
本当に心配していたのだろう。
ターボはテイオーにギューッと抱き着いていた。
勝ち負けと関係なくこうやって心配してくれる彼女にテイオーはかけがえのなさを感じていた。
これがきっと、皇帝が捨ててしまったもので、スぺちゃんが捨てそうになったものなのだろう。
スペちゃんがあれだけ大反対していた理由がわかる気がした。
「お二人さん、仲良しだねぇ」
「ネイチャのことも大好きだぞ!!」
謎の動作で跳ねるとネイチャに抱き着くターボ。
そんなターボの口に、ネイチャはニンジンのはちみつ漬けを詰め込んでいた。
レース後はエネルギーが足りないのだ。
こういった方法で栄養補給する必要があった。
もぐもぐするターボは確かにかわいらしい。
テイオーもターボに並んで口を開けたら、ネイチャはテイオーの口にもはちみつ漬けを詰め込み始めた。
もぐもぐ。
甘くてとてもおいしい。
最低でもライブができる程度の体力を回復させる必要があるので、遠慮なく食べていた。
「テイオーはさ、なんで走ってるの?」
「?」
唐突なネイチャからの問いかけに、テイオーは首をかしげる。
今日のネイチャの走りは悪くはなかったように思うが、あの菊花賞の時のような、すべてを知り、操っているかのような怖さは全くなかった。
スランプか何かになっているのだろうか?
そんなことをテイオーは考えた。
「なんのため……」
「うん」
「みんなに追いつきたいからかな……」
「?」
「ネイチャにも追いつきたいし、マックイーンにも追いつきたいし、皇帝にも追いつきたい。だからかな」
テイオーはそもそも外交的な性格ではない。
最近少しは改善されてきているが、もともと引きこもりのナメクジなのだ。
友達も作ることができないテイオーにとっての自己表現が走ることだったのだ。
皇帝に憧れ、リギルに入り、紆余曲折を経てスピカに移籍し、少しは話せる相手が増えていても、それは変わらなかった。
「私に追いつきたいって、テイオーの方がよっぽど強いじゃん」
「そんなことないでしょ。今日でやっと一勝一敗だし」
今日みたいな単純な実力勝負な展開になれば確かにテイオーは負ける気がしない。
しかしネイチャの本領はレース展開を支配することだ。あれをやられるとあまり駆け引きが得意でないテイオーは勝てる気がしなかった。
「テイオー、ターボは? ターボは?」
「ターボはもう、友達でしょ」
「うん!!」
嬉しそうにテイオーに抱き着くターボ。
「じゃあさ」
「うん?」
「一勝一敗になったし、私もテイオーの友達かな?」
「え、うん! ネイチャも友達だよ!」
ネイチャにそう言われてテイオーは嬉しそうに頷いた。
テイオーが皇帝になるには友情は不要なのだろう。
心は不要なのだろう。
しかしテイオーは既に皇帝になるつもりはなかった。
抜きん出ずとも上に上がる方法はあるはずだ。
決戦の時は近い。
三人で楽しくはちみつニンジンを食べながらテイオーはそんなことを考えていた。