黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り 作:雅媛
「なんでこんなに頑張ってくれてるんだ?」
ゴールドシップを未来に送り届けるという計画をゴールドシップに隠さなくなった結果、ゴールドシップ自体を被検体として利用し実験することが可能になっていた。
測定にどんな意味があるのかゴールドシップにもわからない。
というかタキオン周辺の一部研究者しか理論も何をしているのかもわからない状態だった。
暇そうにベッドに座るゴールドシップは、タキオンにそんなことを聞いた。
「逆に聞こう。なんでキミはそんなに頑張るんだ?」
「?」
「未来から来たキミに関係ある相手なんて、マックイーンとリョテイの奴ぐらいだろう? 私も、スズカ君も、スぺ君も、テイオー君も、他のキミが助けてきたいろんな人たちも、皆キミとは関係がほとんどないはずだ。なんでそんな相手にも、キミは手を差し伸べたんだ?」
「なんでだろうな…… 泣いてるのが嫌だったからかな」
「それが分かっているならなんでみんなキミのために頑張るかも簡単だろう。無益な質問さ」
いつもだと特にゴールドシップに対してはくどいぐらい説明してくれるタキオンには珍しい突き放すような回答であった。
「もしかして、怒ってる?」
「ふふ、どうかな」
そう言うタキオンの耳は思いっきり後ろに向いている。耳を絞るというこの動作は怒りを示している。
言うまでもなかった。
「そういうところはマックイーン君に本当にそっくりだね」
「?」
「他人のために動けるのに、その相手のことをあまり考えないで突っ走ってしまうところさ。だからこそ助けられる人も多いのだろうけど、ときには非常にイラつくこともあるよ」
「……」
ゴールドシップ自身心当たりがないわけではなかった。
ゴールドシップは協調性がないのは自分が一番わかっている。
そういうところがマックイーンそっくりと言われて、嬉しいような、複雑なような、そんな気持ちだった。
「だからね、私もキミがどう考えているかとか、考えないことにした。キミが望んでいなかろうと何だろうと、「私が」キミが消えるなんていう結末に耐えられないから、無理やりでも未来に送ることにした。ただそれだけさ。感謝なんてしなくていいよ」
このままこの時間軸にゴールドシップをとどまらせる、という方法も検討していたが、それは非常に難しそうだ、というのがタキオンの結論だ。
修正力が強くなり、ゴールドシップの存在を維持するのが難しくなっているのは数値でも出ている。
5年という期限はおそらく間違いないだろう。
だからこそ何でもやっている。
最近はスズカ経由でフクキタルまで呼んで神頼みだってしている。
一人のウマ娘にこんな過酷な運命を背負わせる三女神はいつか締め上げると誓っているタキオンだが、それはそれとして祈ってうまくいくなら全裸で土下座だって何でもやってやる覚悟だった。
それが理解できないゴールドシップにタキオンは苛立っていた。
情操教育が不足しているのではないか。誰のせいだ。きっとマックイーンとリョテイのせいに違いはないだろう。
あの二人にタキオン特製七色青汁を飲ませるのを心に誓った。
タイムリミットが来た時に、何が残り、何が助かるのか。
全く予想ができていなかった。
しかし絶対に幸せな未来を作って見せる。タキオンはそう決意していた。