黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り   作:雅媛

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想いを一つずつ集めて

「いらっしゃいテイオーさん。私も話したいことがあったのよ」

「話したいこと?」

 

キングヘイローとの面会は、学園近くのヘイローブランドの店の一角になった。

テイオーが挨拶すると、キングも話したいことがあったような口ぶりに、テイオーは少し驚いた。

 

「この前の天皇賞秋の後、ネイチャちゃんとターボちゃんがずっとテイオーのこと心配してたからね」

「あー……」

「皇帝を理解するために使ったっていう話はスぺちゃんからも聞いていたけど、あれは本当に見ている周りが心配するのよ」

「ご心配かけました……」

「それはネイチャちゃんやターボちゃんに言ってあげて」

「わかりました」

 

所属チームの先輩にまで話が行ってしまうぐらい心配をかけたのかと、テイオーは反省した。

「仲直りには甘いものがいいよ!」と言いながらキングの隣にいたウララから渡されたスイーツ券をテイオーはありがたくいただいた。

 

「それで、皇帝に勝つ方法ね。多分、そんなに複雑な話じゃないわよ」

「え? 本当ですか?」

「スぺちゃんと同じものだとするなら、だけどね。方法は一つ、無視させなきゃいいのよ」

「?」

「スぺちゃんのあれは、自分だけに没入して走り続ける方法よ。つまり気になる他人が思考の中に混じると途端に弱体化するわけ。あの宝塚記念の時、私が競いに行ったから思考の純粋性がなくなったんでしょうね。ビデオ見ると、スぺちゃんも完全に最後へばってたし」

「なるほど」

 

自分も使ったテイオーには非常にわかりやすい話だった。

心が揺らいだ瞬間、あれは使えなくなる。天皇賞秋の時点ではまだ使えたテイオーだが、きっと今はもう使えないだろう。それだけターボやネイチャのことがテイオーは気になっていた。

 

「あの時の私の実力じゃ、そのまま勝ち切ることもできずに最下位に終わったけど、今の私ならばあのまま勝ち切る自信があるわ。テイオーだって、できるでしょ?」

「頑張ります」

 

キングの堂々たる自信と、自分への当然のような信頼に、テイオーは身が引き締まる思いだった。

しかし、活路は見えた気がした。

 

 

 

「で、私のところに来たの?」

「マークとかそういうのがうまいと言ったらネイチャだし」

「いやいや、ライバルだし、最低後2戦はやるじゃん。私が嘘つくとか考えないわけ?」

「? だって友達だし」

 

テイオーは首を傾げ、隣にいたターボも同じように首を傾げた。

謎の2対1の状況になったネイチャはひるんだ。

 

「しかたないなぁ……」

「わーい、ありがとうネイチャ!」

「ま、できるだけわかりやすいように説明するけど、よくわからなくても許してよ」

「了解!」

「じゃ、まずは一本走ってみますか」

 

テイオーはそういうネイチャについてトレーニングコースに出ることになった。

 

 

 

「ターボは自由に走って。テイオーも好きに走っていいよ。私はテイオーをマークするから」

「わかった」

「がんばるよ!」

 

そう言ってターボは全力で走り始めた。

テイオーは一番慣れた先行策で、ターボについていく。

ネイチャはテイオーの外側にぴったりついていった。

ただ併走している、それだけなのに妙なプレッシャーを感じた。

友達だというのもあるが、それ以上にネイチャに意識が向いてしまう。

足音が、呼吸が、なんとなく気になるのだ。

ちらっと見るネイチャと視線が交わる。

なんか少しだけ気まずい雰囲気を感じた。

 

しかし目のあったその瞬間、ネイチャはスパートをかけた。

完全に遅れたテイオーは、前を逃げるターボも、ターボをかわしたネイチャも追いつけずに沈むのだった。

 

 

 

「こんなかんじ。わかった?」

「えっと、ボク、ネイチャのことが好きなのかな」

「なんでやねん!」

 

ネイチャは思わずツッコミを入れた。

 

「だって、ネイチャのことが気になってしょうがないし、目が合うとドキドキしちゃうし」

「だからなんでやねん! マークっていうのはそういう風に意識させるテクニックだってば!」

「二人が仲良しでターボは嬉しいぞ!」

 

ずれたことを言うテイオーにいつも通りのターボ。

ネイチャは苦笑する。

 

「で、冗談はさておいてどうやったかわかった?」

「冗談じゃないんだけど…… 多分、呼吸や走るテンポを合わせて、時々少しだけずらしてた感じかな?」

「そういうこと。特にライバルとか思っていると、こういうわずかな差が非常に気になったりするんだよね。ちなみに横でやると一番効果的だけど、前とか後ろでも普通に効果あるよ。ウマ娘はみんな耳がいいからね」

「菊花賞でネイチャにやられたあれか……」

「そゆことー」

 

後ろにくっついて、微妙に気になるぐらいのずらしをやりながら、少しずつテンポを上げていく。テイオーはそんな天才的なマークを受けて完全に掛かってしまったあのレースを思い出す。

方法としてはなるほどと理解できるものだった。

 

「単純についていくことによってペースメイキング任せて楽するっていう方法もあるけど、まあマークするならこれくらいやってもいいかなって思ったりするわけです」

「予想以上に高度な技だね、これ」

「まーね。私だって、よほど研究した相手じゃないと使えないし」

「ふーん」

 

つまりネイチャもまたテイオーをよほど研究してくれているわけだ。

少しテイオーは嬉しくなった。

 

「じゃあ、ネイチャとターボにお礼として、スイパラに連れて行ってあげるね。チケットあるし!」

「どれどれ…… ってこれ、期限今日までじゃん!!」

「ほんとだ!?」

「じゃあみんなでスイパラまで競争だー!」

「ターボ!? ちょっとまってー!!!」

 

ドタバタと走りだす三人組。

その姿はとても楽しそうであった。




後日話を聞いたマックイーンは拗ねた

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